「ひきこもり」救出マニュアル〈実践編〉 (ちくま文庫)「ひきこもり」救出マニュアル〈実践編〉 (ちくま文庫)
斎藤 環

筑摩書房 2014-06-10

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 先日紹介した『大人のひきこもり 本当は「外に出る理由」を探している人たち』とは違い、本書は若者の典型的なひきこもりに関する本である。「マニュアル」というタイトルがついているが、決して紋切り型の解決策を提示するのではなく、著者の元に寄せられた数々の相談に対して、個別具体的に回答している。ひきこもりに対して、私自身もいろいろと間違った思い込みをしていたことに気づかされた。

 ・ひきこもっているばかりで将来のことを何も考えていない本人に対して、「あなたは本当は何がしたいの?」と聞いてしまう。
 ⇒本人は、将来に対して目標を持てないからひきこもっている。よって、この質問は悪意がなくても本人にとっては非常に有害である。

 ・本人と話をすると親に対する恨みつらみばかりを言われる。しかも、明らかに事実でないことも含まれている。
 ⇒事実と違っていても、絶対に反論してはいけない。本人が必要としているは「記憶の供養」である。まずは、本人にとことん語らせることが大切である。

 ・本人の生活が昼夜逆転している。元通りの生活に戻してあげたい。
 ⇒ひきこもりが日中起きていても、普通の人と同じように暮らせないことに負い目を感じるだけである。夕方まで寝ているのはさすがに問題だが、正午ぐらいに起床すれば十分である。

 ・何か欲しいものがあるとすぐにお金を要求してくる。
 ⇒欲求があることは非常に大切である。ひきこもりが重症化すると、欲求すらなくなる。だから、お小遣いをあげるとよい。ただし、お小遣いにはいくつかの条件がある。①お小遣いは十分にあげること、②一度に一定の金額を与えること(都度与えると、金額が予想外に膨れ上がるリスクがある)、③金額については本人と話し合うこと、の3つである。

 ・ひきこもりの弟・妹に、兄・姉がつきっきりになっている。
 ⇒兄弟姉妹はひきこもりに関わらない方がよい。ひきこもりの解決は、10年単位の長期戦になる。兄弟姉妹はその間に進学したり結婚したりして、本人との関係が途切れてしまうことがある。これは、本人にとって非常に大きな痛手となる。原則として、ひきこもりは親子間で解決しなければならない。

 ・ひきこもっている本人が趣味に没頭している。そのエネルギーがあるならば、アルバイトをしてほしい。
 ⇒趣味に没頭できるエネルギーがあることはむしろ歓迎すべきことである。前述のように、重症化すると趣味どころではなくなる。ただし、そのエネルギーがあるからと言って、一足飛びに就労に移るのは危険が多い。ひきこもりからの回復は、よくなったり悪化したりを繰り返す。よって、まずはデイケアなどを利用して、自分のペース作りから始めるのが無難である。

 ・ひきこもっている本人がインターネットばかりしている。このままではますますひきこもってしまうのではないか?
 ⇒デイケア、たまり場、自助グループなどで知り合った人たちと関係を継続する上で、インターネットは非常に有効である。ただし、オンラインゲームなどに熱中している場合は、1日のプレイ時間について約束を設けるなどした方がよい。

 ・無理にでも一人暮らしをさせたら、何かしら社会的接点を持つだろう。
 ⇒一人暮らしでひきこもりが改善した例はほとんどない。むしろ、徹底したひきこもりをもたらすだけである。それでも一人暮らしをさせたい場合は、綿密なプランが必要である。具体的には、賃貸契約期間を区切る、単身生活の目的をはっきりさせる、仕送りの額を設定する、家との連絡方法を決める、などといった具合だ。