こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント・トレーナー)のブログ別館。2,000字程度の読書記録の集まり。

ネスレ


DHBR2018年5月号『会社はどうすれば変われるのか』―無印良品が日本の家電メーカーと同じ轍を踏まないか心配


ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2018年 5 月号 [雑誌] (会社はどうすれば変われるのか)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2018年 5 月号 [雑誌] (会社はどうすれば変われるのか)

ダイヤモンド社 2018-04-10

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 《参考記事(ブログ本館)》
 DHBR2018年5月号『会社はどうすれば変われるのか』―戦略立案プロセスに組織文化の変革を組み込んで「漸次的改革」を達成する方法(試案)、他
 私は2008年に社長に指名されるとまず、ブランド体験―店内に一歩足を踏み入れた瞬間から、商品を購入し使用するまで―を世界のどこであろうとまったく同じものにすることを優先事項の1つに据えた。

 そのために店舗デザイン、レイアウト、商品管理の基準を定める部署を設けたほか、店頭に立つスタッフへの研修内容を統一し、現地で採用した店長のうち数人を、東京本社に呼び寄せて指導した。物流、会計、商品管理を合理化し、同じデータを共有できる体制も整えた。当社がいま製造販売している商品は7000を超えるが、特定の国や地域向けのカスタマイズや調整は行っていない。
(金井政明「コンセプトの実現を第一とする事業戦略 無印良品(MUJI):グローバル展開の軌跡」)
製品・サービスの4分類(①大まかな分類)

【修正版】製品・サービスの4分類(各象限の具体例)

製品・サービスの4分類(③具体的な企業)
 上図については、ブログ本館の記事「「製品・サービスの4分類」に関するさらなる修正案(大分完成に近づいたと思う)」、「『一橋ビジネスレビュー』2018年SPR.65巻4号『次世代産業としての航空機産業』―「製品・サービスの4分類」修正版(ただし、まだ仮説に穴あり)」をご参照いただきたい。

 無印良品が扱っている製品の大部分は、左下の<象限①>に属する。上図をご覧いただいてお解りの通り、<象限①>は衣食をはじめ、生活に密着した必需品で構成されている。これらの製品・サービスは、消費者の属性、嗜好、価値観、行動様式、ライフスタイルに応じてカスタマイズされることが多い。つまり、少品種大量生産による企業の大規模化にあまり向いていない。そのため、<象限③>ではGoogleやAppleのような超巨大なグローバル企業が、<象限②>ではジョンソン・エンド・ジョンソン、GEのようなグローバル企業が登場しているのに対し、<象限①>においては大企業の出現が限定される。

 良品計画の海外事業は目下絶好調である。だが、引用文にあるように、製品を特定の国・地域向けに全くカスタマイズしていないという点が個人的には気にかかる。良品計画は長らく、「ムダのないシンプルな製品だが、生活の質の向上に貢献するもの」を目指してきた。しかし、「何がムダなのか?」、「シンプルさとは何か?」、「生活の質の向上とは何を指すのか?」といった問いに対する答えは、国や地域ごとに違うはずである。その答えは、定量的な市場調査だけでは絶対に解らない。実際に顧客の生活の中に深く入り込み、時間をかけて顧客の言動をじっくりと洞察する中でじわじわと実感できることである。

 良品計画が最新の経営計画の中で重視しているのは、「感じよい暮らし」だそうだ。別の表現で言うと、「共同体の一員として、簡素かつ丁寧に和をもって生活する」ということらしい(同論文より)。これにしても、「共同体とは何か?」、「簡素かつ丁寧な暮らしとは何か?」、「和とは何か?」といった問いが頭をもたげてくる。日本と中国では共同体の意味するところが異なることは容易に想像できる。今まで良品計画は、中国の中でも日本の都市と価値観が近い地域を中心に出店を重ねてきたのだろう。ところが、今後さらに出店を進め、地方にも店舗を展開するようになると、間違いなく日本と中国のライフスタイルの違いに直面する。

 底流にあるコンセプトは統一されていても構わないが、それが製品という形になった場合には、国や地域の差異を反映したものでなければならないだろう。それを怠って、「日本で売れているから、海外でも通用するはずだ」という考えで海外展開をするのは、<象限①>に属する家電メーカーがかつてたどった道と同じだ。そして、そのような家電メーカーが、徹底的な現地調査を武器としたサムスン電子などの海外メーカーに敗れ去ったことを思い出す必要がある(あまりにも有名な例だが、サムスン電子はインド市場にテレビを投入する時、インド人が国民的競技であるクリケットの試合の途中経過を常に気にすることを発見して、テレビの隅に常時クリケットの試合経過を表示させるようにカスタマイズした)。

 (※)なお、上図においてサムスン電子を<象限①>ではなく<象限③>に位置づけているのは、サムスン電子の3事業(デバイスソリューション、消費者家電、スマートフォン)のうち、スマホ向け半導体が好調なデバイスソリューション事業の売上高が最も大きく、次いでスマートフォン事業が続くためである。

 上図の<象限①>には、スイスのネスレが入っている。ネスレは徹底的な分権化と現地法人への権限移譲を行っていることで知られる。各国の現地法人は、現地のニーズを丁寧に汲み取って、それを製品に反映させることが許されている。だから、あのキットカットも、国によってパッケージデザインや味が異なる。ネスカフェアンバサダーは、日本だけが実施しているサービスである。

 ところで、元々無印良品は西友のプライベートブランドとして出発した。良品計画として分離された後、西友はウォルマートと包括的な資本・業務提携を締結した。ウォルマートは周知の通り、店舗ごとのカスタマイズを許さず、パッケージ化された店舗を量産して急成長した企業である。私は、良品計画はネスレを目指すべきだと思っているが、果たして同社がネスレ路線に切り替えるのか、それともこのままウォルマート路線を走るのかは今後要注目である。

『凄いネスレ 世界を牛耳る食の帝国/【2017年新卒就職戦線総括】今年も「超売り手市場」が継続 選考解禁前倒しも競争は激化(『週刊ダイヤモンド』2016年10月1日号)』


週刊ダイヤモンド 2016年 10/1 号 [雑誌] (凄いネスレ)週刊ダイヤモンド 2016年 10/1 号 [雑誌] (凄いネスレ)

ダイヤモンド社 2016-09-26

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製品・サービスの4分類(修正)

製品・サービスの4分類(修正)

 またしてもこの図を使わせていただく。上図の説明については以前の記事「『プラットフォームの覇者は誰か(DHBR2016年10月号)』」を参照。

製品・サービスの4分類(具体的な企業)

 本号に2015年の時価総額ランキングが掲載されていたので、トップ20の企業をマトリクス図に当てはめてみた。異論はあるだろうが、私の考えを以下に示す。

 【象限③】アップル、グーグル、フェイスブック、テンセント(中国でSNSやインスタントメッセンジャーなどを提供する企業)のサービスは、別に使わなくても生活できる。マイクロソフトのWindowsは我々にとっては必需品であるが、パソコンの普及率は世界全体で見ると5割に達していない。アマゾンは書籍の小売から出発したが、書籍は必需品ではない。バークシャー・ハサウェイやJPモルガン・チェースは投資で利益を上げており、人々に必需品を提供しているわけではない。

 【象限②】エクソン・モービル、ロイヤル・ダッチ・シェルは、我々の身近にあるあらゆる製品の原料、そしてエネルギー源となる石油を提供しており、求められる品質レベルも高い。J&Jは医薬品や医療機器を、GEは航空機エンジンや医療機器、鉄道車両を製造しており、高い品質が要求される。AT&T、ベライゾン、チャイナモバイルは、通信というライフラインを握っている。ウェルズ・ファーゴや中国工商銀行は金融のインフラであり、停止したら経済は大パニックになる。

 【象限①】ネスレは食品という必需品を提供し、P&Gは日用品を主力とする。そして、ウォルマートはそれらの製品を販売する。しかし、食品や日用品には、自動車ほどの厳しい品質は要求されない。【象限①】の製品・サービスは各国の文化・風習の違いに影響され、かつ国内でもニーズが細分化されているため、世界的な大企業が育ちにくい。上図でも【象限①】に該当する企業が(【象限④】を除いて)最も少ないことが解る。

 【象限③】の企業は、顧客が今までほしいと思ったこともなかったイノベーティブな製品・サービスを提供する。顧客のニーズは洗練されていないから、イノベーションに対する顧客の反応は、好きか嫌いかのどちらかに分かれるのみである。イノベーターは、全世界に散らばる「好き」という層に向けて、単一の製品・サービスを一気に展開する。顧客のニーズが洗練され、細分化される前に製品・サービスを売り切り、莫大な利益を上げる。これが象限③における基本戦略である。アメリカ企業はこの戦略が得意なわけだが、「イノベーターが唯一絶対神と契約を結び、その契約を履行する」という表現で、この戦略を説明したこともあった。

 最近は、プラットフォーム企業が力をつけてきている。元々、【象限③】の製品・サービスは、顧客のニーズを先取りするものであるから、ヒットするかどうかは全く解らない。イノベーターは、次々と新しい製品・サービスを市場に投入する必要がある。すると、やがて「自分がお金を払ってでもよいから、自分のイノベーションを世界に広めたい」と考えるイノベーターが出現する。こうしたイノベーターを束ねて、世界中の顧客と引き合わせるのがプラットフォーム企業である。プラットフォーム企業は、イノベーターと顧客の双方からお金を取るという点で、古典的な卸売・小売業とは異なる。アマゾンはその走りであり、アップルやグーグルも、スマートフォンや検索サービスを超えて、プラットフォーム事業を強化している。

 【象限②】においては、必需品化した製品・サービスに対して顧客のニーズが細分化している。そこで、企業は適切なセグメンテーションを行い、それぞれのセグメントに適した製品・サービスを提供する。図には登場しなかったが、日本の自動車メーカーのほとんどはそのような戦略をとっている。

 また、【象限②】では、業界の川上から川下まで機能分化が進んでいる。最終組立メーカーは、川上から自社に至るまでの企業と協調し、プロセスを最適化して、製品・サービスを最終化しなければならない。さらに、【象限②】の企業は時に競合他社とも水平協業する。自動車メーカーはお互いにライバルであると同時に、部品を供給し合うなど、複雑なコラボレーションを行っている。顧客の多様性、垂直・水平方向の協業が【象限②】の企業の特徴である。私は、日本企業は【象限②】に強いと考えているが、これは日本の多神教文化と無縁ではないと思う。

 これに対して、【象限①】の企業は、【象限③】や【象限②】の企業とは異なり、全世界のマーケットを相手にしない。セグメンテーションを行った結果、特定のセグメントに特化して製品・サービスを提供する。本号で特集されているネスレで言うと、ネスレにとってフィリピンは第8位の市場であるが、フィリピンでは低所得者層向けの製品がほとんどである。中所得者層、高所得者層向けの製品もあるものの、力の入れようが全く違う。

 前述の通り、【象限①】の製品・サービスは各国の文化・風習の違いに影響され、かつ国内でもニーズが細分化されている。そのため、仮に低所得者層などの特定セグメントに特化したとしても、市場ニーズに合わせた多様な製品・サービスを提供しなければならない。したがって、ネスレのようなグローバル企業は、本号でも紹介されているように、経営の現地化を徹底している。ウォルマートは世界共通のウォルマート方式を貫いて大企業に成長したが、近年は進出先の市場に合わせた店舗形態を取り入れるなど、現地化を進めている。

 【象限①】の企業は、特定セグメントの顧客の消費行動を広く押さえようとする。例えば、コーヒーを販売する企業は、コーヒーと関連性のある別の製品を取り扱おうとする。ネスレもそのようにして類似・隣接カテゴリの食品をどんどん追加していった結果、全世界で約200ものブランドを持つことになった。それでも自社でできることには限界がある。自社の事業ドメインを「栄養・健康・ウェルネス」と再定義したネスレは、近年ヘルスケア関連企業との提携を進めているという。【象限②】では業界内でのコラボレーションが主であったが、【象限①】では異業種コラボレーションが成功のカギを握っている。
プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。これまでの主な実績はこちらを参照。

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、2,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
シャイン経営研究所HP
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