ユダヤ教 (〈1冊でわかる〉シリーズ)ユダヤ教 (〈1冊でわかる〉シリーズ)
ノーマン・ソロモン 山我 哲雄

岩波書店 2003-12-06

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 ブログ本館の記事「内田樹、中田考『一神教と国家』―こんなに違うキリスト教とイスラーム・ユダヤ教」で、キリスト教とユダヤ教・イスラームの違いについて簡単にまとめた。その内容を再度整理しておく。

 《キリスト教》
 ①個人に私有財産を認める(狩猟文化が影響しているか?)。キリスト教圏の国々と資本主義との親和性が高いのも納得である。
 ②財産を守るためのルール形成を目的として政治が発達する。個人が各々の財産に対して完全なる所有権を有しているので、政治には個人の意見が十分に反映されなければならない。したがって、完全なる民主主義が採用される。
 ③キリスト教徒にとって意味があるのは場所である。一言で言い換えれば、地縁主義である。同じ空間にいる人は同じ集団に属すると認識される。アメリカの国内にいれば誰もがアメリカ人として認められるのはその一例である。
 ④神と人間との距離が近い。神は人間の内面に容易に入り込んでくる。
 ⑤キリスト教徒にとっては、自分がどの教会に属するかが非常に重要である(③と関連しているかもしれない)。日頃A地区の教会に通う人が、出張などで訪れたB地区の教会で祈りを捧げることには意味を感じない。

 《ユダヤ教・イスラーム》
 ①財産は共有である(遊牧文化が影響しているか?)。現代でも、財産は国民の共有物と考えられている。ただし、統治者が強い権力を持つために、統治者がしばしば国家の財産を私物化してしまう。サウジアラビアは「サウド家のアラビア」、ヨルダンの正式名称アル=マムラカ・アル=ウルドゥニーヤ・アル=ハーシミーヤにあるハーシミーヤは「ハーシム家」の意味であり、一家が国家を所有するという意識が表れている。
 ②共有財産をどのように守るかという観点から政治が発達する。集団で議論はするものの、個人の利害が前面に出ることはない。むしろ、集団の利益のために個人は抑制される。したがって、抑制された民主主義と呼ぶのがふさわしい。
 ③遊牧民である彼らにとって、場所は意味を持たない。重要なのは血縁である(血縁主義)。アラブ社会では、今でもいとこ同士の結婚が見られる。
 ④神と人間との距離は絶望的なほどに遠い。神の意思を正しく人々に伝えるために、クルアーンやハディース(イスラームの場合)、タルムードやトーラー(ユダヤ教の場合)が発達した。
 ⑤ユダヤ教徒やムスリムにとって、礼拝をする場所はそれほど重要ではない。キリスト教の教会とは異なり、モスクは簡素な作りで単なる箱のようである。ムスリムは、出張や旅行の時でも、その地のモスクで祈りを捧げる。

 以下、本書の話。ルーベン・キメルマンは、3世紀に活躍した教父・オリゲネスとラビ・ヨハナンが旧約聖書の『雅歌』について書いた注釈を研究し、両者の間に一貫した違いがあることを発見した。

 《教父・オリゲネス(キリスト教)》
 ①神とイスラエル間の契約はモーセに媒介された。つまり、両者の関係は間接的であり、キリストの直接的な現臨とは対比されるべきである。神とイスラエルとの間には距離がある。
 ②旧約聖書は新約聖書によって「完成」ないしは「凌駕」される。
 ③キリストこそ中心的な人物であり、アブラハムに取って代わり、アダムの罪を逆転させる人物である。
 ④エルサレムとは1つの象徴であり、「天上の町」である。
 ⑤イスラエルの苦難は神による遺棄の証拠である。

 《ラビ・ヨハナン(ユダヤ教)》
 ①モーセは契約の交渉をしたにすぎず、イスラエルは契約を神から「その口のくちづけ」のように直接授かった。神とイスラエルの間の親密さを強調する。
 ②旧約聖書は「口伝のトーラー」、すなわち、ラビたちによる解釈の伝統によって「完成」される。
 ③アブラハムはあくまでその地位を保持する。トーラーは罪への解毒剤である。
 ④地上のエルサレムこそが天と地の結び目であり、やがて神の現臨が再び明示されるべき場所である。
 ⑤イスラエルの苦難は、赦しの意図を持った父による、愛を伴う懲らしめや訓練として受け入れる。