こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント)のブログ別館。1,500字程度の読書記録の集まり。

ベトナム

みずほ銀行国際戦略情報部『グローバル化進む日本企業のダイナミズム』―ASEAN主要7か国+インドのポイント


グローバル化進む日本企業のダイナミズムグローバル化進む日本企業のダイナミズム
みずほ銀行国際戦略情報部

きんざい 2016-11-04

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 本書は中国、東アジア、ASEAN、南西アジア、オセアニア、米州、欧州、中東、アフリカのポテンシャルとリスクについて俯瞰できる1冊である。その中で、私が特に関心を寄せているASEANとインドについて、本書のポイントをまとめておく。

 <ベトナム>
 ①統計上、近年ベトナムに進出する日系企業の件数は増加傾向にあるものの、投資金額はそれほど伸びていない。これは、レンタル工場へ進出する中堅中小企業が増えているためである。また、ベトナム企業が運営する工業団地であっても、日系の代理店が進出をサポートするなど、製造業での進出が容易になっている点も理由として挙げられる。
 ②チャイナプラスワン戦略の候補として北ベトナムが選ばれることが多い。これは、中国・華南地域のサプライチェーンを活用できるためである。ただ、逆に言えば、華南から部品を調達することができるため、北ベトナムにおける現地調達率は低い水準にとどまっている。
 ③北ベトナムは東西経済回廊を通じてバンコクと陸路でつながっており、所要日数も2~3日にすぎない。ただし、タイからベトナムへの貨物は多数あるが、ベトナムからタイへの貨物が少なく、片道の輸送コスト分をもう一方に転嫁せざるを得ない。そのため、輸送コストは海路を利用した場合の倍近くになる。なお、海路の場合、タイのレムチャバン港と北ベトナムのハイフォン港を結ぶにはインドシナ半島を経由する必要があるため、10日以上かかる。
 ④二人っ子政策などによる少子化や晩婚化の影響を受け、日本を上回るペースで少子高齢化の時代が訪れると予想される。2015年には、早くも人口構成の変化が人口オーナス期に突入している。
 ⑤ベトナム南部の気質として、「貯蓄をするよりも給料はその月のうちに使い切る」というものがある。また、見えを張る気質もあり、日本と同水準の家電製品がよく売れている。笑い話として、ベトナムでは来客に見せびらかすために、冷蔵庫を玄関に置いているという話もある。

 <カンボジア>
 ①舗装されているのは国道のみであり、民家から国道へ出るためには未舗装の道路を通らなければならないため、わずか数キロを通勤するのに1時間から1時間半を要するケースもある。
 ②カンボジアの教育水準は低い。ワーカーとして雇用する労働者には小学校の途中退学者が多く、文字が読めない、計算ができないといった状況に加え、トイレの使い方が解らない者などが多くいるのも現実である。
 ③プノンペンとホーチミンは南部経済回廊で結ばれているが、プノンペンからホーチミンは、メコン川を利用した水上輸送の方が3分の1程度のコストで済む。

 <ラオス>
 ①ラオスにはビエンチャンとサワンナケートに工業団地があるが、2015年7月、南部のパクセーある工業団地が日系中小企業専用の経済特区として指定された。ラオスは労働力人口が少ないため、大企業が1社でも進出すると周辺の労働力が大企業に吸い上げられてしまう。中小企業が人材の流出を食い止めようと賃金を大手の水準に引き上げれば、労働コスト面のメリットがなくなってしまう。こうしたリスクを回避するための策である。
 ②ラオスに工場が設立されれば、タイに出稼ぎに出ているラオス人が戻ってくるとラオス政府や工業団地は主張する。しかし、そもそもタイに出稼ぎに出ているラオス人は高給を求めてタイに行っているわけだから、賃金水準の低いラオス国内に出稼ぎ先を変える必要性は薄い、という見方も存在する。
 ③ラオスに工場を設立すれば、言語・文化的に近いタイからマネジャーを連れてくることができると言われることも多い。しかし、ラオスの工業団地に隣接しているタイの都市は地方都市であり、有名大学が多くホワイトカラーを輩出できるバンコクからは遠く離れているのが実情である。

 <タイ>
 ①2013年以降、製造業の新規進出には一服感がある。これは、インラック政権が2012年に実施した「ファーストカー減税」(初めて自動車を購入する人に最大10万バーツの物品税還付を行うという施策)により、需要が先食いされたためである。一方で、2013年以降は、タイの国内市場をターゲットとした各種消費財や食品の販売、外食チェーン、IT関連、不動産開発といった物販、サービス関連の日本企業の進出が多くなっている。
 ②タイに進出する飲食店は、タイ市場を「甘く見すぎている」。バンコク市内の日本食レストランを数件視察し、タイ人客で繁盛する様子と、それほどレベルが高くないように見えるサービスや料理を目にして、「これなら自社の方がよいサービスと料理を提供できる」と思ってしまう。タイ人は新しいもの好きなので、視察時にその飲食店がたまたま繁盛していただけかもしれない。タイに進出する際には、日本で出店するのと同様に、入念な調査と準備を行う必要がある。
 ③現地事情を知り尽くしたタイ企業は、日本の主要プレイヤーを分析した上で、タイでヒットする可能性が高いと認めた日本レストランを戦略的に「一本釣り」している。タイ側からアプローチを受けたことがない企業は、タイ進出を決める前に、タイ企業からどう思われているのか(そもそも知られているのか)、ビジネスモデルに問題がないか、改めて考えてみる必要がある。

 <ミャンマー>
 ①ミャンマーは現在もアメリカの制裁対象国である。ミャンマーの財閥などと提携を検討する際には、「SDN(Specially Designated Nationals and Blocked Persons List)リスト」の対象者となっていないかを確認する必要がある。
 ②バンコクから東西経済回廊を利用してメソート、ミャワディ、ヤンゴンへと至る陸路を走破するには、約4日(約960㎞)で十分である。海路の場合、マレー半島を迂回する必要があり、約21日かかる。ミャンマーはインド、中東へ進出するための重要な国である。ただ、ヤンゴン港は河川港で水深が浅く、大型船の乗り入れができないという難点を抱えている。
 ③そこで日本は、タイが開発を進めていたダウェーSEZへの参画を決め、ダウェー港の開発に注力している。ダウェーは深海港の開発が可能である。ダウェー港が完成すれば、マラッカ海峡を通らずにインド洋に進出できる。なお、バンコクとダウェーは、南部経済回廊で結ばれている。
 ④中国は、チャオピューを輸出入拠点とすべく港湾開発を進めている。2013年秋には、マンダレーを通り、ミャンマー国境のムセ~中国国境の瑞麗、雲南省の昆明を通過し、広西チワン族自治区の貴港市までに至る全長約2,800kmのガスパイプラインが完成した。また、原油パイプラインも並走している。中国にとっても、マレー半島を大きく迂回し、マラッカ海峡を通る海上輸送ルートはリードタイム面で課題となっており、パイプラインによって物流レベルが数段改善される。
 ⑤笑い話だが、文房具も輸入に頼っており、同じ店で同じ種類のものが手に入るとは限らない。書棚のファイルを種類・色で分類するのも一苦労である。

 <フィリピン>
 ①フィリピンの労働力人口は2075~80年まで増加すると予想されている。一方、ベトナム、インドネシアの労働力人口は、2030~35年がピークである。
 ②フィリピンは、他のASEAN諸国に比べて、基本給の上昇率が低く、またストライキの発生件数も少ないので、労働環境は非常に安定している。
 ③BPO(Business Process Outsourcing)で経済が発展したが、反面製造業が弱く、裾野産業が育っていない。そのため、現地調達率が28.4%(2014年)と著しく低い。現地調達率を上げるには、現在部品を輸入している中国の珠江デルタから、いかにしてサプライヤーにフィリピンへ進出してもらうかがカギとなる。

 <インドネシア>
 インドネシアの主要経済拠点は以下の5つである。
 ①ジャカルタ=インドネシア経済はジャカルタ一極集中である。インドネシアに進出した日系企業は2014年半ば時点で1,700社と言われるが、その9割がジャカルタおよび近郊に立地している。
 ②スラバヤ=ジャカルタから東1,000kmに位置する人口第2の都市である。日系企業は100社ほど進出しているが、近年はスラバヤに第2工場を開設する製造業が増えている。インドネシア西部商圏向けはジャカルタ工場で生産し、インドネシア東部商圏向けはスラバヤ工場で生産するケースが見られる。
 ③スラマン=ジャワ島中部沿岸に位置する、中ジャワ州の州都。最低賃金はジャカルタより3~4割程度低く、工場用地も半額近い。日系企業は30社弱が進出している。近年、インドネシア全体の賃金上昇を受け、地場縫製メーカーがジャカルタからスラマンに移転するケースが多い。
 ④バタム島・ビンタン島=シンガポールから20km、フェリーで約1時間の島である。1970年代より保税加工区に指定され、政策的にシンガポールより多数の工場が移転された。日系企業も、労働集約型の電子部品メーカーなどを中心に、ピーク時には100社近くが進出していた。だが、最低賃金がジャカルタ並みであり、近年の賃金上昇を受けて、ベトナムへ生産機能を移管するケースが見られる。現在の日系企業数は50社弱である。
 ⑤バンドン=ジャカルタの東200㎞の高原地帯に位置する。バンドン工科大学、インドネシア教育大学などがあり、学園都市としても有名である。地場の大手縫製メーカーや大手食品メーカーが立地している。日系企業の進出は、自動車部品、縫製、ガラス加工など数十社にとどまる。

 <インド>
 ①タミルナドゥ州とその州都チェンナイは、日本企業からの投資が多く、日系企業の進出数が最も多い地域である。チェンナイは「インドのデトロイト」と呼ばれる。日系企業の中には、チェンナイにグローバル部品調達拠点を作る完成車メーカーやサプライヤーがある。インド南部の問題は、JETROが州政府と覚書を締結した日系専用工業団地がなく、工業団地が不足していることである。
 ②グジャラート州(州都:アーメダバード)は天然資源が多く、石油化学系の企業が集積している。また、インドの中では電力、水の供給面で進んでいる。スズキの鈴木修氏は、「グジャラート州は電気が余っている。工場立地としてはナンバーワン」と語っている。企業誘致にも積極的であり、モディ首相が州首相を務めていた当時、タタモーターズの誘致に成功している。今後、日系の自動車関連企業の参入が増加すると見込まれている。
 ③国産主義を貫いてきたインドでは、エネルギー、鉄鋼、化学など基幹産業の集積が進んでいる他、自動車や機械産業の裾野産業が発達している。よって、日本企業がインド市場に参入する場合、日本企業にとっての競合先が地場企業となるケースが多く、価格面で厳しい競争を強いられる。
 ④モディ首相が率いるインド人民党のマニフェストには、「総合小売業種の外資参入禁止、中小小売業者の保護」が明文化されており、小売業については今後のさらなる規制緩和は期待できない。
 ⑤インドには29州、7連邦直轄地があり、それぞれの州・直轄地が税制を導入し、州をまたいだ流通には中央販売税(CST:州またぎ税)が課せられるなど、税制・流通の煩雑さが参入障壁の1つとなっている。そこで、まずは特定の州をターゲットとし、小さく事業を始めるのが現実的であると思われる。

エスネットワークス『進出前から知っておきたい ベトナム事業運営マニュアル』―日本人の協調性に驚くベトナム人、他


進出前から知っておきたい ベトナム事業運営マニュアル進出前から知っておきたい ベトナム事業運営マニュアル
株式会社エスネットワークス

中央経済社 2013-10-19

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 本書で勉強になった箇所のメモ書き。

 ・日本ではeコマース事業やネット広告事業は簡単にできるが、ベトナムではそうはいかない。まず、eコマース事業の場合、輸入・輸出ライセンスの取得は小売ライセンスほど難しくないものの、取り扱う予定の製品のHSコードを1つずつ登録しなければならない。ライセンス取得後、新規に製品を追加する場合は、改めてHSコードを取得する。ネット広告事業に関して言うと、ベトナムにおいて広告サービスは100%外資が認められておらず、必ず現地パートナーが必要となる。

 ・ベトナムは裾野産業がまだ育っておらず、2012年時点で現地調達率は24%にとどまる。逆に言うと、海外から輸入される原材料が重宝されるわけで、ローカル社員による盗難や横領が頻発する。定期的に棚卸を徹底する、監視カメラでモニタリングするなどの対策が必須である。

 ・日系進出企業の約8割は、株式会社ではなく有限会社の形態で進出している。2人以上有限会社において、ある出資者が持ち分を譲渡する場合には、他の出資者が先に譲り受ける権利を有しており、第三者に自由に譲渡できない。そのため、閉鎖的な経営に向いている。また、取締役会の設置も不要で、出資者が意思決定について広範な権限を有している。有限会社においては、所有と経営が未分離のまま、機動的な経営をすることが可能である。

 ・ベトナムは社会主義国であるから、私人や企業が土地を所有することはできない。外国企業がベトナムで土地を使用する場合は、土地使用権をリースする。土地使用権のリースは、最低販売面積が1万平方メートル以上となっている。1平方メートル単価は30~100ドルであるから、最低でも約3,000万円~1億円の資金が必要である。中小企業にとっては重たいコスト負担となるため、その場合はレンタル工場を選択するとよい。諸々のコストを勘案すると、操業10年ぐらいまではレンタル工場の方がコスト面で優位である。

 ・ワーカーの通勤は半径5㎞、15分程度が限界と言われている。自ずと、都心からある程度離れたところに工場を建設せざるを得ない。一方、管理部門スタッフは大卒を採用するが、彼らは都心で働きたがる。彼らを郊外の工場に通勤させようとしても、通勤時間1時間が限度である(ベトナムは周知の通りバイク社会であり、ワーカーも管理部門スタッフもバイクで通勤する)。それから、日本人駐在員の住居をどこにするかという問題もあるが、当然のことながら都心よりも郊外の方が条件は劣る。ただし、最近はホーチミン市の郊外にあるビンズン省で東急電鉄グループが都市開発を行うなどの動きがある。

 ・ベトナムの大学生は、文系でも大学で学んだことが活かせる業種・職種を希望する傾向が強い。企業側の都合で年間60日を超えて異動させる場合には、3日前までに本人に通知し、合意を得る必要がある。ただし、異動の結果、大学で学んだことが活かせないと解ると、彼らは簡単に転職する。それから、ベトナムでは学歴ヒエラルキーが強く、学歴を十分に考慮して組織を作る必要がある。彼らのマネジメント上最も気を遣うのが、給与改定の交渉である。1回で納得してもらえることはまずなく、何度も給与の根拠を丁寧に説明しなければならない。

 ・会社印は、日本とは異なり、公安(警察署)で取得する。一時期、偽造が多発したため、このような制度になったようである。また、販売開始までに付加価値税のインボイスを準備する必要があるが、インボイスを印刷する前に、所轄税務局にインボイス印刷決定書を提出しなければならない。正式な付加価値税のインボイスがない場合は、税務上損金算入ができない。ただし、会計上費用計上することは可能である。この点を理解していないチーフアカウンタントに処理を任せると、会計上も費用計上できないものと勘違いしてしまい、会計上の現金残高と実際の現金残高が食い違うことがあるため、要注意である。

 ・ベトナム人は、日本人の協調性に驚くようである。ベトナム人は基本的に自己成長を重視しており、これまでの教育環境から、チームワークを発揮できる場面がなかったことが影響している。日本人はチームワークを発揮して他の社員にも積極的に物事を教えるのに対し、ベトナムでは他人に物事を教えることは自分の価値を下げることだと考えられている。

 ・ベトナムはインフレ社会であり、2008~2012年の年間の平均インフレ率が12.8%にも達する。これを受けて毎年最低賃金が大幅にアップするが、インフレ率には追いついていないのが現状である。日系企業の場合、最低賃金ギリギリでワーカーを採用することは少なく、最低賃金よりも何割か高い賃金を適用するのが普通だが、だからと言って安心はできない。最低賃金が自社の賃金に追いついてくる可能性もさることながら、ベトナム人は「最低賃金が○○%上がったのだから、自分たちの給与も○○%上げてほしい」と要求してくる。

 ・前述のようにインフレ社会であるため、不動産バブルが生じている。バブル崩壊を恐れる中央銀行は、資金使途を厳しく制限するようになった。金融機関は、融資はするものの、借入金の口座に資金を入れずに、金融機関から当該企業の支払予定先に直接振り込むという形をとる。ちなみに、ベトナムは日本以上に担保を重視する社会である。逆に、キャッシュフローはほとんど重視されない。

 ・ベトナムの外国契約者税は、ベトナムで法人格のない外国人および外国法人を対象に、各種のサービス料金やロイヤルティ、利息、フランチャイズ・フィーなどを含むベトナムの領土で発生する収入に適用される源泉徴収税である。親子ローンを組んだ場合、子会社から親会社に送金される利息にも5%の外国契約者税がかかることは意外と忘れられがちである。

 ・ベトナムでは会社を清算するのが非常に難しい。なぜならば、全ての債務を弁済することが清算の条件になっているからだ。そのため、清算せずにそのまま放置されている企業が相当数存在する。

島森俊央、吉岡利之『アジアへ進出する中堅・中小企業の”失敗しない”人材活用術』―中国・タイ・ベトナムの人材活用のポイントまとめ


アジアへ進出する中堅・中小企業の“失敗しない”人材活用術: 発展ステージの異なるベトナム・タイ・中国の事例からアジアへ進出する中堅・中小企業の“失敗しない”人材活用術: 発展ステージの異なるベトナム・タイ・中国の事例から
島森 俊央 吉岡 利之

日本生産性本部生産性労働情報センター 2014-12-08

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 中国・タイ・ベトナムにおける人材活用について、個人的に参考になったポイントをメモ書きとしてまとめておく。

 <3か国共通>
 ・日本企業は、専門スタッフやマネジメント層の給与が、成果主義を導入している欧米系の企業に比べると低いと言われる。ただ、日本本社が年功的な職能資格制度なのに、海外法人には成果主義を適用するのは現実的ではない。欧米系企業も、成果が低ければ日系企業より給与が低くなることを社員に理解してもらいつつ、日本企業の強みである、①安定、安心、②社員を大切にする、③教育がしっかりしている、という3つの点を強調したマネジメントを行うとよい。
 ・福利厚生を充実させると効果的である。特に、社員が行ったことのない土地への旅行は喜ばれる(ワーカークラスは、自分が住んでいる土地以外に行ったことがないことがほとんどである)。
 ・日本企業は”人”に対して給与を払うが、中国、タイ、ベトナムの企業は”職務”に対して給与を払う。社員も、自分の職務を極めたいという思いが強い。そのため、ジョブローテーションは専門性を高めてキャリアアップを図る上での阻害要因と見なされ、敬遠される傾向がある。
 ・日本以上に学歴社会であり、中卒・高卒が中心のワーカーと、大卒が中心の専門スタッフやマネジメント層の間には大きな隔たりがある。
 ・日本以上に肩書きへのこだわりが強い。
 ・ワーカーにはMBO(目標管理制度)を理解してもらうことが難しいため、チェックリスト方式の行動評価を行うとよい。その際、罰則評価も入れる。
 ・採用にあたっては次の点に注意が必要である。代理面接が横行している。家族同伴で面接に来る(そして、家族が質問に答える)。履歴書に虚偽の記載がある。犯罪歴を隠して応募してくる。人事マネジャーに賄賂を贈る。

 <中国>
 ・春節で親戚が集まった時に、会社の給料やポストの話をする。社員が親戚に自分のことを自慢できるよう、春節前に昇格や昇給を行う。
 ・同一労働・同一賃金が原則であり、成果に見合った報酬を求めてくる。
 ・自分がNo.1だと思っている社員が多いため、なぜその評価になったのか、具体的な証拠や事例を使って説得する。
 ・毎年、地方政府から「昇給ガイドライン(指導線)」が出されるため、ガイドラインからかけ離れた昇給を行うと社員から反発を受ける。 
 ・労働組合の設立は半強制的である。

 <タイ>
 ・タイには「3S」という言葉がある。サバーイ(快適)、サヌック(楽しく)、サドゥアック(便利)の頭文字である。楽しい、居心地がよいことを重視する傾向がある。
 ・元々暑い国であるにもかかわらず、「高温手当」を要求してくる。
 ・評価基準は社員に対して明確に提示するが、評価結果は曖昧にする(社員間で差をつけるのはほどほどにする)。
 ・採用の最終決定前に健康診断を実施する。麻薬をやっている可能性がないか調べるためである(ちなみに、日本では採用前に健康診断を実施することは禁じられている。採用後には健康診断を実施する義務が生じる)。
 ・タイでは労働組合の設立は半強制的ではないが、外部の人が介入したり、紛争目的の労働組合が作られたりしないように注意が必要である。
 ・タイでは1932年に立憲君主制に以降して以来、20回以上の軍事クーデターが起きており、タイ人はクーデターに慣れっこである。これが「タイ式民主主義」であると言う人さえいる。

 <ベトナム>
 ・中国、タイに比べて食事を重視する。社員食堂を充実させると喜ばれる。
 ・タイと同様、「高温手当」を要求してくる。
 ・タイと同様、評価基準は明確に提示するが、評価結果は曖昧にする。
 ・中国と同様、労働組合の設立は半強制的である。

福森哲也『ベトナムのことがマンガで3時間でわかる本―中国の隣にチャンスがある!』


ベトナムのことがマンガで3時間でわかる本 (アスカビジネス)ベトナムのことがマンガで3時間でわかる本 (アスカビジネス)
福森 哲也

明日香出版社 2010-11-19

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 ブログ本館の記事「千野境子『日本はASEANとどう付き合うか―米中攻防時代の新戦略』―日本はASEANの「ちゃんぽん戦略」に学ぶことができる」で、ASEANの中でもベトナムは「ちゃんぽん戦略」が上手い印象があると書いた。ベトナムの外交は「八方美人外交」と呼ばれる(揶揄される?)そうだ。本書ではベトナムの歴史を簡単に学んだだけだが、時と場合に応じて味方となる国をコロコロと変えるしたたかな外交をうかがい知ることができた。

 ベトナムは歴史的に見て長らく中国の支配下にあった。だから、中国に対しては複雑な感情を抱いている。ベトナム民主共和国(北ベトナム)が勝利したベトナム戦争(1960~1975年)の後も、後ろ盾となった中国とソ連のうち、ソ連との関係を重視した。当時の中国はカンボジアと深い関係にあった。一方、ソ連とつながるベトナムは、カンボジアのポル・ポト政権と対立し、1978年にはカンボジアとの国交を断絶、1979年にはカンボジアに侵攻し、中越戦争を引き起こした。

 1991年にソ連が崩壊すると、ベトナムは重要なサポーターを失った。そこで、かつて対立した中国やアメリカに接近するようになる。アメリカはベトナム戦争の敵国であり、300万人もの自国民を殺されたにもかかわらず、である。ベトナムは1995年、アメリカと和解して国交を回復した。

 中国とは1991年に国交を正常化した。その後、ベトナムはASEANへの加盟を狙ったが、カンボジア問題が解決していないとして、中国がこれに反対した。中国とベトナムの間を取り持ったのはインドネシアである。そのおかげで、ベトナムは1995年にASEANに加盟することができた。もともと、反共産主義のための地域連合として発足したASEANは、ベトナムという共産主義国を加えることによって、政治・経済面での包括的な連携を促す組織へと変貌する。

 ベトナムは中国と国交を正常化したとはいえ、現在は南沙諸島をめぐる領土問題で中国と対立している。ベトナムは安全保障の観点から、アメリカと軍事面で協力関係にあり、合同で軍事演習も実施している。社会主義国が資本主義国と手を組むという不思議な構図である。ソ連崩壊後、関係が希薄になっていたロシアとも、近年は関係を再び強化している。ロシアは潜水艦をベトナムに売却したり、ベトナムの原発・地下鉄工事などを受注したりしている。

 かといって、ベトナムは中国との関係を軽視しているわけではない。中国がAIIB(アジアインフラ投資銀行)の立ち上げを発表した時、ASEANは10か国とも加入を表明したが、とりわけ熱心だったのが「陸のASEAN」であった。陸のASEANとは、インドシナ半島に位置するベトナム、ラオス、カンボジア、タイ、ミャンマーの5か国である。陸のASEANは、どの国もインフラ整備が喫緊の課題であり、その解決をAIIBに期待した。ベトナムもしかりである。

 これに対し、ブルネイ、シンガポール、フィリピン、マレーシア、インドネシアの5か国は「海のASEAN」と呼ばれる。海のASEANの中には、中国と深刻な領土問題を抱える国が多い。AIIBへの参加は「渋々」だったと言われる。

 私の勝手な印象だが、中国やソ連を見ていると、社会主義国はどこか教条的なところがある。だが、社会主義であるベトナムが大国を相手にこれだけ柔軟に振る舞うことができるのは、「ホーチミン思想」にヒントがあるのかもしれない。
 ホーチミン思想の厳密な定義は、いろいろ解釈があって小難しいのですが、「ベトナム民族の自由と独立、尊厳と幸福が一番大事であり、そのためには社会主義も共産主義も柔軟に変えていく」思想なのだと思います。ベトナム民族が世界の中で確固たる地位を築いて幸せになるのであれば、資本主義的政策も推進するし、ロシアや中国よりも先に日本を訪問するし、仇敵米国にも接近するのです。
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プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、1,500字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
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