TOKYOキラリと光る商店街―専門家が診るまちづくり成功のポイントTOKYOキラリと光る商店街―専門家が診るまちづくり成功のポイント
東京都中小企業診断士協会商店街研究会

同友館 2013-03-01

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 私は常々、中小企業診断士による商店街支援に不満を抱いている。診断士による商店街支援と言えば、通行量調査(これを1日1,000~2,000円という薄謝で仲間の診断士にやってもらっている)、イベントの原資となる補助金の申請支援がメインであり、最近では「商店街支援の三種の神器」と言われる「街コン、街バル、街ゼミ」の実施をサポートすることが多くなっている。

 だが、コンサルティングの王道を行くならば、まずは商店街の業績を食品、日用品、被服、その他物販、理容・美容、医療、その他サービスなどの部門ごとに集計するところからスタートしなければならない。そして、商圏の部門別市場規模を推定し、商店街がどの程度のシェアを獲得できているのかを計算する。その上で、市場シェアが低い部門について、その原因を分析する。現在、商店街を利用している顧客の不満や要望は何なのか?競合他社はどこなのか?競合他社は商店街に比べてどのような点で優れているのか?競合他社を選択する(商店街にとっての)非顧客はなぜその店舗を選択するのか?非顧客が商店街に足を運ばないのはなぜなのか?といったことを徹底的に調査する。

 本書には25の事例が掲載されているが、顧客ニーズを調査したと書かれていたのは、下高井戸商店街と東深沢商店街の2つだけだった。市場調査をやっていないものだから、どの商店街も独善的に自分が売りたいものを売ろうとする。そのためにイベントや街ゼミなどを開催する。そして、そのような取り組みに、我々の貴重な税金が補助金として流れていく。こうした動きがいかに危険であるかは、ブログ本館の記事「中小企業診断士が「臨在感的把握」で商店街支援をするとこうなる、という体験記」、「『致知』2018年1月号『仕事と人生』―「『固定型』の欧米、『成長型』の日本」が最近は逆になっている気がする」で書いた。

 もちろん、売りたいものから出発するアプローチが100%間違っているとまでは言わない。戦略立案の方法には大きく分けて外部環境アプローチと内部環境アプローチの2つがあり、売りたいもの(≒強み)から出発するのは後者に該当する。ただし、後者のアプローチで使われる代表的な手法である「VRIO」フレームワークを見れば明らかなように、強みは「市場・顧客にとって価値がある(Valuable)」ものでなければならない。すなわち、内部環境アプローチと言いながら、結局は外部の視点を入れる必要があるのである。

 本書に登場する事例は市場分析が不完全であるから、自ずと競合分析も甘くなる。例えば、商店街で使えるポイントカードの事例が紹介されているが、烏山駅前通り商店街は35,000円の買い物で500円分(ポイント還元率約1.43%)、下高井戸商店街は36,000円の買い物で500円分(同約1.39%)、池袋本町の4商店会は40,000円の買い物で500円分(同1.25%)のポイントが付与されると言う。確かに、TポイントカードやPontaカードは100円の買い物で1円(同1%)であるから、それに比べれば還元率は高い。だが、TポイントカードやPontaカードは加盟店の数が商店街の比ではないため、簡単にポイントがたまる。それよりも致命的なのは、大手スーパーのクレジットカードは200円の買い物で3円(同1.5%)を付与するものも多く、それに比べると商店街は見劣りするという点である。

 私は、どうにかして商店街をショッピングセンターのように経営支援できないものかと考えている。ショッピングセンターは商店街を模して造られたものであるが、今やその経営手法は商店街を大きく凌駕している。ショッピングセンターでは、各テナントは業績データを毎月本部に送り、本部はテナントに対して経営支援を行っている(ショッピングセンターの賃料収入は、テナントの売上高と連動している部分が大きいため、本部としてはテナントの業績を改善しようとするインセンティブが働く)。これに対して、商店街では、「加盟店は組合に対して業績データを送るように」と言った段階で猛烈な反対に遭うだろう。

 組合の介入を嫌がるのならば、せめてそれぞれの個店が顧客とじっくり向き合って顧客のニーズや自店の強みを把握し、近隣の競合他社に積極的に足を運んで自店との違いや(自店にとっての)非顧客の言動を観察してほしいものである。診断士もそのような個店の自立的な活動を支援するべきだと考える。