こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント)のブログ別館。1,500字程度の読書記録の集まり。

マインドフルネス

『人を育てる(『致知』2016年12月号)』


致知2016年12月号人を育てる 致知2016年12月号

致知出版社 2016-12


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 そこで行われているマインド・フルネスをひと言で説明すると、光よりも早く駆け巡る人間の頭の中の思考を止めることです。吸う息、吐く息だけに意識を集中しながら、一切の妄想から離れる訓練をするのです。
(鈴木秀子「人生を照らす言葉〔連載90〕」)
 現在、アメリカではマインドフルネスが流行しているようである。グーグル、フェイスブック、ゴールドマン・サックス、IBMなどがこれを取り入れているという。私の安直な考えだが、このマインドフルネスは、数年前にこれまたアメリカで流行した「U理論」とよく似ていると思う。U理論もマインドフルネスも、人間関係に起因する様々なしがらみやトラウマから離れ、精神を集中させることで、宇宙全体を覆う意識とつながることができるという考え方である。

 非常に雑駁な言い方をすれば、他者との関係は一旦脇に置いて、個人が宇宙という絶対と直接につながることを目指している。それでいながら、個人が宇宙とつながれば、他者ともつながることができ、そこから変革が自ずと発生するという。つまり、1は全体でありかつ絶対である。これを人々は全体主義と呼ぶのではないだろうか?全体主義においては、時間の流れは存在しない。現在という1点が全てであり正しい。引用文にも、「光よりも早く駆け巡る人間の頭の中の思考を止める」とあり、現在という1点が強調されている。

 《参考記事(ブログ本館)》
 オットー・シャーマー『U理論』―デイビッド・ボームの「内蔵秩序」を知らないとこの本の理解は難しい
 安岡正篤『活字活眼』―U理論では他者の存在がないがしろにされている気がする?

製品・サービスの4分類(修正)

製品・サービスの4分類(各象限の具体例)

 全体主義は言いすぎたかもしれないが、グーグル、フェイスブック、ゴールドマン・サックス、IBMなどがマインドフルネスを取り入れているのは、上図を眺めるとよく理解できる(図の説明については、ブログ本館の記事「森本あんり『反知性主義―アメリカが生んだ「熱病」の正体』―私のアメリカ企業戦略論は反知性主義で大体説明がついた、他」や、以前の記事「『プラットフォームの覇者は誰か(DHBR2016年10月号)』」などを参照)。

 私の理解では、グーグル、フェイスブック、ゴールドマン・サックスは左上の象限に位置する。IBMは右下の象限に位置するのだが、近年はAIに力を入れており、またプラットフォーム事業にも乗り出しているから、左上の象限に移動しつつあると言える。左上の象限はイノベーションの世界である。市場にはまだニーズが存在しないため、伝統的な市場調査は無力である。代わりに、リーダーが自分自身を最初の顧客に見立て、「私ならこういう製品・サービスがほしい。私がほしいということは、世界中の人々も同じくほしがるに違いない」と信じる。そして、そのイノベーションを全世界に普及(布教)させることを唯一絶対の神と契約する。

 リーダーがイノベーションに関して神と契約するプロセスは、マインドフルネスやU理論のプロセスと酷似している。いずれも、神や宇宙という絶対性に触れることで、世界中の人々とつながることができるという全体性を強調している。だから、グーグル、フェイスブック、ゴールドマン・サックス、IBMなどがマインドフルネスに注力している理由がよく解ると述べたわけである。

 ところで、マインドフルネスは日本の禅の影響を受けているという。私は禅について無知なので何とも言えないのだが、本来の禅とは、絶対性や全体性の獲得を目指すものだったのであろうか?確かに禅には、静謐な空間で、他者との交わりを断って厳しい修練を積むというイメージがある。しかし、その修行の目的は、他者の異質性を認め、顔の見える他者と血の通った交流をじわじわと広め、さらにその関係を深化させることにあるのではないだろうか?禅とマインドフルネスの相違点を整理することが、今後の私の課題である。

川上全龍、石川善樹『世界中のトップエリートが集う禅の教室』


世界中のトップエリートが集う禅の教室世界中のトップエリートが集う禅の教室
川上全龍 石川 善樹

KADOKAWA/角川書店 2016-03-31

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 今、西欧人の間で「マインドフルネス」という言葉が流行しているようだ。マインドフルネスとは、提唱者であるジョン・カバット・ジンによれば、「今ここでの経験に、評価や判断を加えることなく、能動的に注意を向けること」という意味である。そして、マインドフルネスを実践するための方法として、日本の禅に注目が集まっている。スティーブ・ジョブズも禅を行っていたのは有名な話だ。

 マインドフルネスの流行の根底には、従来の西欧型の価値観が限界を迎えているという認識がある。これまでの西欧世界は、勤労主義を重視し、自分を苦しめてでも努力することを美徳とした。プレッシャーに耐え、懸命に努力してこそ自己実現ができる。西欧人は、プラグマティズムに基づいて実利を追求する。役に立つことが全てであり、役に立たたないことを行うのは悪である。こうした考え方は、キリスト教、特にプロテスタントと親和性がある。しかし、リーマン・ショックはそうした無茶な生き方が破綻していることを示す出来事であった。

 本書は禅の効用を説いた一冊であるが、禅を実践すると自制心が身につくという。自制心の効果として、心理学の「マシュマロ実験」に触れている。
 社会的成功のためには自制心が重要であることを裏付ける根拠として、1960年代後半から始まった「マシュマロ実験」がある。主導者のウォルター・ミシェル教授は、人間の将来の成功は、IQではなくて、「4、5歳の子どもの目の前にマシュマロを負いいて、食べることを待つ子か待てない子かでおおよそ見当がつく」という。

 実験では、被験者である子どもの人生を継続して追う。被験者は現在40代中頃~50代。その人たちの収入や社会的地位などを比べると、マシュマロを食べるのを我慢できた、自制心が高かった子が、収入も地位も高かった。
 ただ、マシュマロ実験は1960年代後半に始まったものであり、40代中頃~50代となった被験者の中で、幼少期にマシュマロを我慢して現在高い地位に就いている人とは、従来の西欧的な価値観で評価されて昇進した人である。つまり、禅が本来目指す人間像とは離れているように感じる。

 西欧的な価値観を私なりに簡単に整理すると次のようになる。人生の目的は自己実現である。将来的に達成したい目標を明確に設定し、その目標を達成するための具体的な計画を逆算で立案する。一度計画ができ上がれば、その計画に沿って懸命に努力する。計画が思うように行かない時は、そのギャップの原因を徹底的に分析し、計画を修正する。晴れて目標が達成され、自己実現が現実のものとなった暁には、大きな富を手に入れることができる。後は、その富を使って悠々自適の生活を送る。これが西欧人の理想である。

 昔は自己実現までの期間が長かったが、時代が下るにつれて目標設定の期間は短くなっている。ただ、計画期間が短くなったからといって、目標達成時に手に入る富が少なくなったわけではない。むしろ、富はますます増大している。問題は、自己実現に成功する人の割合が極端に減っていること、その結果として富の偏在が見られることである。西欧人の生き方はただでさえ緊張感が強いのに、最近は成功確率が下がってさらに緊張の度合いが高まっているように思える。

 東洋の禅が目指すのは、これとは逆であろう。禅と聞くと厳しい修行を想像してしまうが、禅の本質はもっと別のところにある気がする。まず、人生の目的は自己実現ではなく、他者を活かすことである。他者を蹴落としてでも成功するのではなく、他者の助けとなることこそ善である。全ての人がお互いに他者を助け合えば、誰かは自分のことを助けてくれる。人間関係は持ちつ持たれつである。

 明確な目標や計画は不要である。おぼろげな方向性だけを設定すればよい。その代わり、毎日の生活=「今、ここ」を大切にする。禅の世界には「即今、当処、自己」という言葉があるそうだ。他者の助けになることを毎日行う。西欧人のように肩肘を張らなくてもよい。自分にできる範囲の中で、他者をサポートすれば十分である。目標も計画も曖昧なのだから、何が成功で何が失敗なのか、判断のしようがない。つまり、失敗を分析するという、あの苦痛な作業を経験しなくてもよい。何となく、昨日よりはちょっと優れた方法を試してみる。その程度の心構えでよい。だから、西欧人のように高いモチベーションを保つ必要もない。

 一言でまとめるならば、「緩やかな気持ちで他者のために生きる」ということである。西欧人の生き方に比べると、一気に肩の荷が下りた気分である。ただし、西欧人の自己実現にはリミットが設定されており、成功すれば残りの人生を自由に謳歌できるのに対し、禅的な生き方では、一生他者のために生きる必要がある。この点だけは多少頑張らなければならない。

 このように書くと、日本で一番禅的な生活を実践しているのは、タモリさんであるように思える。笑っていいともは、タモリさんが前面に出る番組ではなかった。前面に立つのは曜日ごとのレギュラーで、タモリさんはいつも後方から彼らを支えていた。笑っていいともでレギュラーになり、その後芸能界で出世したタレントは多い。タモリさんのスタンスは、最終回でも変わらなかった。出演NGと言われたタレントたちの共演を実現させたのは、タモリさんの包容力のおかげであろう。

 タモリさんは、笑っていいともが長寿番組となった秘訣を聞かれた時、「反省しないことだ」と語ったことがある。実際、毎日の放送が終了した後、スタッフや共演者と反省会をしたことは一度もないという。生放送は生き物であり、2度同じことが起きることはないのだから、反省してもそれを活かす機会がないというのがその理由であった。笑っていいともは、毎日「今、ここ」に集中した番組であった。

 タモリさんは「やる気のある者は去れ」とも言っている。笑っていいとものレギュラーには、ベテランのタレントもいれば、売り出し中のタレントもいた。ベテランは番組に慣れているので、自分でペース配分をし、他のタレントに気遣いができる。しかし、売り出し中のタレントは、自分をアピールしたいがために、実力以上に目立とうとする。やる気だけが高い人は、往々にして自己中心的になる。すると、出演者同士のもたれ合いで成立している笑っていいともは番組にならない。この点をタモリさんは危惧していたから、このような言葉を口にしたのかもしれない。

デイヴィッド・ゲレス『マインドフル・ワーク―「瞑想の脳科学」があなたの働き方を変える』


マインドフル・ワーク―「瞑想の脳科学」があなたの働き方を変えるマインドフル・ワーク―「瞑想の脳科学」があなたの働き方を変える
デイヴィッド・ゲレス 岩下 慶一

NHK出版 2015-05-22

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 以前の記事「エドガー・シャイン『問いかける技術―確かな人間関係と優れた組織をつくる』他」で「マインドフルネス」に触れたが、本書はその実践書である。
 マインドフルネスとは、「完全に現在に存在すること」だ。過去の思いに囚われたり、未来を夢見たりすることなく、この時、この場所に存在することだ。マインドフルになるとは、自分の身体の感覚を感じ取ることだ。たとえそれが不快なものであっても、それに執着したり、消え去るよう望んだりしないことだ。
 マインドフルネスは、心や身体の中で、また私たちを取り囲む世界で今起こっていることについて、最も基礎的なレベルで気づきを深めることだ。これらの動きに気づくこと、現実をありのままに受け入れることだ。そして、マインドフルネスを養うのに最も優れた方法が、瞑想だ。
 マインドフルネスのポイントを私なりに整理すると、①未来ではなく「今、ここ」に集中すること、②私と世界を一体のものとしてとらえること、である。この考え方は欧米流の合理主義に対するアンチテーゼである。

 欧米(特にアメリカ)においては、まずは未来から出発する。未来のある地点において、「私は何を実現したいか?」というビジョンを明確に掲げる。そして、そこから遡って、「私はいつまでに何をするべきか?」という目標を細かく分割して設定する。こういうバックキャスティング的な発想をするのが欧米流である。

 マインドフルネスに到達する最も効果的な方法が瞑想であることからも解るように、マインドフルネスは東洋の影響を強く受けている。東洋思想は、未来ではなく現在、分割ではなく統合を特徴とする。だが、マインドフルネスには、東洋思想のもう1つ重要な視点が抜け落ちている気がする。それは「他者」の存在である。

 マインドフルネスにおいては、ややもすると瞑想によって自分の世界に閉じこもれば、世界に直接アクセスできるかのような印象がある。それはちょうど、物理学者デイビッド・ボームが精神の働きを考察した際に、人間が意識のレベルを引き上げれば、宇宙全体を統合的に支える「内蔵秩序」とつながることができると説いたのと同じ話である(ブログ本館の記事「オットー・シャーマー『U理論』―デイビッド・ボームの「内蔵秩序」を知らないとこの本の理解は難しい」などを参照)。

 しかし、他者のいない世界は存在しない。よって、世界の理解には他者理解が不可欠である。本当にマインドフルネスを獲得するためには、他者との相互作用を欠くことができない。確かに、ボームの内臓秩序の話から発展した「U理論」では、集団が意識を統合していくストーリーが描かれている。しかし、その過程において他者とどのような交流がなされたのかが十分に解明されていない。個人的にはその点が非常に不満である(ブログ本館の記事「安岡正篤『活字活眼』―U理論では他者の存在がないがしろにされている気がする?」を参照)。

エドガー・シャイン『問いかける技術―確かな人間関係と優れた組織をつくる』他


 私はパーソナルブレーン社の『TOPPOINT』という雑誌を年間購読している。この雑誌は、話題のビジネス書やロングセラーの中から編集部が選んだ10冊について、1冊あたり4ページに要約して紹介してくれるものである。最近のトレンドや有名な本の概要を知るにはちょうどいい雑誌だ。

 2015年2月号を読んでいたら、偶然なのかエレン・ランガーの「マインドフルネス」に言及した書籍が3冊も登場した。マインドフルネスは、従来の心理療法や精神療法とは異なる、第3世代と言われる新たな治療法として注目されるプログラムであり、ストレスの低減やうつ病の治療に効果があるとされる。グーグルやインテルなど、社員教育に取り入れている欧米企業も多い。

問いかける技術――確かな人間関係と優れた組織をつくる問いかける技術――確かな人間関係と優れた組織をつくる
エドガー・H・シャイン 金井 壽宏

英治出版 2014-11-26

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サード・メトリック しなやかにつかみとる持続可能な成功サード・メトリック しなやかにつかみとる持続可能な成功
アリアナ・ハフィントン 服部 真琴

CCCメディアハウス 2014-11-20

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シンプル・ライフ 世界のエグゼクティブに学ぶストレスフリーな働き方シンプル・ライフ 世界のエグゼクティブに学ぶストレスフリーな働き方
ソレン・ゴードハマー Soren Gordhamer 佐々木 俊尚

翔泳社 2014-12-05

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 <すべてのデバイスをオフにして、ウォーキング、瞑想をし、文章に下線を引ける本物の書籍を読む休暇を過ごす時も、私にとって大切なのはワンダーの感覚を取り戻すこと。つまり外の世界との接続を切って、内なる旅をすることだ。
(アリアナ・ハフィントン『サード・メトリック』の紹介文より)
 スティーヴ・ジョブズは、こう述べている。「抽象的な思考や論理的な分析より、直感的な理解や感性の方が重要だと気づき始めた」これは、そとからの情報にあまり頼らず、内なる知性を働かせるという知のあり方を示した言葉だ。(中略)

 ツイッター社の共同創業者エヴァン・ウィリアムズは創業間もない頃、社内に向け、自社の方針を打ち出した。その主な項目の中には「集中」と題されたものが含まれていた。(中略)ひっきりなしにメールやツイートが舞い込み、なかなか心を今ここに置けない現代の生活において、意識の向け方を養うことは不可欠である。
(ソレン・ゴードハマー『シンプル・ライフ』の紹介文より)
 だが、よく考えると、我々をPCやスマートフォンといったデバイスに張りつけて、1つのことに集中する時間を奪っているのは、アリアナ・ハフィントンが始めたハフィントン・ポストであったり、スティーブ・ジョブズが作ったiPhoneであったり、エヴァン・ウィリアムズが開発したtwitterであったりする。

 また、ジョブズは直観の重要性を解くが、スマートフォンのGPS機能やアプリのデータログ機能の発達によって、スマートフォン経由で取得できる情報量が膨大になり、各社はビッグデータなるものの解析に躍起になっている。

 その彼らが、テクノロジーから自らを開放してマインドフルネスを意識しようとか、分析や論理性よりも直観や内なる知性を重視しようと言ったところで、ちょっと説得力がないように感じてしまう。

 これはアメリカに対する私の大いなる偏見が入っているのだけれども、アメリカという国はダブルスタンダードで動いている。アメリカは、一見すると非常に効果的に見える基準を、グローバルスタンダードという名の下に、世界中に適用する。ところが、アメリカの一部の人はその基準の限界を知っており、本当に効果があるもう1つの基準を隠し持っている。

 アメリカは前者の基準を世界中にばら撒き、世界の人々がその基準の限界にぶち当たって疲弊したところに後者の基準を持ち出して、世界を支配しようとする。これが私の”妄想”である。もっとも、アメリカは自由の国であり、言論統制をしないというのが建前であるから、この記事で書いたようにアメリカが隠し持つもう1つの基準の一端をうかがい知ることができるのだが。
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プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、1,500字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
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