採用力を確実に上げる面接の強化書採用力を確実に上げる面接の強化書
岩松 祥典

翔泳社 2008-01-25

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 いかにもリクルート出身者らしい1冊だと感じた。本書では、採用面接が果たすべき6つの役割(①ヒアリング、②ジャッジメント、③アピール、④モチベート、⑤アクションコーディネート、⑥クロージング)が整理されているが、人事担当者は採用プロセスを安易に標準化するのではなく、応募者1人1人に寄り添って、その人に応じたやり方を都度適用すべきだと説かれている。

 企業は面接を通じて有望な人材を絞り込むと同時に、「この人がほしい」とターゲットを絞ったら、その人が自社を他社よりも魅力的だと思い、自社の価値観に共感し、自社で働くイメージを持ってくれるように、様々な手を尽くすべきだと著者は主張する。著者に言わせれば、採用は応募者に自社を売り込む営業である。

 ブログ本館の記事「坂本光司『日本でいちばん大切にしたい会社2』―採用・給与に関する2つの提言案(前半)」で、新卒採用では応募者と自社の価値観が合致しているかどうかを判断すべきだと書いた(※)。本書でも、応募者の”就職観”を確認する方法が紹介されている。ただし、単にヒアリングで就職観を探るのではなく、時には面接官が学生と一緒になって就職観を探索するべきだという。この辺りに、リクルートならではの泥臭さが表れているような気がした。

 (※)このように書いたものの、人生経験が浅い学生に価値観なるものがあるのかどうか疑問は残っている。ブログ本館の別の記事「 『戦略人事(DHBR2015年12月号)』―アメリカ流人材マネジメントを日本流に修正する試案」では、価値観よりもっと手前の性格レベルで評価すればよいのではないかと書いた。例えばサイバーエージェントは、「素直で責任感がある」学生を採用しているという。

 旧ブログの記事「1,000万円の投資案件のジャッジなんですよ!-『人材を逃さない見抜く面接質問50』」で、採用は1,000万円の投資を判断するのと同じだから慎重かつ合理的にならなければならないと書いた。だが、よく考えてみると、1,000万円どころの話ではない。仮に採用した学生が定年まで勤め上げるとすれば、人件費は3億円前後になるだろう。したがって、採用とは、企業側からすれば3億円の買い物をすることであり、学生側からすれば3億円の製品(=自分)の売り込みである。だから、どちらも完璧に行動しなければならない。

 私は独立前に2社で働いたが、結果的には2社ともあまりいい形で退職できなかったし、2社に対してポジティブな印象を抱いていない。今振り返ると、採用面接の段階で「この企業は危ないかもしれない」と判断できる材料があったように思える。もちろん、私自身も面接の段階で完璧に行動できたとは言えないが、以下では企業側の落ち度ではないかと思われるエピソードを紹介したい。

 新卒入社した1社目はシステム開発の会社であった。最終面接の日に私が緊張しながら本社に向かったところ、エレベーターですれ違った人事担当者に「あれ?今日は最終面接の日だっけ?」と言われた。人事担当者が自社の採用スケジュールを把握していないことを若干不思議に思ったものの、当時の私は企業とはそういうところなのだろうと思い込んでしまった。内定をもらった私は、嬉しさが先行して入社を決めてしまった。1社目は1年ちょっとしか持たなかった。

 2社目は、大手コンサルティングファームの元パートナーが設立したベンチャー企業である。最終面接は社長面接だった。だが、社長は私の志望動機や職歴についてほとんど質問してこないし、かといって自社の事業をアピールするわけでもない。端的に言うと、社長と会話が成立しないのである。面接の手ごたえがなかったので不採用だと思っていたら、なぜか採用してもらえることになった。入社後に社内でこの話をしたら、先に入社した人たちも皆同じような経験をしていた。

 社長はコミュニケーション能力に難がある人だった。密室で30分以上2人きりになると、身体中にじんましんが出るほどであった(そういう人がなぜコンサルファームのパートナーになることができたのか、不思議で仕方なかった)。社長に言わせると、「私は応募者の最初の印象で、その人のことがだいたい解る」から、面接でほとんどしゃべらなかったのだという。しかし、最大で社員が50人以上いたのに、転職者が相次ぎ、リストラを繰り返したことで、私が退職する頃には10人ほどになっていた。果たして、社長に人を見る目があったのか疑問である。