大不況時代の新消費者ビジネス大不況時代の新消費者ビジネス
ロバート 鈴木

日本経済新聞出版社 2009-08-20

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 とにかく取材量が半端ではない。アメリカのありとあらゆる小売業について、コンセプト、ターゲット顧客、品揃え、価格、外観、内装、売り場面積、販売スタッフの応対ぶり、店舗数、出店地域、売上高、1スクエア・フィート(約0.028坪)あたり売上高、社歴や代表者の略歴などの情報が網羅されている。本書の中で、「アメリカにはこんな業態があるのか」と驚いたものを5つ紹介したい(なお、下記の情報は本書が出版された2009年当時のものである点はご容赦いただきたい)。

 ①ティーンエイジャー向け5ドルストア
 「ファイブ・ビロウ」は5ドルの上限価格を持つディスカウンターであり、主に小学生から高校生をターゲットとしている。カテゴリーは広く、ゲーム類、DVD、スポーツ用品、キャンディー類、iPodのアクセサリ、アパレル、ヨガマットからトイレタリーやホームデコまで取り揃える。アメリカの伝統的な雑貨屋である5センツ&10センツ・ストアをティーン向けに再現させたと言える。この昔懐かしい業態をティーン向けにかっこよくデザインし直しており、楽しい集いの場ともなっている。親たちも5ドル上限なら安心して買い物をさせることができる。

 不況によって親からのお小遣いが少なくなり、アルバイトもなかなか見つからない子供たちにとって、格好のバリュー志向業態となった。子ども向けの百均ストアとも言えるが、店内はポップで楽しく、ダラーストア(1ドルショップ)が持つネガティブなイメージを持っていないのが特徴である。

 ②サラダ・チェーン
 カスタムメイド・サラダは対面トスサラダとも呼ばれる。サラダのベースとなる野菜を選び、後はトッピングとドレッシングを選んでトスしてもらうというグルメサラダである。1990年代末に東海岸、特にニューヨークのマンハッタンからブームとなり、そのままファースト・カジュアル業態として定着した。「サラダワークス」はペンシルバニア州を本拠に110店舗をフランチャイズ展開するが、今後は西海岸のロサンゼルス都市圏へ集中的に出店する計画である。

 いずれのサラダ・チェーンも、季節や地元の野菜、オーガニック素材を使い、それらにツナや白トリュフ入りポテトなど、グルメなアイテムも盛り込んでいるのが特徴である。また、パッケージには生物分解性の容器を使用し、エネルギー効率がよく環境にやさしい店舗環境を生み出すなど、ヘルシーでグルメ、かつエコフレンドリーという3拍子を訴求している。

 ③フローズン・ヨーグルト専門店
 フローズン・ヨーグルトは1980年代半ばから1990年代初めにかけて売上を伸ばしていた。しかし、1990年には1億1,800万ガロンあった消費量は、2005年には6,500万ガロンにまで低下した。これは政府が1990年代半ば、アイスクリーム会社に低脂肪アイスクリームの表示を認め、顧客が再度アイスクリームへ流出したためである。その後、ヨーグルトは免疫システムを高め、体重を減らす効果があるなど、数々の研究成果が認められ、再度注目を集めた。

 第2次フローズンヨーグルト・ブームを牽引するのは、2005年創業の「ピンクベリー」だ。テイストは今までのものではなく、酸味が強い大人受けのするものである。ベースとなるヨーグルトはオリジナル、グリーンティーまたはザクロである。そこにマンゴー、ラズベリー、キウイ、ザクロ、アーモンド、ココナッツなどの中から好きなものをトッピングする。ハーフカップサイズで70カロリーしかなく、ロサンゼルスのフィットネス志向の女性に大受けした。2006年10月には、スターバックスのハワード・シュルツが持つベンチャーキャピタルが2,750万ドルを投資した。

 ④ミドル・シニア女性向けランジェリー業態
 レディースアパレルのチコズは、35歳以上の女性向けに、ブラ、ショーツ、キャミソール、パジャマなどを販売する「ソーマ」という業態を投入した。アメリカでもミドル・シニア女性向けのランジェリー専門店業態はほとんど存在しないため、大きな支持を得ている。店舗はベッドルームサイズの試着室を持ち、社員(フィットネス・エキスパート)によって最高のフィッティング体験が顧客に提供される。エキスパートには、顧客が相談しやすいように、顧客と同年代の女性が雇われている。チコズの社内調査では、女性の70%は間違ったサイズのブラを着用しているという。ソーマは35歳以上の女性を狙うが、45~65歳がもっと適格なターゲットである。さらにその中で、50~55歳がスイート・スポットである。

 ミドル・シニア女性は若年女性ほど購買頻度が高くなく、衝動買いもあまり期待できない。また、女性は30歳を過ぎると様々な体型やサイズへと変化し、ファッションテイストも多様化する。これらの女性を1つの業態へまとめ上げていくには高度なテクニックと経験が必要である。

 ⑤リテール・クリニック(小売店内診療所、インストア・クリニックとも言う)
 銀行、クリーニング、レンタルビデオなど様々なサービス要素がスーパーマーケットの店内に導入されているが、リテール・クリニックは次のトレンドになるかもしれない。忙しい共稼ぎの女性消費者にとって非常に便利であり、また健康保険を持たない多くの人も安価で治療を受けられるからである。リテール・クリニックは、主に看護師が診断を行い、簡単な処置もする小型診療所である。通常のクリニックのようにアポイントを取る必要がない上に、待ち時間も最大15分程度にすぎない。治療費も、通常のクリニックでは最低150ドルかかるのに対し、リテール・クリニックでは50ドル前後と、約3分の1である。ドラッグストア業界首位のCVSは、リテール・クリニック市場における全米最大手の「ミニット・クリニック」を店内に取り込んできたが、2007年には同社を買収し、子会社化した。

 ただ、米国小児科学会は、ヘルスケアシステムをさらに細分化するだけだとリテール・クリニックに反対している。米国家庭医学会と米国医師協会は、リテール・クリニックの原則を設定したが、それには治療記録を担当医に送付することや、患者のために家庭医を見つけることなどが含まれている。アメリカでは多くの州が、看護師による治療を医師が管理しなければならないという法律を持つ。