こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント・トレーナー)のブログ別館。2,000字程度の読書記録の集まり。

一橋ビジネスレビュー

『一橋ビジネスレビュー』2018年AUT.66巻2号『EVの未来』―EV&自動運転は本当に顧客のニーズに応えているのか?


一橋ビジネスレビュー 2018年AUT.66巻2号: EVの将来一橋ビジネスレビュー 2018年AUT.66巻2号: EVの将来
一橋大学イノベーション研究センター

東洋経済新報社 2018-09-14

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 ブログ本館の記事「『一橋ビジネスレビュー』2018年AUT.66巻2号『EVの未来』―トヨタに搾り取られるかもしれないパナソニックの未来」では書ききれなかったことを別館で書きたいと思う。

 EVは不思議な技術革新である。通常、技術革新は急速に進行し、古い技術は一瞬のうちに新しい技術に取って代わられるのだが、EVをめぐる技術革新は非常にゆっくりとしている。『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2017年6月号の論文「『正しいタイミング』が価値創造の成否を分ける 技術戦略はエコシステムで見極める」(ロン・アドナー 、ラフル・カプール)は、「新規技術のエコシステムの課題の大小」と「既存技術のエコシステムの事業機会の大小」という2軸でマトリクスを作成し、将来的な変化のパターンを整理している。

ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 06 月号 [雑誌] (ビジネスエコシステム 協働と競争の戦略)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 06 月号 [雑誌] (ビジネスエコシステム 協働と競争の戦略)

ダイヤモンド社 2017-05-10

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 新規技術のエコシステムの課題が小さく(=新規技術を包摂する新しいビジネスエコシステムが完成しており)、既存技術のエコシステムの事業機会には拡大の余地がないのが普通であり、この場合は新規技術が一気に既存技術を駆逐する。だが、EVに関しては、まだまだ新規技術のエコシステムの課題が大きい(EV自体の技術に課題がある上、充電スポットをどのように整備するかといった社会的課題もある)。一方で、世界的には自動車市場は順調に成長している。そのため、既存技術のエコシステムに事業拡大の余地がある。ここで言う既存技術とはエンジン車のことであるが、厳密に言えばエンジン車は各国で規制の対象となっているため、実際に拡大しているのはハイブリッドカーなどである。こういう状況では、技術の交代は極めて緩やかになると著者は教えてくれる。

 EVが不思議な技術革新であるもう1つの理由は、自動運転という別の技術革新が同時に進行しているからである。同じ製品・サービスに関して、複数の技術革新が同時並行で起きている事例は、私は他に思いつかない。個人的には、EVと自動運転の相互作用、すなわち、EVが自動運転の価値を、また自動運転がEVの価値をどのように高めるかに関心がある。また、EVが自動運転の技術を制約する場合、逆に自動運転がEVの技術を制約する場合、その制約を取り払うために両方の技術の間でいかなる調整がなされるのかも興味深い。

 ここで1つ問題になるのが、EVや自動運転という技術革新が、本当に顧客のニーズを満たすのかという点である。延岡健太郎、松岡完「自動車の顧客価値」という論文はこの点を掘り下げている。まず、自動車には商品起点の価値として「走る喜び」、ユーザー起点の価値として「使う楽しみ」、商品&ユーザー起点の価値として「持つときめき」という3つの大きな価値があるとする。一方、現在進行している技術革新は、EV、自動運転、さらにカーシェアリングである。その上で、3つの技術革新が3つの顧客価値に与える影響を考察している。

 まず、EVは、加速性能やレスポンスのよさ、モーターのスムーズさや静粛性、回生ブレーキなどを特徴とし、新たな「走る喜び」を提供する。一方で、精緻な機械と高効率な燃費から生まれるエンジンサウンドや、ダイナミックなトルク特性を操るといった、エンジン車特有の楽しみはない。よって、EVは「走る喜び」に対して(+)と(-)の両方の影響を及ぼす。「使う楽しみ」に関しては、航続距離と充電時間を考えると、電池を多く消費する暖房が冬場に使えない可能性がある。また、皆でレジャーを楽しむ時に、充電の心配はしたくないものである。したがって、「使う楽しみ」に対して(-)の影響を及ぼす。

 次に、自動運転は、ユーザーから運転するという行為を奪うから、「走る喜び」に対して明らかに(-)である。一方で、「使う楽しみ」を重視するユーザーにとっては、自動車の走りよりも空間としての自動車が重要であるから、自動運転に対する期待は大きいだろう。例えば、家族での自動車を使ったレジャーにおいても、ドライバーも運転に集中する必要がなく、車内で一緒に楽しむことができる。したがって、自動運転は「使う楽しみ」に対して(+)の影響を及ぼす。

 最後にカーシェアリングである。論文の著者が行った調査によると、多くのユーザーは自動車に機能性・合理性を超えた価値を見出しており、「持つときめき」の重要性が高まっているという。カーシェアリングはこの傾向に逆行するものであり、「持つときめき」に対して(-)の影響を及ぼす。

 こうして見てみると、3つの大きな技術革新は、必ずしも顧客ニーズと合致していないことになる。もっとも、論文という紙面の制約上、顧客ニーズをたったの3つに集約している点(一口に「走る喜び」や「使う楽しみ」と言っても、その意味するところは顧客によって千差万別である)や、カーシェアリングを望む顧客が一定数存在するのは確かであり、ニッチ戦略として展開できる可能性が無視されてしまっている点など、色々と問題は多い。ただ、顧客ニーズが技術に先行しなければならないという、経営の基本を改めて認識させられる。

 ここまで私は、「イノベーション」という言葉を使わずに、「技術革新」と書いてきた。昔に比べると最近はこの両者が混同されることは少なくなったと思う。「イノベーション(技術革新)」といった誤った表記は見かけなくなった。イノベーションは、マーケティングと対比される概念である。マーケティングが単純に既存市場のシェアを奪い合うことであるとするならば、イノベーションは、①新しい市場を創造すること、②既存市場の構造を破壊し、競争のルールを転換して、既存企業から一気に顧客を”強奪”すること、である。多くのイノベーションは技術革新を伴うが、それは必須条件ではない。クレイトン・クリステンセンが発見した破壊的イノベーションでは、高度な技術ではなく、むしろ単純化・小型化を実現する技術が多く見られる。定義上は、技術革新を全く伴わないイノベーションもあり得る。

 ①はさらに、①-1.非顧客に着目し、非顧客を顧客として取り込む工夫を製品・サービスに施すことで市場を拡大すること、①-2.全くの新しい市場をゼロから創出すること、に分けられる。また、②はさらに、②-1.ある顧客価値を提供するビジネスエコシステムの中身を抜本的に刷新すること、②-2.ある顧客価値を提供する既存の製品・サービスに対して、別の手段でその顧客価値を実現する製品・サービスを投入すること、に分けられる。ブログ本館の記事「【戦略的思考】事業機会の抽出方法(「アンゾフの成長ベクトル」を拡張して)」で書いた7つの戦略と対応させると、①-1が「新市場開拓戦略」、①-2が「完全なるイノベーション戦略」、②-1と②-2が「代替品開発戦略」に該当する。

 また、ブログ本館の記事「『一橋ビジネスレビュー』2018年SPR.65巻4号『次世代産業としての航空機産業』―「製品・サービスの4分類」修正版(ただし、まだ仮説に穴あり)」で用いたマトリクス図について、私は今まで、左上の<象限③>がイノベーションの世界であり、下段の<象限①><象限②>がマーケティングの世界であると簡単に切り分けることが多かった。しかし、この図はもう少し丁寧に説明しなければならないと思うようになった。

 まず、<象限③>でもマーケティングは必要である。ただし、<象限③>はイノベーションのタイプ①-2と相性がよく、アメリカ企業が強いことはこれまで何度か述べてきた通りである。さらに、①-2に関しては、ニーズのないところにニーズを生み出すわけだから、例外的に技術が顧客ニーズに先行する。

 一方、<象限①><象限②>でもイノベーションは起きる。特に、①-1、②-1、②-2のタイプのイノベーションが発生しやすい。私が<象限③>のイノベーションに関して、「顧客がまだ存在せず、市場調査ができないから、イノベーター自身が自らを最初の顧客に見立て、自分が心の底からほしいと思う製品・サービスを形にする」などと書いたことから、イノベーターは市場や顧客の声を聞かなくてもよいのだという誤ったメッセージを送ってしまったかもしれない。

 だが、②-1、②-2のタイプのイノベーション、つまり「代替品開発戦略」では、既存市場の構造や競争ルールひっくり返して、既存企業からごっそり顧客を奪うことを狙っているから、市場の声によく耳を傾けなければならない。①-1のタイプは非顧客を対象とするものであるが、非顧客は将来的な潜在顧客であると考えれば、これもまた広い意味で、顧客の声に耳を傾けることが要請されていると言える。EVは非連続的な技術革新により、産業・市場構造を抜本的に変化させる点で②-1に該当し、自動運転は運転免許を持っていない人をターゲット顧客に含めることが可能になる点で①-1に該当する。よって、自動車メーカーは市場や顧客の声を丁寧に拾い上げ、技術と擦り合わせをしなければならない。
 寺師(※トヨタ取締役副社長):電動車の使い方は多様です。街中であれば、それほど高速で長く走らないので電池もそれほど要りません。少ない電池量でそれほど航続距離も長くない小型EVで間に合います。あるいは、山間部の過疎地では、軽トラックや軽自動車を電動車にして、一晩家で充電して、翌日に20~30km走れれば十分だというご老人の足代わりをするといったことも可能です。

 どこでも使えるEVというよりは、各地域に合ったEV規格が出てきて、それに長い距離を走る場合に備えてレンジエクステンダーをつけておく。これはPHVだから駄目だ、エンジンがないからEVだと、ようかんを切るがごとく、明確に分け方を議論することには意味がないのです。
(寺師茂樹、米倉誠一郎、延岡健太郎、藤本隆宏「利用シーンに適した電動車で多様なモビリティサービスを展開する」)
 取締役副社長がここまでおっしゃるトヨタが、どこまで本気を出して、市場や顧客に密着したイノベーションを起こせるか、注目してみたいと思う。

『一橋ビジネスレビュー』2018年SPR.65巻4号『次世代産業としての航空機産業』―「子会社間のマネジメント」とは何か?


一橋ビジネスレビュー 2018年SPR.65巻4号: 次世代産業としての航空機産業一橋ビジネスレビュー 2018年SPR.65巻4号: 次世代産業としての航空機産業
一橋大学イノベーション研究センター

東洋経済新報社 2018-03-19

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 本号のケーススタディから1本記事を書いてみたいと思う。本号ではエア・ウォーター株式会社が取り上げられていた。同社は産業ガスを主力としてきた企業である。産業ガスとは、鉄鋼や化学、医療などの目的に使用されるガスで、例えば工場の製造工程などに用いられてきた。しかし、国内の大規模工場建設が少なくなってから、産業ガスのビジネスも大きな成長が見込めなくなっている。同社は次の成長の源泉をM&Aに見出した。

 ケミカル関連事業では大型のM&Aを行った。当初は本業の産業ガスと関連性の高い無機化学に注力していたものの、2001年以降はタール蒸留製品や医薬中間体など有機化学へとシフトしていった。一方で、医療関連事業、エネルギー関連事業、農業・食品関連事業、その他の事業では比較的小型のM&Aを多数実施した。これらのM&A活動によって、同社は産業ガス中心の企業から、非常に多角化された企業へと変貌した。

 エア・ウォーターグループの特徴は次のように集約される。
 子会社間のネットワークを創出し、そのネットワークを活用して子会社間が自律的に成長していく仕組みを作り出した。すなわち、エア・ウォーターによるM&A活動の核心部分は、本社と子会社のマネジメントではなく、子会社間のマネジメントである。
 この「子会社間のマネジメント」とは具体的に何か?(MBAの講義ではこういう点を徹底的に議論するのだろう)。個人的には、次の5つを指すと考える。

 第1に、これが何よりも重要なのだが、グループ全体の経営理念(Vision)、行動規範(Values)をベースとして、それぞれの子会社が独自の経営理念や行動規範を策定することである。しかも、各子会社が各々の社内に閉じてそれらを議論するのではなく、各子会社の経営陣などキーパーソンが集まって、喧々諤々と議論しながら、自社の経営理念や行動規範を定めていく。独自の経営理念や行動規範は、その企業の強みの源泉となる。

 また、経営理念や行動規範の多様性は、エア・ウォーターグループ全体の競争力向上にもつながる。なぜなら、異質な子会社同士の協働によって、新しい価値が創造される余地が生まれるからだ。ただし、全くの異質では子会社の間でコミュニケーションが成立しない。グループ全体の経営理念や行動規範をコミュニケーションの共通基盤としなければならない。そこに、その子会社ならではのオリジナリティを加えていくことで異質を形成する。これは、近年の流行であるダイバーシティ・マネジメントを子会社間のレベルで行うことを意味する。

 私が新卒入社した企業は、アビームコンサルティング株式会社の子会社であった。私が就職活動をしていた時には、住商情報システム株式会社との合弁会社で、株式会社SCSアビームテクノロジーという名前であった。同社は、親会社の顧客以外にERPパッケージを独自販売していくと意気込んでおり、その方針に共感して私は入社を決めた。ところが、いざ入社する直前になって、アビームコンサルティングの100%子会社になることが決まり、社名も株式会社アビームシステムエンジニアリング(ASE)となった。入社してみると、やっている業務は親会社と全く一緒であった。私は親会社の社員を名乗って、顧客企業の開発現場に入り込み、親会社の社員と同じようにプログラミングをしていた。

 「これでは何のためにASEがあるのか解らない」という現場からの突き上げもあって、経営陣は慌てて経営理念を策定した。それは「親会社であるアビームコンサルティングのために、品質の高い情報システムを構築する」というものであった。私はこの経営理念の魅力のなさに失望して、ASEを1年ちょっとで退職してしまった。その後も、アビームコンサルティングとASEの業務の重複問題は解決されず、私が退職してから数年後に、ASEはアビームコンサルティングに吸収合併された。子会社を持つということは、そのレゾンデートル(存在意義)をよく突き詰めなければならないことを教えてくれた1件であった。

 話を元に戻そう。子会社間のマネジメントの第2は、共通顧客に対するトータルソリューションの提供である。子会社の数が増えてくると、同じ顧客に対して別々の子会社がバラバラにアプローチすることが往々にして起きる。営業を受ける顧客にとっては迷惑な話である。そこで、それぞれの子会社の顧客情報を共有し、ある子会社が抱えている案件に対して、さらに付加価値をもたらす製品・サービスを持っている子会社は、共同で顧客にアプローチする。子会社がバラバラに製品・サービスを顧客に導入するよりも、最初からトータルソリューションとして設計することで、単なる総和以上の価値を顧客に提供することが可能となる。

 第3は、適材適所や人材育成を目的とした子会社間での人事異動の実施である。例えば、医療関連事業の子会社にいるある社員が、エネルギー関連事業の子会社の仕事に向いている(あるいは本人がエネルギー関連事業の仕事を希望している)場合には、企業の枠を超えて人事異動を行う。また、ケミカル関連事業にいるある社員を将来的に経営幹部にするために、農業・食品関連事業でマネジメントの経験を積ませる、ということもあるだろう。こうした人事異動を実施するためには、子会社全体の社員の能力と能力開発計画、予定されているキャリアパスに関する情報をデータベースで一元管理する必要がある。

 第4は、ケイパビリティの補完である。第1でそれぞれの子会社の強みは明らかにしたが、当然のことながら各子会社には弱みもある。それを他の子会社の強みで補うのが目的である。各子会社の強みが多様であればあるほど、相互協力の可能性は広がる。例えば、共同マーケティングの実施、製造ラインの共有、調達の一元化、在庫管理システムの統合、物流網の相互利用などが挙げられる。これらの協業を可能にするには、常日頃から子会社の経営陣がハイレベルのコミュニケーションを取り、お互いの事業を深く理解しておくことが必要となる。

 第5は、各子会社の業績を相互にオープンにする仕組みの構築である。第一の目的は、子会社間の競争を刺激することである。ただし、これまで述べてきたように、エア・ウォーターグループの子会社は相互に協力する場面が多い。そこで、この業績管理システムは、他の子会社から受けた支援や、他の子会社に対する支援の度合いを可視化できるように設計する。そうすることで、子会社間の協業を促進するという第二の目的を達成することができる。

 エア・ウォーターでは子会社間のマネジメントが自律的に行われているとあるが、以上の5つはどれをとっても非常に大がかりである。よって、子会社の中に幹事会社が存在すると想定される。おそらく、子会社の中でも規模の大きいケミカル関連事業の子会社のうち1社ないしは複数社が中心となって、子会社間のマネジメントを推進していると思われる。子会社間のマネジメントが成熟してくれば、幹事会社の役割を他の事業の子会社に引き継ぐことも考えらえる。

『新しい産業革命―デジタルが破壊する経営論理(『一橋ビジネスレビュー』2016年AUT.第64巻2号)』


一橋ビジネスレビュー 2016 Autumn(64巻2号) [雑誌]一橋ビジネスレビュー 2016 Autumn(64巻2号) [雑誌]
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東洋経済新報社 2016-09-09

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 そのために最も大切なことは、市場を選ぶことである。(中略)小さな市場でも、確実に利益が出るところにターゲットを絞り込む必要があるのだ。(中略)もちろん、波及効果が高いに越したことはない。たとえて言えば、ボウリングのセンターピンに該当する市場をねらうようなものだ。
(井上達彦「ビジネスモデルを創造する発想法 〔第1回〕ビジネスモデルとは何か」)
 ブログ本館の記事「三枝匡『戦略プロフェッショナル―シェア逆転の企業変革ドラマ』―欧米流経営に対する3つのアンチテーゼ」でも書いたように、私は「戦略をシンプルにする」とか、「選択と集中をする」といった考え方がどうも好きになれない。戦略をシンプルにするのは、コンサルタントがクライアント企業を理解しやすくするためという、コンサルティング会社の都合が働いているような気がしてならない。また、「選択と集中」を行うのは、投資銀行が事業の売却やM&Aで儲けるためである。つまり、いずれのキーワードも企業のためではない。

 私は、特に日本企業の場合は、選択と集中とは全く反対に、事業を多角化すべきだと考えている。日本は多神教文化の国である。それぞれの人には異なる神が宿る。企業にも同じように神が宿る。ところが、欧米の唯一絶対神とは異なり、日本の神はどこか人間らしいところがあり、不完全である。その神の姿を知ろうとする時、欧米人が教会で祈りを捧げ、神と直接触れようとするのに対し、日本人の場合は、いくら自分の中にいる神と対話しても、神の全貌を明らかにすることができない。なぜならば、その神はどこまでも不完全でおぼろげだからだ。

 その場合、学習の手がかりとなるのが、他者の存在である。他者は自分とは違う神を宿している。自分と他者の違いに気づくと、自分が何者であるかが解ることがある。それはちょうど、日本国内にいるだけでは日本文化を知ることができないが、海外に旅行して外国の文化に触れると、日本文化が何となく認識できるようになるのと同じである。ただし、他者の神も所詮は不完全でおぼろげであるから、自分に宿る神を完全に知ることはできない。それでも日本人は、学習を進めるために様々な他者と交流・対話を行う。これを一生続けることが「道」である。

 企業戦略を策定する場合には、自社の強みを活かすことが重要である。その強みを知るためには、社内にこもって一生懸命内部環境分析をしても全く足りない。むしろ社外に積極的に飛び出し、自社とは異なる神を宿しているであろう多様な顧客と交わる必要がある。必然的に、事業は多角化される。多角化によって、日本企業は自社の強みをおぼろげながら自覚できるようになる。

 とはいえ、最初から何でもかんでも手を出せばよいというわけではない。ブログ本館の記事「「起業セミナー」に参加された方にアドバイスした3つのこと」でも書いたが、最初に対外的にアピールする自社の事業や強みは、絞り込まれていた方がよい。逆説的だが、最初の焦点が絞り込まれているほど、それとは別の仕事が舞い込んでくる。私の知り合いの診断士は、「飲食店に強い」ことを売りにしている。だが、実際には飲食店関連の仕事は一部であり、飲食店以外の顧客の方が多い。さらに最近は、自らおもちゃの企画開発まで行っているという。

 引用文にある「ボウリングのセンターピンを狙う」という表現は、看板に掲げる製品・サービスや自社の強みは絞り込まれているものの、実際には多様な仕事を行うことで自社の組織能力を深化させることを的確に表現していると思う。

『負けない知財戦略(『一橋ビジネスレビュー』2016年SPR.63巻4号)』


一橋ビジネスレビュー 2016年 SPR. 63巻4号―負けない知財戦略一橋ビジネスレビュー 2016年 SPR. 63巻4号―負けない知財戦略
一橋大学イノベーション研究センター

東洋経済新報社 2016-03-11

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 (1)荻野誠「日本型プロパテント戦略とJapanese Electronics Paradox」は、アメリカがマーケットリーディング型知財戦略で新しい市場を創出してきたのに、日本は高度経済成長期の成功体験にしがみついて、キャッチアップ型知財戦略ばかり行ってきたのが「失われた20年」の要因である、と分析している。

製品・サービスの4分類(修正)

 またまたこの図(※くどいようだが未完成)を使うことを許していただきたい。アメリカがマーケットリーディング型知財戦略に取り組んだのは左上の象限である。「日本もアメリカのようにこの象限に挑戦すべきだ」とよく言われるが、残念ながら日本は力不足だと私は思っている(というより、世界中を見渡しても、左上の象限のイノベーションを起こせるのはアメリカぐらいである。ここ30年のイノベーションのうち、アメリカ以外で生まれたものをどれだけ挙げられるだろうか?)。

 別の人は、「いやいや、日本企業も左上の象限に挑戦している。iPhoneには日本企業の部品がたくさん採用されているではないか?」と言う。だが、これが一番危険な発想である。アメリカは世界中にイノベーションを安く普及させるため、基本的には新興国の企業とタッグを組む。しかし、その関係は決して対等ではなく、アメリカ企業が新興国企業を使い倒す関係である。アップルは、日本企業を新興国企業と同程度に扱っていることを自覚しなければならない。そして、用が済んだら、日本企業はアップルにポイ捨てされるだろう。

 結局、日本企業は強みであるキャッチアップ型の戦略を捨てられない。日本企業は、左上の象限でアメリカ企業の下請に甘んじるのではなく、アメリカのイノベーション戦略をよく研究して、左上から左下や右下の象限に下りてくる可能性の高い製品・サービスを見極めることが必要だ(どんなイノベーションも最初は必需品ではないが、その中のいくつかは将来的に必需品となる)。左下の象限は低コストを武器とする新興国に任せ、高い品質管理が要求される右下の象限に日本企業は注力する。この象限なら、アメリカと互角かそれ以上に戦える。

 (2)ブログ本館や以前の記事「『FinTech(フィンテック)の正体/福島事故から5年 蠢く原発再編(『週刊ダイヤモンド』2016年3月12日号)』」などで、アメリカ企業は競合他社とあまり協力せず、競合他社を攻撃することに夢中になるのに対し、日本企業は業界団体を通じて競合他社とも積極的に交流し、時に競合他社と共同で製品・技術開発をする、と書いてきた。ただ、これはどうも一面的な見方であるような疑念が自分の中でどうしても拭いきれていない。

 アメリカでは日本ほど業界団体が協力ではないが、業界の会合は頻繁に開かれている。また、本号の原泰史、長岡貞男、高田直樹、河部秀男、大杉義征「特許を媒介とした知識・資源の組み合わせ」によれば、製薬会社同士が知的財産を上手く融通し合うことで新薬の開発を行っていることが報告されている。

 逆に日本に目を向けると、「競合他社憎し」の行動も少なくない。ある地域に飲食店を出したら、入り口の前に汚物が置かれていた、という話を聞いたことがある。また、先日、商店街支援をしている方から聞いたのだが、商店街の店主同士は仲が悪いことがある(理由を聞くと「小学校でいじめられたから嫌い」らしい)。商店街の足並みが揃わないので、その商店街のアーケードは、アーケードの設置に反対する店を回避するように構築されているという。

 日本の場合、競合他社に対するねちっこい憎悪よりも深刻なのが、異業種から参入してきた企業に対する嫌がらせであろう。水平的な協業を強調する私としては、異業種からの参入を学習の契機として、既存の業界が新製品・サービスの開発や経営のイノベーションに乗り出すのが日本の特徴であると言いたいところなのだが、どうも話はそんなに簡単ではない。

 原泰史氏らの論文で面白かったのは、アメリカ企業も市場の黎明期では競合他社と協調するものの、いざ市場が確立されると、急に競合他社を攻撃し始めるという”変節”を見せることである。デルは標準化団体VESAのメンバーとして、インテルのCPUを使ったPCにおけるローカル・パス規格の開発に参加し、規格策定作業中にその規格が同社の所有する知的財産権を侵害していないと宣言した。にもかかわらず、規格普及後にVESAのメンバーを特許侵害で訴えた。

 また、ラムバスはメモリー技術の標準化活動の場であるJEDECに参加していたが、JEDECは出願中の特許を宣言するルールを明文化していなかった。そのため、ラムバスのホールドアップ(規格が普及した後に、その規格中の特許の使用料を特許権者が請求すること)をめぐり、最高裁まで争うこととなった。こういう事案を見ると、競合他社との協力はポーズにすぎず、自社の都合を優先して競合他社を徹底的に叩くのがアメリカ企業の本性であるようにも感じる。

 (3)
 特許で自らの技術を守ってはいるわけですが、一般的にいって残念ながら、技術はまねされるものです。しかしながら、私のなかには、その時点で次のモデルの構想がありますから、常に一歩先を行く自信があります。あるとき、うちの社員がライバル会社に引き抜かれたことがありました。そのことがわかってすぐ、私たちはより高機能なモデルを投入しました。結局、こうした行為は無駄だということですね。
(中村勝重「ひたすら「よく見る」こと―これこそが、無から有を生み出すものづくりの原点」)
 三鷹光器株式会社の代表取締役社長・中村勝重氏のインタビューである。同社はロケットや衛星に搭載される宇宙観測機器、非接触三次元測定装置などの産業機器を製造しおり、またそれらの技術を応用して医療分野にも進出している。

 私のコンサルティング経歴など大したものではないが、ここ数年、様々な経営者とお話をさせていただいた中で気づいたことの1つが、業績の悪い企業ほど過去の特許侵害の被害を引きずっている、ということである。「昔、展示会に出展したら、○○という会社に真似された。あそこの△△というヤツは絶対に許さない」といった話を1時間でも2時間でもする(社長が自分の業務を止めて、時間も気にせずに話を続ける時点で、その社長の仕事ぶりも想像がつくというものだ)。

 逆に、業績が好調な企業は、特許侵害対策をしっかり考えても被害に遭うものの、それを決して引きずらない。引用文の三鷹光器のように、「他社が真似をしたのならば、我が社はもっといい製品を出せばよい」と前向きに考える。

 ただ、三鷹光器には1つ、大きな潜在的リスクが隠れている。それは、次の文章から読み取れる。中村勝重氏は今年で72歳になる。
 衛星やロケット関連で三鷹光器が手がけた18ほどのプロジェクトの、特に難しい可動部分はほとんど私が考えたといっても過言ではありません。それはどこにも負けない実績だと思っています。

『「最後のフロンティア」アフリカ われわれは何を学ぶのか(『一橋ビジネスレビュー』2015年SUM.63巻1号)』


一橋ビジネスレビュー 2015年SUM.63巻1号一橋ビジネスレビュー 2015年SUM.63巻1号
一橋大学イノベーション研究センター

東洋経済新報社 2015-06-12

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 アフリカ特集の論文の他に、株式会社エニグモのケーススタディが収録されていた。エニグモは、「海外在住の個人の出品者から世界中のブランド品をお得に購入できる」というソーシャルショッピングサイト「BUYMA」を運営するベンチャー企業である。上場に至るまでの様々な苦労が記述されていたのだが、まるで私の前職のベンチャー企業(教育研修&組織開発・人材育成コンサルティング会社)のことを読んでいるかのようであった。

 もっとも、エニグモは苦難を乗り越えて2012年に株式公開に至ったのに対し、私の前職の会社は今はどうなっているかも解らないので、雲泥の差であるが・・・。

 (1)創業当初、BUYMAのシステムを構築するにあたって、値段が最も安く、上場企業であるという理由で、大手の某IT企業に決まった。ところが、システムの完成が遅れに遅れた上、そのIT企業の下請会社が夜逃げしたという理由で、システムを完成させることができなくなった。

 ⇒コア業務を安易に外注してはならない。BUYMAは、ユーザーとバイヤーをマッチングするITシステムがサービスのカギであるから、やはりITシステムは内製するべきだった。なお、現在のエニグモには、システム担当者が配置されている。

 私の前職の企業でも、携帯電話を使って研修後の現場学習をフォローするシステムを構築しようとした時があった。だが、社内には開発スキルを持った人などいないので、外注先に丸投げしていた。案の定、システムは使い物にならなった。一応、納品はしてもらったものの、その後外注先の下請企業が倒産したという理由で、システムの保守・改修をできる人が誰もいなくなってしまった。

 (2)BUYMAの事業はなかなか軌道に乗らなかった。そこで、収益源を確保するために、「プレスブログ」(企業が発表した製品やイベントの情報などを消費者がブログで紹介し、一定の条件を満たしていれば報酬を支払うサービス)を立ち上げた。BUYMAの位置づけが不明確になりそうだったが、社内で議論した結果、BUYMAを「ゆっくり育てて大きく刈る」事業という位置づけにし、育てている間、新しい収益源を開発することに決まった。

 ⇒前職の会社では、大きく分けて「自己啓発系(キャリア開発、リーダー育成など)」と、「ビジネススキル系(営業など)」という2種類の研修サービスがあった。社長としては前者を前面に打ち出したかったようだが、残念ながら全く売れていなかった。売れているのは後者ばかりで(私が扱っていたのも後者であった)、後者の利益を全部突っ込んでも足りないぐらい、前者は大幅な赤字を計上していた。

 こういう状況にもかかわらず、社長は前者を「我が社の主力サービス」と公言し(儲けが出ていないサービスを「主力」と呼べるのだろうか?)、後者は必要悪であるかのような扱いをした。サービス全体像の中で後者のサービスをどのように位置づけるのか?前者のサービスはいつまでに黒字化させるのか?そのための資金をカバーするために、後者のサービスはいくら売り上げる必要があるのか?こういった点をもっとはっきりさせるべきだったと思う。

 (3)エニグモは当初から上場を目指していたので、上場準備の経験がある人材をCFOとして招聘していた。しかし、BUYMAが大幅な赤字を計上し続けた影響で、上場を一旦断念した。この方針転換により、CFOは退職した。CEOの須田将啓氏は、「上場が明確になってからスペシャリストに頼った方がよい。そうしないと社長はファイナンスの知識も増えないし、依存したままになってしまう。もちろん、せっかくのスペシャリストの能力が十分に活かされない」と語っている。

 ⇒前職の会社も上場を目指していた。エニグモのように、様々なWebサービスを提供しており、そのための投資が必要な企業であれば上場する意義もあるだろう。ところが、前職の企業は労働集約型であり、人件費以外に特に大きな投資を必要としなかった。そもそも上場する目的が不明確であったのに、「上場する」という目標だけが独り歩きしており、上場準備のための人材まで採用していた。だが、深刻な業績不振になって上場を断念すると、程なくその人は会社を去った。

 仮に、前職の会社が上場に値する事業を行っていたとして、首尾よく上場できただろうかと考えてみると、実は無理だったのではないかと思う。須田氏のコメントから察するに、上場時には経営陣がファイナンスの知識を相当勉強しなければならない。ところが、前職の社長は、自分で勉強するという姿勢がなかった。

 社長は何か新しいことを思いつくと、その分野に詳しそうな人を外部から引っ張ってきて、その人に任せきりにしていた。そして、進捗が芳しくないと、「なぜできないんだ」と叱責するばかりであった。そういうマネジメントスタイルもあるのかもしれないが、社長もその分野のことを勉強して、担当者と一緒に議論したり、担当者を側面支援したりすれば、もっと違う結果が得られたのではないかと感じる。
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プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京から実家のある岐阜市にUターンした中小企業診断士(コンサルタント・トレーナー)。双極性障害Ⅱ型を公表しながら仕事をしているのは、「双極性障害(精神障害)の人=仕事ができない、そのくせ扱いが難しい」という世間の印象を覆したいため。

 中長期的な研究分野は、
 ①日本の精神、歴史、伝統、文化に根差した戦略論を構築すること。
 ②高齢社会における新しいマネジメント(特に人材マネジメント)のあり方を確立すること。
 ③20世紀の日本企業の経営に大きな影響を与えたピーター・ドラッカーの著書を、21世紀という新しい時代の文脈の中で再解釈すること。
 ④日本人の精神の養分となっている中国古典を読み解き、21世紀の日本人が生きるための指針を導くこと。
 ⑤激動の多元的な国際社会の中で、日本のあるべき政治的ポジショニングを模索すること。

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、2,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

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