こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント)のブログ別館。1,000字程度の読書記録などの集まり。

中国

高原彦二郎、陳軼凡『実務総合解説 中国進出企業の労務リスクマネジメント』―アジアにおけるストライキの解決の方法


実務総合解説 中国進出企業の労務リスクマネジメント実務総合解説 中国進出企業の労務リスクマネジメント
高原 彦二郎 陳 軼凡

日本経済新聞出版社 2011-05-14

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 日本にいるとストライキを経験することはまずないが、海外で事業展開する上では、ストライキが1つの重要な労務リスクとなる。ASEANに目を向けると、フィリピン(ストライキの件数=8(2010)⇒2(2011)⇒2(2012)⇒1(2013))、タイ(同=8(2010)⇒2(2011)⇒2(2012)⇒1(2013))は比較的件数が少ないのに対し、インドネシア(同=192(2010)⇒196(2011)⇒51(2012)⇒239(2013))やベトナム(同=423(2010)⇒981(2011)⇒468(2012)⇒327(2013))では件数が非常に多くなっている。また、正確な数値情報が入手できていないのだが、カンボジアやミャンマーでも労働争議が増えているとの情報も耳にする。

 もっとも、ASEANにおけるストライキの対象となっているのは中国・台湾・韓国系の企業であり、日系企業がターゲットとなることは少ない。日本企業は社員を大切にする経営を昔から実践している一方で、中国・台湾・韓国系の企業は、社員を物のように扱って使い捨てにする傾向があるため、ストライキが発生する。ただ、だからと言って、日本企業が絶対にストライキの対象にならないとは言いきれず、ストライキへの対処方法を知っておくことは有用であろう。本書は中国における事例を扱っているが、対処方法はアジア全般で共通であると考える。

 ストライキが発生する直接的な原因は様々である。代表的なものは、企業から不当に解雇された、解雇補償金が安すぎる、というものである。また、上司からの評価が不当に低い、人事考課の結果が不服であるというのもストライキにつながりやすい。それ以外には、使用期間後に採用してもらえなかった、派遣社員の首を切られた(国によっては、派遣社員が派遣先企業の労働組合に加入する)、就業規則は企業側が一方的に決めたものであり、内容に納得できない(例えば、競業禁止や秘密保持の規定が厳しすぎる)、といったケースがある。

 本書では、ストライキを解決する糸口をコミュニケーションに求めている。まず、ストライキが長期化する要因であるが、著者は「インナーコミュニケーション」と「アウターコミュニケーション」の2つに分けて解説している。

 インナーコミュニケーションの1つ目としては、労働組合とのコミュニケーション不足が挙げられる。これが十分でないと、社員の仕事や職場環境、待遇などに関するニーズを把握することができず、ストライキが長期化する。インナーコミュニケーションの2つ目としては、社内の適切な情報ルートが確立されていないことが指摘できる。ストライキには必ず影の首謀者がおり、彼らが労働組合や社員を扇動しているものである。影の首謀者を特定するための社内の情報ルートを確保しておかないと、彼らの真の動機がつかめず、ストライキ解決が難航する。

 アウターコミュニケーションの1つ目としては、労働組合の上部組織とのコミュニケーションが挙げられる。例えば、インドネシアにはKSPI(インドネシア労働組合総連合)という上位組織があり、ストライキが生じた場合には彼らの協力を仰がないと、ストライキを鎮静化することができない。アウターコミュニケーションの2つ目としては、地元政府や行政とのコミュニケーションを指摘することができる。地元政府や行政とのコミュニケーションが不足していると、ストライキ解決にあたって彼らから必要な協力を引き出すことができない。

 以上は、ストライキが長期化する要因であるが、できることならばストライキを未然に防ぎたいものである。ここでも著者は、インナーコミュニケーションとアウターコミュニケーションの重要性を強調している。

 インナーコミュニケーションとしては、労働組合が茶話会や食事会などを実施して社員のニーズや苦情を吸い上げ、経営陣と共有する仕組みを作り上げることが大切である。相談窓口という箱を作るよりも、お茶や食事をしながらの方が、社員も自分の意見を言いやすい。そして、経営陣は社員の声を聞いた以上は、それに対して何らかのアクションを起こす。すると、社員は「労働組合に話を持っていけば、経営陣が聞く耳を持ってくれる」と思ってくれるようになる。こうした空気を醸成した後に、経営陣が社員と直接対話する場を設けるとなお有効である。

 時折、社員のニーズや苦情を吸い上げるために「目安箱」のようなものを設置するケースがあるが、これはあまりお勧めできない。というのも、目安箱を設置すると、「我が社は『目安箱』を置かないと重要な情報が上層部に伝達されない組織である」という誤ったメッセージを社員に送ってしまうからだ。また、目安箱に入れられる意見の大半は罵詈雑言、読むに堪えない悪口であり、精神衛生上もよくない。さらに、匿名で意見を投票したはずなのに、「あの意見を書いたのは一体誰なのか?」と犯人探しが始まり、かえって職場の雰囲気が悪化する。

 アウターコミュニケーションで重要なのは、第一に地域政府や行政と日常的に良好な関係を構築しておくことである。特に行政に関しては、日頃から様々な監督・監査を受ける。こうした監査などに対して、企業として真摯に協力しておくと、いざストライキが起きた時に行政からの協力が得られやすい。第二に、自社が「企業市民」であるというメッセージを発信することである。言い換えれば、「我が社の利益は地域の利益と一致している」ことを強調する。そのメッセージを具体化したアクションとして、地域のボランティア活動に企業として参加する、地元の学校に寄付をする、などといった行動をとることが有効である。

島森俊央、吉岡利之『アジアへ進出する中堅・中小企業の”失敗しない”人材活用術』―中国・タイ・ベトナムの人材活用のポイントまとめ


アジアへ進出する中堅・中小企業の“失敗しない”人材活用術: 発展ステージの異なるベトナム・タイ・中国の事例からアジアへ進出する中堅・中小企業の“失敗しない”人材活用術: 発展ステージの異なるベトナム・タイ・中国の事例から
島森 俊央 吉岡 利之

日本生産性本部生産性労働情報センター 2014-12-08

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 中国・タイ・ベトナムにおける人材活用について、個人的に参考になったポイントをメモ書きとしてまとめておく。

 <3か国共通>
 ・日本企業は、専門スタッフやマネジメント層の給与が、成果主義を導入している欧米系の企業に比べると低いと言われる。ただ、日本本社が年功的な職能資格制度なのに、海外法人には成果主義を適用するのは現実的ではない。欧米系企業も、成果が低ければ日系企業より給与が低くなることを社員に理解してもらいつつ、日本企業の強みである、①安定、安心、②社員を大切にする、③教育がしっかりしている、という3つの点を強調したマネジメントを行うとよい。
 ・福利厚生を充実させると効果的である。特に、社員が行ったことのない土地への旅行は喜ばれる(ワーカークラスは、自分が住んでいる土地以外に行ったことがないことがほとんどである)。
 ・日本企業は”人”に対して給与を払うが、中国、タイ、ベトナムの企業は”職務”に対して給与を払う。社員も、自分の職務を極めたいという思いが強い。そのため、ジョブローテーションは専門性を高めてキャリアアップを図る上での阻害要因と見なされ、敬遠される傾向がある。
 ・日本以上に学歴社会であり、中卒・高卒が中心のワーカーと、大卒が中心の専門スタッフやマネジメント層の間には大きな隔たりがある。
 ・日本以上に肩書きへのこだわりが強い。
 ・ワーカーにはMBO(目標管理制度)を理解してもらうことが難しいため、チェックリスト方式の行動評価を行うとよい。その際、罰則評価も入れる。
 ・採用にあたっては次の点に注意が必要である。代理面接が横行している。家族同伴で面接に来る(そして、家族が質問に答える)。履歴書に虚偽の記載がある。犯罪歴を隠して応募してくる。人事マネジャーに賄賂を贈る。

 <中国>
 ・春節で親戚が集まった時に、会社の給料やポストの話をする。社員が親戚に自分のことを自慢できるよう、春節前に昇格や昇給を行う。
 ・同一労働・同一賃金が原則であり、成果に見合った報酬を求めてくる。
 ・自分がNo.1だと思っている社員が多いため、なぜその評価になったのか、具体的な証拠や事例を使って説得する。
 ・毎年、地方政府から「昇給ガイドライン(指導線)」が出されるため、ガイドラインからかけ離れた昇給を行うと社員から反発を受ける。 
 ・労働組合の設立は半強制的である。

 <タイ>
 ・タイには「3S」という言葉がある。サバーイ(快適)、サヌック(楽しく)、サドゥアック(便利)の頭文字である。楽しい、居心地がよいことを重視する傾向がある。
 ・元々暑い国であるにもかかわらず、「高温手当」を要求してくる。
 ・評価基準は社員に対して明確に提示するが、評価結果は曖昧にする(社員間で差をつけるのはほどほどにする)。
 ・採用の最終決定前に健康診断を実施する。麻薬をやっている可能性がないか調べるためである(ちなみに、日本では採用前に健康診断を実施することは禁じられている。採用後には健康診断を実施する義務が生じる)。
 ・タイでは労働組合の設立は半強制的ではないが、外部の人が介入したり、紛争目的の労働組合が作られたりしないように注意が必要である。
 ・タイでは1932年に立憲君主制に以降して以来、20回以上の軍事クーデターが起きており、タイ人はクーデターに慣れっこである。これが「タイ式民主主義」であると言う人さえいる。

 <ベトナム>
 ・中国、タイに比べて食事を重視する。社員食堂を充実させると喜ばれる。
 ・タイと同様、「高温手当」を要求してくる。
 ・タイと同様、評価基準は明確に提示するが、評価結果は曖昧にする。
 ・中国と同様、労働組合の設立は半強制的である。

岩井紀子、上田光明『データで見る東アジアの文化と価値観―東アジア社会調査による日韓中台の比較〈2〉』―中国の特異な傾向


データで見る東アジアの文化と価値観―東アジア社会調査による日韓中台の比較〈2〉データで見る東アジアの文化と価値観―東アジア社会調査による日韓中台の比較〈2〉
岩井 紀子

ナカニシヤ出版 2012-02

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 日本・中国・韓国・台湾の価値観の違いを調査した報告書である。本書からは、中国の特異な傾向が見て取れる。まず、中国はグローバル化には賛成である。自国の経済にとっても、自国の雇用にとってもプラスの影響があると見ている。ただし、グローバル化によって自国に外国製品が入ってくることには否定的であり、外国製品に規制をかけるべきだと考える。

 グローバル化によって、外国の労働者が増えることに対して、中国は他の3か国・地域に比べれば肯定的である。ところが、いざ実際に外国人が自分の職場に入ってくるとなると、途端に否定的になる。中国人は、日本人、韓国人、台湾人の同僚に対して強い拒絶感を示している。特に、日本人の同僚に対する拒絶感は非常に強い。これは歴史問題をめぐる両国の対立からも致し方ないだろう。中国人は、日台韓の同僚を拒絶しているのかと思いきや、東アジア、ヨーロッパ、北アメリカの同僚に対しても強い拒絶感を示す。つまり、中国人は中国以外のどの国の同僚であっても嫌なのである。ここに、中国の矛盾を見て取ることができる。

 中国は、他の国々と対立しても国益を追求すべきと考える傾向が強い(この点に関しては、実は台湾も同じくらい強い)。このことは、近年の南シナ海などにおける中国の行動と合致する。中国はあくまでも自国中心主義の国である。その証拠に、東アジアに対する愛着は、日台韓に比べるとはるかに低い。

 先行研究によると、中国人は多数派規範に従う国民性であり、家父長制が根強く残っているとされる。この点は本書でも確認することができた。すなわち、中国人は自分の意見が周りと違っていても集団の意見を優先する傾向があり、上司やリーダーの意見には従うべきだと考えている。

 これらのことを総合すると、次のように言えるのではないだろうか?まず、グローバル化が進み、中国も経済大国になったが、中国が東アジアの盟主になろうという意識は希薄である。中国が目指すのは、世界の中心としての中国である。この世界では、中国で生産された製品・サービスが世界中に大量に輸出される。中国人だけでは生産が追いつかないので、外国から労働者を受け入れる。しかし、決して自社の同僚にはしない。中国企業の子会社に外国人を集めて、彼らを徹底的にこき使う。酷使されるのは、新興国から出稼ぎに来ている人に限らず、日台韓や欧米などの先進国の人であっても同じである。

 一方、中国企業の内部では、伝統的な多数派規範や家父長制が今も残る。中国企業は階層型の組織形態を採用する。そして、中国人社員は、トップが決めたこと、組織の多数派が決めたことに対しては、自分の意見を押し殺して従う。上からの命令には絶対に逆らわない。この家父長制の特徴が、子会社管理にも反映される。親会社の中で上からの命令に忠実に従う中国人は、今度は子会社の外国人を自分の命令に絶対に従わせようとする。親会社の中で自分の意見を押し殺している度合いが強いほど、反動的に子会社に対する命令の暴力性は増す。

 現在、多くの中国人が中東やアフリカに進出して、現地のインフラ整備事業などに従事している。ところが、日本や欧米のやり方と違って、中国は現地に企業を作っても現地人を採用せず、本国から中国人を送り込んでしまうため、現地の雇用が生まれないと批判されている。この話は、ある意味中国人の世界で完結している話であるから、まだかわいい方なのかもしれない。今後、中国企業が世界中の企業を”爆買い”し、特に先進国の企業を子会社化した場合、中国人の意識やマネジメントのやり方が軋轢を生むリスクは大きいと思う。

中津孝司『岐路に立つ中国とロシア』―中国とロシアは蜜月関係なのか対立関係なのか?


岐路に立つ中国とロシア岐路に立つ中国とロシア
中津 孝司

創成社 2016-01-20

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 ブログ本館の記事「マイケル・ピルズベリー『China 2049』―アメリカはわざと敵を作る天才かもしれない」で下のような図を用いた。

4大国の特徴

 ブログ本館でも何度か書いたが、大国は二項対立的な発想をする。大国は常に、自国と対立する他の大国を配置することで、自国のアイデンティティを確認する。数十年前までは、世界における大国の対立は、アメリカ対旧ソ連という単純な構図であった。米ソの対立は、資本主義と共産主義の対立である。あるいは、自由主義と専制主義の対立と言ってもよい。そして、アメリカのバックにはドイツが、旧ソ連のバックには中国がいた。

 ところが、近年はこの対立構造が複雑になりつつある。まず、アメリカが中国に接近した。台湾を裏切って中国との国交を回復し、中国との経済的なつながりを急速に深めていった。一方のロシアは、ドイツとの関係を強めつつある。こうして、アメリカ・中国というグループと、ロシア・ドイツというグループができた。

 アメリカと中国の共通点、ロシアとドイツの共通点はそれぞれ、国家主義と超国家主義という言葉で言い表されるのではないかと考える。国家主義とは自国の主権を前面に打ち出す立場のことである。これに対して超国家主義とは、複数の国家を束ねてパワーを発揮するスタンスを指す。つまり、国家主権を超える存在を作り出し、そこで主導権を握る。ドイツは今やEUの盟主であるし、ロシアはEUに倣ってユーラシア経済連合(EEU)を創設している。

 アメリカと中国、ロシアとドイツが接近したことで、従来のアメリカとドイツ、ロシアと中国の関係に微妙な変化が生じている。アメリカとドイツは対立することが増えた。VWの不正問題をアメリカが10年以上も前に認識しておきながら放置したのは、問題ができるだけ大きくなった段階でVWを告発することで、VWの賠償金を巨額なものにし、ドイツの代表企業であるVWを叩きのめして、ひいてはドイツ経済に致命的なダメージを与えるためだったのではないかと私は思っている。

 中ロの関係も一枚岩ではない。中国は元々、スターリン批判をするなど、ロシアに完全にべったりであるとは言いがたい。近年も、中ロの対立局面が目立つと指摘する論者がいる。だから、現在の4大国の関係を図にすると、上図のように複雑なものになってしまう。ただ一方で、中ロは依然として蜜月関係にあると主張する識者もいて、私を混乱させている。実際のところ両国の関係はどうなのかと思って本書を読んだのだが、結局解らずじまいであった。

 <中ロの関係が深いと思わせる出来事>
 ・中ロは協調して欧米社会に対抗するための受け皿として、上海協力機構(SCO)を活用し、アメリカ一極集中を牽制してきた(ただし、インドが加盟申請したことで、SCOの性質が変わる可能性がある)。

 ・ロシアは東シベリア・バイカル湖北方に眠るチャヤンダ天然ガス田とコビクタ天然ガス田を開発し、パイプラインと連結する。パイプラインは天然ガス田からブラゴベシチェンスクに延び、中国へと向かう。総工費550億ドルに及ぶこのパイプラインが2019年に完成すれば、30年間に渡って年間約380億立方メートルの天然ガスが1,000立方メートルあたり350ドルでロシアから中国に輸出される。総額4,000億ドルに上る中ロ間の天然ガス貿易となる。

 ・中国経済の一層の発展にとって、ロシア極東の化石燃料は、エネルギー安全保障の観点からも必要不可欠である。ロシアには天然資源を開発する資本と労働力が不足しているが、中国にはそれがある。

 <中ロが対立していると思わせる出来事>
 ・ロシアはターキッシュ・ストリーム構想を打ち出し、トルコ経由でヨーロッパに天然ガスを供給する計画を持っている。具体的には、バルカン半島諸国に天然ガスを供給する。ロシアによるバルカン半島の囲い込みは、中国の利害と対立する。なぜなら、バルカン諸国は中国が提唱するシルクロード計画の西端に位置するからだ。中国は意図的にバルカン半島諸国との関係強化に動いている。

 ・北朝鮮の中国離れに乗じて、ロシアは朝鮮半島でのプレゼンス強化に乗り出している。2015年2月25日、モスクワで初のロ朝ビジネス評議会が開催された。ここで、北朝鮮北東部の経済特区・羅先に向けて電力を供給する事業構想が打ち出された。羅先は日本海に面する戦略的要衝地であり、不凍港も有する。ロシアは将来的に北朝鮮と軍事的関係を強化して、羅先への進出を狙っている。一方で、中国も羅先に狙いを定めている。

 ・中国系企業はロシアの天然資源にしか興味がないようだ。不動産の取得にも熱を上げるが、ロシアの製造分野には投資しない。確かに、中国の対ロ投資額は2014年1~8月期に前年同期比1.7倍に増えているものの、ロシアに移住する中国人が増えるだけで、中国の対ロ投資はロシア人の雇用促進に貢献していない。ゆえに、中国企業は現地で歓迎されていない。

真壁昭夫『VW不正と中国・ドイツ経済同盟―世界経済の支配者か、破壊者か』


VW不正と中国・ドイツ経済同盟: ~世界経済の支配者か、破壊者か~VW不正と中国・ドイツ経済同盟: ~世界経済の支配者か、破壊者か~
真壁 昭夫

小学館 2016-02-18

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 本書は「中国とドイツの経済同盟が成立すると思いますか」という問いで始まっている。フォルクスワーゲン(VW)の不正問題で揺れるドイツだが、ドイツと中国の経済的な結びつきは年々強くなっており、相互に補完関係を築きながら21世紀の世界経済を牛耳るだろう、というのが著者の予想である。

 だが、経済的な結びつきに着目するならば、ドイツよりアメリカの方がずっと中国と密接である。中途半端な時期の統計になってしまうが(※その理由は後述)、2015年1月~7月の中国の貿易を見ると、アメリカへの輸出が2,280.3億ドル(全体=1兆2,648.2億ドルの18.0%)、アメリカからの輸入が859.8億ドル(全体=9,596.2億ドルの9.0%)でいずれもトップである。一方、ドイツへの輸出は392.8億ドル(3.1%)、ドイツからの輸入は518.2億ドル(5.4%)である。

中国の相手国別輸出・輸入額(2015年7月)①
中国の相手国別輸出・輸入額(2015年7月)②
中国の相手国別輸出・輸入額(2015年7月)③

 (※Bloomberg「中国の7月対外貿易統計:概要(表)」より。ただし、私が記事を書いている前後でBloombergのHPのリニューアルがあったらしく、現在リンク先のページは見ることができない。中途半端な時期の統計を取り上げたのは、私が最初に見たページがたまたま2015年7月発表の統計だったためである)

 現在の世界の大国は、アメリカ、ドイツ、ロシア、中国の4か国である。ブログ本館の記事で、大国は二項対立的な発想で動くと書いてきたが、どうやら最近は事態が複雑化しているようである。大きな枠組みとしては、自由主義のアメリカ、ドイツと、専制主義のロシア、中国の対立がある。ところが、自由主義陣営、専制主義陣営ともに、内部で対立を抱えている。それと同時に、自由主義の国と専制主義の国が接近するという事態も見られる。

4大国の特徴

 周知の通り、ロシアと中国の対立は共産主義の時代から続いている。フランスの政治学者エマニュエル・トッドによると、アメリカはドイツを非常に恐れているという(『ドイツ帝国」が世界を破滅させる―日本人への警告』)。アメリカは長らく、中東で十分な存在感を発揮できずにいる。その結果、混乱した中東からは多くの移民がヨーロッパに流れ込んだ。ドイツは彼らを積極的に受け入れ、安価な労働力として活用し、自国の製造業の競争力を高めてきた。つまり、アメリカが中東で失点を重ねるほど、ドイツを利する構造になっていた。

「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告 (文春新書)「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告 (文春新書)
エマニュエル・トッド 堀 茂樹

文藝春秋 2015-05-20

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 アメリカが暴いたVWの不正は、実はアメリカの陰謀なのではないか?というのが私の仮説である。アメリカは、既に10年ほど前からVWの不正に関する情報をつかんでいたという。なぜ、その時に事実を明らかにせず、10年間もVWを泳がせていたのだろうか?それは、VWの規模が小さいうちにVWを叩くのではなく、VWが十分に大きくなってから叩くことで、致命傷を負わせようとしたからではないだろうか?VWを経営危機に追い込めば、VWは中国事業を縮小させるかもしれない。ドイツ国民が、VWに公的資金を投入すべきか否か議論をしている間に、アメリカが中国市場をかっさらう計画だったのではないだろうか?

 なお、本書には「経済同盟」というタイトルがついているが、あまり適切ではないと感じる。経済同盟とは、FTAやEPAのことを指しているのだろう。しかし、現時点でドイツもアメリカも、中国とはFTA/EPAを締結していない。ただ、EUが中国とのFTA締結を検討しているため、その点に注目してドイツ・中国の経済同盟が成立すると著者は言いたかったのかもしれない。アメリカが主導したTPPは中国を排除したと言われる。だが、TPPでアメリカが狙ったのは、将来的に中国の貿易を自由主義化させることである。そもそも、前述のように、アメリカと中国はお互いにとって重要な貿易国なのだから、アメリカが中国を捨てられるわけがない。
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プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、1,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
所属組織など
◆個人事務所
 「シャイン経営研究所」◆ シャイン経営研究所ロゴ

(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長、および国際部員を務めています)

NPOビジネスサポート特定非営利活動法人NPOビジネスサポート
(監事を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)

Experian海外企業信用調査 海外企業信用調査(Experian)
(一緒にお仕事をさせていただいている「コンサルビューション株式会社」は、世界最大の信用調査会社Experianの正規代理店です)

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(以下の資格の講師をしています。
 ―ITパスポート
 ―情報セキュリティマネジメント
 ―経営学検定(初級・中級)
 ―中小企業診断士(企業経営理論、経営情報システム、中小企業経営・中小企業政策)
 谷藤友彦と株式会社サイトビジット代表取締役・鬼頭政人氏の対談動画(1)(2)(3)
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