こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント)のブログ別館。1,500字程度の読書記録の集まり。

中国

陳破空『米中激突―戦争か取引か』―台湾を独立させれば中国共産党は崩壊する


米中激突 戦争か取引か (文春新書)米中激突 戦争か取引か (文春新書)
陳 破空

文藝春秋 2017-07-20

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 さらに重要なポイントは、ここで言う「我々の」とは、「アメリカの『一つの中国』政策」という意味であり、「中国の『一つの中国』政策」ではない、という点である。言いかえれば、「一つの中国」政策について、北京には北京の、ワシントンにはワシントンの見解がそれぞれあり、2つは別物である、ということだ。

 北京の見解とは、「世界には一つの中国があるだけで、大陸と台湾は、共に一つの中国に属し、中華人民共和国政府こそが中国を代表する唯一の合法政府である」というもので、ワシントンの見解とは、「アメリカの『一つの中国』政策とは『米中間の3つのコミュニケ(上海コミュニケとも言われる、1972年2月のニクソン大統領の訪中に関する米中共同声明など)』、アメリカの『台湾関係法』、アメリカ議会の『台湾に対する6つの保証』などの法案に基づくもの」というものである。
 ブログ本館で、現代の大国であるアメリカ、ドイツ、中国、ロシアはいずれも二項対立的な発想で動くという特徴があると書いてきた。こうした伝統は、少なくとも「正」に対しては「反」が存在すると主張したヘーゲルにまで遡ることができる。私の二項対立論はまだ非常に軟弱なのだが、改めて整理すると次のようになる。

 今、A国とB国という2つの大国が二項対立的な関係にあるとする。実はA国とB国の国内も二項対立になっており、A国内には反B派(A国政府派)と親B派(A国反政府派)が、B国内には反A派(B国政府派)と親A派(B国反政府派)が存在する。最前線で観察できるのは、A国の反B派とB国の反A派の激しい対立である。だが、もう少し詳しく見ていくと、そこには複雑な関係がある。まず、A国の反B派はB国の親A派を、B国の反A派はA国の親B派を支援している。さらに、A国の親B派とB国の親A派は裏でつながっている。これによって、A国内の反B派と親B派、B国内の反A派と親A派も対立する。これが大国同士の二項対立の構造である。この構造の利点は、A国・B国ともに、国内の対立の処理に配慮せざるを得ず、両国が全面的に対立しなくても済むという点である。

 二項対立のもう1つの利点は、一方が誤りだと判明した場合、すぐさまもう一方が正として前面に出てくるということである。仮に、上記の例で、A国内の反B派が誤りであることが判明したとしよう。すると、反B派と親B派の立場が逆転する(親B派がA国政府派になり、反B派がA国反政府派になる)。そして、A国の動きに呼応して、B国でも同様の逆転が生じる。その結果、表面的にはA国の親B派とB国の親A派が手を結ぶようになる。しかし、両国は完全に同じ船に乗っているわけではない。依然としてA国内には反B派が、B国内には反A派がいる。A国の親B派はB国の反A派と、B国の親A派はA国の反B派と対立する。さらに、A国内では親B派と反B派が、B国内では親A派と反A派が対立する。

 日本人的発想に立つと、せっかくA国の親B派とB国の親A派が仲良くしているのだから、その関係を保てばよいのにと思うところだが、この複雑な関係にもメリットがある。それは、大国同士が完全に融合して、超大国が誕生するのを防ぐことができるということである。二項対立の関係にある大国は、右手で殴り合いながら左手で握手をしているようなものであり、状況に応じて殴る右手の方が強いか、握手をする左手の方が強いかという違いが生じるにすぎない。こうした関係を通じて、大国は勢力均衡を保っている。

 仮に、A国内で二項対立が消えたとしよう。A国は国全体が反B派になるか、親B派になる。つまり、A国が全体主義になったケースである。A国全体が反B派になった場合、A国はB国を潰しにかかる。親B派になった場合、A国はB国を吞み込もうとする。いずれにしても、A国の全体主義の目的は、B国を完全に消滅させることである。全体主義の場合、国内対立がもはや見られないため、B国に向かうエネルギーを抑制する要素がない。A国は全力でB国に向かってくる。

 全体主義は、人間の理性が完全無欠であることを前提としている(以前の記事「大井正、寺沢恒信『世界十五大哲学』―私の「全体主義」観は「ヘーゲル左派」に近いと解った」を参照)。だが、歴史が証明しているように、人間の理性が無謬であることはあり得ない。国の方向性が間違っていることに気づいた国民は、やがて国家に対して反旗を翻す。二項対立的な発想をしていれば、反対派を国内の二項対立の構造に押し込めて対処することもできるが、全体主義国にはそうした装置がない。したがって、全体主義国は反対派を抹殺するしかない。だが、国家による暴力は国民のさらなる反発を招き、やがては自壊に至る。

 前置きが長くなってしまったが、米中関係を二項対立の構図でとらえてみたいと思う。まず、中国は内部に中華人民共和国(=反米派)と台湾(=親米派)という二項対立を抱えている。一方のアメリカは、反中派(=親台湾派)と親中派(=反台湾派)という二項対立を抱えている。表面的にまず観察されるのは、中華人民共和国とアメリカの反中派の対立である。加えて、中華人民共和国はアメリカの親中派を支援し、アメリカの反中派は台湾を支援する。これによって、アメリカ国内の反中派と親中派、中国内の中華人民共和国と台湾の対立が激化する。

 中国の場合、中華人民共和国と台湾の関係が入れ替わることがないというのが難点だが、形式上は一応、大国同士の二項対立の構図に収まっている。中華人民共和国が共産党の一党独裁でありながら崩壊しないのは、逆説的だが台湾という対立項を内部に抱えているからだと私は考えている。

 だから、逆に言えば、中華人民共和国、正確には中国共産党を崩壊させようとするのであれば、アメリカは台湾を独立させてしまえばよい。そうすると中国は全体主義に陥る。中国は、中華人民共和国と台湾の関係が固定的であるため、国内で反乱分子が生じた際にそれを国内の二項対立の構図で処理する術を持たない(反乱分子を台湾に押し込めるわけにはいかない)。簡単に言えば、反乱分子の取り扱いに慣れていない。そのため、現時点で既に、年間約18万回の暴動が起き、約10万人の共産党関係者が逮捕・検挙され、約100万人の国民が取り締まりを受けているという。この国家が全体主義に陥った時、内乱が拡大し、自ずと崩壊の道をたどるであろう(ただし、崩壊するのは中国共産党であって、中国自体は二項対立的な発想に従って新たな国家を建設するに違いない)。

堤未果『アメリカから<自由>が消える【増補版】』―アメリカも中国も似たような監視社会


増補版 アメリカから<自由>が消える (扶桑社新書)増補版 アメリカから<自由>が消える (扶桑社新書)
堤 未果

扶桑社 2017-07-02

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 ・金融機関は顧客情報やクレジットカード情報を、通信事業者は通信情報を、医師は患者のカルテを、図書館の司書は利用者の貸し出し記録を、本屋は顧客の購買履歴を、といったように、国内の様々な機関や団体は政府から要請があった時はいつでも個人情報を提出しなければならない。

 ・政府は、テロ容疑者は戦争捕虜に関するジュネーブ条約の対象外であるとし、捕まえた容疑者のほとんどを海外に移送して拷問している。

 ・政府は従軍記者の取材に大幅な規制をかけ、戦争報道支配を開始している。メディアは、軍の許可を受けた情報以外は一切外に出すことができない。さらに、新聞社やテレビ局など組織への介入ではなく、ジャーナリスト個人が直接召喚されるケースも増えている。

 ・政府はインターネットの世界にも介入してくる。近年、政府を批判する記事を書いたブロガーが投獄される事件が増加している。運よく投獄を免れた場合でも、反政府的なHPには政府からアクセス制限がかけられる。

 ・政府や行政は、自らにとって都合のよい政策や法律を議会で通すために、大手広告代理店を利用してメディアで大々的にキャンペーンを展開する。政府や行政のみこしを担ぎ、反政府派を批判するコメンテーターや評論家は、広告代理店を通じて政府や行政から多額の報酬を得ている。

 これは中国の話ではない。アメリカで起きていることである。21世紀で最悪の法律と言われる『愛国者法』(日本の共謀罪のモデルとなった)をはじめ、ありとあらゆる法律を駆使して、アメリカ政府は国民を監視する。当初の目的はテロの防止であったが、だんだんと目的が拡大し、最近では反政府的な動きがないかどうか、国民の一挙手一投足まで細かく監視するようになっている。これはジョージ・オーウェルが小説『1984』で描いた監視社会とまるで同じである。

 私は書籍の大半をAmazonで購入している。ところが、ある人から「Amazonでは買い物をしない方がよい」と言われたことがある。Amazonは顧客の購買履歴を政府に提供しているというのだ。アメリカ政府は、外交の場において、各国の要人がどのような政治的思想の持ち主なのかを調べるために、Amazonの購買履歴を活用しているらしい。もっとも、私はアメリカの外交に関与するほど偉い人間ではないから、そんなことは気にしなくてもいいのだが・・・。

 ブログ本館の記事「マイケル・ピルズベリー『China 2049』―アメリカはわざと敵を作る天才かもしれない」で、かなりざっくりとだが下のような図を作ってみた。

4大国の特徴

 「アメリカ&ドイツ」VS「中国&ロシア」の対立は、冷戦構造の名残である。だが、この対立構造は最近複雑化している。まず、アメリカはEUの盟主であるドイツと覇権を争っている(アメリカによるフォルクスワーゲンの提訴はその一環だと思っている)。中国とロシアは旧共産圏の国であり、お互いを戦略的パートナーと見なしているものの、例えばウクライナ問題をめぐっては微妙に対立している。

 一方で、ドイツとロシアの接近も見られる。両国は第2次世界大戦で激しく戦火を交えたが、戦後は関係深化に努めてきた。現在、両国は経済的に深く結びついている。さらに、ロシアがウクライナ問題で国際社会から非難を受けた時には、ドイツのメルケル首相がロシアのプーチン大統領をロシア語でなだめるという一幕もあった(メルケル首相は旧東ドイツ出身なので、ロシア語も堪能である)。

 アメリカと中国の関係も複雑である。軍事面では対立を見せているものの、経済的には両者は切っても切れない関係にある。また、アメリカが旧ソ連に対抗し、旧ソ連と中国の関係の分断を図って中国に接近したという経緯もあり、アメリカと中国は完全な敵対関係とは言えない。そして、トランプ大統領という予測不可能な指導者が現れたことで、アメリカと中国が突然手を結んで日本のはしごを外す日が来るのではないかと私は内心恐れている(ブログ本館の記事「『小池劇場と不甲斐なき政治家たち/北朝鮮/憲法改正へ 苦渋の決断(『正論』2017年8月号)』―小池都知事は小泉純一郎と民進党の嫡子、他」を参照)。

 本書で書かれているように、アメリカも中国のように全体主義化している。非常に安直な考えかもしれないが、似たもの同士がひょんなことでくっつく可能性はゼロではないと思う。事実、第2次世界大戦では、全体主義国であった日本、ドイツ、イタリアが同盟を組んだという歴史がある。

『中国に勝つ/岐路に立つネット証券 トップ6人が描く未来像(『週刊ダイヤモンド』2017年7月15日号)』―日本が生き残る道は中国のイノベーションの模倣


週刊ダイヤモンド 2017年 7/15 号 [雑誌] (中国に勝つ)週刊ダイヤモンド 2017年 7/15 号 [雑誌] (中国に勝つ)

ダイヤモンド社 2017-07-10

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 中国は経済が失速している、共産党一党独裁という政治リスクがある、対日感情が悪化しているなどの理由から、中国を敬遠する動きが最近見られる。しかし、外務省「海外在留邦人数調査統計」を見ると、各国の日系企業拠点数(企業の他に駐在員事務所、支店を含む)では中国が圧倒的に多い。

日系企業拠点数推移

 JETRO「2016年度日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査(JETRO海外ビジネス調査)結果概要」には、今後海外で拡大を図る機能を尋ねた質問があり、地域統括を除く販売、生産、研究開発、物流の4分野で中国が1位となっている(地域統括はシンガポールが1位)。本号の特集は「中国に勝つ」だが、経済規模ではもはや日本は絶対に中国にかなわない。だから、急激に成長するこの隣の龍を上手に利用して、日本の経済衰退を押しとどめ、望むらくは日本国民1人あたりGDPが成長する方向へ持って行くのが得策だと思う。

海外で拡大を図る機能(国・地域ランキング)

 1つは、「顧客がいる現場に張りつき、顧客の生の声を丹念に拾い上げて、それを丁寧に製品・サービスに反映させていく」という日本企業のマーケティング上の強みを活かすことである。本号では、中国で自動販売機事業を急成長させている富士電機が紹介されていた。人口13億人の中国はアイデアの宝庫である。
 中国人の柔軟なアイデアに寄り添うことで商機が生まれる場合もありそうだ。実際に、富士電機側にも、顧客から「カラオケセットと自販機を合体させて、歌の評価で最高得点を取ったら、ジュースが1本出てくるような自販機を作っほしい」とか「弁当が出てくる自販機を作ってほしい」という相談が舞い込んでくるのだとか。
 もう1つは、中国のイノベーションを模倣することである。日本は世界で最も早く超高齢化社会を迎え、医療・介護分野をはじめとして、新しいニーズを先取りしたイノベーションが求められる。私は以前、ブログ本館の記事「【ドラッカー書評(再)】『乱気流時代の経営』―高齢社会に必要な新しい戦略的思考」という記事で、来るべき超高齢化社会の望ましい姿を主体的にデザインし、その社会を支える製品・サービスを開発すればよいのではないかと書いたが、この考えにはいささか自信が持てなくなってきた。日本人はどうもイノベーションが苦手である。

 中国も今後は少子高齢化が進む。2040年には高齢化率が22.13%となる(同時期の日本は36%)。中国の場合、省や都市によって、日本以上に高齢化率がばらついていると想像できる。例えば、20世紀に最も人口が成長した都市である深センは、ここ30年で人口が30万人から1,400万人に膨張し、高齢化率はわずか2%である。こういう極端に若い都市があるということは、逆に極端に高齢化が進んでいる都市・地域もあるはずである。中国では、人口統計において「常住人口」と「戸籍人口」という2つの統計基準が存在し、中国の地域別(都市と農村別や省別など)に少子高齢化の実態を把握することが難しいとされる。ただ、1つの傾向として、都市部より農村部の方が高齢化が進んでいることは解っている。

 20世紀から21世紀の初頭にかけて、イノベーションの中心はアメリカであった。しかし、これからは中国がその中心になるかもしれない。中国人は元々イノベーションに長けている。何と言っても、世界3大発明と言われる火薬、羅針盤、活版印刷術は、全て中国が生み出したものである。だから、商魂猛々しく、創造力に満ちたイノベーターが、高齢化が進んだ地域で革新的なイノベーションを生み出すに違いない。日本は、お得意の模倣作戦で、中国のイノベーションを輸入し、これまたお得意の低コスト化、小型化、高品質化で、より洗練された製品・サービスに仕立て上げる。これが日本の生きる道ではないかと思う。

 何のことはない。中国を師と仰いで、中国の文化や制度を真似してきたかつての日本に戻るだけのことである。日本は文明の基礎となる文字ですら中国から輸入し、アレンジを加えて独自の文字体系を作ってしまった。ピーター・ドラッカーは、日本が海外のイノベーションを模倣して、最初にそれを開発したイノベーターよりも優れた製品・サービスを作ることを「起業家的柔道」と呼んで賞賛している(『イノベーションと企業家精神』)。だから、決して恥ずかしい作戦ではない。

高原彦二郎、陳軼凡『実務総合解説 中国進出企業の労務リスクマネジメント』―アジアにおけるストライキの解決の方法


実務総合解説 中国進出企業の労務リスクマネジメント実務総合解説 中国進出企業の労務リスクマネジメント
高原 彦二郎 陳 軼凡

日本経済新聞出版社 2011-05-14

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 日本にいるとストライキを経験することはまずないが、海外で事業展開する上では、ストライキが1つの重要な労務リスクとなる。ASEANに目を向けると、フィリピン(ストライキの件数=8(2010)⇒2(2011)⇒2(2012)⇒1(2013))、タイ(同=8(2010)⇒2(2011)⇒2(2012)⇒1(2013))は比較的件数が少ないのに対し、インドネシア(同=192(2010)⇒196(2011)⇒51(2012)⇒239(2013))やベトナム(同=423(2010)⇒981(2011)⇒468(2012)⇒327(2013))では件数が非常に多くなっている。また、正確な数値情報が入手できていないのだが、カンボジアやミャンマーでも労働争議が増えているとの情報も耳にする。

 もっとも、ASEANにおけるストライキの対象となっているのは中国・台湾・韓国系の企業であり、日系企業がターゲットとなることは少ない。日本企業は社員を大切にする経営を昔から実践している一方で、中国・台湾・韓国系の企業は、社員を物のように扱って使い捨てにする傾向があるため、ストライキが発生する。ただ、だからと言って、日本企業が絶対にストライキの対象にならないとは言いきれず、ストライキへの対処方法を知っておくことは有用であろう。本書は中国における事例を扱っているが、対処方法はアジア全般で共通であると考える。

 ストライキが発生する直接的な原因は様々である。代表的なものは、企業から不当に解雇された、解雇補償金が安すぎる、というものである。また、上司からの評価が不当に低い、人事考課の結果が不服であるというのもストライキにつながりやすい。それ以外には、使用期間後に採用してもらえなかった、派遣社員の首を切られた(国によっては、派遣社員が派遣先企業の労働組合に加入する)、就業規則は企業側が一方的に決めたものであり、内容に納得できない(例えば、競業禁止や秘密保持の規定が厳しすぎる)、といったケースがある。

 本書では、ストライキを解決する糸口をコミュニケーションに求めている。まず、ストライキが長期化する要因であるが、著者は「インナーコミュニケーション」と「アウターコミュニケーション」の2つに分けて解説している。

 インナーコミュニケーションの1つ目としては、労働組合とのコミュニケーション不足が挙げられる。これが十分でないと、社員の仕事や職場環境、待遇などに関するニーズを把握することができず、ストライキが長期化する。インナーコミュニケーションの2つ目としては、社内の適切な情報ルートが確立されていないことが指摘できる。ストライキには必ず影の首謀者がおり、彼らが労働組合や社員を扇動しているものである。影の首謀者を特定するための社内の情報ルートを確保しておかないと、彼らの真の動機がつかめず、ストライキ解決が難航する。

 アウターコミュニケーションの1つ目としては、労働組合の上部組織とのコミュニケーションが挙げられる。例えば、インドネシアにはKSPI(インドネシア労働組合総連合)という上位組織があり、ストライキが生じた場合には彼らの協力を仰がないと、ストライキを鎮静化することができない。アウターコミュニケーションの2つ目としては、地元政府や行政とのコミュニケーションを指摘することができる。地元政府や行政とのコミュニケーションが不足していると、ストライキ解決にあたって彼らから必要な協力を引き出すことができない。

 以上は、ストライキが長期化する要因であるが、できることならばストライキを未然に防ぎたいものである。ここでも著者は、インナーコミュニケーションとアウターコミュニケーションの重要性を強調している。

 インナーコミュニケーションとしては、労働組合が茶話会や食事会などを実施して社員のニーズや苦情を吸い上げ、経営陣と共有する仕組みを作り上げることが大切である。相談窓口という箱を作るよりも、お茶や食事をしながらの方が、社員も自分の意見を言いやすい。そして、経営陣は社員の声を聞いた以上は、それに対して何らかのアクションを起こす。すると、社員は「労働組合に話を持っていけば、経営陣が聞く耳を持ってくれる」と思ってくれるようになる。こうした空気を醸成した後に、経営陣が社員と直接対話する場を設けるとなお有効である。

 時折、社員のニーズや苦情を吸い上げるために「目安箱」のようなものを設置するケースがあるが、これはあまりお勧めできない。というのも、目安箱を設置すると、「我が社は『目安箱』を置かないと重要な情報が上層部に伝達されない組織である」という誤ったメッセージを社員に送ってしまうからだ。また、目安箱に入れられる意見の大半は罵詈雑言、読むに堪えない悪口であり、精神衛生上もよくない。さらに、匿名で意見を投票したはずなのに、「あの意見を書いたのは一体誰なのか?」と犯人探しが始まり、かえって職場の雰囲気が悪化する。

 アウターコミュニケーションで重要なのは、第一に地域政府や行政と日常的に良好な関係を構築しておくことである。特に行政に関しては、日頃から様々な監督・監査を受ける。こうした監査などに対して、企業として真摯に協力しておくと、いざストライキが起きた時に行政からの協力が得られやすい。第二に、自社が「企業市民」であるというメッセージを発信することである。言い換えれば、「我が社の利益は地域の利益と一致している」ことを強調する。そのメッセージを具体化したアクションとして、地域のボランティア活動に企業として参加する、地元の学校に寄付をする、などといった行動をとることが有効である。

島森俊央、吉岡利之『アジアへ進出する中堅・中小企業の”失敗しない”人材活用術』―中国・タイ・ベトナムの人材活用のポイントまとめ


アジアへ進出する中堅・中小企業の“失敗しない”人材活用術: 発展ステージの異なるベトナム・タイ・中国の事例からアジアへ進出する中堅・中小企業の“失敗しない”人材活用術: 発展ステージの異なるベトナム・タイ・中国の事例から
島森 俊央 吉岡 利之

日本生産性本部生産性労働情報センター 2014-12-08

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 中国・タイ・ベトナムにおける人材活用について、個人的に参考になったポイントをメモ書きとしてまとめておく。

 <3か国共通>
 ・日本企業は、専門スタッフやマネジメント層の給与が、成果主義を導入している欧米系の企業に比べると低いと言われる。ただ、日本本社が年功的な職能資格制度なのに、海外法人には成果主義を適用するのは現実的ではない。欧米系企業も、成果が低ければ日系企業より給与が低くなることを社員に理解してもらいつつ、日本企業の強みである、①安定、安心、②社員を大切にする、③教育がしっかりしている、という3つの点を強調したマネジメントを行うとよい。
 ・福利厚生を充実させると効果的である。特に、社員が行ったことのない土地への旅行は喜ばれる(ワーカークラスは、自分が住んでいる土地以外に行ったことがないことがほとんどである)。
 ・日本企業は”人”に対して給与を払うが、中国、タイ、ベトナムの企業は”職務”に対して給与を払う。社員も、自分の職務を極めたいという思いが強い。そのため、ジョブローテーションは専門性を高めてキャリアアップを図る上での阻害要因と見なされ、敬遠される傾向がある。
 ・日本以上に学歴社会であり、中卒・高卒が中心のワーカーと、大卒が中心の専門スタッフやマネジメント層の間には大きな隔たりがある。
 ・日本以上に肩書きへのこだわりが強い。
 ・ワーカーにはMBO(目標管理制度)を理解してもらうことが難しいため、チェックリスト方式の行動評価を行うとよい。その際、罰則評価も入れる。
 ・採用にあたっては次の点に注意が必要である。代理面接が横行している。家族同伴で面接に来る(そして、家族が質問に答える)。履歴書に虚偽の記載がある。犯罪歴を隠して応募してくる。人事マネジャーに賄賂を贈る。

 <中国>
 ・春節で親戚が集まった時に、会社の給料やポストの話をする。社員が親戚に自分のことを自慢できるよう、春節前に昇格や昇給を行う。
 ・同一労働・同一賃金が原則であり、成果に見合った報酬を求めてくる。
 ・自分がNo.1だと思っている社員が多いため、なぜその評価になったのか、具体的な証拠や事例を使って説得する。
 ・毎年、地方政府から「昇給ガイドライン(指導線)」が出されるため、ガイドラインからかけ離れた昇給を行うと社員から反発を受ける。 
 ・労働組合の設立は半強制的である。

 <タイ>
 ・タイには「3S」という言葉がある。サバーイ(快適)、サヌック(楽しく)、サドゥアック(便利)の頭文字である。楽しい、居心地がよいことを重視する傾向がある。
 ・元々暑い国であるにもかかわらず、「高温手当」を要求してくる。
 ・評価基準は社員に対して明確に提示するが、評価結果は曖昧にする(社員間で差をつけるのはほどほどにする)。
 ・採用の最終決定前に健康診断を実施する。麻薬をやっている可能性がないか調べるためである(ちなみに、日本では採用前に健康診断を実施することは禁じられている。採用後には健康診断を実施する義務が生じる)。
 ・タイでは労働組合の設立は半強制的ではないが、外部の人が介入したり、紛争目的の労働組合が作られたりしないように注意が必要である。
 ・タイでは1932年に立憲君主制に以降して以来、20回以上の軍事クーデターが起きており、タイ人はクーデターに慣れっこである。これが「タイ式民主主義」であると言う人さえいる。

 <ベトナム>
 ・中国、タイに比べて食事を重視する。社員食堂を充実させると喜ばれる。
 ・タイと同様、「高温手当」を要求してくる。
 ・タイと同様、評価基準は明確に提示するが、評価結果は曖昧にする。
 ・中国と同様、労働組合の設立は半強制的である。
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プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、1,500字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
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