岐路に立つ中国とロシア岐路に立つ中国とロシア
中津 孝司

創成社 2016-01-20

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 ブログ本館の記事「マイケル・ピルズベリー『China 2049』―アメリカはわざと敵を作る天才かもしれない」で下のような図を用いた。

4大国の特徴

 ブログ本館でも何度か書いたが、大国は二項対立的な発想をする。大国は常に、自国と対立する他の大国を配置することで、自国のアイデンティティを確認する。数十年前までは、世界における大国の対立は、アメリカ対旧ソ連という単純な構図であった。米ソの対立は、資本主義と共産主義の対立である。あるいは、自由主義と専制主義の対立と言ってもよい。そして、アメリカのバックにはドイツが、旧ソ連のバックには中国がいた。

 ところが、近年はこの対立構造が複雑になりつつある。まず、アメリカが中国に接近した。台湾を裏切って中国との国交を回復し、中国との経済的なつながりを急速に深めていった。一方のロシアは、ドイツとの関係を強めつつある。こうして、アメリカ・中国というグループと、ロシア・ドイツというグループができた。

 アメリカと中国の共通点、ロシアとドイツの共通点はそれぞれ、国家主義と超国家主義という言葉で言い表されるのではないかと考える。国家主義とは自国の主権を前面に打ち出す立場のことである。これに対して超国家主義とは、複数の国家を束ねてパワーを発揮するスタンスを指す。つまり、国家主権を超える存在を作り出し、そこで主導権を握る。ドイツは今やEUの盟主であるし、ロシアはEUに倣ってユーラシア経済連合(EEU)を創設している。

 アメリカと中国、ロシアとドイツが接近したことで、従来のアメリカとドイツ、ロシアと中国の関係に微妙な変化が生じている。アメリカとドイツは対立することが増えた。VWの不正問題をアメリカが10年以上も前に認識しておきながら放置したのは、問題ができるだけ大きくなった段階でVWを告発することで、VWの賠償金を巨額なものにし、ドイツの代表企業であるVWを叩きのめして、ひいてはドイツ経済に致命的なダメージを与えるためだったのではないかと私は思っている。

 中ロの関係も一枚岩ではない。中国は元々、スターリン批判をするなど、ロシアに完全にべったりであるとは言いがたい。近年も、中ロの対立局面が目立つと指摘する論者がいる。だから、現在の4大国の関係を図にすると、上図のように複雑なものになってしまう。ただ一方で、中ロは依然として蜜月関係にあると主張する識者もいて、私を混乱させている。実際のところ両国の関係はどうなのかと思って本書を読んだのだが、結局解らずじまいであった。

 <中ロの関係が深いと思わせる出来事>
 ・中ロは協調して欧米社会に対抗するための受け皿として、上海協力機構(SCO)を活用し、アメリカ一極集中を牽制してきた(ただし、インドが加盟申請したことで、SCOの性質が変わる可能性がある)。

 ・ロシアは東シベリア・バイカル湖北方に眠るチャヤンダ天然ガス田とコビクタ天然ガス田を開発し、パイプラインと連結する。パイプラインは天然ガス田からブラゴベシチェンスクに延び、中国へと向かう。総工費550億ドルに及ぶこのパイプラインが2019年に完成すれば、30年間に渡って年間約380億立方メートルの天然ガスが1,000立方メートルあたり350ドルでロシアから中国に輸出される。総額4,000億ドルに上る中ロ間の天然ガス貿易となる。

 ・中国経済の一層の発展にとって、ロシア極東の化石燃料は、エネルギー安全保障の観点からも必要不可欠である。ロシアには天然資源を開発する資本と労働力が不足しているが、中国にはそれがある。

 <中ロが対立していると思わせる出来事>
 ・ロシアはターキッシュ・ストリーム構想を打ち出し、トルコ経由でヨーロッパに天然ガスを供給する計画を持っている。具体的には、バルカン半島諸国に天然ガスを供給する。ロシアによるバルカン半島の囲い込みは、中国の利害と対立する。なぜなら、バルカン諸国は中国が提唱するシルクロード計画の西端に位置するからだ。中国は意図的にバルカン半島諸国との関係強化に動いている。

 ・北朝鮮の中国離れに乗じて、ロシアは朝鮮半島でのプレゼンス強化に乗り出している。2015年2月25日、モスクワで初のロ朝ビジネス評議会が開催された。ここで、北朝鮮北東部の経済特区・羅先に向けて電力を供給する事業構想が打ち出された。羅先は日本海に面する戦略的要衝地であり、不凍港も有する。ロシアは将来的に北朝鮮と軍事的関係を強化して、羅先への進出を狙っている。一方で、中国も羅先に狙いを定めている。

 ・中国系企業はロシアの天然資源にしか興味がないようだ。不動産の取得にも熱を上げるが、ロシアの製造分野には投資しない。確かに、中国の対ロ投資額は2014年1~8月期に前年同期比1.7倍に増えているものの、ロシアに移住する中国人が増えるだけで、中国の対ロ投資はロシア人の雇用促進に貢献していない。ゆえに、中国企業は現地で歓迎されていない。