こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント・トレーナー)のブログ別館。2,000字程度の読書記録の集まり。

人事評価


日経連出版部『外資系企業の評価システム事例集』―外資系企業でもチーム重視だと能力評価になる


外資系企業の評価システム事例集 (ニュー人事シリーズ)外資系企業の評価システム事例集 (ニュー人事シリーズ)
日経連出版部

日本経団連出版 1999-08

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 以前、ブログ本館で『これからの人事評価と基準―絶対評価・業績成果の重視』を紹介した際に、次の文を引用した。
 年功序列制度は、チームワークの優劣が組織の業績を左右する企業であれば、現在でも有用である。(中略)ある企業では、現在でも、年功序列型の人事制度を固守し、成功している。この場合、賃金処遇ではほとんど差がつかないが、仕事の内容で光の当たる部分と、やや光の当たりにくい、地味な部分があるだけなのである。この職場の雰囲気は、足の引っ張り合いがなく、チームワークは良い。また、ノウハウを共有できる特徴がある。
 その上で、近年は欧米でもチームワークが重視されているから、成果給・業績給よりも年功制の方が向いているのではないかと書いた。厳密な意味での年功制は、年齢のみによって給与が決まるため、人事考課を必要としない。ただし、多少は給与に差をつけた方がよいだろうということで、人事考課において能力を評価するようになった。こうしてでき上がったのが職能資格制度である。

 本書が出版されたのは1999年である。欧米から成果主義が流入し、大企業をはじめ多くの企業で成果主義が導入された時期である。それだけに、成果主義的な人事制度の事例紹介が多いかと思いきや、意外と能力重視の人事制度を採用している外資系企業もあることに気づかされる。

 例えば、プライス・ウオーターハウス・コンサルタントは大手コンサルティングファームであり、完全な成果主義が導入されていてもよいように思えるが、チーム(プロジェクト)を中心として動く同社は能力評価を重視している。同社では、社員に求める能力を4領域、28項目とかなり細かく設定している。そして、その28の能力項目について5段階評価を行い、能力ポイントが一定の基準を超えるとマネジャーに昇進することができる仕組みとなっている。

 また、同社は社員の能力開発にも注力しており、コーチングシステムが整備されている。社員には上司とは別にコーチがつく。そして、コーチは期初にコーチー(コーチングを受ける人のこと)の能力開発目標を設定し、期末になれば目標の達成度合いと次期に向けた課題を確認する。一般的なメンタリング制度がメンティー(メンタリングを受ける人のこと)の中長期的なキャリア開発を支援するのに比べると、同社のコーチングシステムは短期志向であり、より業務と密接に関連した能力開発を促しているように見える。

 アパレルのSPAであるGAPでは、ビジネス目標40%、対人関係目標40%、能力開発目標30%という比重で人事考課を行っている。対人関係目標というのがユニークであるが、これは部下を持つマネジャーの場合は、部下の育成に焦点を当てた目標が設定される。部下を持たない社員の場合は、自分の同僚やビジネスパートナーに模範を示すことが求められ、それが目標に落とし込まれる。

 能力開発目標は30%と他に比べると比重が低いものの、その評価プロセスは厳密に定められている。同社はハイパフォーマーのコンピテンシーを分析し、11の能力を特定した。同社の能力開発プランニングでは、まず本人が11の能力について自己評価を行い、能力開発計画を作成する。マネジャーはこの能力開発プランに対して適切なアドバイスを行う。期末に能力開発計画の結果を評価する際、その内容が単に人事考課に用いられるだけでなく、同社内の各ポジションの後継者育成計画(サクセッションプラン)にも活用される点が特徴的である。

 ニッポンリーバ(ユニリーバの日本営業会社)の場合はもっと極端である。同社では人事考課制度をストレートに「能力開発計画」と呼んでいる。本書には同社を含め、各社が使用している人事評価関連の雛形がいくつか掲載されているのだが、同社の雛形を見ると、能力開発目標の設定とその評価に大きく比重が置かれていることがうかがえる(書くスペースが他社に比べ圧倒的に広い)。

 もちろん、成果主義が流行した時代に出版された外資系企業の人事制度の事例集であるから、業績給を中心としている企業も少なくない。ただし、基本給の中に固定部分と業績に応じた変動部分があるのは、私にとっては不自然に映る。ブログ本館の記事「元井弘『目標管理と人事考課―役割業績主義人事システムの運用』―言葉の定義にこだわる割には「役割業績給」とは何かが不明なまま」でも書いたように、基本給は能力と連動する「投資型」、賞与は業績と連動する「精算型」というのが原則であるからだ。

 また、業績評価の結果から最終的な考課結果や報酬を決定するロジックが公開されている事例もあるものの、どのような根拠によってそれらの数式や係数が用いられているのかが不明である。チームワークを重視すればするほど、チーム全体の業績を個人の業績に分解すせるのは難しくなる。それを強引にやろうとすれば、計算式がどうしても複雑怪奇になる。

 人事制度は解りやすいものにすることが大切である。その意味で、チームワークを重視するならば、業績ではなく能力を中心とした評価の方が理にかなっている。もちろん、能力を評価する場合でも、その能力が本人に固有のものなのか、周囲の支援によって発揮されたものなのかを判別しなければならない。ただ、業績評価の場合、チーム全体の業績が100として、ある社員の貢献度合いが20%なのか30%なのかを決めるのは大変な困難を伴うのに対し、能力評価の場合、ある能力が本人固有のものであれば「5」、周囲のサポートを受けたのであれば「3」などと明快に決めることができる点で納得感が高いと思う。

DHBR2017年12月号『GE:変革を続ける経営』―キャリア自律を引き出したければ企業はより強力に戦略を示さなければならない


ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 12 月号 [雑誌] (GE:変革を続ける経営)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 12 月号 [雑誌] (GE:変革を続ける経営)

ダイヤモンド社 2017-11-10

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 2016年4月1日に「改正職業能力開発促進法」が施行された。同法は、労働者が職業生活設計を行い、その職業生活設計に即して自発的な職業能力の開発および向上に努めることを基本理念としている。事業者は、「労働者が自ら職業能力の開発及び向上に関する目標を定めることを容易にするために、業務の遂行に必要な技能及びこれに関する知識の内容及び程度その他の事項に関し、情報の提供、キャリアコンサルティングの機会の確保その他の援助を行うこと」(第10条の3第1項)が義務化された。ここで言う「キャリアコンサルティング」とは、「労働者の職業の選択、職業生活設計又は職業能力の開発及び向上に関する相談に応じ、助言及び指導を行うこと」(第2条第5項)と定義されている。

 経済が右肩上がりで成長していた時代には、企業が社員に対して明確なキャリアパスを示し、社員はそれに従ってキャリアを歩んでいればよかった。ところが、経済が成熟化し、先行きが不透明になると、企業が社員に対してキャリアパスを示すことが困難になり、代わりに社員が自ら自分のキャリアを開発することが求められるようになった。これをキャリア自律と言う。GEは、有名な「セッションC」や「9ブロック」に代表される従来の人事制度を抜本的に改め、上司と部下が日常業務の中で頻繁にコミュニケーションを図ることで部下の能力やコンピテンシーを伸ばし、部下のキャリア自律を支援するようになっている。

 日本企業にもこの流れが及んで、職業能力開発法が改正されたわけだが、キャリアコンサルティングに取り組んでいる企業の社員からは、「突然、自分のキャリアを自分でデザインせよと言われてもどうしてよいか解らない」、「企業がもっと方向性を明確に打ち出してくれないとキャリアデザインができない」といった困惑の声が聞かれる。企業が明確な方向性を示せないので、社員に方向性を打ち出させようとしているのに、実際には社員は企業に対して、以前にも増してはっきりとした方向性(戦略と言ってもよい)を示すことを要求している。

 私は、社員側の言い分にも十分な理由があると思う。おそらく、こういうことを言う社員がいる企業では、経営陣や人事部が「社員がやりたいことを自由に考えてよい」というメッセージを発しておきながら、いざ社員が自分のキャリアをデザインすると、「その仕事は我が社ではできない、やる機会・環境がない」などと言って突き返すだろうと社員が恐れているのである。社員にとってこれほど迷惑な話はない。顧客が商談の初期の段階で「御社の提案に従います」と言っておきながら、いざ仕様を細かく詰めていくと、「私(我が社)がほしいのはこんな製品・サービスではない」などと言い出す顧客とはつき合いたくないのと同じである。

 だから、逆説的であるが、社員がキャリア自律を実現するには、企業は(キャリアパスは無理でも、)少なくとも戦略は明確に打ち出す必要がある。経営陣は社員に対し、「我が社はこういう方向に進もうと考えている」と主張する。一方の社員は、「いや、私はこういう方向に進みたいと考えている」と言い返す(山本七平の言葉を借りれば「下剋上」である)。この「強烈なトップダウン」と「強烈なボトムアップ」が衝突するところに創発的な学習が生まれ、その結果として企業はより洗練された戦略を、社員はより高度なキャリア意識を手に入れることができる。

 企業は改正職業能力開発促進法によって、キャリアコンサルティングさえ実施していれば、方向性を考えるのは社員に任せればよいことになった、というわけでは決してない。むしろ、経営陣が戦略を入念に構想する責任は、以前よりも大きくなったと考えるべきである。この点を誤解してはならないと思う。

谷藤友彦(やとうともひこ)プロフィール


 京都大学法学部卒業。大学時代には能楽サークル(金剛流)に所属(左写真)。金剛流は、能楽流派の中で唯一京都に拠点を置く。大学卒業後、株式会社アビームシステムエンジニアリング(現アビームコンサルティング株式会社)に入社。プログラマ、システムエンジニアとしてノンバンクの基幹業務システムの設計・開発プロジェクトに参画。

 2006年3月よりコンサルティング&教育研修事業のベンチャー企業にて、コンサルティング業務および研修開発に従事。エネルギー業、商社における新規事業、海外事業の戦略立案支援、製造業における業務改革(BPR)、情報通信業におけるコンサルティング営業育成制度策定・導入などに携わる。開発した研修は、ITコンサルタント育成研修、コンサルティング営業研修、部下マネジメント研修、経営知識研修など。同時に、自社のマーケティング業務も兼務し、人事担当者向けセミナーの企画、展示会への出展、新サービス開発なども行う。

 2011年7月に個人事務所「オフィス・エボルバー」を開業。2013年1月より屋号を「シャイン経営研究所」に変更。主に中小企業向けに経営コンサルティング(事業戦略/計画立案、営業力強化、人材育成・評価、組織風土調査など)や研修・セミナー・講演を提供中。2007年8月より中小企業診断士。一般社団法人東京都中小企業診断士協会・城北支部所属。Mr.Childrenと阪神タイガース大好き。水曜どうでしょう藩士。本当は数学を極めたい。

<主な実績(前職時代を含む)>
【1.従事した案件】
 <コンサルティング・企業診断>
 与信・審査管理システム導入(金融機関)
 設計部門の業務改革(BPR)(製造業)
 新規事業戦略立案(エネルギー業、商社)
 営業人材の育成計画作成・評価制度構築(情報通信業)
 営業人材の人事考課支援(情報通信業)
 パートナー営業(代理店営業)担当者の人材要件整理・育成制度構築(情報通信業)
 営業部門向け社内資格制度導入支援(情報通信業)
 新規事業フィージビリティスタディ(情報通信業)
 商店街HPリニューアル支援(広域型商店街)
 企業総合診断(戦略・財務・マーケティング・人事・新規事業)(灯油小売・住宅リフォーム業、酒類小売業、建設業、宝飾品製造販売業、道の駅、米穀協同組合、ショッピングセンター)
 社員意識調査(自動車部品製造業)
 販売代理店販売員のインセンティブ体系設計(医療機器製造業)
 若手商人育成事業(個店、商店街支援)(東京都中小企業振興公社)
 キャリアカウンセリングの普及・定着に関する事業(公的機関)
 官公庁案件入札支援(人材派遣業)
 荒川区にぎわいコーディネーター(個店、商店街支援)

 <研修開発>
 ITコンサルタント育成研修
 コンサルティングプロジェクト疑似体験研修
 コンサルティング営業研修
 管理職向け営業提案書レビュー研修
 経営基礎知識(戦略、マーケティング、財務会計)研修
 ビジネスモデル変革研修
 BSC(バランス・スコア・カード)研修
 KPI(重要業績評価指標)マネジメント研修
 部下マネジメント研修
 プレゼンテーション研修
 ロジカルシンキング研修
 独立中小企業診断士向けトレーニングプログラム(⇒現「城北プロコン塾」)
 認定支援機関向け経営支援力向上研修
 パートナー営業育成研修
 (研修に付随するサービス)アクションプランの進捗度合いをモニタリングするITツール

 <診断開発>
 ビジネスパーソン自立度診断
 部下マネジメント力診断
 コンサルティングマインド診断
 ダイバーシティマネジメント推進度診断

 <事務局員>
 中小製造業経営実態調査 事務局担当・調査結果分析(自治体)
 中小企業向け補助金事業 事務局担当(公的機関)
 創業支援事業 事務局担当(自治体)

 <補助金関連>
 中小企業向け補助金事業 書面審査員
 にぎわい補助金申請支援(商店街)
 高齢者職域開拓モデル事業助成金申請支援(医療機器製造業)
 創業補助金申請支援(サービス業)
 ものづくり補助金申請支援(工作機械部品メーカー、ベビー用品メーカー、医療機器製造業、情報通信業など)

【2.講演・セミナー】
 「創業補助金の活用方法」(創業・起業希望者向け)
 「エニアグラムを活用した自己・他者分析」(中小企業診断士向け)
 「スタートでつまずかないための人事・労務管理」(創業・起業希望者向け)
 「コンサルタントが知っておくべきパワーポイントのDos and Don’ts」(中小企業診断士向け)
 「平成25年度補正『創業補助金(創業促進補助金)』について」(創業・起業希望者向け)
 「独立診断士の一日」(中小企業診断士向け)
 「ものづくり補助金における中小企業診断士の役割」(弁理士向け)
 「渋沢栄一 『論語』に学ぶ人物観察法」(中小企業診断士向け)
 「ものづくり補助金の仕組みと実態、独立診断士としての心構え」(中小企業診断士向け)
 「補助金セミナー ~補助金に関する基礎知識と運用の実際~」(エスコグラフィックス株式会社主催)
 「ざっくりわかる事業計画作成のポイント」(税理士向け)
 「市場戦略・マーケティング」(城北プロコン塾)
 「BPR(Business Process Re-engineering:業務プロセス改革)を活用した企業変革の手法」(中小企業診断士向け)
 「キャッシュレス決済入門」(荒川区LANP事業〔クローズドセミナー〕〔オープンセミナー〕、その他商店街連合会)
 「診断士のリアル(独立診断士編)」(中小企業診断士向け)

【3.執筆】
 共著『市場開拓、開発テーマ発掘のためのマーケティングの具体的手法と経験事例集 『隠れたニーズ』を見つけ出し、『売れる仕組み』を作るには』(技術情報協会、2013年7月)
 神谷俊彦、滝沢悟、茂木君之、谷藤友彦『図解でわかる品質管理 いちばん最初に読む本』(アニモ出版、2015年10月)※おかげさまで第5版



 朝日信用金庫『ACC INFORMATION』No.42(2019年6月発行)「経営コンサルタントのおすすめBOOKS」(山本七平『帝王学―「貞観政要」の読み方』を紹介)

【4.城北支部内での役職】
 執行委員(2014年5月~2018年9月)
 青年部副部長(2014年5月~2016年5月)、部長(2016年5月~2018年9月)
 特定非営利活動法人NPOビジネスサポート 監事(2016年6月~2018年6月)
プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。これまでの主な実績はこちらを参照。

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、2,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
シャイン経営研究所HP
シャイン経営研究所
 (私の個人事務所)

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