AIの衝撃 人工知能は人類の敵か (講談社現代新書)AIの衝撃 人工知能は人類の敵か (講談社現代新書)
小林雅一

講談社 2015-03-20

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 これら複雑に込み入った難問を解決するためには10個や20個の変数ではとても間に合いません。最低でも数百から数千、ときには数万から数十万個もの変数を指定する必要があります。これを人間の手に任せていたのでは膨大な時間がかかりますし、うっかり間違った変数を選んでしまう危険性も十分あります。ディープラーニングは、この面倒な作業を人間に代わってやってくれる最初のAIになるのです。
 意思決定とは、複数の変数と、それらの変数を結ぶ数式からなる関数である。ブログ本館の記事「『意思決定を極める(DHBR2014年3月号)』―敢えて言おう、不確実性が高い環境でこそ「歴史に固執せよ」と」では、意思決定を以下の4つのパターンに分けた。

 ①式も変数の値も解っている場合。
 ②式は解っているが、変数の値が解らない場合。
 ③変数の値は解っているが、式が解らない場合。
 ④式も変数の値も解らない場合。

 詳細はリンク先の記事に譲るが、人間が自分でできるのは①と②である。③は変数の値を集めることは人間でもできるものの、あらゆる数式の可能性を試すのはコンピュータの方が早い。そして、④に関しては、シナリオプランニングが妥当ではないかと書いた。これは、無数に考えうる変数のうち、結果に重大な影響を与えると思われる2つの因子を取り出し、その2因子で2軸のマトリクスを作成して、大まかに4つのパターンを想定するものである。

 だが、冒頭の引用文にあるディープラーニングを使えば、④のような状況であっても、AI自身が膨大なデータの中から変数を特定してくれるのだという。近年、ビッグデータに注目が集まるとともに、データの収集・分析を主導する「データサイエンティスト」という職種が今後は重宝されると言われている。だが、ディープラーニングが発達すると、データサイエンティストが出る幕はなさそうである。

 ブログ本館の別の記事「『ビッグデータ競争元年(DHBR2013年2月号)』―逆説的に重視されるようになる「直観」」では、データを分類する軸が増えれば増えるほど、データをプロットする空間は指数関数的に複雑化すると書いた。つまり、2軸であれば2×2=4次元であるが、10軸になると2の10乗=1,024次元になる。これだけ複雑な次元にデータをプロットしても、中身はスカスカになってしまう。いたずらに変数を増やせばよいというわけではない。

 だから、データのまとまりに着目して、意味のある軸(変数)を設定する作業は、結局は人間の直観に頼らざるを得ない、むしろ、この点で人間が活躍できるのではと私は考えていた。ところが、冒頭の引用文によれば、ディープラーニングは入力されたデータに基づいて、自分で意味のある変数を創造できるという。人間がAIに完全に仕事を奪われるのではないかと戦慄を覚えるのもむべなるかな。