マインドフル・ワーク―「瞑想の脳科学」があなたの働き方を変えるマインドフル・ワーク―「瞑想の脳科学」があなたの働き方を変える
デイヴィッド・ゲレス 岩下 慶一

NHK出版 2015-05-22

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 以前の記事「エドガー・シャイン『問いかける技術―確かな人間関係と優れた組織をつくる』他」で「マインドフルネス」に触れたが、本書はその実践書である。
 マインドフルネスとは、「完全に現在に存在すること」だ。過去の思いに囚われたり、未来を夢見たりすることなく、この時、この場所に存在することだ。マインドフルになるとは、自分の身体の感覚を感じ取ることだ。たとえそれが不快なものであっても、それに執着したり、消え去るよう望んだりしないことだ。
 マインドフルネスは、心や身体の中で、また私たちを取り囲む世界で今起こっていることについて、最も基礎的なレベルで気づきを深めることだ。これらの動きに気づくこと、現実をありのままに受け入れることだ。そして、マインドフルネスを養うのに最も優れた方法が、瞑想だ。
 マインドフルネスのポイントを私なりに整理すると、①未来ではなく「今、ここ」に集中すること、②私と世界を一体のものとしてとらえること、である。この考え方は欧米流の合理主義に対するアンチテーゼである。

 欧米(特にアメリカ)においては、まずは未来から出発する。未来のある地点において、「私は何を実現したいか?」というビジョンを明確に掲げる。そして、そこから遡って、「私はいつまでに何をするべきか?」という目標を細かく分割して設定する。こういうバックキャスティング的な発想をするのが欧米流である。

 マインドフルネスに到達する最も効果的な方法が瞑想であることからも解るように、マインドフルネスは東洋の影響を強く受けている。東洋思想は、未来ではなく現在、分割ではなく統合を特徴とする。だが、マインドフルネスには、東洋思想のもう1つ重要な視点が抜け落ちている気がする。それは「他者」の存在である。

 マインドフルネスにおいては、ややもすると瞑想によって自分の世界に閉じこもれば、世界に直接アクセスできるかのような印象がある。それはちょうど、物理学者デイビッド・ボームが精神の働きを考察した際に、人間が意識のレベルを引き上げれば、宇宙全体を統合的に支える「内蔵秩序」とつながることができると説いたのと同じ話である(ブログ本館の記事「オットー・シャーマー『U理論』―デイビッド・ボームの「内蔵秩序」を知らないとこの本の理解は難しい」などを参照)。

 しかし、他者のいない世界は存在しない。よって、世界の理解には他者理解が不可欠である。本当にマインドフルネスを獲得するためには、他者との相互作用を欠くことができない。確かに、ボームの内臓秩序の話から発展した「U理論」では、集団が意識を統合していくストーリーが描かれている。しかし、その過程において他者とどのような交流がなされたのかが十分に解明されていない。個人的にはその点が非常に不満である(ブログ本館の記事「安岡正篤『活字活眼』―U理論では他者の存在がないがしろにされている気がする?」を参照)。