正論2018年6月号正論2018年6月号

日本工業新聞社 2018-05-01

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 南スーダンPKOやイラク派遣の日報が当初存在しないとされていたのに、後になって次々と見つかっている問題。私はこの問題を詳しくトレースしているわけはないため、今回の記事はややピントがずれているかもしれないが、個人的には日報が存在していてよかったと思っている(日報が歯抜け状態であった点は管理のずさんさを批判されても仕方ないが)。
 日報とは日々の自衛隊員の活動をまとめて送ることによって、上級部隊の指揮官や防衛大臣が状況判断を行うための1次資料です。もう少し長い目で見ると、次に現地へ派遣される部隊の教育・訓練のための資料にもなり、さらに長い目で見れば全く別の任務の際にも部隊の編成や携行装備品を検討するための資料にもなるものです。
(佐藤正久「イラク日報に『戦闘』何が悪い」)
 佐藤正久氏は参議院議員で、元自衛隊・イラク復興業務支援隊長を務めた方である。同氏の記事に基づくと、日報を残すことには3つの意味があると考えらえれる。1つ目は、自衛隊員が日々の現場の情報を詳細に報告することで、上層部が作戦・計画を策定し、必要な意思決定を下すためである。2つ目は、それまでの自衛隊の活動を総括し、よかった点と反省すべき点を分析して、次回以降の自衛隊活動に活かすためである。そして3つ目は、将来的に国民や国会が自衛隊の活動の妥当性を検証する際の基礎資料とするためである。

 行政文書の保管に関しては「公文書管理法(公文書等の管理に関する法律)」があり、政令を通じて行政文書の種類別に保管期間が定められている(第5条1項)。そして、保管期間を経過した行政文書に関しては、歴史公文書などに該当するものは政令で定めるところにより国立公文書館へ移管し、それ以外のものは廃棄の措置をとるものとされている(第5条5項)。政令では、保管期間の最短期間が1年であり、かつ日報については定めがなかったことから、「日報は1年未満で廃棄する」という運用になっていたようだ。

 問題は、「1年を経過したのに廃棄されていなかった日報が存在する」ことではなく、前述のように極めて重要な資料となる日報を「1年未満で廃棄する」という運用にしていたことにあると私は考える。幸いにも、そのルール通りに運用されていなかったおかげで、防衛省も我々国民も、貴重な情報を失わずに済んだ。このように重要度が高い日報には、もっと長い保管期間を設定すべきであろう。

 民間企業の場合でも、業務日報を3年間保管するのが一般的である。特に根拠法令はないが、社員の勤怠(労働関係の重要書類)に関する記録の保管期間を定めた労働基準法を参考にし、3年保存としているケースが多いようだ。仮に、帳簿書類として扱うならば、税法の基準に照らして7年間保存することとなる。企業の日報にも、自衛隊の日報と同じく3つの意味合いがある。

 1つ目は、現場社員の現場の情報を吸い上げることで、マネジャーが適切な意思決定を行えるようにすることである。2つ目は、日報を分析して、その案件やプロジェクトを総括し、成功のノウハウや失敗の原因を抽出して組織知とするためである。3つ目は、例えば解雇した社員から訴訟を起こされた時に、その社員の勤務態度に問題があったことを示す証拠書類として使用したり、株主から業績不振の原因としてある事業が槍玉に挙がった際に、その事業の日報を分析してガバナンスが機能していたかどうかを検証したりするためである。3番目の意義を考えると、3年の保管期間では短いぐらいである。

 企業ですらこのような具合なのだから、国家の防衛という極めて重要な任務については、もっと日報を大切に取り扱うのが筋ではないかと思う。