40歳からのキャリアチェンジ―中高年のための求職・転職術40歳からのキャリアチェンジ―中高年のための求職・転職術
楠山 精彦

日本経団連出版 2005-03-01

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 私が前職の教育研修&経営コンサルティング会社にいた10年ほど前に、ミドル(40代)向けのキャリア研修を開発しようという話になって、ミドルのキャリア開発とはどういうものかを勉強するために買った本である。結局、ミドル向けキャリア研修は開発せず、この本もずっと本棚に眠ったままであったのだが、私自身が40歳に近づいてきたこともあって、自分事としてこの本を読んでみることにした。

 本書のユニークな点は2つある。1つ目は、転職サイトなどの求人情報(これを著者は「顕在市場」と呼ぶ)に注目するのではなく、求人情報を出していない企業(これを著者は「潜在市場」と呼ぶ)に直接アプローチするという点である。いくら労働力不足で売り手市場になっているとはいえ、中高年の転職市場に限定すれば、依然として求人情報は限られており、そこで勝負するとレッドオーシャンに巻き込まれる。そうではなく、潜在市場の中にいる企業に対して、「この人材は我が社の即戦力として使えそうだ」と思わせることができれば、激しい競争に巻き込まれずに済むというわけである。

 ただし、求人情報を出していない=人材が必要だとは思っていない企業に対して、自分が必要不可欠な人材だと納得させるためには、それだけの材料が必要である。2つ目のポイントとして、著者は職務経歴書を書く際に、単にこれまでの職歴をつらつらと並べるだけではなく、自分がその企業に転職したらどのような成果を上げることができるのかを「確約(目標)」として書くとよいと述べている。確約の書き方は、例えばこんな具合である。
 学卒後の通算29年の業務体験を通して研鑽蓄積した物流業務全般のプロフェショナルとして、貴社において以下の項目を達成、実現することにより、業績伸長に必ず貢献することをお約束いたします。
 (1)貴社の物流品質の抜本的な向上対策を策定し、推進展開することにより、貴社製品のトータルなイメージアップをはかります。
 (2)確立した独自の物流ノウハウを駆使して異業種との共配プランを策定することにより、貴社の運送経費の大幅な削減(削減目標年間1億円)をはかります。
 (3)貴社の支店、営業所、倉庫に独自の物流管理システムを導入し、大幅な人件費、事務諸経費の削減(削減目標年間2000万円)をはかります。
 多くのキャリア開発の研修や書籍では、まず自分の価値観を見つめ直し、これまでの職務経験から自分の強みを発見して、その価値観と強みを活かして何がしたいかというキャリアビジョンを描くのが一般的である。ただ、このやり方ではややもすると自分勝手なキャリアビジョンになりがちで、労働市場における需要サイドを見ていないという欠点がある。その点、本書の方法は、需要サイドも分析し、自分がこれから応募しようとする企業がどのような人材を必要としているのか、自分はその人材像にあてはまるのかを問うている点で優れていると言える。

 欲を言えば、その需要サイドの分析方法についてもう少し詳しい解説がほしいところであった。転職が決まった後に、
 会社の経営理念、経営方針、事業内容、会社経歴、取り扱い商品などに加え、できれば業界事情、業界動向、取引関係、そして人事制度、組織構成、人間関係などにまで精通すべきです。
とは書かれているが、これらの情報はできるだけ転職活動時に入手すべきであろう。HPから企業理念、企業概要、事業計画、事業内容、製品・サービスの内容、決算書などの情報を入手し、新聞や雑誌でその企業が取り上げられているページを切り抜き、時には多少お金をかけてでも信用調査会社から調査レポートを購入して、これらの情報を基に、応募しようとしている企業がどのような経営・業務課題を抱えているかを推測する方法が紹介されているとなおよかった。