インドの日系企業が直面した問題と対処事例インドの日系企業が直面した問題と対処事例

財団法人海外職業訓練協会 2008-03


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 少し古い書籍だが、インドに進出した日本企業が実際に直面した経営上の問題とその解決策(解決できなかった場合は教訓)が具体的に書かれている。インドはイギリスの植民地だったこともあり、資本主義と民主主義が根づいているとてっきり思い込んでいたのだが、実際にはちょっと違うようだ。インド独立の父マハトマ・ガンディーは、原初的な共産社会を目指していた。1947年にインドが独立した際には、社会主義と資本主義を組み合わせた混合経済体制で出発した。

 そのためか、インドの労働法には労働者を手厚く保護する規定がある一方で、使用者に非常に有利な規定もある。ちなみに、インドの労働関連法規は中央レベルだけで50以上に上り、州レベルのものも合わせると150を超えるという。

 <労働者にとって有利なこと>
 ・ディワリ(ヒンドゥ教で最も大きな祭り。10月または11月のどちらかに、2日間に渡り開催される)の際には、社員にボーナスを支給するのが慣例である。
 ・インドで最も過激な労働組合はCITU(Centre of Indian Trade Unions)である。
 ・大規模な企業の労働組合は上部政治団体と密接に結びついていることが多い。労働争議を政治の道具として利用されることがある。
 ・労働争議に共産党が介入し、事態の収拾がより困難になることがある。
 ・インドには労働争議のプロがおり、彼らが介入すると企業側の努力のみで解決することが非常に困難になる。
 ・従業員の解雇、レイオフ、事業所の閉鎖の際、50人以上を雇用する事業所は所管政府への届出が、100人以上を雇用する事業所は所管政府からの許可の取得が義務である。しかし、実際には政府からの許可はほとんど下りない。
 ・インド憲法は、労働者による経営参加の促進を定めており、これまでに経営参加の制度化が何度か試みられている(ただし、法制化には至っていない)。
 ・前述のように、インドの労働関連法規は非常に多く、日本では労使間の協議で決定するような事項も法律で細かく定められている。

 <使用者(経営者)にとって有利なこと>
 ・労働組合を設立する場合には、登録する労働者7名以上で、かつ当該組織・産業に従事する労働者の10%または100人以上のいずれか少ない人数の組織化が必要である。これにより、小規模の組織は労働組合が登録できなくなった(単純に考えれば、70人以上の組織でないと労働組合が作れない)。
 ・インドでは使用者の先制的なロックアウト(労働争議が発生した際に、使用者側が事務所、工場、店舗などの作業所を一時的に閉鎖(封鎖)して労働者の就業を拒み、賃金を支払わないことで、争議行為に対抗すること)が一定条件の下に認められている。
 ・インドでは、「承認組合」との誠実な団体交渉の拒否が不当労働行為とされている。しかし、インドでは少なくとも中央レベルにおいては組合承認に関する規定がない。このため、使用者は団体交渉の相手を恣意的に選ぶことができる。
 ・実は、労働法制が定める労働者保護の恩恵を受けるのは、就業人口の1割に上るかどうかという、インドのごく一部の労働者にすぎない。相対的に労働条件が劣っている小規模組織や未組織部門には適用されない労働法が多い。