こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント・トレーナー)のブログ別館。2,000字程度の読書記録の集まり。

品質管理


永原賢造、村上義司『図解でわかる部門の仕事 品質保証部』


(図解でわかる部門の仕事) 改訂版 品質保証部(図解でわかる部門の仕事) 改訂版 品質保証部
永原 賢造 村上 義司

日本能率協会マネジメントセンター 2010-01-23

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 言葉の定義を整理しておく。

 【品質】
 JIS Q 9000:2006
 本来備わっている特性の集まりが、要求事項を満たす程度。
 (注記1)用語“品質”は悪い、良い、優れたなどの形容詞とともに使われることがある。
 (注記2)”本来備わっている”とは、“付与された”とは異なり、そのものが存在している限り、もっている特性を意味する。

 社団法人日本品質管理学会(JSQC)
 製品・サービス、プロセス、システム、経営、組織風土など、関心の対象となるものが明示された、暗黙の、又は潜在しているニーズを満たす程度。
 (注記1)ニーズには、顧客と社会の両方のニーズが含まれる。
 (注記2)品質/質の概念を図に表すと、次の通り(※リンク先PDF p6)となる。
 (注記3)プロセス、システム、経営、文化・風土については「質」を使う場合が多い。

 【マネジメント、運営管理、運用管理(management)】
 <JIS Q 9000:2006>
 組織を指揮し、管理するための調整された活動。
 (注記)用語“マネジメント”が人を指すことがある。すなわち、組織の指揮及び管理を行うための権限及び責任をもつ個人又はグループを意味することがある。“マネジメント”がこの意味で用いられる場合には、この項で定義された概念“マネジメント”との混乱を避けるために、常に何らかの修飾語を付けて用いるのがよい。例えば、“マネジメントは……すること。”は使ってはならないが、“トップマネジメントは……すること。”を使うことは許される。

 【品質マネジメント】
 <JIS Q 9000:2006>
 品質に関して組織を指揮し、管理するための調整された活動。
 (注記)品質に関する指揮及び管理には、通常、品質方針及び品質目標の設定、品質計画、品質管理、品質保証及び品質改善が含まれる。

 【品質管理】
 <JIS Q 9000:2006>
 品質要求事項を満たすことに焦点を合わせた品質マネジメントの一部。

 【品質管理/品質マネジメント】
 <社団法人日本品質管理学会(JSQC)>
 (※JSQCでは「品質管理」と「品質マネジメント」を同列に扱っている)
 顧客・社会のニーズを満たす、製品・サービスの品質/質を効果的かつ効率的に達成する活動。
 (注記1)品質保証を効果的かつ効率的に達成するための活動が品質管理である。
 (注記2)顧客・社会のニーズは、製品・サービスの機能、性能、安全性、信頼性、操作性、環境保全性、経済性などの多岐にわたる。
 (注記3)製品・サービスの品質/質では、使用者、見込み客、ターゲット市場、社会を考慮する。

 【品質保証】
 <JIS Q 9000:2006>
 品質要求事項が満たされるという確信を与えることに焦点を合わせた品質マネジメントの一部。

 <社団法人日本品質管理学会(JSQC)>
 顧客・社会のニーズを満たすことを確実にし、確認し、実証するために、組織が行う体系的活動。
 (注記1)“確実にする”は、顧客・社会のニーズを把握し、それに合った製品・サービスを企画・設計し、これを提供できるプロセスを確立する活動を指す。
 (注記2)“確認する”は、顧客・社会のニーズが満たされているかどうかを継続的に評価・把握し、満たされていない場合には迅速な応急対策及び/又は再発防止対策を取る活動を指す。
 (注記3)“実証する”は、どのようなニーズを満たすのかを顧客・社会との約束として明文化し、それが守られていることを証拠で示し、信頼感・安心感を与える活動を指す。

 難しいのが「品質管理」と「品質保証」の関係である。本書では、
 品質保証は”顧客・社会のニーズを満たすことを確実にし、確認し、実証するために組織が行う体系的な活動”であり、この目的を効果的かつ効率的に達成するための手段が品質管理である。
と述べられている。とはいえ、生産管理に長く携わった中小企業診断士の方に話を聞くと、世の中では品質管理と品質保証がかなり錯綜しているらしい。

 その方の見解では、品質管理とは、製品の品質を確保するために、作業の方法や手順を決定し、製品の品質検査を担当することである。他方、品質保証とは、顧客・社会など自社のステークホルダーに向けて製品の品質レベルを可視化して、一定水準を満たすことを保証し、場合によっては顧客などからの苦情・クレームに応対することであるという。この区別に従うと、品質管理とは内部的な活動であり、品質保証は外部的な活動であると言える。

 ただし、外部に向けて自社製品の品質を保証するためには、内部に向けて品質方針や品質目標を設定し、それらを実現するためのプロセスを整備し、経営資源を組織化し、製品の品質を検査する必要がある。簡単に言えば、品質を工程・プロセスで作り込まなければならない。結局のところ、対外的・対内的の両方にわたって、品質に関わる事項全体を統括するのが品質保証ということになる。

 品質保証の目的の実現に向けて品質管理を実施する必要があり、具体的な手法として、いわゆるQC7つ道具など、統計的な手法や様々なメソッドがある。品質管理の各種ツールは、品質保証活動の一環として、工場の現場はもちろんのこと、組織内のあらゆる部署・社員が自分の持ち場で実施しなければならない。

 つまり、品質保証は品質管理を包括する概念であり、品質管理は品質保証を実現する一手段に過ぎないという関係になる。そう考えれば、Wikipediaの「品質管理」にある、「理論的には、品質管理部というものは存在せず、存在するのは品質保証部である」という記述の意味が解るような気がする。

木内正光『生産現場構築のための生産管理と品質管理―中小企業の生産現場を記号とデータで考える』


生産現場構築のための生産管理と品質管理-中小企業の生産現場を記号とデータで考える-生産現場構築のための生産管理と品質管理-中小企業の生産現場を記号とデータで考える-
木内 正光

日本規格協会 2015-03-11

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 「中小企業の生産現場を記号とデータで考える」という副題がついていたので、中小企業の生産管理・品質管理に関する本だと思ったのだが、中小企業診断士の試験にある「運営管理(オペレーション)」という科目の内容をさらに高度にした内容で、私にとってはちょっと難しかった。

 全体を通じて、QCDのうち、Cの削減とDの短期化に焦点が当たっているような気がした。本書で紹介されている「サーブリッグ分析(人間が行う手作業の最小単位であるサーブリッグを18種類定め、この18種類の作業動作の実態を分析し、業務の改善を図る)」、「人・機械分析図表」、「製品工程分析(素材から製品完成までのプロセスの変化を記号を用いて表現する)」、「運搬工程分析(製品工程分析における”運搬”を、さらに”移動”と”取扱い”に分けて分析する)」などは、人の動作や工程の無駄を省き、機械の稼働率を上げることが目的である。

 しかも、サーブリッグ分析では、例えば作業場間の移動を12歩から11歩に減らすとか、運搬工程分析では、右側に置いた仕掛品を手元に移動させる時の距離を10cm短縮するといった具合に、かなり細かい単位で効率化を目指す。

 大企業であれば、1つ1つの改善項目は小さくても、工場で働く何百人、何千人という社員が一斉にその改善に取り組むことで、スケールメリットが得られる。しかし、中小製造業の大半は、社員数が2桁に満たない。「平成24年経済センサス」によると、全国の中小製造業の事業所数492,528のうち、社員数が10名未満は341,883と、全体の約7割を占める。こうした中小(・零細)企業に精緻な分析をさせても、労力の割に大した効果が得られないだろう。中小製造業の場合は、もっと簡単に実践できる改善の方法を追求する必要がありそうだ。

 本書は品質管理と言いながら、実はQにほとんど触れられていない。本書の最後の方でようやく、顧客のニーズを製品機能に落とし込むための典型的な手法である「QFD(品質機能展開)」が登場するものの、なぜか「SLP(体系的レイアウト計画法)」と一緒の章で論じられており、つながりが不明である。

 QFDから導かれた機能や品質目標に基づいて、どのように工程を設計するのか?品質目標の実現に資する機械・工具をどうやって調達するのか?治具の製作はどうするのか?現場の人材をいかにして育成するのか?外部から調達する素材・部品に関して、調達の基準や検品の手順をどのように定めるのか?設計変更をめぐっては、設計・製造部門がいかに連携するのが望ましい姿なのか?これらの問いに答え、工程において”品質を作り込む”ことが求められる。

 ところで、品質管理の本というと必ず「QC7つ道具(チェックシート、パレート図、ヒストグラム、管理図、散布図、特性要因図、層別)」が登場するのだが、果たして中小企業で活用されているのだろうか?QC7つ道具は、統計的処理が含まれることからも解るように、大量生産を前提としている。しかし、中小製造業の多くは受注生産型だ。1個から注文を受けているところも少なくない。そういう企業には、QC7つ道具は馴染まないように思える。なぜなら、注文ごとに品質管理基準を変えて、ほぼ全ての製品を個別にチェックしなければならないからだ。

 自社で検査をきちんと実施していればまだいい方で、下手をすると検査をやっていないケースもある。私はここ数年で100社ぐらいの中小製造業を訪問させていただいたが、検査装置がない企業は決して珍しくない。こういう企業は、外部の試験機関に依頼したり、親会社の検品に頼ったりしているわけだ。検査装置はあっても検査室がない企業も多い。検査装置は周囲の環境に敏感に反応するため、正確な検査を行うためには検査室という形で隔離する必要がある。しかし、検査室が完備されているのは、私の感覚では1割にも満たない。
プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。これまでの主な実績はこちらを参照。

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、2,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
シャイン経営研究所HP
シャイン経営研究所
 (私の個人事務所)

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