こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント・トレーナー)のブログ別館。1,500字程度の読書記録の集まり。

商店街

ロバート鈴木『大不況時代の新消費者ビジネス』―商店街の個店が生業的経営から脱皮する方法はないか?


大不況時代の新消費者ビジネス大不況時代の新消費者ビジネス
ロバート 鈴木

日本経済新聞出版社 2009-08-20

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 中小企業庁の「新たな商店街政策の在り方検討会」の資料「中間取りまとめ(案)」(2017年6月7日)では、次の内容が報告されている。商店街における問題について複数回答で尋ねたところ、「経営者の高齢化による後継者問題(64.6%)」が最も多く、次いで、「集客力が高い・話題性のある店舗・業種が少ない、またはない(40.7%)」、「店舗の老朽化(31.6%)」、「商圏人口の減少(30.6%)」の順で多くなった。中小企業の経営者の年齢は、1995年時点では最頻値が47歳であったが、2015年では66歳と高齢化している。一方で、商店街における問題について「経営者の高齢化による後継者問題」と回答した商店街の90%は、後継者問題に対して何も対策を講じていない。

 中小企業診断士である私が時に商店街に対して辛口になることをご容赦いただきたいのだが、商店街の多くの個店は、後継者不足を問題視しながら、内心実は後継者に継がせることを本気で検討しておらず、自分の代で店舗をたたんでしまおうと思っているのではないかと推測する。そしてその原因は、彼らが持続的な成長で社会に貢献することを目的とする企業的経営ではなく、自分の家族が食べていければ十分という生業的経営を行っている点にあると考える。

 時々私は、個店の店主がビジネスをしていて本当に楽しいのだろうかと疑問に思うことがある。例えば飲食店を開いたとする。飲食店のキャパシティは決まっているから、どうしても売上高には限界がある。当然、店主の収入も一定額に収まる。それが5年程度なら我慢できるかもしれないが、20年、30年もの間収入が変わらないとすれば、さすがにうんざりするのではないだろうか?自分と同じ思いを子どもにさせるわけにはいかない。まして、第三者を巻き込むことなどできない。だから、せいぜい自分と配偶者が食べていければ十分であると保守的になる。こうした心理的躊躇が、後継者難という問題を引き起こしているように思える。

 私が考える理想の企業とは、長く勤めることができて、年々ちゃんと給与が上がっていく企業である。そのためには、従来の生業的経営から発想を転換しなければならない。ただし、単なるチェーン店化はこの問題の解決にならない。チェーン店化しても、社長と店員の間に店長とせいぜいエリア長というポストができるぐらいであり、長いキャリアパスを設定することができず、ゆえに長期にわたる段階的な給与アップも見込めない。それに、チェーン店化すればするほど、どの商店街にも同じ店舗があって代わり映えしなくなるという別の問題を引き起こす。

 こうした問題を解決する1つのヒントを本書の中に見つけることができた。アメリカでは数多くのチェーン店が発達しているが、チェーン店の数が一定数に達すると成長が鈍化し、身動きが取れなくなるというジレンマがある。そこで、1業態多店舗ではなく、マルチフォーマット化を目指す企業が現れている。例えば、シカゴを基盤とする外食企業レタス・エンターテイン・ユー社は、1業態を50店舗チェーン化するのではなく、50業態を1店舗ずつオープンさせようという目標を掲げて業態開発を行っている(本書が出版された2009年当時)。

 ここからは実現可能性をまだ十分に検討していないアイデアになるが、次のような経営はどうだろうか?まず、20代で起業した社長が、20代の社員とともに、10~20代をターゲットとした飲食店Aを開発する。社長が30代になると、飲食店Aは新しく入社してくる20代社員に任せ、30代の社員は30代をターゲットとした飲食店Bを開発する。社長が40代になると、飲食店Aは新しく入社してくる20代社員に、飲食店Bは30代になった社員に任せ、40代の社員は40代をターゲットとした飲食店Cを開発する。社長が50代になると、飲食店Aは新しく入社してくる20代社員に、飲食店Bは30代になった社員に、飲食店Cは40代になった社員に任せ、50代の社員は50代をターゲットとした飲食店Dを開発する。つまり、社員の年齢が上がるにつれて可処分所得が多い層をターゲットとし、付加価値の高い飲食店を開発するわけだ。すると、社員の給与を段階的に引き上げることも可能となる。

 あるいは、ターゲット顧客を例えば30代~40代に固定し、社員の年齢が上がるにしたがって利幅の大きい製品・サービスを扱う業態にシフトしていくという方法もある。具体的には(極端な話だが、)社員が20代の頃は飲食店で働き、30代の頃はスーパーマーケットで働き、40代の頃は電化製品店で働き、50代の頃は自動車ディーラーで働く、といった感じだ。

 もちろん、中小小売業が複数の業態を開発することには大きな困難も伴う。例えば、業態A~Dが同じ飲食店であったとしても、業態によってオペレーションは全く異なるものになり、経営を非効率にする恐れがある。また、異なる業態の投入によって、既存業態のブランドが毀損されるリスクもある。扱う製品・サービスが異なる業態を複数持つ場合には、さらに経営が混乱するかもしれない。社員の能力開発も容易ではない。ただし、それを乗り越えていけば、商店街の個店は生業的経営を脱して企業的経営へと変貌し、社内にいる複数の社員の中から後継者を見つけることもできるようになるだろう。

日本ショッピングセンター協会SC経営士会『SC経営士が語る新・ショッピングセンター論』―「築地現象」で商店街は生き残れるか?


SC経営士が語る 新・ショッピングセンター論SC経営士が語る 新・ショッピングセンター論
日本ショッピングセンター協会SC経営士会

繊研新聞社 2013-12-13

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製品・サービスの4分類(①大まかな分類)

製品・サービスの4分類(②各象限の具体例)

製品・サービスの4分類(③具体的な企業)

 上図についてはブログ本館の記事「「製品・サービスの4分類」に関するさらなる修正案(大分完成に近づいたと思う)」をご参照いただきたい。ショッピングセンター(SC)は元々商店街を模して造られたものであり、商店街と同様に左下の<象限①>に属すると考える。SCが増えたのは、日米構造問題会議(その名の通り、日本の産業構造の問題について、日米間で協議する会議)において、アメリカが日本の財政投融資を利用して郊外に道路を通すよう提案し(道路工事にはアメリカ企業が参加)、その結果郊外型のSCの進出が相次いだためである。

 現在、SCは全国に約3,000あり、売上高は小売業全体の約20%にあたる約28兆円となっている。一方、商店街については正確な統計が存在しないのだが、中小企業庁によれば、2014年時点で12,681とされる。1商店街の平均店舗数を50店舗、1店舗の平均売上高を3,000万円(日商10万円×営業日300日)とすると、商店街全体の売上高は約19兆円となり、SCを下回る計算である。

 「マイルドヤンキー」という言葉が流行ったように、特に地方では、若い家族連れが週末になると車で郊外のSCに出かけ、日常生活に必要なものをSCで全て調達して、1日中SCに滞在するというケースが増加している。このままでは、とてもではないが商店街には勝ち目がない。私は本ブログやブログ本館で商店街に対して批判的なことを書いているので、私のことを商店街の敵のように感じている方もいらっしゃるかもしれないが、ブログ本館の記事「DHBR2018年3月号『顧客の習慣のつくり方』―「商店街に通う」という習慣を作るためにはどうすればよいか?、他」で書いたように、商店街の存続を願っている人間の1人である。

 本書を読んで、商店街が生き残るためのヒントが1つ思い浮かんだ。それは「敢えて何もしない」ということである。もちろん、商圏ニーズをきめ細かく吸い上げて、地元の住民が必要とする商品やサービスを提供し、顧客に対してちょっとした特別な体験を味わってもらうというマーケティングの基本は忘れてはならない。敢えて何もしなくても商店街が生き残れると思うのは、最近のSCが左下の<象限①>から左上の<象限③>に移行しようとしているからだ。例えば、SCの中に大型のシネコンを入れるのはその一例である。SCが高付加価値路線を追求し、高級ブランドショップが増えれば、<象限①>から<象限③>へと移る。

 <象限③>の特徴として、私は次のようなことを書いてきた。<象限③>はイノベーションの世界である。イノベーションとは、市場にニーズが存在しないものを創造することであるから、伝統的な市場調査が役に立たない。そこで、イノベーターは自分自身を最初の顧客に見立て、「自分ならこういう製品・サービスがほしい」と構想する。そして「自分がこれをほしがっているなら、世界中の人も同じようにほしがるはずだ」と考え、イノベーションを全世界に普及させようとする。

 イノベーションに強いのはアメリカである。そして、アメリカは一神教の国だ。イノベーターは唯一絶対の神との間で、自分が考案したイノベーションを全世界に普及させることを契約する。「エバンジェリスト(伝道者)」となって「布教」させると言ってもよい。ただし、その契約が正しいかどうかを知っているのは神だけである。契約が正しければイノベーションは世界中で爆発的にヒットする。

 だが、イノベーションとは、元々市場ニーズがなかったところにニーズを人為的に作り出したものであるから、イノベーションの流行は一過性である。爆発的にヒットしたイノベーションのうち、人々の必需品として受け入れられ<象限①>や<象限②>に移行するものもあるが(例えばPC)、多くは流行が過ぎ去れば急激に衰退する。そこで、イノベーターは自社株買いをして株価を釣り上げながら企業規模を縮小したり、自社を他の企業に売却したりしてエグジットを図る。その過程でイノベーターは巨額の富を手にし、後は悠々自適の生活を送る。

 最近のSCは、「雑貨的な買い物」を目指しているという。顧客が無目的でSCにやってきて、まるで雑貨を購入するかのように洋服などを購入する。必需品だから買うのではなく、「直観的にほしい」と思ったから買うのである。こうなると<象限①>ではなく<象限③>の買い物になる。
 雑貨的な食品やコスメティック、雑貨感覚で買えるアパレル、雑貨と本・靴、雑貨っぽい眼鏡などをフロアにゆるく配置し、滞留時間を長くする。すると買い上げ点数が上がり、客単価が上がる。
 おそらく、こうした「雑貨的な買い物」は、ヒットすれば爆発的に売上が上がるだろうが、流行が過ぎれば一気に衰退すると思われる。こうしたテナントとの契約に適しているのが「定期借家契約」であり、最近のSCではこれが増加しているという。普通借家契約の場合、賃借人を保護する目的から、賃貸人は簡単に契約を解除することができない。これに対して、定期借家契約の場合は、契約期間が終了すれば、賃借人を追い出すことが可能である。流行が去った雑貨的なテナントをSCから退却させるにはうってつけの契約形態である。
 定期借家契約の導入は、常に鮮度の高いMDを志向するディベロッパー、たとえば大都市圏でヤングをターゲットにするファッションビルなどを経営するディベロッパーにとっては、歓迎すべき制度改正であったと思われる。
 こうして、SCが<象限③>を志向してくれれば、商店街は自然とSCと差別化される。これと似たような事例として、東京の築地市場を挙げることができると思う。築地市場は、(もちろん経営努力をしていると思うが)昔ながらの商売のやり方をほとんど変えていない。それでも生き残った、いやむしろより多くの顧客を誘引したのは、近くにある銀座が高級化し、<象限①>から<象限③>に移行したためである。築地市場は、変えないことで差別化に成功した一例である。私はこれを勝手に「築地現象」と呼んでいる。商店街も、前述した必要最低限の経営努力を行い、普通に商売を続けていれば、高級路線に走ったSCでは受け入れられなくなったマイルドヤンキーなどが回帰してくるのではないかと思う。

東京都中小企業診断士協会商店街研究会『TOKYO+(プラス)ひときわ輝く商店街』―息をするように補助金を使う商店街を成功事例に使うのはいかがなものか?


TOKYO+(プラス)ひときわ輝く商店街―東京オリンピックに向けた、インバウンド対応からIT導入、空き店舗対策TOKYO+(プラス)ひときわ輝く商店街―東京オリンピックに向けた、インバウンド対応からIT導入、空き店舗対策
商店街研究会

同友館 2017-09-01

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 東京都中小企業診断士協会商店街研究会の『TOKYOキラリと光る商店街』の続編。「TOKYO+(プラス)」ということで、香川県の高松丸亀町商店街のような東京都外の事例も含まれている。本書は、
 商店街を取り巻く環境が厳しくなり、多くの商店街では「衰退」を感じ、組合員の賦課金・会費で何とか活動を行っている状況にある。その中で、自主事業・自主財源を柱に「繁栄している」と言い切る「モトスミ・ブレーメン通り商店街」の事例を取り上げる。
と威勢のよい文章でスタートする。ところが、そのモトスミ・ブレーメン通り商店街の会計の内訳を見てみると、
 平成27年度の総事業費は9,390万円、収入内訳は、事業収入4,500万円(48%)、賦課金収入2,300万円(24%)、補助金収入2,600万円(28%)となっている。
のである。例えて言うならば、ショッピングセンターの運営会社が、テナントからの賃料収入だけではやって行けず、売上高の約4分の1を補助金に頼っているようなものである。これで「自主事業・自主財源を柱に『繁栄している』」と言い切れることが私には理解できない。商店街は補助金がもらえることが当たり前になっていて、感覚が麻痺してしまっているのではないだろうか?

 本書には、補助金を利用している例が非常に多く登場する。
 (※「店主のこだわり講座」は、)2店舗合同で開催するため、開催場所は商店街の組合事務所を使用することになった。事務所は北区の補助金を活用し、前年度にトイレの改装や椅子・机の新調を済ませ、イベント会場にも使えるようにリニューアルしていた(※東十条銀座商店街)。
 世田谷区には、まちバル・まちゼミのイベント開催に対する補助金がある。各商店街は年間2回まで、まちバル・まちゼミのいずれかを行う際に対象経費の半分(上限額25万円)の補助を受けることができる。
 (※非接触型ICポイントの導入経費は、)ICカードが3万枚(@246円)492万円、本部設置分パソコン・ポイント管理ソフト・専用サーバー等の購入費用が500万円、その他経費が574万円で、国の補助金3分の2、市の補助金6分の1、借入6分の1で賄った(※モトスミ・ブレーメン通り商店街)。
 しもきた商店街の導入した(一般型)免税サービスでは、各店舗に免税専用端末を設置し、その場で免税での販売を行い、必要書類を作成することで免税手続きが完結できることから、外国人観光客と各店舗の双方にとって手続きが容易であり、各店舗ではランニングコストが抑えられるメリットもある。しかも今回の商店街での免税専用端末の導入費用は、商店街インバウンド促進支援事業(※補助金のことである)の対象にできたことから初期費用の負担も軽減された。
 東京都広域支援型商店街事業とは、東京都商店街振興組合連合会が、東京都の支援を受けて実施している商店街支援事業の1つで、東京都内の市区町村の枠を超えた広域的な商店街事業に対する助成制度である(※過去の採択事業には、谷根千商店街、文京区・台東区・墨田区・江東区の商店街連合会の連携、葛飾区・江戸川区の商店街連合会の連携などがある)。
 最後の「東京都広域支援型商店街事業」は、目的がいまいちよく解らない。商店街を連携させるということは、連携する商店街が共通の顧客をターゲットとし、共通の買い物体験を提供する必要がある。だが、複数の区をまたいで商店街が連携するとなると、ショッピングセンターよりもはるかに広域となる。ショッピングセンターでさえ、各テナントとの間でターゲット顧客に関する認識を合わせ、顧客に提供すべき買い物体験、経験価値とはどんなものかを共有するのは至難の業である。それを、複数の区の商店街の間でやることがどれだけ大変なことなのか、行政の人は解っていないのではないかと思う。そして、もっと根本的な問題として、商店街とは基本的に地元密着型であり、例えば文京区の商店街を利用する人で、文京区が台東区と連携しているからという理由で台東区の商店街を利用しようとする人はおそらく少数派であるということである。

 それにしても、これだけ補助金の事例が登場すると食傷気味になる。補助金の本来の役割とは、優れた組織能力や経営ノウハウがありながら、一時的な経営難に陥って金融機関からの借り入れが難しくなってしまい、再起を期して変革に挑む企業にリスクマネーを提供することである。このように書くと語弊があるかもしれないが、補助金とは生活保護の企業版である。生活保護については、受け取るのが恥ずかしいと感じる人が多く、捕捉率の低さが問題になっている。だが、こと補助金になると、「タダでもらえるものはもらっておこう」とばかりに、恥も外聞もなく補助金に飛びつくケースが少なくないように思える。その1つが商店街である。商店街の関係者と話をしていると、「補助金が出るならその取り組みをやってもいいのだが・・・」と簡単に口にする人が多いことに驚かされる。

 生活保護の場合、憲法の生存権(25条)が根拠になっており、国民に簡単に死なれては困るから、生活困窮者には何としてでも生活保護を届けなければならない。一方、企業は自由市場社会に生きており、経営が悪い企業は死んでも構わないことになっている。本来は死んでも構わない企業に補助金で生き延びるチャンスを与えようというのだから、その要件は生活保護に比べると自ずと厳しくなる。それなのに、補助金がもらえることが当然のように思われては困る。

 引用文の事例はいずれも、本来は個店や商店街振興組合の利益によって賄うべき性質のものである。個店や商店街振興組合は、将来的に必要となる設備更新、設備投資、マーケティングへの投資、製品・サービス開発のための投資をカバーできるだけの利益を上げなければならない。経営学者のピーター・ドラッカーは、利益は将来のコストであると言った。そして、コストをカバーできない経営は経営ではないとも言った。ということは、本書の個店や商店街振興組合は、残念ながら経営ができていないということになる。経営ができていない組織に補助金が流れ続ければ、国民からは延命だと見られても仕方がない。

 さらに悪いことに、こういう補助金申請の支援をすることが中小企業診断士の役割だと思っている人が結構いる。先日、ある診断士の人が、顧問先の中小企業を補助金漬けにしておいて、経営革新計画の承認を受けたことを自慢げに話していたのだが、何を勘違いしているのかと強い疑問を感じた。中小企業庁が公表している「がんばる商店街30選」の中にも、診断士の支援によって補助金を受けている商店街が含まれているに違いない(それに気づくと嫌気がするので、私は敢えてこの30選を読まない)。診断士の役割は、個店と商店街が文字通り自主事業・自主財源で繁栄するように手助けすることであるべきだ。

東京都中小企業診断士協会商店街研究会『TOKYOキラリと光る商店街』―びっくりするほど「商圏の顔」が見えない事例集


TOKYOキラリと光る商店街―専門家が診るまちづくり成功のポイントTOKYOキラリと光る商店街―専門家が診るまちづくり成功のポイント
東京都中小企業診断士協会商店街研究会

同友館 2013-03-01

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 私は常々、中小企業診断士による商店街支援に不満を抱いている。診断士による商店街支援と言えば、通行量調査(これを1日1,000~2,000円という薄謝で仲間の診断士にやってもらっている)、イベントの原資となる補助金の申請支援がメインであり、最近では「商店街支援の三種の神器」と言われる「街コン、街バル、街ゼミ」の実施をサポートすることが多くなっている。

 だが、コンサルティングの王道を行くならば、まずは商店街の業績を食品、日用品、被服、その他物販、理容・美容、医療、その他サービスなどの部門ごとに集計するところからスタートしなければならない。そして、商圏の部門別市場規模を推定し、商店街がどの程度のシェアを獲得できているのかを計算する。その上で、市場シェアが低い部門について、その原因を分析する。現在、商店街を利用している顧客の不満や要望は何なのか?競合他社はどこなのか?競合他社は商店街に比べてどのような点で優れているのか?競合他社を選択する(商店街にとっての)非顧客はなぜその店舗を選択するのか?非顧客が商店街に足を運ばないのはなぜなのか?といったことを徹底的に調査する。

 本書には25の事例が掲載されているが、顧客ニーズを調査したと書かれていたのは、下高井戸商店街と東深沢商店街の2つだけだった。市場調査をやっていないものだから、どの商店街も独善的に自分が売りたいものを売ろうとする。そのためにイベントや街ゼミなどを開催する。そして、そのような取り組みに、我々の貴重な税金が補助金として流れていく。こうした動きがいかに危険であるかは、ブログ本館の記事「中小企業診断士が「臨在感的把握」で商店街支援をするとこうなる、という体験記」、「『致知』2018年1月号『仕事と人生』―「『固定型』の欧米、『成長型』の日本」が最近は逆になっている気がする」で書いた。

 もちろん、売りたいものから出発するアプローチが100%間違っているとまでは言わない。戦略立案の方法には大きく分けて外部環境アプローチと内部環境アプローチの2つがあり、売りたいもの(≒強み)から出発するのは後者に該当する。ただし、後者のアプローチで使われる代表的な手法である「VRIO」フレームワークを見れば明らかなように、強みは「市場・顧客にとって価値がある(Valuable)」ものでなければならない。すなわち、内部環境アプローチと言いながら、結局は外部の視点を入れる必要があるのである。

 本書に登場する事例は市場分析が不完全であるから、自ずと競合分析も甘くなる。例えば、商店街で使えるポイントカードの事例が紹介されているが、烏山駅前通り商店街は35,000円の買い物で500円分(ポイント還元率約1.43%)、下高井戸商店街は36,000円の買い物で500円分(同約1.39%)、池袋本町の4商店会は40,000円の買い物で500円分(同1.25%)のポイントが付与されると言う。確かに、TポイントカードやPontaカードは100円の買い物で1円(同1%)であるから、それに比べれば還元率は高い。だが、TポイントカードやPontaカードは加盟店の数が商店街の比ではないため、簡単にポイントがたまる。それよりも致命的なのは、大手スーパーのクレジットカードは200円の買い物で3円(同1.5%)を付与するものも多く、それに比べると商店街は見劣りするという点である。

 私は、どうにかして商店街をショッピングセンターのように経営支援できないものかと考えている。ショッピングセンターは商店街を模して造られたものであるが、今やその経営手法は商店街を大きく凌駕している。ショッピングセンターでは、各テナントは業績データを毎月本部に送り、本部はテナントに対して経営支援を行っている(ショッピングセンターの賃料収入は、テナントの売上高と連動している部分が大きいため、本部としてはテナントの業績を改善しようとするインセンティブが働く)。これに対して、商店街では、「加盟店は組合に対して業績データを送るように」と言った段階で猛烈な反対に遭うだろう。

 組合の介入を嫌がるのならば、せめてそれぞれの個店が顧客とじっくり向き合って顧客のニーズや自店の強みを把握し、近隣の競合他社に積極的に足を運んで自店との違いや(自店にとっての)非顧客の言動を観察してほしいものである。診断士もそのような個店の自立的な活動を支援するべきだと考える。

新雅史『商店街はなぜ滅びるのか―社会・政治・経済史から探る再生の道』―既得権益を守るだけの規制はかえって外部からのイノベーションを誘発する


商店街はなぜ滅びるのか 社会・政治・経済史から探る再生の道 (光文社新書)商店街はなぜ滅びるのか 社会・政治・経済史から探る再生の道 (光文社新書)
新 雅史

光文社 2012-05-17

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 商店街が衰退した理由の1つとして、郊外に大型のショッピングセンターが乱立したことが挙げられる。ショッピングセンターの出店を促した正体は、財政投融資である。1980年代以降、日本とアメリカとの間の貿易摩擦問題を解決するために、日米構造問題協議が開催されるようになった。これはアメリカと日本が相互に経済上の構造問題を指摘し合う政府間協議のことであるが、実質的にはアメリカ政府が日本政府に対して圧力をかける交渉であった。

 バブル崩壊後のこの協議において、アメリカは、日本の社会資本が欧米より貧弱であると指摘し、内需を刺激するために財政投融資の活用を要求してきた。実際にはGDP比でアメリカの4倍にも上る公共事業を行っているのに、アメリカはもっと道路などのインフラを作れと主張してきたのである。その資金源とされたのが財政投融資である。日米は共同で公共事業を企画し、アメリカは関西国際空港、東京臨海部(ウォーターフロンティア)開発などに自国の企業を参画させた。

 それよりも問題なのは、地方に財政投融資がばらまかれたことによって、中心街からかけ離れた場所に国道アクセス道路が数多く造られたことである。1990年代から広がるショッピングモールは、国道アクセス道路沿いに数多く建設された。しかも、政府は規制緩和によって中小小売業が苦境に陥ると、その小売業を救済するための予算を確保するという、一種のマッチポンプを作り上げた。

 ただ、私が本書を読んで感じたのは、既得権益を守るだけの規制はかえってイノベーションを誘発するということであり、商店街を規制によって守ろうとした結果、かえって様々な流通革命が起きたということである。例えば、戦前に成立し、GHQによって廃止されたがその後復活した百貨店法は、1法人ごとの売り場面積を基準に出店を規制するものであった。これに対して、大手スーパーは、規制をかいくぐるため、売り場ごとに別の法人を作り、大型店舗を次々と出店していった。その筆頭が中内功の率いるダイエーである。

 そこで政府は、百貨店法に代えて大店法を制定した。大店法は、規制の抜け道を防ぐために、法人に対する規制を止めて、建物ごとの規制へと切り替えた。具体的には、東京と政令指定都市で3,000平方メートル以上、地方都市で1,500平方メートル以上の売り場面積を持つ大型小売店舗の新設・増設に対する規制を新たに設けた。この法律によって、規制から逃れていた擬似的な百貨店やスーパーマーケットが新たな規制の対象となった。

 イトーヨーカドーやダイエーといった大手小売資本は、大店法の存在によって、大都市を中心として出店スピードが急速に落ちた。そこで彼らは、それまでの出店戦略を根本から変更させた。具体的にはコンビニエンスストアの出店を加速させたのである。コンビニは大店法の規制に引っかからない小型店である。

 また、コンビニを直営ではなく、フランチャイズチェーンという形態にしたのもポイントである。大手小売資本がフランチャイズを選択したのは、小売商業調整特別措置法という法律の存在がある。この規制によれば、大規模な小売資本が食品を販売するには近隣の商業者の承諾を得る必要があった。そのため、大規模小売資本が直営でコンビニを出店するにはあまりにも労力がかかるから、コンビニの店主を募集したというわけである。さらに、商店街側にもコンビニを受け入れる素地が整っていた。この頃、既に経営難に陥っていた零細小売業は後継者不足という問題にも直面していた。コンビニのオーナーになれば、本部から経営ノウハウの指導を受けられると同時に、後継者問題も解決しやすくなる。

 規制とは政治による妥協の産物であるから、第三者(将来現れるであろう第三者も含む)を完全に排除する規制を作るのは困難である。規制にはどうしても”穴”が残る。イノベーターはその穴を巧みに突いて、既存のプレイヤーを脅かす新しい事業やビジネスモデルを構築する。そして、一旦規制の穴を突かれて新しいタイプのプレイヤーの登場を容認すると、なし崩し的に規制緩和が起きることがある。スーパーやデパートで酒の販売が解禁されたのは解りやすい一例だろう。我々は既に直観的に理解していることであるが、既得権益を守るだけの規制は、結局のところ既得権益を弱体化させる方向に働いてしまう。規制で守るべきなのは企業ではなく、顧客・消費者である。

 ただ、ここで興味深いことに、顧客や消費者を過度に保護する規制もまた、イノベーションを誘発すると指摘する論者がいる。『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2016年10月号「既存企業の4つの選択肢 『なし崩しの規制緩和』にいかに対応するか」(ベンジャミン・エデルマン、ダミアン・ジェラディン)では、UberやAirbnbに触れながら、次のように述べられている。
 消費者保護の必要性がやや低く、消費者が適切な知識を容易に入手できるとすれば、その業界は過去の規制を強行突破しようとするプラットフォームの脅威にさらされている。特に影響を受けやすいのは、規制によるシステムによって寡占状態が生じ、認可事業者が価格競争から守られ、特定の顧客の関心事迅速に対応しなくても済む場合である(よくあることだ)。
ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2016年 10 月号 [雑誌] (プラットフォームの覇者は誰か)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2016年 10 月号 [雑誌] (プラットフォームの覇者は誰か)

ダイヤモンド社 2016-09-10

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 行政は、往々にして知識、情報、能力の不足ゆえに弱い立場に置かれている顧客や消費者を保護するために、よかれと思って規制を作る。ところが、顧客や消費者に一定のリスクを受け入れる覚悟がある場合や、顧客や消費者の知識や能力のレベルが上がっている場合には、規制をかいくぐってイノベーションを引き起こす者が出現する可能性があることを示唆している。

 これはまだ私の中で十分に煮詰まっていないのだが、結局のところ「よい規制」とは、保護に焦点を置くのではなく、ブログ本館の記事「『世界』2017年11月号『北朝鮮危機/誰のための働き方改革?』―「働き方改革」を「働かせ方改革」にしないための素案」でも書いたように、顧客や消費者がよき市民、善良な市民として市場や社会で振る舞うことを動機づけるような規制ではないかと思う。
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プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都豊島区を拠点に、東京23区で活動する中小企業診断士(コンサルタント・トレーナー)。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、1,500字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
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◆個人事務所
 「シャイン経営研究所」◆ シャイン経営研究所ロゴ

(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)
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