設備投資計画の立て方 (日経文庫)設備投資計画の立て方 (日経文庫)
久保田 政純

日本経済新聞社 1999-03

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 ブログ本館の記事「中小企業診断士の試験&実務補習とコンサルティング現場の5つの違い(1)(2)」で、中小企業診断士は財務を苦手にしてはいけないと書いたが、かく言う私も決して財務が得意なわけではない(苦笑)。改めて設備投資における投資回収の計算について勉強したいと思い、本書を読んだ。

 本書では、設備投資が回収できるかどうかを判断する方法として、主に回収期間法、DCF法、ROIを用いる方法、ROAを用いる方法という4つの方法が解説されている。回収期間法とDCF法では、キャッシュフローを投資金額で割る。回収期間法の場合は年間キャッシュフローを、DCF法の場合は将来的に発生が見込まれる累積キャッシュ・フローを現在価値に割り戻した額を割る。

 両者のキャッシュ・フローにの考え方には、以下の通り微妙な違いがある。
 年間キャッシュ・フロー
 =税引後利益+減価償却費-社外分配金(配当+役員賞与)・・・①
 キャッシュ・フロー=営業利益+減価償却費-法人税等・・・②
 式だけを見ても覚えにくいので、このように考えてはどうだろうか?企業は設備投資の際に外部から資金を調達するが、資金調達にはコストがかかる。金融機関からの借入金に対しては支払利息が発生するし、株主には配当を還元しなければならない。これらを合わせて資本コストと呼ぶ。

 また、企業は社会に存在するだけで、社会的なコストを発生させる。具体的には、企業の経済活動を支える物理的・制度的インフラの整備、競争ルールの徹底、紛争の解決処理、不当に競争が歪められた場合の是正措置などに要する行政コストである。これらのコストが法人税として徴収される。

 資本コストや法人税は、企業がいくら利益を出そうと必ず負担しなければならない。よって、投資額の返済原資となるのは、営業利益から資本コストと法人税を除いた金額となる。ただし、営業利益を計算するにあたってコストとして扱った減価償却費に限っては、実際には社外に流出したお金ではないため、営業利益に上乗せして返済の原資に充てることができる。①の式は、次のように言い換えるとよい(役員賞与の扱いだけはよく解りませんでした・・・)。
 年間キャッシュ・フロー
 =営業利益+減価償却費-(支払利息+配当+法人税等)・・・①’
 ①(①’)と②の違いは、キャッシュ・フローを計算するにあたって、支払利息と配当を引くか引かないかという点である。DCF法の場合、将来のキャッシュ・フローを一定の利率で割り引いて現在価値に換算する。その一定の利率として、資本コスト(WACC:加重平均資本コスト)が用いられるのが一般的である。キャッシュ・フローは資本コストによって割り引かれるのだから、割り引かれる前のキャッシュ・フローから支払利息と配当金を除いてしまっては都合が悪い。したがって、②は①と異なり支払利息と配当を控除せず、上記のような式となる。

 ROIとROAは次のように計算される。
 投下資本利益率(ROI)
 =予想収益(年平均)÷投下資本
 =予想償却後利益(年平均)÷(設備資金+増加運転資本)
 総資産収益率(ROA)
 =利益÷(投資前の使用総資産+設備投資額+増加運転資本)
 増加運転資本とは、月商増加額×(売上債権回転期間+棚卸資産回転期間)によって求められる。ROIとROAに関してよく解らなかったのは次の2点である。1点目は、分母に増加運転資本を加えなければならない理由である。営業利益をベースに返済すべき設備投資額に対して、運転資本は日々の業務の中で返済すべき性質のものである。本書の著者は、それでも増加運転資本を分母に入れるべきだと主張していたが、十分に理解できなかった(汗)。

 2つ目は、ROIとROAをそれぞれ求めることの意味である。投資が回収できるかどうかを判断するためであれば、ROIを計算すれば足りるはずだ。それに加えてROAも計算しなければならないのはなぜだろうか?本書にはこの点があまり説明されていないと感じたが、私なりに考えた結果、次のような結論に至った。すなわち、ROIが設備投資前のROAを上回れば、その設備投資を実行する(設備投資後のROAは改善される)。逆に、下回る場合は投資しない(仮に投資すると、ROAが悪化する)。この判断をするために用いるのではないだろうか?

 ところで、やや話は逸れるが、「平成27年度補正ものづくり・商業・サービス新展開補助金」では、5か年の事業計画の「根拠」を明示するようにと、公募要領の中で明確に指示された。逆に言うと、平成24年度補正予算から始まったものづくり補助金は、平成26年度補正予算までの3年間、事業計画の数字の根拠を要求していなかった。これは何とも恐ろしい話である。投資回収の見込みがあるかどうか十分に確認せずに、1社あたり最高で1,000万円という補助金を支払っていたわけだ。これでは世間からバラマキと批判されても仕方がない。