こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント)のブログ別館。1,500字程度の読書記録の集まり。

国際政治

佐藤優『甦るロシア帝国』


甦るロシア帝国 (文春文庫)甦るロシア帝国 (文春文庫)
佐藤 優

文藝春秋 2012-02-10

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 池上彰氏と佐藤優氏の対談をまとめた『新・戦争論―僕らのインテリジェンスの磨き方』のあとがきで、池上氏が佐藤氏のことを「バケモノ」と評していた。月に70本の連載を抱えながら、定期的に書籍を出版し、さらに講演活動もこなすというのだから、まさにバケモノである。

新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方 (文春新書)新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方 (文春新書)
池上 彰 佐藤 優

文藝春秋 2014-11-20

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 『甦るロシア帝国』を読むと、さらにそのバケモノぶりが解る。同志社大学時代には神学を研究する一方でマルクス主義を学び、外務省に入省後30代でソビエト連邦に渡ると、モスクワ大学においてロシア語で神学の講義を行ったそうだ。私みたいに大学時代に遊び呆けてしまい、就職後もふらふらと仕事を変えている人間からすると、単線的に特定の分野を極めている人は羨ましく思える。私のように色々と回り道をしてしまった人間が、こういう人とまともに勝負するには一体どうすればよいのだろうかと考え込んでしまう。

 私が政治関連の書籍を読むようになったのは最近のことであるから、全くもって浅学なのだけれども、政治の本には少なからぬ不満を抱いていた。一応私も経営コンサルタントの端くれであるから、物事をフレームワークに落とし込むという作法に慣れ親しんでいる。ところが、政治の場合はフレームワークが提示されない。特に国際政治になると、著者がどういうロジックで主張を組み立てているのか丁寧に追いかけなければ話が理解できない。それが個人的に少し嫌であった。

 だが最近は、政治にフレームワークがないのは、至極当然のことだと思うようになった。ブログ本館の記事でも示したように、世界は「言語→歴史→宗教→道徳→政治→社会→経済」という構造を持つ。経営は経済の中の下部に位置しており、世界全体から見れば末端の営みである。その末端は、それほどの知識や経験がない人にも理解できるように、単純化する必要がある。だから、フレームワークを用いた思考が有効であると言える。

 ところが、政治は経営に比べると上位の営みである。政治は、あらゆる手段を講じて国民の生命・財産を守らなければならない。国外に目を向ければ、自国の領土や国民を狙うならず者が少なからず存在する(領土であれば中国、国民であれば北朝鮮など)。彼らの手から自国を防衛するために政治は戦略を立てるのだが、その戦略がシンプルすぎると、みすみす敵に手の内を見せることになる。フレームワークが提供する予測可能性は危険なのである。

 企業戦略の場合も、フレームワークが単純な戦略を提示すれば、競合他社につけ込まれるのではないか?という反論もあるだろう。確かに、企業は日々激しい競争を繰り広げている。ところが、大局的に見ると企業は共存共栄を目指すものだ。競合他社を永遠に市場から駆逐しようとは考えない。とりわけ、和を重んじる日本企業はこの傾向が顕著である。だから、フレームワークが示す単純な戦略が競合他社に知れ渡っても、致命的な痛手とはならない。むしろ、共存共栄のために、戦略の共有が推奨されることすらある。日本企業は、GEがベストプラクティスという言葉を持ち出す前から、競合他社の事例を研究するのが大好きだ。

 これに対して国際政治の舞台では、明確に他国を滅ぼす意図を持ったプレイヤーが存在する。しかも、どの国が実際にそのような意図を持っているのかは完全には知ることができない。このような状況で、自国の戦略をフレームワークによって披露するのは自殺行為以外の何物でもない。

 自国がフレームワークを使わずに、容易には理解できない戦略を立てるのと同様、他国の戦略もまた不透明である。自国が戦略を立てるためには相手国の情報が重要なインプットとなる。しかし、相手国の情報は断片的にしか漏れてこない(仮に、そのような情報がオープンに共有できるほど信頼関係が構築できていれば、この世に戦争は存在しない。以前の記事「植木千可子『平和のための戦争論―集団的自衛権は何をもたらすのか?』」を参照)。どんな種類の情報がどのくらいの精度で入手できるか解らない状況では、フレームワークは機能しない。

 以上の点で、政治と経営は異なる。時々、経営コンサルタントが上がりのポジション(?)として政治評論家のような立場に立ち、経営の知識を使って政治を語ることがあるのだが、個人的には傍ら痛く思う。私ももっと政治を語りたいと思うが、安易に経営の知識に依拠しないよう注意したい。

 (※)ちなみに、上記の論理に立つと、政治より上位に位置する言語、歴史、宗教、道徳は、もっと複雑なものになるはずである。

富坂聰『中国は腹の底で日本をどう思っているのか―メディアが語らない東アジア情勢の新潮流』


中国は腹の底で日本をどう思っているのか メディアが語らない東アジア情勢の新潮流 (PHP新書)中国は腹の底で日本をどう思っているのか メディアが語らない東アジア情勢の新潮流 (PHP新書)
富坂 聰

PHP研究所 2015-06-15

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 『中国は腹の底で日本をどう思っているのか』というタイトルがついているが、中国に限らず、韓国、北朝鮮、ロシア、ASEAN諸国などをめぐる国際情勢に関する1冊であった。ブログ本館の記事「齋藤純一『公共性』―二項「対立」のアメリカ、二項「混合」の日本」などで書いたが、アメリカは共和党対民主党という構図に代表されるように、物事を二項対立で把握する。これに対して日本は、かつての自民党が派閥によって右から左まで広く政治家を内包していたように、対立項を自分の中に取り込んで共存させる傾向がある。

 ところが、最近の日本はアメリカ的な発想に影響されているせいか、二項対立的な物の見方が増えてきた。マスメディアに見られる善悪二分論はその典型である。小泉純一郎元首相は、「民営化か否か」と迫って自民党を二分した。また、一時的ではあったが、自民党対民主党という2大政党制が成立した。国際情勢においては、日本の味方となる国と敵となる国を明確に峻別する傾向がある。関係国を敵―味方に分けるのは、同盟関係を軸とした考え方である。

 日本にとっては、アメリカが親友で、中国や北朝鮮は敵である。最近は韓国も敵扱いかもしれない。だが、当の中国や北朝鮮・韓国は、どうやら単純な敵―味方二分論には染まっていないようだ。例えば、中国はベトナムやフィリピンと南シナ海で領有権争いをしている。しかし、中国はその両国からAIIBへの賛同を引き出している。とりわけベトナムは、自国のインフラ整備に中国が貢献してくれることを期待しており、AIIBに好意的である。

 韓国と北朝鮮は、北緯38度線で軍事的緊張を高めているものの、様々な場面で関係深化を図っている。北朝鮮は韓国で開催された仁川アジア大会にNo2を送り込んだ。一方の韓国は、北朝鮮の共産主義をよく研究しており、国内には親北朝鮮派が増えているという。中国は北朝鮮・韓国とバランスよくつき合っている。中国がイデオロギー的に対立する韓国と国交を樹立したことは、北朝鮮にとって屈辱であったはずだ。しかし、中国は北朝鮮の核実験を非難することはあっても、北朝鮮と手を切ることは考えていない。

 (ちょっと余談。本書では、朝鮮半島が2国に分裂したままであることが中国の国益にかなうと書かれていた。ただ私は、中国が韓国を利用して朝鮮半島を統一するというシナリオがあるのではないかと考えている。

 北朝鮮には朝鮮半島を統一するだけの力がない。一方で、韓国は北朝鮮研究によって左傾化が進んでいる。そこで、中国が韓国を使って朝鮮半島を共産主義化するわけである。韓国の経済力をつぎ込んで北朝鮮の核を強化すれば、日本にとって大きな脅威となる。そんなことをすればアメリカが黙ってはいないはずなのだが、朝鮮半島に巨大な核が生まれ、さらにバックにも核を持つ中国がいては、アメリカもそう簡単に手出しができない)

 国際政治の舞台では、相手国を単純に敵―味方に分けるのではなく、敵の懐に上手く飛び込むことが重要である。言い換えれば、「右手のこぶしを振り上げながら、左手で握手をする」のが国際政治のルールなのである。ある人とは両手でがっちり握手をし、別の人に対しては両手を振り上げるような外交をしているのは、日本(とアメリカ)ぐらいかもしれない。

 最近、中国と北朝鮮が日本にすり寄ってきたと言われる。中国も北朝鮮も国内経済が失速しており、情勢打開のために日本に支援を求めてきたというわけだ。敵―味方二分論に染まっている日本は、「中国や北朝鮮は、やはり日本がいなければ立ち行かない」などと、どこかこの2か国を見下している。しかし、彼らが日本に接近しているのは、右手のこぶしを振り上げながら、左手で握手を求めているだけのことであって、決して日本に頭を下げようと考えているわけではない。

浅羽祐樹『韓国化する日本、日本化する韓国』


韓国化する日本、日本化する韓国韓国化する日本、日本化する韓国
浅羽 祐樹

講談社 2015-02-17

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 著者は竹島問題について次のように述べている。
 特に領土に関わるセンシティブな問題は、感情論に陥ると、泥沼化するだけでしょう。領土問題を両国間だけで解決するのはたいへん困難です。諸外国はどのように判断するか、という外からの視点が必要になります。互いに確実な論拠を挙げながら、世界に向けて「論理的に証明」していくよりほか、有効な手立てはないと思います。
 一方で、従軍慰安婦問題や日韓併合の問題になると、態度が反転する。
 いまの国際社会は人権蹂躙を許さない、慰安婦問題は女性の人権に関わる問題であるというのが、すでに共通の「ルール」になっています。すなわち「旧日本軍は戦地でひどいことをした」が「戦後生まれ変わった日本は国際社会の平和と繁栄に貢献している」というフィクションを、他国、とりわけ戦勝国に受け入れてもらわないといけない「ゲーム」に変わっているのです。
 領土問題においては論理的な解決を主張しながら、従軍慰安婦問題では韓国が作り上げたフィクションを前提にした外交を展開しなければならないとしている点に、どうしても著者の矛盾を感じてしまう。

 現代の国際政治は、アメリカと中国という2つの大国の関係を抜きにしては考えられない。まず、米中はどのような関係を構築しようとするか?そして、かつての大国であるロシアは両国の関係にどう関与してくるか?を見通す必要がある。その上で、新しい世界における日本の立ち位置はどうあるべきか?その立ち位置を確保するために、どの国とどのような連携が必要となるか?を検討しなければならない。その連携の一環として、韓国も候補に挙がるだろう。

 本来はこういうバックキャスティング的な意思決定システムを持つべきなのだが、残念ながら日本はこれが苦手だ。だから、個別の問題に対して場当たり的に対応してしまう。著者の主張の矛盾も、そのような対応の結果と言えるだろう(この点に関して言えば、本論とは直接関係ないが、ブログ本館の記事「【ドラッカー書評(再)】『乱気流時代の経営』―高齢社会に必要な新しい戦略的思考」で、我々が来るべき高齢社会でどのような生活を送りたいか、ビジョンを描くことからイノベーションを始めるべきだと書いたのは、ちょっと失敗だったと思っている)。

 もう1つつけ加えるならば、韓国もバックキャスティング的な思考が得意ではない。歴史を振り返れば、朝鮮は1000年間も中国の属国であった。それゆえ、「事大主義(自分の信念を持たず、支配的な勢力や風潮に迎合する態度)」が染みついている。現在の韓国は、アメリカ(特にIMF)の下で経済改革を進め、日本の大企業を真似して成長を遂げた。韓国3大企業のうち、サムスンはソニーを、現代自動車はトヨタを、ポスコは新日鉄を手本にしている。韓国は、その時々において優勢な大国にくっつき、大国の進む方向に何となく身を任せることしかできない。

 両国ともその場しのぎの傾向が強いから、お互いに首尾一貫したアプローチで渡り合おうとは考えない方がいいのかもしれない。しばしば、領土問題も歴史問題も、客観的な事実を集めて日本なりの論理的な主張を展開すべきだと言われる。しかし、事実をフィクションにしてしまう国の前では何とも無力だ。こういう神経質な問題は、最初に騒いで被害者面をした国の方が国際的に同情票を集められるので、後になってその騒ぎが嘘であるとひっくり返すのは至難の業である。

 だから、韓国の主張を論理的に論駁しようとしない方がいい。日本のその場しのぎ精神を発揮して、謝罪しているようなしていないような、のらりくらりとした態度をとっていればいいと思う。つまり、今まで通りでよいということである。その一方で、草の根レベルで見て、経済的・文化的に相互連携のメリットがある分野では、交流を深めればよい。韓国とは、割り切ったドライな関係を構築するのが、今のところ最も現実的な解ではないだろうか?
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プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、1,500字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
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