週刊ダイヤモンド 2016年 9/3 号 [雑誌] (金融エリートの没落)週刊ダイヤモンド 2016年 9/3 号 [雑誌] (金融エリートの没落)

ダイヤモンド社 2016-08-29

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 ブログ本館の記事「『地銀の瀬戸際 メガバンクの憂鬱(『週刊ダイヤモンド』2014年5月31日号)』―地銀再編で地方経済の衰退が加速する?」で、金融庁長官の森信親氏は、縦軸に各地方銀行が基盤を置く地域の将来の市場規模の縮小度合いを、横軸に現状の収益性を取ったグラフを作成し、全国の地銀105行をプロットした「森ペーパー」なるものを持ち歩いて、地銀再編の必要性を説いていることを紹介した。それに対して私は、地銀が合併して巨大化すれば、地方の中堅企業を支援する金融機関が少なくなるのではという懸念を示した。

貸出金別金融機関数および資本金別企業数

 ここで、上のようなグラフを作ってみた。棒グラフ(左軸)は、貸出金規模別に見た金融機関の数を表している(熊澤税理士/社会保険労務士/行政書士事務所「全国の全ての金融機関の貸出金ランキング」のデータを使用。データは2015年3月末時点のもの)。折れ線グラフ(右軸)は、資本金規模別に見た企業数を表している(総務省統計局「平成24年経済センサス」より)。ただし、資本金が小さい企業と大きい企業の数には大きな差があり、そのままグラフ化するとグラフがつぶれてしまうため、自然対数で表している。

 この図を作成してみて、私は以前の記事で書いた見解を少し改めることにした。上図から解るように、貸出金規模が1兆円以上5兆円未満のところに地銀が集中しており、貸出金規模が5兆円以上になると金融機関数がガクッと減る。つまり、大企業、その中でも超大企業を相手にできる金融機関が極端に少ない。かと言って、都銀はこれ以上数を増やすことはできない。そこで、地銀を再編することで規模を拡大させ、地銀が地方から超大企業を輩出するサポート役を担うようにするのが「森ペーパー」の狙いだったのではないかと考える。

 地銀が再編されると、今度は中堅企業を支援する金融機関が減少する。そこで、今度は信用金庫の経営力強化、再編が必要になるに違いない。ところで、中堅企業の明確な定義はないのだが、中小製造業の定義が「資本金3億円以下または従業員数300名以下」であるから、中堅企業は「資本金3億円超~10億円以下」程度とするのが妥当であろう。信用金庫の会員は「従業員が300名以下または資本金が9億円以下」と定められており、信用組合が中堅企業を顧客とすることは可能である(なお、信用組合は中小・零細企業がメインターゲットである)。ただ、個人的に信用金庫の目利き力には疑問を感じることがある。

 私は現在、ある中小企業向け補助金事業の事務局員を務めている。その補助金では、中小企業が作成する事業計画に、「認定支援機関確認書」を添付しなければならない。認定支援機関とは、経済産業省が認定した機関で、中小企業の経営サポートを行う人・組織である。その多くは税理士や金融機関が占めている。認定支援機関は、中小企業が作成した事業計画を確認し、実現可能性を高めるために必要な修正を施した上で、確認書を作成することとなっている。

 私は、信用金庫が認定支援機関となって確認書を添付している事業計画書を読むことがあるのだが、信用金庫は本当に事業計画の内容を精査したのかと疑問を差し挟みたくなることが多々ある。

 例えば、業歴が何十年もあるのに多額の累積損失を抱えており、それを役員からの長期借入金で賄っているような”ゾンビ企業”に確認書をつけている。これは明らかに補助金を使った延命行為である。また、毎年雀の涙ほどの当期純利益しか出しておらず、明らかに将来への投資をする意図がない企業が、競合他社にキャッチアップするために新しい機械装置を導入するというような事業計画にまで確認書をつけている。機械装置を常に最新に保って競争力を維持するのは企業として当然の義務であり、それを怠っている企業に補助金の資格はない。

 信用金庫が確認書を発行するのは、補助事業として採択されれば、中小企業に対してつなぎ融資を実行することができ、利息を稼ぐことができるためである。ただし、中小企業向けの補助金などというのは金額の高が知れており、しかもこの超低金利(マイナス金利)時代であるから、融資で稼げる利益は微々たるものである。それゆえに、事業計画の中身をいちいちチェックしていられないという事情はあるのかもしれない。しかし、私に言わせれば、そういう小さな仕事ですら確実に実行できないような人・組織に、もっと大きな仕事(つまり、ここでは中堅企業を成長させるための融資という仕事)を期待するのは難しい。