こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント・トレーナー)のブログ別館。2,000字程度の読書記録の集まり。

坂本光司


坂本光司『日本でいちばん大切にしたい会社3』


日本でいちばん大切にしたい会社3日本でいちばん大切にしたい会社3
坂本 光司

あさ出版 2011-12-06

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 《本書で紹介されている企業》
 徳武産業株式会社(香川県さぬき市)
 中央タクシー株式会社(長野県長野市)
 株式会社日本レーザー(東京都新宿区)
 株式会社ラグーナ出版(鹿児島県鹿児島市)
 株式会社大谷(新潟県新潟市)
 島根電工株式会社(島根県松江市)
 株式会社清月記(宮城県仙台市)

 本書を執筆するため、私は十河社長と奥様であるヒロ子副会長に、「お客さまからいただいた、心あたたまるサンキューレターを数枚見せてください」とお願いしました。すると、席を立った奥様が、事務所から10センチはある、ぶ厚いファイルを2冊持ってきてくれました。サンキューレターはそのなかに大切に入れられていたのです。

 そのファイルには、たくさんのふせんが貼ってありました。「このふせんはなんですか?」と尋ねたところ、「サンキューレターは全社員に回覧し、特に心あたたまるお手紙、参考にしたいお手紙にふせんを貼っているのです」とのことでした。
 徳武産業株式会社の章を読んで、こういうのが本当の「顧客満足度経営」なのだろうと感じた。非常にざっくりとした分類であるが、顧客満足度経営を私なりにレベル分けすると以下のようになる。

 レベル0:顧客からの声を何も収集していない。
 顧客満足度調査などを実施しておらず、苦情・クレーム対応も十分でない。
 レベル1:顧客からの苦情・クレームに受動的に対応している。
 顧客から寄せられる苦情・クレームに対し、個別に対応している。苦情・クレームの内容は、一応組織内で共有される。
 レベル2:顧客の感想を積極的に収集している。
 苦情・クレームのようなネガティブな評価だけではなく、製品・サービスに対するポジティブな評価を、アンケートやグループインタビューなどで把握している。
 レベル3:放っておいても顧客からの感謝の手紙が届く。
 企業側から特に働きかけなくても、顧客の方から自然と製品・サービスに対するポジティブな評価が寄せられる。

 レベル0は論外としても、レベル2ぐらいまでは企業努力で何とか到達することができる。しかし、レベル2とレベル3の間には大きな隔たりがある。顧客がわざわざ自分の忙しい時間を割き、筆を執って企業宛てに感謝の手紙を書くというのは、並大抵の満足度ではないことの証であろう。

 今度から私は、訪問した企業にこう尋ねてみよう。「御社では顧客からの感謝の手紙を保管していますか?」 その答えによって、その企業の顧客満足度経営のレベルがある程度解るに違いない。徳武産業株式会社のように、手紙がどさっと出てくればレベル3、「いやぁ、顧客からの手紙はありませんね。顧客からのクレーム情報、や我が社で実施した顧客満足度調査の結果レポートならありますけど・・・」という答えならばレベル1か2である。

 やや話は変わるが、私は最近、色々な病院を訪問させていただくことが多い。病院の中には、患者から寄せられたクレームと、それに対する病院側の対応策を一覧化して張り出しているところがある。そういう取り組みをしている病院は、概して医療サービスの質も高いという印象がある。逆に、クレーム情報を掲示していない病院は、医師の態度が横柄である、看護師同士の連携が取れていない、看護師の入れ替わりが激しいなど、医療サービスに問題があることが多い。

 もっとも、クレーム情報を張り出すだけでは、顧客満足度経営としてはレベル1であり、まだまだ上を目指す余地がある(病院側が患者満足度調査を実施したり、患者からの感謝の手紙を保管したりしているかどうかを、私が十分に検証できていないだけかもしれないが)。

坂本光司『日本でいちばん大切にしたい会社』


日本でいちばん大切にしたい会社日本でいちばん大切にしたい会社
坂本 光司

あさ出版 2008-03-21

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 本書はまさに『ビジョナリー・カンパニー』の日本版である。中小企業を中心に全国約6,300もの企業を訪問した著者が、①社員、②取引先・外注先、③顧客、④地域社会、⑤株主という5種類のステークホルダーを大事にしている理想的な企業を5社選出したのが本書である。

 《本書で紹介されている企業》
 日本理化学工業株式会社(神奈川県川崎市)
 伊那食品工業株式会社(長野県伊那市)
 中村ブレイス株式会社(島根県大田市)
 株式会社柳月(北海道帯広市)
 杉山フルーツ(静岡県富士市)

 5社はいずれも、企業の社会的責任(CSR)を果たしながら継続的に業績を上げている。競争戦略論の父であるマイケル・ポーターが最近使っているCSV(Creating Shared Value:共通価値の創出)という概念を借りれば、社会的ニーズを満たしながら経済的な価値を創出しているということになるだろう。

 だが、ブログ本館の記事「『CSV経営(DHBR2015年1月号)』―日本人は「経済的価値」と「社会的価値」を区別しない、他」でも書いたように、アメリカ人は経済的な価値を追求した結果、環境破壊や人権侵害、格差拡大など社会的な問題を引き起こしてきたため、その贖罪として社会的価値を追求するようになったのに対し、日本人は経済的価値を追求すれば自ずと社会的価値が創出されると考える。両者の違いはどこから生じるのであろうか?

製品・サービスの4分類(修正)

 ブログ本館で提示したこの分類図を使えば、多少は上手く説明できる気がする(いい加減、右上の象限を埋めてこの図を完成させないといけない)。

 アメリカ企業は、左上の象限に強い。iPhone、facebook、コカ・コーラ、ペプシ、ディズニー映画など、世界の時価総額ランキングで上位に入るアメリカ企業の製品・サービスの多くは、必ずしも必需品ではない。また、その製品・サービスに欠陥があった場合、顧客が一時的に困ることはあっても、消費者の生命や顧客企業の事業に深刻なダメージを与えることはない。

 これらの製品・サービスは、経済的に余裕がある顧客が、より快楽を求めるために購入する。したがって、それらの製品・サービスを提供するアメリカ企業は、純粋に経済的価値を追求していることになる。アメリカ企業は、マーケティングだけでは飽き足らず、イノベーションによって新たな製品・サービスを生み出し、それを世界中に展開する。しかし、アメリカの製品・サービスを世界中に半ば強引に押しつけようとするため、現地の利害や文化と衝突することがある。その埋め合わせのために、アメリカ企業は社会的価値の実現に着手するわけだ。

 一方、日本企業が強いのは、右下の象限である。製品・サービスに欠陥があると、消費者が死亡したり、顧客企業のビジネスがストップしたりするため、1,000個に1個の不良でも許されない。そのため、政府による細かい規制、企業による高い品質管理、継続的な技術革新などによって、不良率を極限まで下げる。こうした努力のおかげで、日本の製品・サービスは世界中で高い評価を得ている。

 しかも、右下の象限は顧客にとって必需品である。必需品ということは、それなしでは最低限豊かな生活ができないことを意味する。ポーターは社会的価値の意味を明確に定義していないのだが、論文から察するに、社会的価値のある製品・サービスとは、顧客がそれによって肉体・精神的に健康で、一定水準以上の生活ができるようになるものを指していると思われる。ということは、日本企業は右下の象限に注力することで、自然と社会的価値を創出していると言える。
プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。これまでの主な実績はこちらを参照。

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、2,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
シャイン経営研究所HP
シャイン経営研究所
 (私の個人事務所)

人気ブログランキング
にほんブログ村 本ブログ
FC2ブログランキング
ブログ王ランキング
BlogPeople
ブログのまど
被リンク無料
  • ライブドアブログ