日本会議の全貌 知られざる巨大組織の実態 俵 義文 花伝社 2016-06-17 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
安倍総理のバックには「日本会議」と呼ばれる右翼系組織がついているのは有名な話である。本書はその正体を暴くと謳っていたので読んでみたが、正直に言うと期待外れであった。日本会議やその関連団体が今までにどのような活動をし、どんな主張を繰り広げてきたかについては詳細に記述されているものの、左派はそれぞれの論点についてどういう理由で反対しているのかが一切書かれていなかった。例えばこんな具合だ。
日本会議は歴史認識の問題でも、「南京大虐殺はなかった」「慰安婦はでっち上げ」「中・韓の反日プロパガンダ」「東京裁判は誤り」「首相は靖国神社に参拝せよ」「植民地支配は良いことをした」「大東亜戦争は祖国防衛・アジア解放の戦争だった」などと主張している。以下、右派の主張に対して、現時点での私の知識を基に見解を述べたいと思う(誤りがあればご指摘願いたい)。
○南京大虐殺はなかった。
南京の人口は、日中戦争以前は100万人以上であったとされるが、スマイス調査によれば、南京攻撃の直前の11月には約50万人に半減していた。さらに、占領時の12月12~13日の南京の人口は約20~25万人となっていた。中国は南京大虐殺で20~30万人の犠牲者が出たと主張しているが、これでは当時の南京の人口以上の数字になってしまい矛盾する。共産主義圏の国々は、ドイツのホロコーストに打ち勝ったことを誇りとしている。よって、中国も南京大虐殺をホロコーストに見立てて、建国神話を作りたかったのであろう。なお、犠牲者数については議論があるとはいえ、日本軍が国際法に反して、中国軍の負傷兵、投降兵、捕虜、敗残兵の処刑を行ったことは反省しなければならない。
○慰安婦はでっち上げ。
軍の保有施設内に慰安所が作られ、軍が慰安婦を容認し、慰安婦の衛生管理などを行っていたことは日本政府も認めている。問題は強制性があったかどうかであるが、これについて私は十分な知識を持たない。慰安所を運営する民間事業者が「慰安婦募集」という広告を打っていた(つまり、慰安婦は自分の意思で慰安婦に応募した)ことを理由に、強制性はなかったとする論者もいる。ただし、民間業者が騙し・甘言による誘拐を行っていたことは事実のようである。
○東京裁判は誤り。
東京裁判は、戦後に戦勝国が一方的に設けた裁判であり、国際法上の根拠がない。なお、東京裁判によって、日本の戦争は侵略戦争と認定されているが、アメリカの中には、「日本の戦争は自衛のための戦争であった」と指摘する者もいた。日本は明治以降、中国、ロシア、ドイツ、アメリカと、大国に対して戦争を仕掛けている。果たして、大国との戦争を侵略戦争と呼べるだろうか?侵略戦争と言う場合、自国よりも弱い国に向けて仕掛けた戦争を指すのではなかろうか?
○大東亜戦争はアジア解放の戦争であった。
先に述べた通り、日本の戦争は自衛のための戦争であり、当時植民地支配を受けていたアジア諸国を解放することが目的であったとは断言しにくい。確かに、日本軍が植民地の独立運動を刺激したという側面はあるものの、日本軍の主たる目的は、東南アジアにおいて資源を確保することであった。日本は満州国で五族協和を実現するとか、アジアに大東亜共栄圏を構築するなどと宣言していたが、具体的な道筋が煮詰められていたかどうかは疑問が残るところである。
○教育現場で国旗・国歌を重視すべきだ。
愛国精神を教えると言うとすぐに大国主義的な考え方だ、軍国主義の復活だなどと騒ぐ人がいるが、小国でも愛国精神が必要であることは以前の記事「田中彰『小国主義―日本の近代を読みなおす』」でも述べた。むしろ、小国こそ、少ない人口で、自国よりも強い周辺国家から国家を守らなければならないのだから、愛国精神が重要であるとも言える。国旗・国歌は愛国精神を子どもたちに教える最も解りやすいシンボルである。日本が愛国精神から軍国主義に走るのは、実は愛国精神のせいではない。日本社会のよき特徴である多重権力構造がフラットになり、「一億総○○」などとなった時に軍国主義になる(以前の記事「伊藤之雄『元老―近代日本の真の指導者たち』」を参照)。
○外国人参政権には反対する。
現在、地方レベルで外国人参政権を導入すべきだという議論が起きている。地域に住む外国人の意見を行政に反映させるためというのがその理由である。しかし、それが目的であれば、別に参政権を認めなくても別の方法がいくらでも考えうる。外国人に地方自治体での参政権を認めると、次はなし崩し的に地方自治体での被選挙権を認めよという議論になる。地方レベルで参政権と被選挙権が認められれば、その影響は必ず国政レベルにも及ぶ。そうすると、外国人が日本の政治を乗っ取ることが可能になる。中国が田舎の農民を1億人単位で日本に移住させ、国会議員を中国人だらけにすることだってできてしまう。
ところで、民進党の新代表に選出された蓮舫氏が二重国籍を持っていたことが明らかになった。台湾籍を持つ人間が国政に関与し、さらには旧民主党政権時代には大臣まで経験しているのだから、これは由々しき問題である。その蓮舫氏を新代表に選出する民進党もまた愚かだ。民進党は、自民党に格好の攻撃材料を提供してしまった。こんなことをしているうちは、当面民進党の復活はない。
○夫婦別姓には反対する。
夫婦別姓の推進派は、婚姻によって強制的に自分の姓が変えられることが基本的人権の侵害にあたると主張する。しかし、そんなことを言い出したら、自分の名は自分では決められないのであって、仮に成人後に自分の名前が気に入らないという理由で名前を変更することはできない。本質的に、氏名とは社会が合理的な理由によって個人を識別するためにつける符号であって、本人に決定権はない。その合理的理由とは、日本の場合は「家」を維持することである。
ここで、右派は「家制度は日本の伝統的制度である」と述べることがあるが、これは適切ではない。日本で国民全員が姓を持つようになったのは明治時代からであり、それ以前は平民は名しか持っていなかった(姓に該当するものとして屋号を持っていた)。生まれた子どもは養子に出されることも多かった。ただし、これでは家族関係が不安定になる。社会全体が比較的平穏だった江戸時代はそれでよかったのかもしれないが、激動の明治時代になると、子どもを安定した環境の中で産み育てることが課題となった。その課題を実現するために考案されたのが家制度である。爾来、その伝統が現在まで受け継がれている。
○安保法制は戦争法ではない。
安保法制は左派の言うような戦争法ではない。ただし、穴が多いことは、ブログ本館の記事「『天皇陛下「譲位の御意向」に思う/憲法改正の秋、他(『正論』2016年9月号)』―日本の安保法制は穴だらけ、他」でも書いた。右派は安保法制によって中国に対する牽制が働くようになったと言うが、個人的にはかなり疑問を感じている。中国は現在、南シナ海で埋め立てを進めており、南シナ海におけるシーレーンの支配を確立しようとしている。ここが中国に抑えられると、日本に必要な物資が入ってこない恐れがある。
ただし、経済的な理由だけで存亡危機事態だと認定し、南シナ海のシーレーンを巡回するアメリカ軍に対して集団的自衛権を行使することは難しい。これは、イランがホルムズ海峡を封鎖して日本に石油が入らなくなったとしても、それだけを理由に集団的自衛権を行使できないという政府見解から導かれることである。