SC経営士が語る 新・ショッピングセンター論SC経営士が語る 新・ショッピングセンター論
日本ショッピングセンター協会SC経営士会

繊研新聞社 2013-12-13

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製品・サービスの4分類(①大まかな分類)

製品・サービスの4分類(②各象限の具体例)

製品・サービスの4分類(③具体的な企業)

 上図についてはブログ本館の記事「「製品・サービスの4分類」に関するさらなる修正案(大分完成に近づいたと思う)」をご参照いただきたい。ショッピングセンター(SC)は元々商店街を模して造られたものであり、商店街と同様に左下の<象限①>に属すると考える。SCが増えたのは、日米構造問題会議(その名の通り、日本の産業構造の問題について、日米間で協議する会議)において、アメリカが日本の財政投融資を利用して郊外に道路を通すよう提案し(道路工事にはアメリカ企業が参加)、その結果郊外型のSCの進出が相次いだためである。

 現在、SCは全国に約3,000あり、売上高は小売業全体の約20%にあたる約28兆円となっている。一方、商店街については正確な統計が存在しないのだが、中小企業庁によれば、2014年時点で12,681とされる。1商店街の平均店舗数を50店舗、1店舗の平均売上高を3,000万円(日商10万円×営業日300日)とすると、商店街全体の売上高は約19兆円となり、SCを下回る計算である。

 「マイルドヤンキー」という言葉が流行ったように、特に地方では、若い家族連れが週末になると車で郊外のSCに出かけ、日常生活に必要なものをSCで全て調達して、1日中SCに滞在するというケースが増加している。このままでは、とてもではないが商店街には勝ち目がない。私は本ブログやブログ本館で商店街に対して批判的なことを書いているので、私のことを商店街の敵のように感じている方もいらっしゃるかもしれないが、ブログ本館の記事「DHBR2018年3月号『顧客の習慣のつくり方』―「商店街に通う」という習慣を作るためにはどうすればよいか?、他」で書いたように、商店街の存続を願っている人間の1人である。

 本書を読んで、商店街が生き残るためのヒントが1つ思い浮かんだ。それは「敢えて何もしない」ということである。もちろん、商圏ニーズをきめ細かく吸い上げて、地元の住民が必要とする商品やサービスを提供し、顧客に対してちょっとした特別な体験を味わってもらうというマーケティングの基本は忘れてはならない。敢えて何もしなくても商店街が生き残れると思うのは、最近のSCが左下の<象限①>から左上の<象限③>に移行しようとしているからだ。例えば、SCの中に大型のシネコンを入れるのはその一例である。SCが高付加価値路線を追求し、高級ブランドショップが増えれば、<象限①>から<象限③>へと移る。

 <象限③>の特徴として、私は次のようなことを書いてきた。<象限③>はイノベーションの世界である。イノベーションとは、市場にニーズが存在しないものを創造することであるから、伝統的な市場調査が役に立たない。そこで、イノベーターは自分自身を最初の顧客に見立て、「自分ならこういう製品・サービスがほしい」と構想する。そして「自分がこれをほしがっているなら、世界中の人も同じようにほしがるはずだ」と考え、イノベーションを全世界に普及させようとする。

 イノベーションに強いのはアメリカである。そして、アメリカは一神教の国だ。イノベーターは唯一絶対の神との間で、自分が考案したイノベーションを全世界に普及させることを契約する。「エバンジェリスト(伝道者)」となって「布教」させると言ってもよい。ただし、その契約が正しいかどうかを知っているのは神だけである。契約が正しければイノベーションは世界中で爆発的にヒットする。

 だが、イノベーションとは、元々市場ニーズがなかったところにニーズを人為的に作り出したものであるから、イノベーションの流行は一過性である。爆発的にヒットしたイノベーションのうち、人々の必需品として受け入れられ<象限①>や<象限②>に移行するものもあるが(例えばPC)、多くは流行が過ぎ去れば急激に衰退する。そこで、イノベーターは自社株買いをして株価を釣り上げながら企業規模を縮小したり、自社を他の企業に売却したりしてエグジットを図る。その過程でイノベーターは巨額の富を手にし、後は悠々自適の生活を送る。

 最近のSCは、「雑貨的な買い物」を目指しているという。顧客が無目的でSCにやってきて、まるで雑貨を購入するかのように洋服などを購入する。必需品だから買うのではなく、「直観的にほしい」と思ったから買うのである。こうなると<象限①>ではなく<象限③>の買い物になる。
 雑貨的な食品やコスメティック、雑貨感覚で買えるアパレル、雑貨と本・靴、雑貨っぽい眼鏡などをフロアにゆるく配置し、滞留時間を長くする。すると買い上げ点数が上がり、客単価が上がる。
 おそらく、こうした「雑貨的な買い物」は、ヒットすれば爆発的に売上が上がるだろうが、流行が過ぎれば一気に衰退すると思われる。こうしたテナントとの契約に適しているのが「定期借家契約」であり、最近のSCではこれが増加しているという。普通借家契約の場合、賃借人を保護する目的から、賃貸人は簡単に契約を解除することができない。これに対して、定期借家契約の場合は、契約期間が終了すれば、賃借人を追い出すことが可能である。流行が去った雑貨的なテナントをSCから退却させるにはうってつけの契約形態である。
 定期借家契約の導入は、常に鮮度の高いMDを志向するディベロッパー、たとえば大都市圏でヤングをターゲットにするファッションビルなどを経営するディベロッパーにとっては、歓迎すべき制度改正であったと思われる。
 こうして、SCが<象限③>を志向してくれれば、商店街は自然とSCと差別化される。これと似たような事例として、東京の築地市場を挙げることができると思う。築地市場は、(もちろん経営努力をしていると思うが)昔ながらの商売のやり方をほとんど変えていない。それでも生き残った、いやむしろより多くの顧客を誘引したのは、近くにある銀座が高級化し、<象限①>から<象限③>に移行したためである。築地市場は、変えないことで差別化に成功した一例である。私はこれを勝手に「築地現象」と呼んでいる。商店街も、前述した必要最低限の経営努力を行い、普通に商売を続けていれば、高級路線に走ったSCでは受け入れられなくなったマイルドヤンキーなどが回帰してくるのではないかと思う。