ギグ・エコノミー 人生100年時代を幸せに暮らす最強の働き方ギグ・エコノミー 人生100年時代を幸せに暮らす最強の働き方
ダイアン・マルケイ 門脇 弘典

日経BP社 2017-09-22

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 「ギグ・エコノミー」とは、終身雇用ではなく、”ギグ(単発の仕事)”を基盤とした新たな労働・経済形態のことである。具体的にはコンサルティングや業務請負、アルバイト、派遣労働、フリーランス、自営業、副業、オンラインプラットフォームを介したオンデマンド労働などが該当する。

 アメリカでは、上記のような非伝統的な働き方をしている労働者は2005年の10%から2015年には15.8%へと、ここ10年で1.5倍に増加している。また、事業経営や個人事業による自営業所得・損失の納税申告に用いられる書式を提出した個人の割合は、1980年には約8.5%だったのに対し、2014年には16%強とほぼ倍増している。アメリカでは、フルタイムの社員を雇用すると、独立請負人と比べて人件費が3~4割高くなる。このような状況の中で、社員を独立請負人に切り替える流れがあらゆる業種で加速しているという。

 物凄くかいつまんで言えば、フルタイムの正社員として企業に終身雇用される時代は終わり、労働者の多くが個人事業主やフリーランスとして働く時代がやってくるということなのだろう。だが、私はそういう社会が理想だとはとても思えない。以前の記事「小笹芳央『モチベーション・マネジメント―最強の組織を創り出す、戦略的「やる気」の高め方』―モチベーションを高めるのは社員の責任」で、企業は現代最高の社会主義機関であると恨み節を書いたが、事実現代の企業こそ、社員の生活の安定と経済の成長を実現していると私は考えている。

 それを可能にしているのは、企業が個人では到底なし得ない大規模な仕事を完遂したり、高品質の製品・サービスを提供してくれたりするその組織力に対して顧客がプレミアムを支払うことについて、社会的に暗黙の了解が成立しているからである。また、企業が新製品開発やR&D活動を通じて、現在よりもさらに優れた製品・サービスを開発してくれることに対しても、顧客が期待をしプレミアムを支払うことに合意しているからである。そのプレミアムを分配することで、社員は安定した給与を受け取り、企業はイノベーションに投資することができる。

 フリーランス中心の社会とは、顧客がそのようなプレミアムを負担しない社会である。フリーランスにできる仕事の範囲はたかが知れている。その限定された仕事を安くやってくれれば十分であり、イノベーションなど全く期待されていない。独立請負人の方がフルタイムの正社員よりも人件費が3~4割安くなるのはそのためである。実際のところ、フリーランスの現状は非常に厳しい。中小企業庁が発表している『小規模事業白書(平成28年度版)』によると、フリーランスとして得ている収入が300万円未満という人の割合は実に56.7%に上る。

 フリーランスは、収入が少ないにもかかわらず、やらなければならないことだけはやたらと多い。『上司が鬼とならねば部下は動かず』で知られる染谷和巳氏は、『致知』2018年1月号の中で次のように述べている。
 サラリーマンの中には、独立して自由に仕事をする芸術家や職人に憧れている人がいる。営業ノルマもなく誰にも束縛されずに、マイペースで仕事をしている姿を羨ましく思うのだろう。しかし、それは幻想である。芸術家や職人がその道でやっていこうと思えば、技術はもとより、資金力、得意先との人間関係構築能力、営業力などあらゆる力を駆使できなくてはいけない。(中略)多くの人が独立後、それまで自分がいかに恵まれた環境に身を置いていたかに気づき後悔の涙を流しているのである。現実の社会は決して甘いものではない。
(染谷和巳「仕事観の確立が人を育てる」)
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 最近は大企業を中心に、副業解禁の動きが広がっている。私は、正社員という本業を持ちながら、収入の足しになるようにとフリーランスの仕事をすることについては何も言わない。むしろ、普段勤めている企業とは異なる視点で仕事ををすることが、その人の創造力を大いに刺激するかもしれない。だが、フリーランスが中心となるような社会に対しては警鐘を鳴らしたいと思う。フリーランス中心の社会では、多くの労働者が不安定な収入に悩まされ、イノベーションが止まる。政府は、新種の巨大な社会不安に対処するのに苦労するに違いない。