野球と広島 (角川新書)野球と広島 (角川新書)
山本浩二

KADOKAWA / 角川書店 2015-08-10

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 1969年広島東洋カープ入団から、2013年WBC日本代表監督まで、40年以上に渡るキャリアを振り返った1冊。2013年WBCでは準決勝でプエルトリコに1-3で敗れ、大会3連覇を逃したわけだが、その時のことも書かれていた。

 あの試合では、8回裏に2番井端と3番内川の連続安打で1死1、2塁とチャンスを作り、4番阿部の時にダブルスチールを敢行した。ところが、2塁走者の井端は3塁をうかがうもスタートは切らず、突進してきた内川が1、2塁間に挟まれて、追いかけてきた捕手にタッチされてしまった。この場面でリスクの高いダブルスチールのサインを出したことをマスコミは一斉に批判し、それが随分堪えたと山本氏は振り返っている。一方で、労をねぎらうファンも多かったことに感謝も述べていた。

 ネット上では、メジャー組がほとんど参加しない中で3連覇を目指せと無理難題を突きつけられた山本氏に同情する人がたくさんいた。プエルトリコ戦に関しても、ダブルスチールのサイン自体が悪いのではなく、試合の終盤でダブルスチールを試みなければならないほど追いつめられた状況を作ってしまったのが悪かったと指摘する声が多かったと記憶している。

 山本氏は、1975年に広島東洋カープが初優勝した時のことを、次のように振り返っている。
 選手それぞれに体力的な限界を感じはじめると、「誰かなんとかしてくれ」という気持ちにもなりやすいところだが、そうはならなかったのがこの年のカープだった。みんながみんな、「オレがやる!」「オレが決める!」という気持ちで、「あいつがつらい分は俺がカバーする」となっていたのだ。それによって、どんどんチームがひとつにまとまり、軍団へと変貌していった。
 最近、セリーグの野球に顕著なのだが、スモールベースボールがちょっと行きすぎているように感じる。ソフトバンクや西武の強力打線と比べると、セリーグの打線は迫力に欠ける。無死1塁では必ずバントをしたり、ランナーがいる場面では進塁打を打つことをよしとしたりする傾向がある。

 その根底には、「後ろの○○さんにつなげば何とかしてくれる」という気持ちがあるのではないだろうか?自分が前面に出るのではなく、後ろにつないでいくことがチームプレイであり、利他主義であると解されている。

 「ここで自分が決めればヒーローになれる」、「年俸が上がる」、「あいつを蹴落として自分がレギュラーになれる」といった利己主義は確かに問題があるかもしれない。野球はチームスポーツである以上、自分の欲よりもチームの勝利を優先しなければならない。しかし、あまりにも自分を押し殺した利他主義というのもまた考え物ではないだろうか?「ここで自分がチームのために決めてやる」という強い気持ちこそが、真の利他主義であるように思える。