こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント・トレーナー)のブログ別館。1,500字程度の読書記録の集まり。

意思決定

『正論』2018年6月号『安倍”悪玉”論のいかがわしさ/シリア攻撃 揺れる世界』―防衛省に日報があってむしろよかったと思う


正論2018年6月号正論2018年6月号

日本工業新聞社 2018-05-01

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 南スーダンPKOやイラク派遣の日報が当初存在しないとされていたのに、後になって次々と見つかっている問題。私はこの問題を詳しくトレースしているわけはないため、今回の記事はややピントがずれているかもしれないが、個人的には日報が存在していてよかったと思っている(日報が歯抜け状態であった点は管理のずさんさを批判されても仕方ないが)。
 日報とは日々の自衛隊員の活動をまとめて送ることによって、上級部隊の指揮官や防衛大臣が状況判断を行うための1次資料です。もう少し長い目で見ると、次に現地へ派遣される部隊の教育・訓練のための資料にもなり、さらに長い目で見れば全く別の任務の際にも部隊の編成や携行装備品を検討するための資料にもなるものです。
(佐藤正久「イラク日報に『戦闘』何が悪い」)
 佐藤正久氏は参議院議員で、元自衛隊・イラク復興業務支援隊長を務めた方である。同氏の記事に基づくと、日報を残すことには3つの意味があると考えらえれる。1つ目は、自衛隊員が日々の現場の情報を詳細に報告することで、上層部が作戦・計画を策定し、必要な意思決定を下すためである。2つ目は、それまでの自衛隊の活動を総括し、よかった点と反省すべき点を分析して、次回以降の自衛隊活動に活かすためである。そして3つ目は、将来的に国民や国会が自衛隊の活動の妥当性を検証する際の基礎資料とするためである。

 行政文書の保管に関しては「公文書管理法(公文書等の管理に関する法律)」があり、政令を通じて行政文書の種類別に保管期間が定められている(第5条1項)。そして、保管期間を経過した行政文書に関しては、歴史公文書などに該当するものは政令で定めるところにより国立公文書館へ移管し、それ以外のものは廃棄の措置をとるものとされている(第5条5項)。政令では、保管期間の最短期間が1年であり、かつ日報については定めがなかったことから、「日報は1年未満で廃棄する」という運用になっていたようだ。

 問題は、「1年を経過したのに廃棄されていなかった日報が存在する」ことではなく、前述のように極めて重要な資料となる日報を「1年未満で廃棄する」という運用にしていたことにあると私は考える。幸いにも、そのルール通りに運用されていなかったおかげで、防衛省も我々国民も、貴重な情報を失わずに済んだ。このように重要度が高い日報には、もっと長い保管期間を設定すべきであろう。

 民間企業の場合でも、業務日報を3年間保管するのが一般的である。特に根拠法令はないが、社員の勤怠(労働関係の重要書類)に関する記録の保管期間を定めた労働基準法を参考にし、3年保存としているケースが多いようだ。仮に、帳簿書類として扱うならば、税法の基準に照らして7年間保存することとなる。企業の日報にも、自衛隊の日報と同じく3つの意味合いがある。

 1つ目は、現場社員の現場の情報を吸い上げることで、マネジャーが適切な意思決定を行えるようにすることである。2つ目は、日報を分析して、その案件やプロジェクトを総括し、成功のノウハウや失敗の原因を抽出して組織知とするためである。3つ目は、例えば解雇した社員から訴訟を起こされた時に、その社員の勤務態度に問題があったことを示す証拠書類として使用したり、株主から業績不振の原因としてある事業が槍玉に挙がった際に、その事業の日報を分析してガバナンスが機能していたかどうかを検証したりするためである。3番目の意義を考えると、3年の保管期間では短いぐらいである。

 企業ですらこのような具合なのだから、国家の防衛という極めて重要な任務については、もっと日報を大切に取り扱うのが筋ではないかと思う。

DHBR2018年6月号『職場の孤独』―終了時刻を設定しない会議を夜に行う企業はだいたい問題あり


DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2018年06月号 [雑誌]DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2018年06月号 [雑誌]
ダイヤモンド社 DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部

ダイヤモンド社 2018-05-10

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 本号の特集とは関係がないが、知識労働者にとって最大の敵の1つである「会議」に関する論文が掲載されていた(レスリー・A・パーロウ、コンスタンス・ヌーナン・ハドリー、ユーニス・ウン「頻度、タイミング、拙い進行を改める 会議の三重苦を解決する5つのステップ」)。

 まず、①会議の頻度は少ないが、議事進行が拙いというケースがある。その結果、個々の社員には単独作業と熟慮にあてる時間が十分にある半面、会議が非効率なため、グループ全体の生産性と協力度が低下する。論文の著者の調査によると、企業幹部の約16%が、自分の職場がこれに該当すると回答した。次に、②会議の質は比較的高く、表面上はグループの時間が上手く活用されているものの、会議の頻度が多すぎて単独作業にあてる時間が削られ、まずいスケジューリングによって熟慮が妨げられるというケースがある。著者の調査では、幹部の約13%が、自分の職場がこれに該当すると回答した。

 そして、③これが最も厄介なのだが、会議が頻繁すぎて、タイミングが悪く、進行が拙いため、グループと個人の両方にとって生産性、協力体制、福利の損失につながっているというケースがある。著者の調査では、幹部の過半数を超える約54%が、自分の職場がこれに該当すると回答した。

 「会議に出席するとその企業の文化がよく解る」と言ったのはエドガー・シャインである。シャインほどではないが、私も企業などの会議に出席するだけで、その組織の文化をある程度推し量ることができる。まず、会議が予定通りに始まらない場合、遅刻者が出席者を待たせていることになる。こういう企業では、普段の業務でもチームワークが上手く機能しておらず、メンバーの中に手待ち状態になっている人がいる可能性が高い。そして、手待ち状態にさせていることに対して、チームワークを阻害している当の本人が無自覚になっている。

 会議が予定の時間通りに終わらない場合、知的作業の時間の見積もりが甘く、生産性に問題がある企業だと推測できる。会議はいつ結論が出るか解らないから終了時刻を設定するのは無理だと嘆く人もいるが、私に言わせれば、限られた時間の中で結論を出すように会議をマネジメントするのが会議主催者の責任である。それに、慣れてくれば、会議のアジェンダの性質や難易度、出席者の人数やタイプによって、議論にどれくらいの時間がかかるか、いや、どのくらいの時間で結論を出さなければならないかが解るようになるものである。

 会議に出席する人数が多い場合、日常業務におけるコミュニケーションが希薄になっていると予想できる。日常的なコミュニケーションが不活発であるために、会議で強制的にコミュニケーションを取らせようとしていると考えられるからだ。また、会議で一言も発言しない人が何人もいる場合には、組織階層の上下の権力格差が大きく、悪い情報が上層部に上がってこない組織だと推定できる。

 議事録の作成を重視する企業も要注意である。議事録は、意思決定のプロセスを事後的に検証するために作成されているのであれば問題ない。しかし、会議に出席していない人が会議の内容を知るために作成されているとすれば考え直した方がよい。会議の内容を知る必要があるということは、会議のアジェンダについて利害関係を有しているということである。そういう人は会議に出席しなければならない。怠慢な人のために議事録を作成するのは全くの無駄である。

 また、会議に出席していないが会議の内容を知る必要がある利害関係者が大勢いる場合には、仕事の単位、会議で取り上げたアジェンダの単位が大きすぎると考えられる。仕事やアジェンダの単位をむやみに細分化すると今月号の特集である「職場の孤独」を生み出してしまう恐れがあるが、本来、組織とは分業のための道具である。それぞれの社員が、自分が知らなくてもよいことは知らないままであったとしても、自分の持ち場に専念さえしていれば、組織全体としては回っていくというのが理想である。だから、会議で扱うアジェンダも、利害関係者が必要最小限の人数になるように設計しなければならない。

 私が最も忌み嫌うのは、終了時間を設定しない会議を夜にセッティングされることである。これは、私の前職のベンチャー企業(企業研修&組織・人事コンサルティングサービス)での経験が影響している。前職の企業では、金曜日の夜に経営会議が開催され、マネジャー以上の社員が全員参加していた(マネジャーでなかった私は参加せず)。19時から始まる会議は、いつも22時を過ぎても終わらなかった(私も残業していたわけだが)。私には密室の中身が解らなかったが、翌週以降に会社に大して変化がなかったことを踏まえると、会議では何も決まっていなかったのだと思う。夜は1日の中でエネルギーを使い果たした時間帯である。それが金曜日の夜ともなれば、1週間の中で最もエネルギー水準が低い。その時間に企業の命運を左右するような重要な意思決定を行うことは無理である。

 金曜日の夜に経営会議を開いていたのは、その時間にしかマネジャーが集まることができないからだったと聞いている。特に、営業マネジャー(ベンチャー企業なのでプレイングマネジャーになっていた)は日中に商談を抱えているため、夜でないと無理だと言ったらしい。だが、私の観察によると、営業マネジャーは日中も普通に社内にいることが多かった。理想は、1週間のうちで最もエネルギー水準が高い月曜日の朝に会議をすることであった。営業マネジャーは、商談の時間が削られると反発したに違いないが、多くの普通の企業は月曜日の朝に会議をやっているから、商談の予定を入れることなどできなかったはずである。

宮俊一郎『企業の設備投資決定―考え方の枠組みと実践化の手だて』


企業の設備投資決定―考え方の枠組みと実践化の手だて企業の設備投資決定―考え方の枠組みと実践化の手だて
宮 俊一郎

有斐閣 2005-02

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 本書を読んでようやく、「終価係数」、「現価係数」、「年金終価係数」、「年金現価係数」、「資本回収係数」、「減債基金係数」の違いがよく解った(遅すぎ)。それぞれの説明は「ファイナンシャル・プランニング 6つの係数」に譲る。

 設備投資の意思決定を下す際には、回収期間法、投資収益率法、NPV(正味原価価値)法、IRR法(内部収益率法)など様々な方法が用いられる。著者は、設備投資によって将来発生するキャッシュの現在価値の合計を現在の投資額と比較して投資の可否を決定すべきであると一貫して主張している。したがって、回収期間法や投資収益率法は直ちに否定される。
 会計上の投資利益率の致命的な欠陥は、お金の時間価値を適切に取り扱えない、というところにある。(中略)会計上の利益のような計算上の金額は、お金の時間価値と関係しない。そうした金額に終価係数や現価係数を掛けても、無意味なのである。
 回収期間法は、初期投資額を回収した後の現金収支を無視するのであるから、「収益性」を測定しているとは言えない。1,000万円を投資して、1年後に1回だけ1,050万円の報収が得られる投資案は、回収期間が1年である。一方、同じ1,000万円の投資をして、1年後に950万円、2年後に1,000万円の報収をもたらす投資案は、回収期間が2年である。この場合に、回収期間が短いから、一番目の投資案のほうが収益性が高いと考える人はあるまい。
 NPV法とは、毎年発生するキャッシュをそれぞれ現在価値に割り戻してその合計を求め、現在の投資額と比較する方法である。IRR法は、前述のようにして計算した現在価値の合計が投資額と等しくなるような割引率を求める方法である。だから、この2つは同じようなことを計算しているものだとてっきり思い込んでいた。ところが、著者によれば、IRR法には重大な欠陥があるという。
 たとえば、次のような二つの投資案AとBとを比較してみよう。投資案Aは、スタート時点で600万円の初期投資を行うと、5年後に1回限り1,373万円の報収が得られるとする。一方、投資案Bの場合は、同じ600万円の初期投資で、その後5年間にわたって、毎年214万円ずつのキャッシュフローがもたらされるとする。

 二つの投資案の内部利益率を計算してみると、Aのほうは18%、Bのほうは23%になる。この比較では、投資案Bのほうが有利と判定される。ところが、いま割引率を10%として正味現在価値を求めると、投資案Aの正味現在価値は、およそ253万円になる。それに対してBのほうは、正味現在価値は211万円である。つまり、正味現在価値の比較では、投資案Aのほうが有利になる。(中略)

 こう考えると、少なくとも現金収支の時間パターンが大きく異なっているときには、内部利益率法は、明らかにつじつまの合わない結論をもたらすということになる。
 投資対効果を適切に把握するには、NPV法が最適である。私も中小企業診断士の勉強をした時にそう習ったし、たいていの財務会計のテキストにもそのように書いてある。皆、頭の中ではNPV法にした方がよいと解っている。著者が自身の「投資の採算判断セミナー」に参加した企業人約250人に対して、投資の収益性を判定する尺度としてどのような条件を重視するかアンケートを取ったところ、「投資案の生涯にわたるキャッシュフローをベースにして経済性を測定していること」が、11個の条件の中で3位だったことが紹介されている。

 ところが、企業の現場ではNPV法はほとんど使われていない。著者が行った別の調査によると、企業が投資の収益性を判定するために用いている手法としては、回収期間法が6割以上と圧倒的に高かった。次いでIRR法が約3割だが、投資利益率法が約25%と肉薄している。NPV法は2割を切っていた。

 日本企業はアメリカ企業に比べて収益性が低い。その要因の1つは、アメリカ企業が選択と集中を徹底するのに対し、日本企業はできるだけ多くの顧客に様々な製品・サービスを使ってもらうべく多角化するためであると推測される。しかも、日米の戦略観の違いは、宗教観の違いを反映している。唯一絶対神を信じるアメリカ企業は、正しい製品・サービスは1つのみと考える。他方、多神教文化の下にある日本企業は、同じ顧客に様々な種類の製品・サービスを幅広く提供したり、同じ種類の製品・サービスであっても顧客ごとに細かくカスタマイズしたりする。

 これに加えてもう1つの要因をつけ加えるならば、投資対効果の考え方の違いが挙げられるのかもしれない。キャッシュフローを重視するアメリカ企業はNPV法を採用する。これに対して、日本企業は前述の通り、回収期間法や投資収益率法を使う。これらの方法は、将来のキャッシュを割引率で割り引かないため、将来の利益が過大評価される。したがって、NPV法で計算したら本当は低収益の案件に対しても、日本企業は投資をしているのではないかと考えられる。

エリン・メイヤー『異文化理解力―相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養』


異文化理解力 ― 相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養異文化理解力 ― 相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養
エリン・メイヤー 田岡恵 樋口武志

英治出版 2015-08-22

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 《参考記事》
 (メモ書き)人間の根源的な価値観に関する整理(1)―『異文化トレーニング』(2)
 人間の根源的な価値観とマネジメントの関係をまとめてみた―『異文化トレーニング』(以上は旧ブログ)
 トロンペナールス&ターナーによる「文化の基礎次元」の補足(現行ブログ)

 英治出版の方とは数年前にお会いしたことがあって、「我が社には明確な方針らしい方針がないんですよ。でも、何年かに一度、不思議なヒット作に恵まれるのです。そんなことが続いて、今まで何とかやってきました」と聞き、風変わりな出版社だと思った。その当時のヒット作というのは、ジョセフ・ジャウォースキー『源泉―知を創造するリーダーシップ』、オットー・シャーマー『U理論―過去や偏見にとらわれず、本当に必要な「変化」を生み出す技術』のことである。

源泉――知を創造するリーダーシップ源泉――知を創造するリーダーシップ
ジョセフ ジャウォースキー Joseph Jaworski 金井 壽宏

英治出版 2013-02-22

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U理論――過去や偏見にとらわれず、本当に必要な「変化」を生み出す技術U理論――過去や偏見にとらわれず、本当に必要な「変化」を生み出す技術
C オットー シャーマー C Otto Scharmer 中土井 僚

英治出版 2010-11-16

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 『異文化理解力―相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養』はある中小企業診断士から勧められたものだが、Amazonでの評価が非常に高い。きっとこの本も、英治出版にとって”不思議なヒット作”なのかもしれない。

 本書では、異文化を理解するための「カルチャー・マップ」が紹介されている。
 ①コミュニケーション・・・ローコンテクストVSハイコンテクスト
 ②評価・・・
 直接的なネガティブ・フィードバックVS間接的なネガティブ・フィードバック
 ③説得・・・原理優先VS応用優先
 ④リード・・・平等主義VS階層主義
 ⑤決断・・・合意志向VSトップダウン式
 ⑥信頼・・・タスクベースVS信頼ベース
 ⑦見解の相違・・・対立型VS対立回避型
 ⑧スケジューリング・・・直線的な時間VS柔軟な時間
 日本人は、ハイコンテクスト、間接的なネガティブ・フィードバック、応用優先、階層主義、合意志向、信頼ベース、対立回避型、直線的な時間という特徴がある。本書には、日本独特の「根回し」、「稟議」、「飲みュニケーション」という言葉まで登場し、日本のことをよく研究していると感じた。

 通常、アングロサクソン系のローコンテクストの文化に属する人たちは、直接的なネガティブ・フィードバックをすると思われている。スティーブ・ジョブズは、社員食堂でいきなり社員のそばに座り、「君が今やっている仕事は何か?」と尋ねた。ジョブズを目の前にして緊張したその社員が口ごもっていると、「もういい。君の顔など二度と見たくないね」と言い放った、というエピソードを私は聞いたことがある。だから、アメリカ人は直接的な批判をするものだとつい一般化してしまう。

 ところが、本書によると、アメリカやイギリスは、ローコンテクストでありながら、ネガティブなフィードバックに関しては間接的になるのだという。逆に、ネガティブなフィードバックを直接的に行うのはドイツ、デンマーク、オランダなどである。彼らがあまりに明け透けと相手を批判するものだから、それを聞いていたアメリカ人は下を向いて自分の靴ひもを眺めていた、という話が本書には書かれている。

 ただし、文化と言うものは”相対的”である点に注意しなければならない、と著者は指摘する。前述の通り、アメリカとイギリスはネガティブ・フィードバックを間接的に行うが、アメリカよりもイギリスの方が間接的である。だから、時にイギリス人が口にする「ブリティッシュ・ジョーク」がアメリカ人には通じないことがあるという。

 平等主義が見られるのは北欧の国々やアメリカである。これに対して、日本を含むアジア各国やロシアなどは階層主義的である。一般的に、平等主義の国では合意志向型の意思決定がなされる(これらの国では民主主義が発達しやすい)。他方、階層主義型の社会では、トップダウンで意思決定がなされる。

 ところがこれは一般論であって、重大な例外が3つあるという。1つはアメリカである。アメリカは平等主義でありながら、トップダウン型の意思決定をする。1人の強力なリーダーの下に、フォロワーが平等に並ぶのがアメリカ社会である。果たしてこれを平等主義と呼んでいいのかどうか迷うところだが(2つの階層からなる階層社会ではないのか?)、ともかくアメリカはそういうことになっている。

 2つ目の例外はドイツである。ドイツは階層主義的な傾向が強い。これは、ドイツが古代ローマ帝国の支配下にあり、厳格な階層社会が適用されていたことと無縁ではないと著者は指摘する。私がもう1つつけ加えるならば、神聖ローマ帝国が諸侯の国々の集合体であり、帝国と諸侯の国との間に上下関係があったことも影響しているのではないだろうか?そのドイツは、トップダウン型ではなく、合意志向である。そして、第3の例外として、極端な合意志向の日本がある。

 信頼関係と時間に対する価値観には一定の関係がある。タスクベースで信頼関係を構築する、言い換えればビジネスライクな人間関係を重視する文化では、時間を直線的にとらえる。つまり、時間を守ることが当たり前とされる。社会は様々な人のタスクの連鎖で成り立っているため、自分が遅れれば他人のタスクに悪影響を及ぼす。だから、時間は絶対に守らなければならないと教え込まれる。

 これに対して、人と人との深い人間関係によって信頼を構築する文化では、時間を柔軟にとらえる傾向がある。アジア、アフリカ、中東ではよく見られる。そしてアジアなどのコミュニティは、依然として自然とも密接な関係がある。自然のことは人間がコントロールできない。不測の事態によって時間に遅れが出たとしても、人間にはどうしようもない。そんな時でも、お互いに腹を割って話し合えば、解り合えるではないか、というのが彼らの考え方である。

 アジアに進出する日本企業が最も苦労することの1つが時間管理であろう。アジアの人たちは日本人のように時間に正確ではない。だが、よく考えてみると、日本はアジアと同じく、関係ベースで信頼関係を構築する社会である。その日本が直線的な時間を重視しているのだから、実は日本こそ例外である。

 蛇足ながらさらにつけ加えると、アジアの人たちの目には、日本人も時間を守らないと映っている。なぜなら、日本人は残業をするからである。就業規則で勤務時間は9時~17時と決まっているのに、日本人は終わりの17時を守らない。これがアジアの人たちの言い分である。

 本書は異文化理解のための基本的な考え方を示しながら、上記のように様々な例外を挙げている点で、非常に面白い1冊であった。

後藤一喜、山本覚『マーケッターとデータサイエンティストが語る 売れるロジックの見つけ方』


マーケッターとデータサイエンティストが語る 売れるロジックの見つけ方マーケッターとデータサイエンティストが語る 売れるロジックの見つけ方
後藤一喜(ごとう・かずよし) 山本 覚(やまもと さとる)

宣伝会議 2015-01-07

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 「何か新しいことを主張する際に、こういうことをしてはいけない」と反面教師的に読んだ1冊。著者は、行動心理学者ダニエル・カーネマンの「システム1」、「システム2」という意思決定システムの区分を用いて自らの主張を展開している。「システム1」とは、手っ取り早く大雑把な判断を下す直感的な思考であり、「システム2」とは、重要な課題について慎重な判断を下す分析型の思考である。
 人間は熟考型《システム2》だけでなく、直感型の《システム1》を持ち、随時この2つを使い分けているが、日常生活でより多く活躍しているのは実は《システム1》であり、これは思考というよりも条件反射に近い性格を持ったシステムであることを、カーネマンが教えてくれた。
 実際に「売れる」か「売れない」かを決定付けているのは「それをどのように伝えることにより、買い手の腑に落とすか?」の方にある。腑に落とすとは、理詰めで《システム2》を説き伏せるのではなく、買い手の直感である《システム1》に直接訴えかけることだ。
 要するに、「モノが売れない時代」においては、論理的にその製品・サービスの特徴やメリットを説明してもダメであり、それ以上のことを目指さなければならない、と著者は言いたいのだろう。「それ以上のこと」とは、いわゆる経験価値マーケティングであったり、デザイン重視であったり、モノにコト(ストーリー)を持たせて顧客の共感を呼んだりすることを指していると思われる。

 しかし、今までは「システム2」という合理的な意思決定システムを使っていたのに、これからは直感的な「システム1」で行きましょうと言うと、まるで顧客の思考が退行しているかのような印象を受けてしまう。そもそも「システム1」は、食料品や日用品のように、コモディティ化している製品・サービスを選択する際に使われる思考である。著者は、今さらそのような製品・サービスの需要拡大を狙っているわけではないと思う。むしろ、顧客の生活を精神的・文化的にもっと豊かにする「必需品+α」の製品・サービスをどうやって売るかを考えているはずだ。

 もしそうであれば、カーネマンの主張を拡大して、「システム1」、「システム2」に次ぐ「システム3」というものを提唱するべきであろう。「システム3」は、精神的・文化的な豊かさ、定量的に測定できない豊かさを追求する思考とでも定義できるかもしれない。「システム1」に”戻る”のではなく、「システム3」という新しい概念を提唱すれば、主張の”格”が1つ上がった感じがする。

 さらに欲を言えば、日用品などのコモディティを選択する時と、精神的・文化的な要素の強い「必需品+α」の製品・サービスを選択する時とで顧客の脳の働きが具体的にどのように異なるのか、脳神経科学に関する最新の研究を紹介することができればもっとよい。そういう論理展開になっていれば、この本も「売れるロジック」のある商品になったに違いない。
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プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都豊島区を拠点に、東京23区で活動する中小企業診断士(コンサルタント・トレーナー)。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、1,500字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
所属組織など
◆個人事務所
 「シャイン経営研究所」◆ シャイン経営研究所ロゴ

(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)
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