こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント・トレーナー)のブログ別館。2,000字程度の読書記録の集まり。

日本でいちばん大切にしたい会社


坂本光司『日本でいちばん大切にしたい会社4』


日本でいちばん大切にしたい会社4日本でいちばん大切にしたい会社4
坂本 光司

あさ出版 2013-11-18

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 《本書で紹介されている企業》
 株式会社小松製菓(岩手県二戸市)
 株式会社坂東太郎(茨城県古河市)
 株式会社協和(東京都千代田区)
 東海バネ工業株式会社(大阪府大阪市)
 株式会社障がい者つくし厚生会(福岡県大野城市)

 《『日本でいちばん大切にしたい会社』シリーズ》
 坂本光司『日本でいちばん大切にしたい会社』
 坂本光司『日本でいちばん大切にしたい会社2』―採用・給与に関する2つの提言案(前半)(後半)(※ブログ本館)
 坂本光司『日本でいちばん大切にしたい会社3』

 著者の坂本光司教授は、最近は障がい者雇用に注目しているということを何かの記事で読んだ覚えがある。その影響の表れなのか、この「日本でいちばん大切にしたい会社」シリーズも後半になると、障がい者雇用に積極的な企業が数多く登場する。本書では、ランドセルメーカーの株式会社協和や、不燃性一般廃棄物の処理を行う株式会社障がい者つくし厚生会が紹介されている。
 統計によると、今、日本には障がい者が740万人います。日本の人口は1億2700万人ですから、その約6%が障がいをもつ方々になる計算です。その中で一般就労されている方、つまり普通の会社に勤めている人はどれくらいいるのかというと、たったの30万人です。残りの圧倒的多数の方たちは、自宅で過ごしているか、グループホームにいるか、いわゆるA型、B型といわれる施設に通って訓練や作業をするかしています。でも人は、働かないで、果たして幸せになれるものでしょうか。
 企業の社会的責任(CSR)の重要性が指摘されるようになって久しいが、企業が社会的責任を果たすには、大きく分けて2つの方法があると思う。1つは社会的な製品・サービスを提供することであり、もう1つは社会的な手段で製品・サービスを生産・販売することである。

 社会的な製品・サービスとは、基本的な衣食住などのニーズが充足されていない社会的弱者のための製品・サービスを意味する。また、社会的な手段で生産・販売するとは、労働力や資本を持続可能な方法で利用することである。具体的には、社員を使い捨てにしない、未だ十分に活用されていない女性・高齢者・障がい者などの労働力を活用する、環境負荷の低減につながる製造プロセスを確立する、地球資源の再利用率を高める、などといったことである。

 一般的にCSRと言うと、社会的な手段で製品・サービスを生産・販売することを指すことの方が多いように思える。だが、究極のCSRとは、社会的な製品・サービスを、社会的な手段で生産・販売することではないだろうか?例えば、障がい者を積極的に雇用して、障がい者の固有ニーズに応えるための製品・サービスを提供する、といった事業のことである。

 もしこれができたら、坂本教授は「日本で”本当に”いちばん大切にしたい会社」として絶賛するに違いない。また、こういう事業は、マイケル・ポーターが近年提唱しているCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)を体現することにもなる。ポーターは経済的価値と社会的価値の統合を主張し、社会的価値の実現を通じて経済的価値を最大化することが企業の究極の目標であるとしている。

 ただ、1つ注意しなければならないのは、「障がい者を積極的に雇用して、障がい者の固有ニーズに応えるための製品・サービスを提供する」と言っても、健常者と障がい者を切り離し、障がい者主体の企業を作って、障がい者向け製品・サービスに特化した事業を展開すればよいというわけではない、ということである。そのような区別は、結局のところ差別を温存するだけであろう。

 そうではなく、健常者の社員の中に障がい者の社員が混じり、かつ健常者向けの製品・サービスに交じって障がい者向けの製品・サービスが存在する状態が望ましい。しかも、障がい者の社員が健常者向けの製品・サービスを扱ったり、健常者の社員が障がい者向けの製品・サービスを扱ったりするような、”クロス”の取り組みを積極的に推進するべきである。そうすれば、健常者と障がい者が相互に理解を深め、共存する優れた企業になると思う。

坂本光司『日本でいちばん大切にしたい会社』


日本でいちばん大切にしたい会社日本でいちばん大切にしたい会社
坂本 光司

あさ出版 2008-03-21

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 本書はまさに『ビジョナリー・カンパニー』の日本版である。中小企業を中心に全国約6,300もの企業を訪問した著者が、①社員、②取引先・外注先、③顧客、④地域社会、⑤株主という5種類のステークホルダーを大事にしている理想的な企業を5社選出したのが本書である。

 《本書で紹介されている企業》
 日本理化学工業株式会社(神奈川県川崎市)
 伊那食品工業株式会社(長野県伊那市)
 中村ブレイス株式会社(島根県大田市)
 株式会社柳月(北海道帯広市)
 杉山フルーツ(静岡県富士市)

 5社はいずれも、企業の社会的責任(CSR)を果たしながら継続的に業績を上げている。競争戦略論の父であるマイケル・ポーターが最近使っているCSV(Creating Shared Value:共通価値の創出)という概念を借りれば、社会的ニーズを満たしながら経済的な価値を創出しているということになるだろう。

 だが、ブログ本館の記事「『CSV経営(DHBR2015年1月号)』―日本人は「経済的価値」と「社会的価値」を区別しない、他」でも書いたように、アメリカ人は経済的な価値を追求した結果、環境破壊や人権侵害、格差拡大など社会的な問題を引き起こしてきたため、その贖罪として社会的価値を追求するようになったのに対し、日本人は経済的価値を追求すれば自ずと社会的価値が創出されると考える。両者の違いはどこから生じるのであろうか?

製品・サービスの4分類(修正)

 ブログ本館で提示したこの分類図を使えば、多少は上手く説明できる気がする(いい加減、右上の象限を埋めてこの図を完成させないといけない)。

 アメリカ企業は、左上の象限に強い。iPhone、facebook、コカ・コーラ、ペプシ、ディズニー映画など、世界の時価総額ランキングで上位に入るアメリカ企業の製品・サービスの多くは、必ずしも必需品ではない。また、その製品・サービスに欠陥があった場合、顧客が一時的に困ることはあっても、消費者の生命や顧客企業の事業に深刻なダメージを与えることはない。

 これらの製品・サービスは、経済的に余裕がある顧客が、より快楽を求めるために購入する。したがって、それらの製品・サービスを提供するアメリカ企業は、純粋に経済的価値を追求していることになる。アメリカ企業は、マーケティングだけでは飽き足らず、イノベーションによって新たな製品・サービスを生み出し、それを世界中に展開する。しかし、アメリカの製品・サービスを世界中に半ば強引に押しつけようとするため、現地の利害や文化と衝突することがある。その埋め合わせのために、アメリカ企業は社会的価値の実現に着手するわけだ。

 一方、日本企業が強いのは、右下の象限である。製品・サービスに欠陥があると、消費者が死亡したり、顧客企業のビジネスがストップしたりするため、1,000個に1個の不良でも許されない。そのため、政府による細かい規制、企業による高い品質管理、継続的な技術革新などによって、不良率を極限まで下げる。こうした努力のおかげで、日本の製品・サービスは世界中で高い評価を得ている。

 しかも、右下の象限は顧客にとって必需品である。必需品ということは、それなしでは最低限豊かな生活ができないことを意味する。ポーターは社会的価値の意味を明確に定義していないのだが、論文から察するに、社会的価値のある製品・サービスとは、顧客がそれによって肉体・精神的に健康で、一定水準以上の生活ができるようになるものを指していると思われる。ということは、日本企業は右下の象限に注力することで、自然と社会的価値を創出していると言える。
プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。これまでの主な実績はこちらを参照。

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、2,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
シャイン経営研究所HP
シャイン経営研究所
 (私の個人事務所)

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