日本の領土問題  北方四島、竹島、尖閣諸島 (角川oneテーマ21)日本の領土問題 北方四島、竹島、尖閣諸島 (角川oneテーマ21)
保阪 正康 東郷 和彦

角川書店(角川グループパブリッシング) 2012-02-10

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 《参考記事》
 『「慰安婦」戦、いまだ止まず/台湾は独立へ向かうのか/家族の「逆襲」(『正論』2016年3月号)』―朝鮮半島の4つのシナリオ、他
 『非立憲政治を終わらせるために―2016選挙の争点(『世界』2016年7月号)』―日本がロシアと同盟を結ぶという可能性、他

4大国の特徴

 領土問題と言うと、最初にその土地を自国の領土に編入したのは一体どの国なのか、歴史文献から紐解こうとするのが一般的である。学術的には価値があるのだろうが、残念ながら現実の国際政治においてはあまり意味がないと思う。というのも、対立する双方が都合のよい研究結果だけを集めて、我が国の領土だと主張して譲らないからだ。領土問題を前進させるためには、国際政治の今後の行く末を見据えて、日本が少しでも有利なポジションを確保するためにはどうすればよいか?という視点が必要となる。

 冒頭の参考記事の中でも、稚拙ながらいくつかのシナリオを示してみた。個人的に、近いうちに起きる可能性が最も高いのは、朝鮮半島が共産主義国として統一されることだと考えている。韓国の資本が北朝鮮の核に投入され、凶悪な核保有国が誕生する。日本は、新しい朝鮮国家からの脅威を直接受けることになる。ここで、竹島の扱いが問題になるが、はっきり言うと、竹島は朝鮮国家に譲ってもよい。わずか0.23平方キロメートルしかない島に、軍事拠点を築くのは不可能である。埋め立てて基地を作るとしても、コストに見合わない。

 現在、アメリカと中国は対立関係にある。ところが、ひょっとするとアメリカが中国に寝返るのではないかという疑念が最近の私の頭の中にはある。仮にヒラリー・クリントン氏が大統領になれば、親中の姿勢が強くなるだろう。経済的な依存が強すぎる両国は、対立するよりも協調した方が得策だと判断するかもしれない。アメリカは、アジアのシーレーンを米中で共同管理しようと言い出しかねない。米中同盟なるものが成立すれば、アメリカ軍は日本から撤退する。

 《2016年9月3日追記》
 仮にドナルド・トランプ氏が大統領になったとしても、中国寄りになる可能性が高い。トランプ氏がの親族が経営する不動産会社の「トランプタワー」には、中国人投資家が多数投資している。移民排斥を掲げるトランプ氏の言動と矛盾するようだが、彼はあくまでもビジネスを中心に物事を考える。自分とアメリカのビジネスにとってよいことであれば、たとえ相手が中国であろうと積極的に接近する。


 ブログ本館の記事で、大国は二項対立的に発想すると何度か書いたが、現在の大国は上図のように複雑な対立関係にある。アメリカが中国側についたとする。これに加えて、朝鮮には新しい共産主義国家が生まれる。そして、かつての大国イギリスは中国との関係深化を狙っている。これらの事柄が重なると、米中を中心とする強大な勢力圏が登場する。これに対抗できるのは、ロシアとドイツしかいない。20世紀は資本主義と社会主義の対立であったのに対し、21世紀はアメリカ・中国陣営とロシア・ドイツ陣営の対立になる。

 《2016年12月10日追記》
 『正論』2017年1月号より、中国とロシアの関係について引用。
 日本の知識人間では中ロ蜜月が続いているかのように誤解されていますが、今年6月中旬にサンクトペテルブルクで開かれた国際経済会議では、プーチン大統領は明らかに、これ以上の中国接近を諦めて、ヨーロッパ回帰路線を打ち出している。ロシアはイギリスのEU離脱をそれほど喜んでいません。ましてやドイツやフランスに対して全く冷たい態度を取っていない。ヨーロッパは、ロシアの最高のトレーディングパートナーである。他方、中国はまだまだそこまでの水準に到底達していない。
(木村汎「いかにすれば北方領土返還が可能になるか」)
正論2017年1月号正論2017年1月号

日本工業新聞社 2016-12-01

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 《2016年12月25日追記》
 『致知』2017年1月号より、中国とロシアの関係について引用。
 中国が進めている「シルクロード構想」は、ロシアからすれば、中国が中央アジアに進出してくることを意味するため心中穏やかではありません。一方、国内にチベットやウイグルなど独立問題を抱える中国も、グルジア戦争やクリミア併合などの際にロシアを支持しませんでした。お互いに核心的な部分にまで踏み込んだ付き合い方はしていないのです。
(小泉悠「”大国”ロシアの行動原理―日本は大国ロシアにどう向き合うか」)
致知2017年1月号青雲の志 致知2017年1月号

致知出版社 2017-01


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 この対立を何と名づければよいか妙案がないのだが、ひとまず国家主義VS超国家主義としている。国家主義は、国家の枠組みを保ったまま、その範囲を膨張させようとする立場である。一方、超国家主義は、国境線を超えて複数の国が連携するシステムを目指す。ドイツはEUの中心であるし、ロシアは今年1月にユーラシア経済連合(EEU)を発足させ、EUとの連携にも意欲を見せている。

 中国・朝鮮からの脅威を受け、アメリカが撤退してしまった日本は、今後ロシアとの関係を重視することになるだろう。もしかすると、日露同盟が誕生するかもしれない。そうなった場合、北方領土問題には、もっと柔軟なアプローチが必要となる。日本は半世紀以上に渡って、「四島一括返還」でなければ受けつけないとしてきた。一方のロシアは「歯舞・色丹は返還してもよい」と譲歩してきた時期があるし、近年も日露共同統治案や面積等分論など、様々な選択肢を示している。それなのに、日本はことごとくそれを蹴ってしまった。

 交渉においては、BATNAを持つことが重要だと言われる。BATNAとは、「交渉が決裂した時の対処策として最もよい案」を意味する。日本はBATNAを持たず、「四島一括返還」一本槍で交渉に挑んできた。これでは絶対に領土問題は前進しない。今年12月にはプーチン大統領が訪日する。日本はこれを、ロシアとの関係を充実させる大きなチャンスととらえなければならない。

 最後に尖閣諸島問題だが、これは日本としては譲ってはいけない。中国が尖閣諸島をほしがるのは、そこに軍事基地を作るためではない。竹島と同様、面積が小さすぎる。中国は時間をかけて少しずつ相手国の領土を削る「サラミスライス作戦」をとる。尖閣諸島はサラミスライスの入り口にすぎない。本丸は沖縄である。これだけは絶対に阻止する必要がある。もしも沖縄に中国軍の基地ができたら、日本にとって死活問題である。だから、尖閣諸島は何が何でも死守しなければならない。その際に、先ほど述べた日露同盟が活きてくるはずである。

 しかし、以上のことは日本がアメリカや中国と完全に手を切ることを意味しない。ロシア・ドイツ陣営に過度に肩入れするのは、小国の戦略としては最悪である。日本とアメリカ・中国の経済関係はあまりに深く、今さら大幅な変更はできない。あくまでも軍事面においてロシア・ドイツ寄りになるということであって、その他の局面では、アメリカ・中国と協力できることは協力していくし、両国から学べることは学んでいく。ここに、日本の新たな「ちゃんぽん戦略」ができ上がる(ブログ本館の記事「千野境子『日本はASEANとどう付き合うか―米中攻防時代の新戦略』―日本はASEANの「ちゃんぽん戦略」に学ぶことができる」を参照)。