「ものづくり」の科学史 世界を変えた《標準革命》 (講談社学術文庫)「ものづくり」の科学史 世界を変えた《標準革命》 (講談社学術文庫)
橋本毅彦

講談社 2013-08-08

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 製品・部品に互換性を持たせたり、製品・部品の仕様を標準化したりすることは今では当たり前のように行われているが、その歴史は意外と浅いようだ。本書には、1999年末にニューヨーク・タイムズ紙が「この1000年の間に発明された道具の中で最も有用なもの」として、「ネジとネジ回し」を挙げたことが書かれている。ネジは世界中で標準化が進んだ最たる部品であるが、その標準化が真剣に検討されるようになったのは20世紀に入ってからにすぎない。

 ただ、ネジなどの基本部品の標準化を後押ししたのは、経済的な理由というよりも、皮肉なことに戦争であった。とりわけ20世紀の2つの世界大戦は各国の総力戦となり、武器や戦闘機などの製造に必要な部品を標準化し、大量生産する必要があった。また、戦場で武器や戦闘機などが故障した際に、速やかに部品を交換して再び使えるようにするというニーズにも応えなければならなかった。
 英国工学会や米国機械学会で決定したネジの規格は、全国的な専門組織によって決定されたものであるが、強制力がなく規格決定後も多数の他の仕様のネジが出回っていた。ネジのような基本部品の標準化が実質的に進展する契機となったのは、第1次世界大戦であった。そして第1次大戦を境に、米国では各種の標準化が強制的に進められていった。(中略)軍と戦争は標準化を進ませる大きな歴史的要因なのである。
 軍事技術から民生に転用されて世界中に普及した製品は数多いが、「標準化」もまた、戦争の産物なのである。アメリカはこうした動きに最も積極的であった。それを見て我々は、「アメリカは戦争を利用してイノベーションを起こしている」と批判したくなる。しかし、アメリカだけが責められるべき対象ではない。日本もまたアメリカの片棒を担ぎ、戦争の恩恵を受けていることを本書は気づかせてくれる。そしてそれを知る時、私は何とも言えない気分になる。
 戦後日本の産業界にとって、朝鮮特需は増産により富をもたらしてくれるとともに、規格化された互換性部品に対する米国の進んだ加工・検査技術を日本にもたらした。景気の回復は、その後の本格的な技術導入を進める上での資金源となり、進んだ技術の導入は、後の日本製品の品質向上のための基礎となった。
 日本のコンテナ輸送を後押ししたもう1つの要因は、ベトナム戦争だった。(中略)ベトナムから米国への帰りのコンテナはほぼ空であった。そこで〔マルコム・〕マクリーン(※トラック運送業から海運業へと転身し、コンテナ輸送の標準化に貢献した人物)は帰路に日本に立ち寄らせることを考える。ちょうど日本でも輸出用にコンテナ船が就航しはじめた頃である。シーランド(※ベトナムのコンテナ輸送を手がけたアメリカ企業)のコンテナ船は、ベトナムから日本に立ち寄り、そこで日本の輸出製品―衣料品、ラジオ、ステレオなど―を米国西海岸まで輸送した。