TOKYO+(プラス)ひときわ輝く商店街―東京オリンピックに向けた、インバウンド対応からIT導入、空き店舗対策TOKYO+(プラス)ひときわ輝く商店街―東京オリンピックに向けた、インバウンド対応からIT導入、空き店舗対策
商店街研究会

同友館 2017-09-01

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 東京都中小企業診断士協会商店街研究会の『TOKYOキラリと光る商店街』の続編。「TOKYO+(プラス)」ということで、香川県の高松丸亀町商店街のような東京都外の事例も含まれている。本書は、
 商店街を取り巻く環境が厳しくなり、多くの商店街では「衰退」を感じ、組合員の賦課金・会費で何とか活動を行っている状況にある。その中で、自主事業・自主財源を柱に「繁栄している」と言い切る「モトスミ・ブレーメン通り商店街」の事例を取り上げる。
と威勢のよい文章でスタートする。ところが、そのモトスミ・ブレーメン通り商店街の会計の内訳を見てみると、
 平成27年度の総事業費は9,390万円、収入内訳は、事業収入4,500万円(48%)、賦課金収入2,300万円(24%)、補助金収入2,600万円(28%)となっている。
のである。例えて言うならば、ショッピングセンターの運営会社が、テナントからの賃料収入だけではやって行けず、売上高の約4分の1を補助金に頼っているようなものである。これで「自主事業・自主財源を柱に『繁栄している』」と言い切れることが私には理解できない。商店街は補助金がもらえることが当たり前になっていて、感覚が麻痺してしまっているのではないだろうか?

 本書には、補助金を利用している例が非常に多く登場する。
 (※「店主のこだわり講座」は、)2店舗合同で開催するため、開催場所は商店街の組合事務所を使用することになった。事務所は北区の補助金を活用し、前年度にトイレの改装や椅子・机の新調を済ませ、イベント会場にも使えるようにリニューアルしていた(※東十条銀座商店街)。
 世田谷区には、まちバル・まちゼミのイベント開催に対する補助金がある。各商店街は年間2回まで、まちバル・まちゼミのいずれかを行う際に対象経費の半分(上限額25万円)の補助を受けることができる。
 (※非接触型ICポイントの導入経費は、)ICカードが3万枚(@246円)492万円、本部設置分パソコン・ポイント管理ソフト・専用サーバー等の購入費用が500万円、その他経費が574万円で、国の補助金3分の2、市の補助金6分の1、借入6分の1で賄った(※モトスミ・ブレーメン通り商店街)。
 しもきた商店街の導入した(一般型)免税サービスでは、各店舗に免税専用端末を設置し、その場で免税での販売を行い、必要書類を作成することで免税手続きが完結できることから、外国人観光客と各店舗の双方にとって手続きが容易であり、各店舗ではランニングコストが抑えられるメリットもある。しかも今回の商店街での免税専用端末の導入費用は、商店街インバウンド促進支援事業(※補助金のことである)の対象にできたことから初期費用の負担も軽減された。
 東京都広域支援型商店街事業とは、東京都商店街振興組合連合会が、東京都の支援を受けて実施している商店街支援事業の1つで、東京都内の市区町村の枠を超えた広域的な商店街事業に対する助成制度である(※過去の採択事業には、谷根千商店街、文京区・台東区・墨田区・江東区の商店街連合会の連携、葛飾区・江戸川区の商店街連合会の連携などがある)。
 最後の「東京都広域支援型商店街事業」は、目的がいまいちよく解らない。商店街を連携させるということは、連携する商店街が共通の顧客をターゲットとし、共通の買い物体験を提供する必要がある。だが、複数の区をまたいで商店街が連携するとなると、ショッピングセンターよりもはるかに広域となる。ショッピングセンターでさえ、各テナントとの間でターゲット顧客に関する認識を合わせ、顧客に提供すべき買い物体験、経験価値とはどんなものかを共有するのは至難の業である。それを、複数の区の商店街の間でやることがどれだけ大変なことなのか、行政の人は解っていないのではないかと思う。そして、もっと根本的な問題として、商店街とは基本的に地元密着型であり、例えば文京区の商店街を利用する人で、文京区が台東区と連携しているからという理由で台東区の商店街を利用しようとする人はおそらく少数派であるということである。

 それにしても、これだけ補助金の事例が登場すると食傷気味になる。補助金の本来の役割とは、優れた組織能力や経営ノウハウがありながら、一時的な経営難に陥って金融機関からの借り入れが難しくなってしまい、再起を期して変革に挑む企業にリスクマネーを提供することである。このように書くと語弊があるかもしれないが、補助金とは生活保護の企業版である。生活保護については、受け取るのが恥ずかしいと感じる人が多く、捕捉率の低さが問題になっている。だが、こと補助金になると、「タダでもらえるものはもらっておこう」とばかりに、恥も外聞もなく補助金に飛びつくケースが少なくないように思える。その1つが商店街である。商店街の関係者と話をしていると、「補助金が出るならその取り組みをやってもいいのだが・・・」と簡単に口にする人が多いことに驚かされる。

 生活保護の場合、憲法の生存権(25条)が根拠になっており、国民に簡単に死なれては困るから、生活困窮者には何としてでも生活保護を届けなければならない。一方、企業は自由市場社会に生きており、経営が悪い企業は死んでも構わないことになっている。本来は死んでも構わない企業に補助金で生き延びるチャンスを与えようというのだから、その要件は生活保護に比べると自ずと厳しくなる。それなのに、補助金がもらえることが当然のように思われては困る。

 引用文の事例はいずれも、本来は個店や商店街振興組合の利益によって賄うべき性質のものである。個店や商店街振興組合は、将来的に必要となる設備更新、設備投資、マーケティングへの投資、製品・サービス開発のための投資をカバーできるだけの利益を上げなければならない。経営学者のピーター・ドラッカーは、利益は将来のコストであると言った。そして、コストをカバーできない経営は経営ではないとも言った。ということは、本書の個店や商店街振興組合は、残念ながら経営ができていないということになる。経営ができていない組織に補助金が流れ続ければ、国民からは延命だと見られても仕方がない。

 さらに悪いことに、こういう補助金申請の支援をすることが中小企業診断士の役割だと思っている人が結構いる。先日、ある診断士の人が、顧問先の中小企業を補助金漬けにしておいて、経営革新計画の承認を受けたことを自慢げに話していたのだが、何を勘違いしているのかと強い疑問を感じた。中小企業庁が公表している「がんばる商店街30選」の中にも、診断士の支援によって補助金を受けている商店街が含まれているに違いない(それに気づくと嫌気がするので、私は敢えてこの30選を読まない)。診断士の役割は、個店と商店街が文字通り自主事業・自主財源で繁栄するように手助けすることであるべきだ。