生産現場構築のための生産管理と品質管理-中小企業の生産現場を記号とデータで考える-生産現場構築のための生産管理と品質管理-中小企業の生産現場を記号とデータで考える-
木内 正光

日本規格協会 2015-03-11

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 「中小企業の生産現場を記号とデータで考える」という副題がついていたので、中小企業の生産管理・品質管理に関する本だと思ったのだが、中小企業診断士の試験にある「運営管理(オペレーション)」という科目の内容をさらに高度にした内容で、私にとってはちょっと難しかった。

 全体を通じて、QCDのうち、Cの削減とDの短期化に焦点が当たっているような気がした。本書で紹介されている「サーブリッグ分析(人間が行う手作業の最小単位であるサーブリッグを18種類定め、この18種類の作業動作の実態を分析し、業務の改善を図る)」、「人・機械分析図表」、「製品工程分析(素材から製品完成までのプロセスの変化を記号を用いて表現する)」、「運搬工程分析(製品工程分析における”運搬”を、さらに”移動”と”取扱い”に分けて分析する)」などは、人の動作や工程の無駄を省き、機械の稼働率を上げることが目的である。

 しかも、サーブリッグ分析では、例えば作業場間の移動を12歩から11歩に減らすとか、運搬工程分析では、右側に置いた仕掛品を手元に移動させる時の距離を10cm短縮するといった具合に、かなり細かい単位で効率化を目指す。

 大企業であれば、1つ1つの改善項目は小さくても、工場で働く何百人、何千人という社員が一斉にその改善に取り組むことで、スケールメリットが得られる。しかし、中小製造業の大半は、社員数が2桁に満たない。「平成24年経済センサス」によると、全国の中小製造業の事業所数492,528のうち、社員数が10名未満は341,883と、全体の約7割を占める。こうした中小(・零細)企業に精緻な分析をさせても、労力の割に大した効果が得られないだろう。中小製造業の場合は、もっと簡単に実践できる改善の方法を追求する必要がありそうだ。

 本書は品質管理と言いながら、実はQにほとんど触れられていない。本書の最後の方でようやく、顧客のニーズを製品機能に落とし込むための典型的な手法である「QFD(品質機能展開)」が登場するものの、なぜか「SLP(体系的レイアウト計画法)」と一緒の章で論じられており、つながりが不明である。

 QFDから導かれた機能や品質目標に基づいて、どのように工程を設計するのか?品質目標の実現に資する機械・工具をどうやって調達するのか?治具の製作はどうするのか?現場の人材をいかにして育成するのか?外部から調達する素材・部品に関して、調達の基準や検品の手順をどのように定めるのか?設計変更をめぐっては、設計・製造部門がいかに連携するのが望ましい姿なのか?これらの問いに答え、工程において”品質を作り込む”ことが求められる。

 ところで、品質管理の本というと必ず「QC7つ道具(チェックシート、パレート図、ヒストグラム、管理図、散布図、特性要因図、層別)」が登場するのだが、果たして中小企業で活用されているのだろうか?QC7つ道具は、統計的処理が含まれることからも解るように、大量生産を前提としている。しかし、中小製造業の多くは受注生産型だ。1個から注文を受けているところも少なくない。そういう企業には、QC7つ道具は馴染まないように思える。なぜなら、注文ごとに品質管理基準を変えて、ほぼ全ての製品を個別にチェックしなければならないからだ。

 自社で検査をきちんと実施していればまだいい方で、下手をすると検査をやっていないケースもある。私はここ数年で100社ぐらいの中小製造業を訪問させていただいたが、検査装置がない企業は決して珍しくない。こういう企業は、外部の試験機関に依頼したり、親会社の検品に頼ったりしているわけだ。検査装置はあっても検査室がない企業も多い。検査装置は周囲の環境に敏感に反応するため、正確な検査を行うためには検査室という形で隔離する必要がある。しかし、検査室が完備されているのは、私の感覚では1割にも満たない。