世界の小国 ミニ国家の生き残り戦略 (講談社選書メチエ)世界の小国 ミニ国家の生き残り戦略 (講談社選書メチエ)
田中義晧

講談社 2007-09-10

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 本書は小国の中でも、とりわけ規模が小さい国、具体的には人口100万人以下の国を取り上げている。そのような「ミニ国家」は、本書が発行された2007年時点で世界193か国中44か国に上る。実に世界のおよそ5分の1がミニ国家である。

 以前の記事「百瀬宏『ヨーロッパ小国の国際政治』」で、大国間の対立に挟まれた小国は一方の国に過度に肩入れせず、「ちゃんぽん戦略」を取るべきだと書いた。ちゃんぽん戦略とは、軍事、政治、経済、文化面などにおいて、対立する大国の双方と交流し、また双方に依存することである。というふうに自分で書いておきながらこんなことを言うのも恥ずかしい話だが、経済、文化面において、対立する大国の双方と交流する方法には貿易や直接投資の呼び込みなどが考えられるものの、軍事、政治面ではどうすればよいのかが不明のままであった。

 本書を読んで、政治面における具体例が少し見えてきた。1つは、大国との外交の結び方である。ミニ国家の中には、その時の国際政治の状況や内政の事情に応じて、外交関係を中国支持から台湾支持(つまり、アメリカ支持)へ、あるいは逆に台湾支持から中国支持へと乗り換えるケースが見られる。大国は、国際社会で影響力を増すために、自国を承認する国の数を増やしたいと考える。一方、ミニ国家としては大国と外交関係を樹立することで経済的な見返りを期待している。ここに、大国とミニ国家が接近する理由がある。

 ただ、私としては、「ちゃんぽん」と言うからには、対立する大国の双方と外交関係を結んでいる例はないものかと考える。本書では、パプアニューギニアやキリバスが中国に加えて台湾と外交を結んだ結果、中国が激怒して台湾との外交が白紙に戻されたり(パプアニューギニア)、中国が断交したりした例(キリバス)が紹介されてる。ただ、キリバスの場合は、中国断交後も、中国人外交官が首都タラワに留まっているとの報道もあるという。個人的には、かつての琉球王国が日本と中国の両方に朝貢していたような例(ブログ本館の記事「相澤理『東大のディープな日本史2』―架空の島・トカラ島の謎」を参照)を探している。

 政治面におけるちゃんぽん戦略のもう1つの例は、国際政治において「1票」の力を有効に使うことである。国際社会の意思決定は、国家の規模に関わらず、1国1票が原則である。よって、相対的にミニ国家が持つ影響力が大きくなる。その影響力を駆使し、自国が味方につく大国を柔軟に変えることで、世界的な問題を大きく左右することができる。例えば、捕鯨問題における国際捕鯨委員会の表決などがそうだ(日本はミニ国家から捕鯨賛成を取りつけるのに必死だった)。

 ただ、これでは対立する大国の一方に肩入れしているだけである。ちゃんぽん戦略と言うからには、もっと別のアプローチが必要となる。つまり、対立する双方の勢力とは異なるポジションを形成することである。温室効果ガスの排出をめぐっては、先進国と途上国(途上国は大国ではないが)が激しく対立している。温室効果ガスの削減義務を負いたくない途上国に対して、ミニ国家は先進国も途上国も削減義務を負うべきだという第3のグループを形成している。ミニ国家の中には、海抜が1.5mしかないツバルのように、地球温暖化が国家の存立を脅かす国も含まれる。こうしたグループは、意思決定のキャスティングボートを握る。

 残りは軍事面におけるちゃんぽん戦略であるが、これについては本書では解らなかった。引き続きの課題としたい。