世界最高リーダーシップ育成機関が教える経営幹部 仕事の哲学世界最高リーダーシップ育成機関が教える経営幹部 仕事の哲学
田口力

日本能率協会マネジメントセンター 2016-10-30

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 「あなたは組織能力をどのように定義しますか?言葉で定義するのではなく、組織能力を関数として考え、その値を導く変数が3つあるとしましょう。その場合、その3つの変数は何と何と何になりますか?」
 著者はGEのクロトンビルで経営幹部の育成に携わった方である。この質問は非常に面白いと感じた。私は普段何気なく「組織能力」という言葉を多用しているが、それを関数で表すとどうなるかということは考えたこともなかった。

 私の答えは、「組織能力=f(個々の知識, コミュニケーション, 意思決定メカニズム)」である。まず、組織能力の根源的なリソースは、個々の社員が持っている知識(技術、技能、ノウハウ、ナレッジ)であることは間違いない。ただ、個々の社員がバラバラに知識を保有しているだけでは”組織”能力にならない。社員同士の活発なコミュニケーションを通じて知識が共有され、相互の知識に触発されて新しい知識が創造されることが必要である。

 ただし、これでもまだ十分ではない。いくら現場で新しい知識がどんどん生まれても、それを組織の成果として活用する意思決定が行われなければ無意味である。また、組織が挙げるべき成果から逆算して、それぞれの社員がどのような知識を身につけるべきか、どの社員の知識を組み合わせれば望ましい成果が得られるかを決断することも必要である。このように考えてみて解ったのだが、私の解答は「組織IQ」という概念の影響を大いに受けている。

 著者の答えは、「組織能力=f(人, 文化, メカニズム)」である。組織として能力を発揮するためには、様々なメカニズム(制度)が必要である。しかし、メカニズムとして様々な制度が上手くできていても、それを十分に活かし切れていない企業がある。つまり、企業の仕組みや諸制度が形骸化している。それは、その企業の文化や社風を、新しい戦略に適合するように進化させていないからである。

 また、戦略などの仕組みも整い、企業文化を刷新する努力も重ねているのに、社員の気持ちがついて来ない、社員のモチベーションが上がらない企業もある。新しい戦略の下では、新たな知識やスキルが求められるのに、社員が自己変革をしたがらないという状況である。これらのことを踏まえると、組織能力を表す3つの変数は、「メカニズム」、「文化」、「人」ということになる。

 稲盛和夫氏は、成果を「能力×意欲×考え方」と定義している。これをアレンジして、「組織能力=f(個々の能力, 社員のモチベーション, 企業文化)」と表すこともできるだろう。第一に個々の能力が必要である点は、最初の私の解答と同じである。ただし、いくら能力が高くても、社員のモチベーションが低ければ組織能力にならない。これは著者の考えと共通する。社員の能力もモチベーションも高いのに、組織文化がマイナス思考や反社会的思考で凝り固まっている企業では、組織能力は破壊的な方向に発揮されるであろう。