こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント)のブログ別館。1,000字程度の読書記録などの集まり。

社会主義

『日本人なら知っておきたい 皇室/巨額買収のカラクリ ソフトバンク3.3兆円の梃子(『週刊ダイヤモンド』2016年9月17日号)』


週刊ダイヤモンド 2016年 9/17 号 [雑誌] (日本人なら知っておきたい 皇室)週刊ダイヤモンド 2016年 9/17 号 [雑誌] (日本人なら知っておきたい 皇室)

ダイヤモンド社 2016-09-12

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 ブログ本館の記事「北川東子『ハイデガー―存在の謎について考える』―安直な私はハイデガーの存在論に日本的思想との親和性を見出す」でも書いたが、日本では大雑把に言うと「(神?)⇒天皇⇒立法府⇒行政府⇒市場/社会⇒企業/NPO⇒学校⇒家族⇒個人」という上下関係、階層社会が成立している。当然のことながら、下の階層は上の階層の命令によって動く。ここで問題になるのは、頂点に君臨する天皇は誰の命令を聞いているのかということである。

 「(神?)⇒天皇」と書いたように、天皇は日本の神の命令を聞いていると考えられる。そのために、天皇は私的行為として神道にのっとった祭祀を行う。では、神は誰の命令を聞いているのだろうか?ブログ本館の記事「和辻哲郎『日本倫理思想史(1)』―日本では神が「絶対的な無」として把握され、「公」が「私」を侵食すると危ない」でも書いたように、八百万の神の世界では、神々の間にも上下関係がある。だから、下位の神は上位の神の命令に従う。ここでさらに踏み込むと、神々の世界の頂点に立つ神は一体誰の命令を聞いているのだろうか?

 西欧の神学論で言えば、万物にはそれを生み出す原因が必ず存在する。その原因を順番にたどると、最後は神に行き着く。ただし、神だけは神を生み出した原因を持たず、自ら有を生んだことになる。よって、神は絶対性・無限性を有すると説明される。その神の絶対性・無限性が人間にも転写され、あちら側のメシアニズムがこちら側のメシアニズムに手繰り寄せられたのが近代の啓蒙主義であり、それが結果的に全体主義、共産主義をもたらした(ブログ本館の記事「『「坂の上の雲」ふたたび~日露戦争に勝利した魂を継ぐ(『正論』2016年2月号)』―自衛権を認める限り軍拡は止められないというパラドクス、他」を参照)。

 ブログ本館の記事「飯田隆『クリプキ―ことばは意味をもてるか』―「まずは神と人間の完全性を想定し、そこから徐々に離れる」という思考法(1/2)」等でも書いたが、人間は生まれながらにして絶対であるため、完全なる自由を有する。また、生まれた時点で人間として完成しているわけだから、教育によって人間を育成するという発想は消える(よって、全体主義や共産主義の下では、しばしば知識人・教育者が迫害される)。技術進歩に対しては極めて懐疑的であり(人間の改悪とされる)、人間が生まれながらの能力でできる仕事、すなわち農業が重視される。多くの社会主義国家が農業の振興に注力するのはそのためだ。

 (余談だが、宇宙飛行士が退職後に就く職業の第1位は農家であるという話を聞いた。宇宙の深遠さに触れると、技術革新よりも自然の方が大切であることに気づくらしい。ただし、私は次のように解釈する。宇宙とは神の世界である。神の世界に触れた人間は、神のようになって帰って来る、というわけである)

 さらに、人間の無限性は、人間が1人でありながら人類全体そのものであることを意味する。この関係においては、人間は皆平等であり、あらゆる階層は否定される。加えて、1人の財産は人類全体の財産でもあり、共有財産制が敷かれる。逆に、全体の意思は1人の意思と同一視できるため、民主主義と独裁が両立する。人間の無限性は、時間の流れを否定する。過去や未来を想定することは、時間の始まりや終わりを想定することに等しく、時間が有限であることを前提としているからだ。時間の流れを否定するとは、言い換えれば、現在というこの一瞬が時間軸全体を覆いつくしていることである。だから、全体主義者や共産主義者は歴史を否定する。さらに、革命は”世界同時”でなければならないと説く。

 話を日本に戻そう。日本の神々の頂点に立つ神は誰の命令を聞いているのかという問いであった。ここで、話をぶち壊してしまうようだが、日本の神々には頂点は存在しない。上には上があり、それがどこまでも続くかのように見える。”かのように見える”と書いたのは、本当は頂点があるのかもしれないけれども、神にはその頂点がぼんやりとしていてよく見えないのである。

 西欧人であれば、見えないその頂点を何とか明らかにしようと試みるだろう。しかし、日本人は、頂点の曖昧さをそのまま受け入れる。わざわざ頂点の正体を暴こうとするのは、野暮な行為である。究極の本質はよく解らないが、それでよしとする。だからこそ、日本人は絶対性・無限性に陥ることがない(ただし、天皇を絶対神扱いした昭和の一時期だけは、日本が全体主義に陥ったことをここで思い出す必要がある)。冒頭で紹介したブログ本館の記事中の引用文を再掲する。
 むしろ、ハイデガーは、「投げ込まれたこと」を存在論的な基礎概念として捉えるべきだと言います。自分がいるかぎり、私たちは、自分を「投げ込まれた存在」として受け止めるしかない。「誰が」や「どのようにして」というような「投げ込まれた」ことの根拠を明らかにすることはできない。

福森哲也『ベトナムのことがマンガで3時間でわかる本―中国の隣にチャンスがある!』


ベトナムのことがマンガで3時間でわかる本 (アスカビジネス)ベトナムのことがマンガで3時間でわかる本 (アスカビジネス)
福森 哲也

明日香出版社 2010-11-19

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 ブログ本館の記事「千野境子『日本はASEANとどう付き合うか―米中攻防時代の新戦略』―日本はASEANの「ちゃんぽん戦略」に学ぶことができる」で、ASEANの中でもベトナムは「ちゃんぽん戦略」が上手い印象があると書いた。ベトナムの外交は「八方美人外交」と呼ばれる(揶揄される?)そうだ。本書ではベトナムの歴史を簡単に学んだだけだが、時と場合に応じて味方となる国をコロコロと変えるしたたかな外交をうかがい知ることができた。

 ベトナムは歴史的に見て長らく中国の支配下にあった。だから、中国に対しては複雑な感情を抱いている。ベトナム民主共和国(北ベトナム)が勝利したベトナム戦争(1960~1975年)の後も、後ろ盾となった中国とソ連のうち、ソ連との関係を重視した。当時の中国はカンボジアと深い関係にあった。一方、ソ連とつながるベトナムは、カンボジアのポル・ポト政権と対立し、1978年にはカンボジアとの国交を断絶、1979年にはカンボジアに侵攻し、中越戦争を引き起こした。

 1991年にソ連が崩壊すると、ベトナムは重要なサポーターを失った。そこで、かつて対立した中国やアメリカに接近するようになる。アメリカはベトナム戦争の敵国であり、300万人もの自国民を殺されたにもかかわらず、である。ベトナムは1995年、アメリカと和解して国交を回復した。

 中国とは1991年に国交を正常化した。その後、ベトナムはASEANへの加盟を狙ったが、カンボジア問題が解決していないとして、中国がこれに反対した。中国とベトナムの間を取り持ったのはインドネシアである。そのおかげで、ベトナムは1995年にASEANに加盟することができた。もともと、反共産主義のための地域連合として発足したASEANは、ベトナムという共産主義国を加えることによって、政治・経済面での包括的な連携を促す組織へと変貌する。

 ベトナムは中国と国交を正常化したとはいえ、現在は南沙諸島をめぐる領土問題で中国と対立している。ベトナムは安全保障の観点から、アメリカと軍事面で協力関係にあり、合同で軍事演習も実施している。社会主義国が資本主義国と手を組むという不思議な構図である。ソ連崩壊後、関係が希薄になっていたロシアとも、近年は関係を再び強化している。ロシアは潜水艦をベトナムに売却したり、ベトナムの原発・地下鉄工事などを受注したりしている。

 かといって、ベトナムは中国との関係を軽視しているわけではない。中国がAIIB(アジアインフラ投資銀行)の立ち上げを発表した時、ASEANは10か国とも加入を表明したが、とりわけ熱心だったのが「陸のASEAN」であった。陸のASEANとは、インドシナ半島に位置するベトナム、ラオス、カンボジア、タイ、ミャンマーの5か国である。陸のASEANは、どの国もインフラ整備が喫緊の課題であり、その解決をAIIBに期待した。ベトナムもしかりである。

 これに対し、ブルネイ、シンガポール、フィリピン、マレーシア、インドネシアの5か国は「海のASEAN」と呼ばれる。海のASEANの中には、中国と深刻な領土問題を抱える国が多い。AIIBへの参加は「渋々」だったと言われる。

 私の勝手な印象だが、中国やソ連を見ていると、社会主義国はどこか教条的なところがある。だが、社会主義であるベトナムが大国を相手にこれだけ柔軟に振る舞うことができるのは、「ホーチミン思想」にヒントがあるのかもしれない。
 ホーチミン思想の厳密な定義は、いろいろ解釈があって小難しいのですが、「ベトナム民族の自由と独立、尊厳と幸福が一番大事であり、そのためには社会主義も共産主義も柔軟に変えていく」思想なのだと思います。ベトナム民族が世界の中で確固たる地位を築いて幸せになるのであれば、資本主義的政策も推進するし、ロシアや中国よりも先に日本を訪問するし、仇敵米国にも接近するのです。

青山利勝『ラオス―インドシナ緩衝国家の肖像』


ラオス―インドシナ緩衝国家の肖像 (中公新書)ラオス―インドシナ緩衝国家の肖像 (中公新書)
青山 利勝

中央公論社 1995-05

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 ラオスは第2次世界大戦後にアメリカの植民下に入ったが、ほどなく米ソ代理戦争の場となり、右派、中立派、左派が入り乱れる状態となった。政治中立化を目的として第1次ジュネーブ協定(1954年)、第2次ジュネーブ協定(1961年)が結ばれたものの、アメリカが右派を軍事的に支援したり、右派主導の政権樹立を目指したりしたため、交渉が難航した。ラオス人民革命党の無血革命によってラオス人民民主共和国が成立したのは1975年のことである。

 従来の帝国主義は、武力行使によって外国を物理的に支配し、自国の領土を拡大するものであった。ところが、第2次世界大戦の反省を踏まえて、武力行使による領土拡大は国際法的に違法とされた(それでも、ロシアによるクリミア編入などの例はある)。しかし、帝国主義は死んでいない。領土の物理的拡大は不可能になったが、自国の影響範囲を広げたいという大国の欲求は消えていない。その欲求を満たすため、大国は自国と理念や価値観を同じくする国を作り出す。

 周知の通り、アメリカは自国の理念である自由、平等、基本的人権、民主主義、市場原理、資本主義を世界中に広めようとしている。そして、必要ならば外国の政治・経済システムに介入し、アメリカにとって都合のよいシステムに作り変える。アメリカは現代型の帝国主義国である。そしてこれは、ロシアや中国にもあてはまる。ロシアや中国は、近代的な帝国主義と現代的な帝国主義を合わせ持つ。冷戦は終わっても、彼らは社会主義の実現を決して諦めていない。

 大国の理念や価値観をめぐる対立の現場となるのが、大国に挟まれた小国である。ラオスも例外ではない。小国にはまず、対立する大国の一方につく、という選択肢がある。しかし、万が一その大国が倒れたら、自国も道連れにされるリスクが高い(大国は体力があるので、自国の理念が死んでも再起できる)。よって、小国にとって現実的な選択肢は、対立する大国のいいところどりをして、自国の政治・経済システムをどちらの大国寄りにもしないことである。

 ラオスは社会主義国となった際、王制を廃止した。だが、本書によれば、ラオス人には王政への憧れが残っているという。だから、1994年にタイのプミポン国王が27年ぶりの外国訪問でラオスを訪れた時には、ラオス国民は大歓迎した。本書の著者は、ラオスが「王政下の社会主義体制となってもなんの違和感もない」と述べている(君主を否定する共産主義のイデオロギーに対して、どのような理論をもって王政を組み込むのか?というテーマは興味深いが)。

 また、ラオスは共産主義国であるにもかかわらず、敬虔な仏教国(上座部仏教)である。無血革命の直後こそ、仏教徒の迫害や寺院の破壊が行われたが、1980年代から寺院も少しずつ修復されている。現在でも、僧侶が人々の生活の規範を示したり、生き方を教えたりする存在として人々から尊敬を集めているそうだ。

 社会主義国なのに王政への憧れを保ち、仏教を厚く信仰する。つまり、保守・伝統主義を残している。ロシアの社会主義者が見たらきっとぶっ倒れるのではないかと思うのだが、それがラオスなのである。様々な制度を”ちゃんぽん”にし、対立する大国の双方とつかず離れずの関係を保ちつつ自国の文化を保存するという、小国の戦略の一端が見えるような気がする。

山本純一『メキシコから世界が見える』


メキシコから世界が見える (集英社新書)メキシコから世界が見える (集英社新書)
山本 純一

集英社 2004-02

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 以前の記事「中畑貴雄『メキシコ経済の基礎知識』」でメキシコ経済・社会の問題点を整理したが、本書ではメキシコ企業を経営する日本人社長の生々しい声(というか悲痛な叫び)が紹介されていた。この社長は、NMX(NM Visual Systems de Mexico)という、NECと三菱の合弁会社を経営していた(ただし、2002年8月末をもって生産は中止、工場は閉鎖されている)。
 ①メキシコ人マネージャーには責任感が欠如している。
 ②①に関連して、メキシコ人マネージャーの給与水準と能力にはギャップがある。例えば、前任地のマレーシアの場合、マネージャーの給与は2000ドル/月であったが、ここでは4000~5000ドルと倍以上である。
 ③日本人の比率が多すぎるので、18人から現在(2001年3月)には9人に減らし、さらに9月以降は5人にして、メキシコ人マネージャーに仕事を任せるようにする。
 ④メキシコ国内ではジャストインタイム(JIT)対応ができない。
 ⑤生産コストが下がらないのは労賃が高いのが原因である。例えば、福利厚生を含むメキシコ人労働者の給与は平均500ドル/月で、これは東南アジアの2.5倍にあたる。

 以上のように、H社長の見解は非常に悲観的なものであった。そしてH社長の、メキシコでの工場経営はマレーシアの数倍難しい、マレーシアが難易度Aとすれば、メキシコはC難易度だ、といった言葉が印象に残った。
 本書は、メキシコ南部のチアパスに拠点を置く「サパティスタ(zapatista)」についても詳しく記述されていた。歴史を振り返ると、1810年、メキシコはスペインに対する独立戦争を開始した。それ以降、中米地域の他の植民地も独立を果たしたが、チアパスは植民地時代にグアテマラ総督領に属していたため、新たにメキシコに帰属するのか、それともグアテマラに残るのかで激しい議論が巻き上がった。紆余曲折を経て、チアパス最南部のソコヌコス地方が現在のチアパス州の一部となったのは1842年のことであった。



 独立後も、インディオの反乱は後を絶たなかった。1867~70年に起きたクスカットの乱の原因は、自由主義的な近代化政策の一環としてインディオ共有地の私有地化が進み、多くのインディオが土地を売ったり、騙し取られたりした結果、農奴化したことである、と言われている。その後も、ポルフィリオ・ディアス独裁政権下(1877~1911年)にあって、メキシコの資本主義化とインディオ共有地の解体が促進され、大土地所有者による土地収奪が急速に進んだ。

 ディアス独裁体制を打倒するため、1910年に始まったメキシコ革命は、当初はブルジョア階層の政治的支配権争いであったが、次第に農民を巻き込む一大社会変革運動となった。そして、メキシコシティ南のモレーロス州を本拠地とする貧農エミリアーノ・サパータが訴えた「農民に土地と自由を」のスローガンが1914年の革命綱領に結実し、その後全国で行われる農地革命の思想的基盤になった。

 サパティスタとは、サパータ主義者、つまりサパータの思想に殉じる者という意味である。もっとも、革命時のサパティスタが「自由と土地」を求めたのに対し、現在のサパティスタは、これに加えて、先住民の文化と権利の擁護やメキシコン真の民主化を掲げ、経済的なグローバリゼーションに反対している。メキシコに2度目の革命を起こそうとしているのが、サパティスタ国民解放軍(EZLN)である。

 本書はそのEZLNの実態や、サパティスタを支援する様々な団体の活動に迫る1冊だ。さらに、メキシコ先住民を支援する組織への取材も試みられている。我々はアメリカの影響を受けて、「資本主義+民主主義」、すなわち経済的な自由(=政治への自由参加)と政治的な自由(=財産の私有)を両方とも享受できることこそが普遍的な価値だと信じている。ところが、本書を読むと、世界にはそのような考え方が通用しない地域があることを思い知らされる。サパティスタは、政治的な自由と経済的な不自由(=財産の共有)の両立を志向しているようだ。
 「なぜチアパスの先住民共同体で連帯経済が生まれたのか」
 「連帯経済は必要から生まれた。先住民が貧しかったから、忘れ去られた存在だったから生まれたのだ」(中略)

 「連帯経済の土台である協同労働を担う人間像には、フレイレの教育思想やエルネスト・チェバラの『新しい人間』の影響があるように思えるが?」
 「フレイレは、人が常に未完成、成長途上であることを強調し、人が成長するための相互教育を重視した。協同労働は相互教育を実践し、各人が未完成な存在であることを認識する学校なんだ。ゲバラは、真の社会主義を建設するための『新しい人間』のビジョンを提示した」

米村耕一『北朝鮮・絶対秘密文書―体制を脅かす「悪党」たち』


北朝鮮・絶対秘密文書: 体制を脅かす「悪党」たち (新潮新書)北朝鮮・絶対秘密文書: 体制を脅かす「悪党」たち (新潮新書)
米村 耕一

新潮社 2015-02-16

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 「絶対秘密文書」という仰々しい言葉がタイトルに入っているが、指導層の極秘資料を指しているのではなく、北朝鮮の検察機関がまとめた捜査記録のことである。だが、そこに記された犯罪を読み解くことで、北朝鮮が何を正義と見なしており、一方で現実の社会では何が起きているのかを知ることができる。

 北朝鮮は社会主義の国であるから、私有財産は厳しく禁止され、土地、建物など全ての資本は国の所有物=国民の共有物となる。経済発展の計画は国家が立案し、その計画に従って国民1人1人の職業が決まり、必要な資本が割り当てられる。国民は、自分に与えられた職業を全うし、国が定めた目標の達成に尽力する。国民の報酬も国が全て決めており、職業や成果に関わらず、平等に支給される。これが北朝鮮における正義である。

 だが、犯罪記録の中には、地方の軍部隊が有している鉱物資源の権益を不当に入手して、採掘した鉱物を中国に密売したり、中国からサイダーの製造機械を廉価で購入して、周辺住民に飲料を売ったりしている”プチ起業家”が登場する。

 そのような起業家が生産した製品は、闇市にも流れ込む。北朝鮮では、国家が製品価格を設定するため、市場取引はご法度である。しかし、あまりに闇市が大きくなっているため、指導層も黙認しているらしい。アメリカの研究者の調査によると、北朝鮮で市場取引を通じて収入を得たことがある人の割合は何と96%に上るという。どうやら、表向きは堅牢な社会主義の制度を保っているかのように見える北朝鮮でも、足元には徐々に資本主義の波が押し寄せているようだ。

 社会不安を煽る事件は他にもある。例えば、放射性物質の「硝酸トリウム」が軍需工場から大量に流出して密売されたことがある。国家の統制下にある軍需工場で、放射性物質がいかにずさんに管理されているかを示す一件であった。

 また、北朝鮮では覚醒剤の製造が日常的に行われている。もともと、北朝鮮の覚醒剤は日本向けであった。ところが、2000年代に日本の覚醒剤取り締まりが強化されると、日本向けの覚醒剤が国内に流通するようになった。北朝鮮では、「お茶を飲むように覚醒剤を進められる」と言われる。北朝鮮で麻薬管理法ができたのは2003年に入ってからにすぎない。

 興味深いことに、放射性物質の密売も、麻薬管理法違反の問題も、国民の生命・身体に危険が及ぶからという理由で処罰されているわけではない。捜査当局が問題視しているのは、資本主義的な活動によって不当に利益を上げていることである。端的に言えば、社会主義体制に対する違反を取り締まっているわけだ。

 社会主義体制が資本主義の侵食によって崩壊するというのは、いつか来た道である。旧ソ連諸国は、西側諸国の人々が高い所得水準を保ち、豊かな生活を享受しているのを目の当たりにした。その結果、国内で指導部ならびに社会主義に対する不満が高まり、体制が崩壊した(旧ブログの記事「旧ソ連の共産主義が敗れたのは大衆文化を輸出しなかったせい?(1)―『ソフト・パワー』(2)」を参照)。北朝鮮も同じ道をたどるカウントダウンが始まっているかもしれない。

 北朝鮮の将来を最も左右するのは、おそらく中国であろう。中国は、北朝鮮と同じ社会主義国でありながら、部分的に資本主義、市場主義経済を取り入れることで、経済発展を遂げた。北朝鮮の人々は、中国人との格差をまざまざと感じていることだろう。同じ社会主義国であるにもかかわらず、中国が”抜け駆け”したことを苦々しく思っているかもしれない。

 現在の中国と北朝鮮は良好な関係にあるが、北朝鮮の指導部が、中国のことを社会主義の理想に反すると批判し始めたらどうなるだろうか?中国は北朝鮮への影響力を一層強めるであろう。同時に、資本主義が浸透しつつある大衆レベルでは、資本主義化した中国の動きに賛同する人々が現れるに違いない。すると、北朝鮮の指導部は、中国と自国民の両方から攻撃されることになる。
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プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、1,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
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 「シャイン経営研究所」◆ シャイン経営研究所ロゴ

(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長、および国際部員を務めています)

NPOビジネスサポート特定非営利活動法人NPOビジネスサポート
(監事を務めています)

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(一緒にお仕事をさせていただいている「コンサルビューション株式会社」は、世界最大の信用調査会社Experianの正規代理店です)

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(以下の資格の講師をしています。
 ―ITパスポート
 ―情報セキュリティマネジメント
 ―経営学検定(初級・中級)
 ―中小企業診断士(企業経営理論、経営情報システム、中小企業経営・中小企業政策)
 谷藤友彦と株式会社サイトビジット代表取締役・鬼頭政人氏の対談動画(1)(2)(3)
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