こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント・トレーナー)のブログ別館。2,000字程度の読書記録の集まり。

米倉誠一郎


米倉誠一郎、清水洋『オープン・イノベーションのマネジメント』―日本企業はおそらく顔の見えるネットワークでないと適切な相手を見つけられない


オープン・イノベーションのマネジメント -- 高い経営成果を生む仕組みづくりオープン・イノベーションのマネジメント -- 高い経営成果を生む仕組みづくり
米倉 誠一郎

有斐閣 2015-03-27

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 オープン・イノベーションを推進するにあたっては、自社のニーズ・シーズと、他社(他者)のニーズ・シーズをマッチングさせる必要がある。P&Gが「コネクト・アンド・デベロップメント」プログラムを実施した際には、P&Gが世界中の研究機関、企業内研究所、大学などとインターネットでつながり、P&Gがネットワーク上に自社の技術的ニーズ・シーズを公開して、世界中からイノベーションのアイデアを募るというやり方を取った。一方で、もっと当事者同士の顔が見える「場」を利用してマッチングを行うという方法もある。
 「場」というのは、「特定の企業が頻繁に相互コミュニケーションを行っている空間」といえよう。ここでの空間は抽象的な概念であり、たとえば企業系列といった日物理的空間も含まれている。

 このタイプの探索には、①企業系列の活用、②サプライ・チェーンの活用、③既存の取引関係の活用、④展示会での出展、⑤コンソーシアムへの参加、⑥サイエンス・パークの運営・参加、⑦マッチング・イベントの主催・参加、⑧コーポレート・ベンチャー・キャピタル(以下、CVC)の運営など、さまざまなバリエーションが存在している。
 日本企業の場合は、インターネットを活用した世界規模のマッチングよりも、顔の見える関係の中から協業の可能性を模索する方が向いていると思う。欧米人はインテリジェンス機能が発達しているから、公開情報だけを頼りに相手の素性を暴くのが得意である。欧米企業は常に売れる商材をネット上でくまなく探していて、「これは」と思う企業にはいきなりメールでアプローチして、どんどん話を進めてしまう(そういうアプローチに慣れていない日本企業は、欧米人からメールが届くとたじろいでしまう)。一方の日本人はこれが苦手であり、直接相手に会って話をしてみないと、相手が信頼に足るかどうかを判断することができない。

 日本人にとって、インターネットはリアルのコミュニケーションを補完するツールでしかない。これは様々な局面で言える。例えば、もう10年ぐらい前の話だが、社内コミュニケーションを活性化するために社内SNSや社内ブログを導入するという動きがあった。だが、当時社内SNS・ブログを専門としていた人から聞いた話によると、社内SNS・ブログの導入によってコミュニケーションが活性化した企業は、もともとリアルのコミュニケーションがある程度活発な企業であったという。リアルのコミュニケーションが機能不全に陥っている企業に社内SNS・ブログを導入しても効果は薄い。実際、私の前職のベンチャー企業でも、「不機嫌な職場」を改善するために社内ブログを導入したが、すぐに更新が止まってしまった。

 顧客とのコミュニケーションツールとしてSNSを活用する場合も同じである。SNSは、顧客が店舗などでは言わない本音を拾うことのできるツールとして注目されている。ただし、そういう潜在的なニーズを把握できる企業は、リアルな顧客接点においてある程度十分なコミュニケーションが取れている企業に限られると思う。リアルな顧客接点をおろそかにして、SNSで手っ取り早く顧客のニーズをつかもうとするのは虫がよすぎる。では、リアルな店舗を持たないECサイトはどうなのかと問われそうだが、ECサイトでSNSを活用して上手くいっている企業は、コンタクトセンターなど、顧客と直接対話する機会を重視していると私は考える。

 同様に、日本企業がオープン・イノベーションで協業相手を探す場合も、メインは「場」を通じたマッチングとし、インターネットを活用した探索は補完的に行うべきだと思う。「場」に集まった企業と何度も顔を合わせることで、徐々に信頼関係を構築していく。こちら側も相手側も、自社の手の内(シーズやニーズ)を少しずつ相手に打ち明ける。そして、相手が信頼に足る企業であり、協業すれば自社単独では不可能な大きな付加価値を実現できそうだと判断した場合に、協業に踏み切る。オープン・イノベーションはイノベーションにかかる時間を短縮するための手法とされているが、少なくとも日本においては、協業の前段階で手間とコストが非常にかかることを覚悟しなければならない。

米倉誠一郎、竹井善昭『社会貢献でメシを食う』


社会貢献でメシを食う社会貢献でメシを食う
竹井 善昭 米倉 誠一郎

ダイヤモンド社 2010-09-10

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 私も最近まで正確に理解していなかったのだが(汗)、非営利組織は利益を上げてはいけないというわけではない。利益を配当という形で出資者に分配することが禁じられており、利益は全て将来の投資に回すことが要求される。その意味で「非営利」と呼ばれる。だから、非営利組織も利益を追求する必要がある。

 配当による還元がない分、利益のうち将来への投資に回せる金額の割合は営利組織よりも大きくなる。したがって、その投資によって、社会的課題を迅速に解決することを目指す。経済的なニーズとは異なり、社会的課題は完全になくなることがゴールである。よって、非営利組織はいたずらに規模を大きくするためではなく、課題を早く解消するために投資しなければならない。

 本書でも、社会貢献はスピード勝負だと書かれていた。途上国には教育を十分に受けられない子どもがたくさんいる。その子どもたちに対して、「将来ビジネスで成功したら、そのお金で学校を建てるね」などと約束することはできない。子どもたちは、今この時を逃したら、二度と教育機会を得ることはない。
 ファンドレイジング担当の日常業務は顧客管理だ。小口寄付者にお礼のハガキを出すようにボランティアのリーダーに指示を出したり、大口寄付者とはランチを一緒にとり、さらなる支援のお願いをしたり、支援企業の担当者とミーティングをして、大規模なコーズ・マーケティングをやりましょうとプレゼンしたりする。
 本書を読んで1か所引っかかったのがここである。ファンドレイジングとは、非営利組織の資金調達を行うことを指す。日本ではあまり一般的ではないが、非営利組織が発達しているアメリカでは、ファンドレイジング担当が数億円規模の資金を調達し、1,000万円単位の報酬を得ていることも珍しくないという。

 問題は、非営利組織に対する寄付者は顧客なのか?ということである。確かに、非営利組織に対する寄付金は収入として扱われ、損益計算書に計上される(企業の場合、株主の出資金は貸借対照表に表れる)。しかし、寄付者が非営利組織の顧客であるというのは、どうも違和感がある。

 私は中小企業診断士が会員となっている非営利組織にいくつか所属している。これらの組織は、中小企業、特に、経営コンサルティングに対して相応の報酬を支払うことが難しい小規模企業や商店街などに対して、経営支援を行うことを目的としている。活動費は、主に会員(診断士)からの会費によって賄われる。

 組織の会合に出席すると、理事クラスの人たちが、「会員満足度を向上させるために、勉強会の回数を増やす。会員同士の情報交換の場を充実させる」などと方針を発表する。そして、会員を増やして財源を厚くするために、知り合いの診断士を組織に引き込むようにとのお達しが出る。

 仮に、会員=顧客であれば、理事の説明は正当である。しかし、我々の組織にとっての真の顧客は、中小・小規模企業以外にあり得ない。診断士という経営コンサルティングの資格を持っている人であれば、なおさらその点に敏感でなければならないだろう。ところが、中小・小規模企業に対して、具体的にどのような支援メニューを用意するのか?支援メニューのプログラム化は誰がいつまでに行うのか?完成したプログラムをどのようにして中小・小規模企業に認知してもらうのか?といった議論は、ついぞ聞いたことがない。

 そういう話がないのだから、事業計画らしい事業計画など存在するはずがない。今年度は何社に経営支援を行い、いくらぐらいの事業収入を見込むのか?収入の補填として、行政からはどの程度の助成金が期待できそうか?収入から諸々の費用を差し引くと、どのくらいの利益が残りそうか?その利益は、次年度以降どんな分野に投資するのか?これらの問いに、我々の組織は全く答えられていない(そういう課題提起をしない私自身にも問題がある)。
プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。これまでの主な実績はこちらを参照。

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、2,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
シャイン経営研究所HP
シャイン経営研究所
 (私の個人事務所)

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