こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント・トレーナー)のブログ別館。2,000字程度の読書記録の集まり。

精神疾患


『顧客は何にお金を払うのか(DHBR2017年3月号)』―職場の嫌なヤツを消すことはできない。嫌なヤツを受け流そう


ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 03 月号 [雑誌] (顧客は何にお金を払うのか)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 03 月号 [雑誌] (顧客は何にお金を払うのか)

ダイヤモンド社 2017-02-10

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 特集についてはブログ本館で取り上げるとして、ブログ別館では特集以外の論文を紹介したいと思う。
 無作法やいじめを繰り返す同僚について人事部に報告するな、正面から取り合うなというわけではない。それよりも持続的な効果が見込めるのは、無作法な扱いをされても動じないようになることや、少なくとも抵抗力を格段に高める対処法を身につけることである。
(クリスティーン・ポラス「認知面と情緒面の成功感覚を育む 職場のイヤな奴から身を守る法」)
 どんな職場にも無作法な奴、礼儀がなっていない奴、仕事ができない奴、人間として欠陥がある奴、言い換えれば「イヤな奴」というのはいるものである。そういう人にどう対処すればよいかというユニークな論文である。

 結論から言うと、イヤな奴を職場から排除するのではなく、イヤな奴に対する抵抗力、免疫を身につけようということである。悪いのはイヤな奴の方なのに、どうしてこちらが譲らなければならないのかと思う方もいらっしゃるかもしれない。こちら側からイヤな奴を積極的に消し去れば問題は解決するようにも思える。だが、残念なことに、組織では必ず2:6:2の法則が成立し、ダメな2割を取り除いても、残ったメンバーが再び2:6:2に分かれることが知られている。

 抵抗力を上げる手段の1つとして、本論文では「日記をつけること」が挙げられている。日記を書くと、自分の感情を客観的に整理し、適切な意味づけができるようになるという。私はそれ以上に、悪い感情を自分の内部に溜め込まず、心身を健康に保つことができるという作用の方が大きいと思う。

 私は2012年の夏に精神疾患で入院したが、退院してから日記をつけている。文章にすると、自分の記憶が外部化されるため、脳の負担が減少する。また、私が精神疾患にかかったのは前職のベンチャー企業での経験が関係しているのだが、2013年にはブログ本館で「【シリーズ】ベンチャー失敗の教訓」という記事を1年かけて書いた。「ここまで暴露して大丈夫なのか?」、「前の会社から訴えられないか?」など色々と心配の声もいただいた。もちろん、色んな人にあの記事を読んでもらえればと思っているが、私にとってあのシリーズの第一の目的は治療であり、自分を傷つけていた負の記憶を身体から切り離すことであった。

 私がつけている日記は「5年日記」というもので、1ページに5年分の日記が書けるようになっている。私が5年日記なるものの存在を知ったのは、退院後の中小企業診断士の大きなイベントで、たまたま知り合ったかなりご高齢の診断士の先生から教えてもらったのがきっかけである。その先生は、もう何十年も5年日記を続けており、過去の日記を色々と見せていただいた。5年日記のいいところは、過去の同じ日に自分が何を感じていたのかを振り返ることができる点であるという。昔の自分からたくさんのことを学ぶことができるそうだ。

 私もこの先生に倣って5年日記をつけ始めた。ただ、私の場合はイヤな奴に関する負の感情も包み隠さず書いているため、半ばデスノート化しており(苦笑)、この先生のようにとても他の先生に見せられる代物ではない。それに、過去の同じ日の日記を読み返すと、昔のイヤな記憶が蘇ることもある。ただ、不思議なことに、負の感情が再燃するどころか、「昔は何とちっぽけなことでイライラしていたのか」と昔の自分を突き放して見ることができるようになった。つまり、感情的に自分が成長していることを実感できるわけである。こういう成長実感も、イヤな奴に対する抵抗力を高める上で重要であると、論文の著者は指摘している。

飯森真喜雄、内山真一郎『神経・精神疾患診療マニュアル』


神経・精神疾患診療マニュアル (日本医師会生涯教育シリーズ)神経・精神疾患診療マニュアル (日本医師会生涯教育シリーズ)
飯森真喜雄 内山真一郎

南山堂 2013-11

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 このように考え方を修正する必要がある患者に対して、精神科医は精神療法という手法を通して、多くの場合は年単位をかけて治療していくが、その間に患者は大抵怠薬して病状が悪化するといった失敗をする。しかし、患者は失敗を通して自分の疾患と向き合い、理解し、適切な行動変容に至るので、失敗は必ずしも悪ではなく、「失敗を上手に扱う」さらには「上手に失敗させる」技術と度量が求められる。
 私も自分で勝手に服薬を止めて痛い目にあったことがある。私が最初に通院していたクリニックの先生は、人見知りで対人関係が苦手な私から見ても、さらに人見知りで対人関係が苦手そうな先生で、コミュニケーションが上手く取れなかった。先生は私との会話が途絶えると、しばしば深いため息をついた。朝一番の診察では、先生が控室から白衣を着ながらあくびをして入って来ることもあった。先生のそのような一挙手一投足が、私にとっては非常に苦痛であった。

うつ病の経過グラフ

 (「どのような経過をたどるの? | 理解する | うつ病 | メンタルナビ」より)

 毎回、上のようなグラフを見せられ、「一番調子がよかった時の状態を100%とすると、今は何%ぐらいですか?」と聞かれた(実際には上のような複雑な形状のグラフではなく、放物線みたいなもっと簡単なグラフであった)。私が「50~60%ぐらいです」と答えると、「それでは引き続き薬を飲んでください」と言われて診察が終わってしまった。「私の自己判断に頼るのであれば、医師は何のためにいると言うのか?」と疑念が生じ、だんだんと通院するのが嫌になった。

 ただでさえ人に会うのがしんどいのに、先生がこんな調子だったため、通院を避けたい私は「もう100%です。治りました」と主張するようになった。そして、自分で勝手に治療を止めてしまった。後から振り返ると、これが大きな間違いであった。私がすべきだったのは、治療の中止ではなく、転院先を探すことであった。

 引用文にもあるように、この病気の治療は年単位に及ぶ(そういう意味で「心の風邪」という比喩は間違っていると思う。風邪なら3日程度で治るが、この病気はそうはいかない)。だから、たとえ病気で心身ともにしんどくても、信頼のおける先生を根気強く探すことが重要である。そこだけは労力をかけなければならない。

 近年、「新型うつ病」、「非定型うつ病」という病気が提示されるようになっている。しかし、本書はこれらの疾病に対して辛辣である。通常のうつ病は、自責的になり何もする気にならない、というのが一般的な症状である。これに対し非定型うつ病は、他責的になる、自分の好きなことだけはできる(だから旅行には嬉々として出かける)、といった特徴が挙げられる。

 本書は、うつ病の典型的な治療方法が、非定型うつ病には逆効果であると指摘する。まず、定型であれ非定型であれ、病気と診断されることで、心身の不調の責任を病気に転嫁することができる。その責任転嫁が対人関係にもおよび、他責的になる。また、うつ病の治療では、休息ばかりだと1日中やることがなくなってかえって生活のリズムが崩れることがあるため、好きなことは少しでもやった方がよいとアドバイスされる。しかし、これと同じことを非定型うつ病の患者に言うと、自分の好きなことだけをやればよいと勘違いして、旅行に出かけてしまう。

 本書では、非定型うつ病の治療に関して次のように述べられている。
 薬物療法は基本的に不要であり、処方するとしても対処療法にとどまる。患者に薬を飲んでいれば自然によくなると思わせてはならない。職場にも多少の問題はありそうだが、本人の努力も必要であると、抑うつ状態の原因の一端を本人にも引き受けてもらうことが重要である。
 実は私も、最初の頃は非定型うつ病と診断されていた。前述のクリニックに通わなくなった後、案の定病気が再燃したため、別のクリニックに通うようになった。通常、うつ病では不眠になるのだが、私の場合は過眠がひどかった。平日も毎日10時間ぐらい寝ていたし、休日は15時間寝るのが当たり前になっていた。

 また、不安よりもイライラが強く、毎日夕方になると頭痛に悩まされた。それでも、全てのやる気を失ったわけではなく、ギリギリのラインで仕事を続けることはできていた。そういう話をしたら、普通のうつ病ではなくて、非定型うつ病だと診断された(ただし、私は旅行には行っていないし、到底行く気分ではなかった)。

 それ以来、てっきり自分は非定型うつ病だと思い込んで治療を続けていた。ところが、それから3年ほど後に、一時的に病状が悪化して入院した際、担当医にこれまでの病歴を話したところ、「ところで、非定型うつ病とは何ですか?」と真顔で聞かれた。この先生はベテランの精神科医である。その先生が言うには、非定型うつ病というのは医学的に確立された概念ではないそうだ。「早く教えてほしかった」というのが本音である。入院中に今までの治療法を一旦リセットし、通常のうつ病と同じ治療法を受けるようになってからは、病状が安定し始めた。

 他責的という部分に関しては、多少読者の皆様に同情してもらいたいところがある。私は前職(ベンチャー系の人事・組織コンサルティング&教育研修会社)の社長から、「もう休め」と命じられて休職していた時期がある。ところが、私が担当していた仕事を代わりにやる社員がいないという理由で、休職中も普通に仕事をしていた。給料は休職中という理由で削減されているにもかかわらず、である。

 これでは休職するだけ損だから、職場に戻してほしいと私は何度も社長に訴えた。しかし社長からは、「君が休職して以来職場の雰囲気がギスギスしているから、戻るなら君が彼らとのコミュニケーションを円滑にすることが条件だ」などと言われた。当時の社員は、皆私より職位も年齢も上の人たちばかりである(若手の一般社員がおらず、皆が管理職といういびつな組織だった)。そんな彼らが、私がいなくなったことでコミュニケーション不全に陥ったというのがまず理解できなかった。その上、その問題を私に解決させようというのがさらに意味不明であった。

 しかし、私もこのままでは単に安い金でいいように使われているだけなので、社長と4回ほど交渉し、職場復帰に至った(これはかなり心理的負担が大きかった)。ところが、それから半年ほど経った頃、会社の業績不振を理由に、私は整理解雇の憂き目を見た。前職は一番社員が多かった時期で50人ほどいたのだが、リストラや転職が相次ぎ、さらには逃亡して行方不明になった人などもいて、最後は10人ほどになっていた。とうとう私にも解雇の手が及んだというわけだ。

 通常、整理解雇の場合は、会社が作成する離職票に「事業主の都合による解雇」と記入しなければならない。だが、どういう訳か私の離職票には「一身上の退職」と記入されていた。またしてもこの会社は法律違反を犯すのかと私は憤り、社長と交渉することにした。最終的には、離職理由を書き換えてもらったのだが、こんなに不毛で心身ともに疲弊する話し合いは二度としたくないと思った。もっとも、離職後すぐに個人事業主として独立したため、離職理由が自己都合だろうと会社都合だろうと、失業手当は1円ももらわなかったという点では変わりがない。

離職票

 (※私の実際の離職票。前職の苦しみを忘れないために今でも保管してある)

 以上が、私が中小企業診断士として独立するに至った経緯である。何か高邁なビジョンや目的があって独立したわけではないので、全く褒められた話ではない。ただ、こういう経験をしたため、前職のような企業を生み出してはならないと自分を戒めているし、社員をもっと大切にする経営のお手伝いをしたいと考えている。

岡田尊司『パーソナリティ障害―いかに接し、どう克服するか』


パーソナリティ障害―いかに接し、どう克服するか (PHP新書)パーソナリティ障害―いかに接し、どう克服するか (PHP新書)
岡田 尊司

PHP研究所 2004-06-01

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 パーソナリティ障害とは、認知(ものの捉え方や考え方)や感情、衝動コントロール、対人関係といった広い範囲のパーソナリティ(性格)機能の偏りから生じる障害を指す。大多数の人とは違う反応や行動をすることで本人が苦しんでいたり、周りが困ったりするケースで診断される精神疾患である。パーソナリティ障害には下記の10のタイプがあり、本書はそれぞれの障害の概要と治療方法、さらにその障害を持つ人に対する周囲の接し方について解説したものである。

 境界性パーソナリティ障害
 自己愛性パーソナリティ障害
 演技性パーソナリティ障害
 反社会性パーソナリティ障害
 妄想性パーソナリティ障害
 失調型パーソナリティ障害
 シゾイドパーソナリティ障害
 回避性パーソナリティ障害
 依存性パーソナリティ障害
 強迫性パーソナリティ障害

 非常に安直な発想だが、パーソナリティ障害は性格の特定部分が極端に発露したものであるから、性格のタイプとパーソナリティ障害の種類を紐づけて考えられるような気がした。性格を分類する考え方の1つに、「エニアグラム」というものがある。エニアグラムでは、人間の性格を9つのタイプに分ける。

 (1)改革する人
 【特徴】職人。完全主義者。鑑識力が高い。神経質。融通が利かない。欲求不満。正義感が強い。生真面目な努力家。節度がある。文句が多い。
 ⇒【行きすぎると・・・】理想を絶対視し、それを他人にも押しつける。ルールが全てであり、それ以外の考えを認めない。他者のミスを執拗に責める。
 ⇒強迫性パーソナリティ障害

 (2)人を助ける人
 【特徴】人助け。細かい気遣い。八方美人。押しつけがましい。世話好き。同情心がある。自己犠牲。人を操作したがる。
 ⇒【行きすぎると・・・】相手がそれほど困っていなくても介入したがる。支援に対する過度な見返りを要求する。介入を拒否されると強い嫌悪感を示す。
 ⇒(該当するパーソナリティ障害が思いつかなかった)

 (3)達成する人
 【特徴】成功。計画実行。行動的。計算高い。リーダー。仕事に熱心。マネジメントを重視。競争心が強い。能率重視。人を駒のように扱う。
 ⇒【行きすぎると・・・】目標を達成するためには手段を選ばなくなる。規範を無視する。他人は自分にとって単なる道具であると考え、人を使い捨てにする。
 ⇒反社会性パーソナリティ障害

 (4)個性的な人
 【特徴】天才。孤高の志士。一番病。感受性が鋭い。ナルシスト。豊かな創造力。浪漫主義者。
 ⇒【行きすぎると・・・】演劇的、性的誘惑による行動によって、常に周りの注目を浴びたがる。周囲から評価されるためであれば、嘘をついたり、虚像を作り上げたりすることもいとわない。大げさな言動が多くなる。
 ⇒演技性パーソナリティ障害

 (5)調べる人
 【特徴】博士。学究肌。分析屋。内向的。皮肉屋。思慮深い。冷静沈着。探究心旺盛。有益性を重んじる。
 ⇒【行きすぎると・・・】人と深く関わることによって自分と相手が変化することを怖れる。相手に飲みこまれ、自分の独立性を失ってしまう恐怖におびえる。自分の世界を重視するあまり、人との交流が少なくなる。
 ⇒シゾイドパーソナリティ障害

 (6)忠実な人
 【特徴】安全第一。石橋を叩いて壊す。新しい物事への拒絶。規則を厳守。責任感が強い。権威に弱い。疑い深い。
 ⇒【行きすぎると・・・】組織のルール・前例に固執する。少しでも今までと違うことを命じられると、強い不安を感じ、拒絶を示す。最初は組織に順応していたのに、やがて組織内で疎んじられるようになり、孤立する。
 ⇒回避性パーソナリティ障害

 (7)熱中する人
 【特徴】楽天家。好奇心旺盛。自由人。飽きっぽい。情熱家。快楽主義。柔軟性がある。気分転換が上手。
 ⇒【行きすぎると・・・】自分は優れていて素晴らしく特別で偉大な存在でなければならないと思い込む。ありのままの自分を受け入れられず、イメージで作り上げた独創的な理想像にしがみつく。その自己像に酔いしれる。
 ⇒自己愛性パーソナリティ障害

 (8)挑戦する人
 【特徴】唯我独尊。理想主義者。自信家。他人に操られるのを嫌う。挑戦者。決断力がある。逆境に強い。統率力がある。
 ⇒【行きすぎると・・・】周囲の人は自分を陥れようとしているのではないかと疑い深くなる。周りからちょっと意見されただけで、自分をひどく傷つけられたかのように感じ、過度な仕返しを行う。自分が攻撃されているような妄想を抱く。
 ⇒妄想性パーソナリティ障害

 (9)平和をもたらす人
 【特徴】平和主義者。マイペース。器用な経営者。葛藤を嫌う。逃避。怠慢。友好的。無欲。器が大きい。
 ⇒【行きすぎると・・・】相手の顔色を常にうかがうようになる。相手に依存しなければ自分を保てない。ささいなことであっても自分では意思決定を下すことができず、周囲の意見に盲目的に追従する。
 ⇒依存性パーソナリティ障害

 「(2)人を助ける人」については、関連するパーソナリティ障害が解らなかった。もしかすると、何か新しいパーソナリティ障害がありうるのかもしれない(一方で、以前の記事「クリストファー・レーン『乱造される心の病』」でも書いたように、こうやって言葉をこねくり回すことで新しい精神疾患が生まれるのだろうとも感じた)。
プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。これまでの主な実績はこちらを参照。

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、2,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
シャイン経営研究所HP
シャイン経営研究所
 (私の個人事務所)

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