こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント)のブログ別館。1,500字程度の読書記録の集まり。

精神疾患

『顧客は何にお金を払うのか(DHBR2017年3月号)』―職場の嫌なヤツを消すことはできない。嫌なヤツを受け流そう


ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 03 月号 [雑誌] (顧客は何にお金を払うのか)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 03 月号 [雑誌] (顧客は何にお金を払うのか)

ダイヤモンド社 2017-02-10

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 特集についてはブログ本館で取り上げるとして、ブログ別館では特集以外の論文を紹介したいと思う。
 無作法やいじめを繰り返す同僚について人事部に報告するな、正面から取り合うなというわけではない。それよりも持続的な効果が見込めるのは、無作法な扱いをされても動じないようになることや、少なくとも抵抗力を格段に高める対処法を身につけることである。
(クリスティーン・ポラス「認知面と情緒面の成功感覚を育む 職場のイヤな奴から身を守る法」)
 どんな職場にも無作法な奴、礼儀がなっていない奴、仕事ができない奴、人間として欠陥がある奴、言い換えれば「イヤな奴」というのはいるものである。そういう人にどう対処すればよいかというユニークな論文である。

 結論から言うと、イヤな奴を職場から排除するのではなく、イヤな奴に対する抵抗力、免疫を身につけようということである。悪いのはイヤな奴の方なのに、どうしてこちらが譲らなければならないのかと思う方もいらっしゃるかもしれない。こちら側からイヤな奴を積極的に消し去れば問題は解決するようにも思える。だが、残念なことに、組織では必ず2:6:2の法則が成立し、ダメな2割を取り除いても、残ったメンバーが再び2:6:2に分かれることが知られている。

 抵抗力を上げる手段の1つとして、本論文では「日記をつけること」が挙げられている。日記を書くと、自分の感情を客観的に整理し、適切な意味づけができるようになるという。私はそれ以上に、悪い感情を自分の内部に溜め込まず、心身を健康に保つことができるという作用の方が大きいと思う。

 私は2012年の夏に精神疾患で入院したが、退院してから日記をつけている。文章にすると、自分の記憶が外部化されるため、脳の負担が減少する。また、私が精神疾患にかかったのは前職のベンチャー企業での経験が関係しているのだが、2013年にはブログ本館で「【シリーズ】ベンチャー失敗の教訓」という記事を1年かけて書いた。「ここまで暴露して大丈夫なのか?」、「前の会社から訴えられないか?」など色々と心配の声もいただいた。もちろん、色んな人にあの記事を読んでもらえればと思っているが、私にとってあのシリーズの第一の目的は治療であり、自分を傷つけていた負の記憶を身体から切り離すことであった。

 私がつけている日記は「5年日記」というもので、1ページに5年分の日記が書けるようになっている。私が5年日記なるものの存在を知ったのは、退院後の中小企業診断士の大きなイベントで、たまたま知り合ったかなりご高齢の診断士の先生から教えてもらったのがきっかけである。その先生は、もう何十年も5年日記を続けており、過去の日記を色々と見せていただいた。5年日記のいいところは、過去の同じ日に自分が何を感じていたのかを振り返ることができる点であるという。昔の自分からたくさんのことを学ぶことができるそうだ。

 私もこの先生に倣って5年日記をつけ始めた。ただ、私の場合はイヤな奴に関する負の感情も包み隠さず書いているため、半ばデスノート化しており(苦笑)、この先生のようにとても他の先生に見せられる代物ではない。それに、過去の同じ日の日記を読み返すと、昔のイヤな記憶が蘇ることもある。ただ、不思議なことに、負の感情が再燃するどころか、「昔は何とちっぽけなことでイライラしていたのか」と昔の自分を突き放して見ることができるようになった。つまり、感情的に自分が成長していることを実感できるわけである。こういう成長実感も、イヤな奴に対する抵抗力を高める上で重要であると、論文の著者は指摘している。

飯森真喜雄、内山真一郎『神経・精神疾患診療マニュアル』


神経・精神疾患診療マニュアル (日本医師会生涯教育シリーズ)神経・精神疾患診療マニュアル (日本医師会生涯教育シリーズ)
飯森真喜雄 内山真一郎

南山堂 2013-11

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 このように考え方を修正する必要がある患者に対して、精神科医は精神療法という手法を通して、多くの場合は年単位をかけて治療していくが、その間に患者は大抵怠薬して病状が悪化するといった失敗をする。しかし、患者は失敗を通して自分の疾患と向き合い、理解し、適切な行動変容に至るので、失敗は必ずしも悪ではなく、「失敗を上手に扱う」さらには「上手に失敗させる」技術と度量が求められる。
 私も自分で勝手に服薬を止めて痛い目にあったことがある。私が最初に通院していたクリニックの先生は、人見知りで対人関係が苦手な私から見ても、さらに人見知りで対人関係が苦手そうな先生で、コミュニケーションが上手く取れなかった。先生は私との会話が途絶えると、しばしば深いため息をついた。朝一番の診察では、先生が控室から白衣を着ながらあくびをして入って来ることもあった。先生のそのような一挙手一投足が、私にとっては非常に苦痛であった。

うつ病の経過グラフ

 (「どのような経過をたどるの? | 理解する | うつ病 | メンタルナビ」より)

 毎回、上のようなグラフを見せられ、「一番調子がよかった時の状態を100%とすると、今は何%ぐらいですか?」と聞かれた(実際には上のような複雑な形状のグラフではなく、放物線みたいなもっと簡単なグラフであった)。私が「50~60%ぐらいです」と答えると、「それでは引き続き薬を飲んでください」と言われて診察が終わってしまった。「私の自己判断に頼るのであれば、医師は何のためにいると言うのか?」と疑念が生じ、だんだんと通院するのが嫌になった。

 ただでさえ人に会うのがしんどいのに、先生がこんな調子だったため、通院を避けたい私は「もう100%です。治りました」と主張するようになった。そして、自分で勝手に治療を止めてしまった。後から振り返ると、これが大きな間違いであった。私がすべきだったのは、治療の中止ではなく、転院先を探すことであった。

 引用文にもあるように、この病気の治療は年単位に及ぶ(そういう意味で「心の風邪」という比喩は間違っていると思う。風邪なら3日程度で治るが、この病気はそうはいかない)。だから、たとえ病気で心身ともにしんどくても、信頼のおける先生を根気強く探すことが重要である。そこだけは労力をかけなければならない。

 近年、「新型うつ病」、「非定型うつ病」という病気が提示されるようになっている。しかし、本書はこれらの疾病に対して辛辣である。通常のうつ病は、自責的になり何もする気にならない、というのが一般的な症状である。これに対し非定型うつ病は、他責的になる、自分の好きなことだけはできる(だから旅行には嬉々として出かける)、といった特徴が挙げられる。

 本書は、うつ病の典型的な治療方法が、非定型うつ病には逆効果であると指摘する。まず、定型であれ非定型であれ、病気と診断されることで、心身の不調の責任を病気に転嫁することができる。その責任転嫁が対人関係にもおよび、他責的になる。また、うつ病の治療では、休息ばかりだと1日中やることがなくなってかえって生活のリズムが崩れることがあるため、好きなことは少しでもやった方がよいとアドバイスされる。しかし、これと同じことを非定型うつ病の患者に言うと、自分の好きなことだけをやればよいと勘違いして、旅行に出かけてしまう。

 本書では、非定型うつ病の治療に関して次のように述べられている。
 薬物療法は基本的に不要であり、処方するとしても対処療法にとどまる。患者に薬を飲んでいれば自然によくなると思わせてはならない。職場にも多少の問題はありそうだが、本人の努力も必要であると、抑うつ状態の原因の一端を本人にも引き受けてもらうことが重要である。
 実は私も、最初の頃は非定型うつ病と診断されていた。前述のクリニックに通わなくなった後、案の定病気が再燃したため、別のクリニックに通うようになった。通常、うつ病では不眠になるのだが、私の場合は過眠がひどかった。平日も毎日10時間ぐらい寝ていたし、休日は15時間寝るのが当たり前になっていた。

 また、不安よりもイライラが強く、毎日夕方になると頭痛に悩まされた。それでも、全てのやる気を失ったわけではなく、ギリギリのラインで仕事を続けることはできていた。そういう話をしたら、普通のうつ病ではなくて、非定型うつ病だと診断された(ただし、私は旅行には行っていないし、到底行く気分ではなかった)。

 それ以来、てっきり自分は非定型うつ病だと思い込んで治療を続けていた。ところが、それから3年ほど後に、一時的に病状が悪化して入院した際、担当医にこれまでの病歴を話したところ、「ところで、非定型うつ病とは何ですか?」と真顔で聞かれた。この先生はベテランの精神科医である。その先生が言うには、非定型うつ病というのは医学的に確立された概念ではないそうだ。「早く教えてほしかった」というのが本音である。入院中に今までの治療法を一旦リセットし、通常のうつ病と同じ治療法を受けるようになってからは、病状が安定し始めた。

 他責的という部分に関しては、多少読者の皆様に同情してもらいたいところがある。私は前職(ベンチャー系の人事・組織コンサルティング&教育研修会社)の社長から、「もう休め」と命じられて休職していた時期がある。ところが、私が担当していた仕事を代わりにやる社員がいないという理由で、休職中も普通に仕事をしていた。給料は休職中という理由で削減されているにもかかわらず、である。

 これでは休職するだけ損だから、職場に戻してほしいと私は何度も社長に訴えた。しかし社長からは、「君が休職して以来職場の雰囲気がギスギスしているから、戻るなら君が彼らとのコミュニケーションを円滑にすることが条件だ」などと言われた。当時の社員は、皆私より職位も年齢も上の人たちばかりである(若手の一般社員がおらず、皆が管理職といういびつな組織だった)。そんな彼らが、私がいなくなったことでコミュニケーション不全に陥ったというのがまず理解できなかった。その上、その問題を私に解決させようというのがさらに意味不明であった。

 しかし、私もこのままでは単に安い金でいいように使われているだけなので、社長と4回ほど交渉し、職場復帰に至った(これはかなり心理的負担が大きかった)。ところが、それから半年ほど経った頃、会社の業績不振を理由に、私は整理解雇の憂き目を見た。前職は一番社員が多かった時期で50人ほどいたのだが、リストラや転職が相次ぎ、さらには逃亡して行方不明になった人などもいて、最後は10人ほどになっていた。とうとう私にも解雇の手が及んだというわけだ。

 通常、整理解雇の場合は、会社が作成する離職票に「事業主の都合による解雇」と記入しなければならない。だが、どういう訳か私の離職票には「一身上の退職」と記入されていた。またしてもこの会社は法律違反を犯すのかと私は憤り、社長と交渉することにした。最終的には、離職理由を書き換えてもらったのだが、こんなに不毛で心身ともに疲弊する話し合いは二度としたくないと思った。もっとも、離職後すぐに個人事業主として独立したため、離職理由が自己都合だろうと会社都合だろうと、失業手当は1円ももらわなかったという点では変わりがない。

離職票

 (※私の実際の離職票。前職の苦しみを忘れないために今でも保管してある)

 以上が、私が中小企業診断士として独立するに至った経緯である。何か高邁なビジョンや目的があって独立したわけではないので、全く褒められた話ではない。ただ、こういう経験をしたため、前職のような企業を生み出してはならないと自分を戒めているし、社員をもっと大切にする経営のお手伝いをしたいと考えている。

岡田尊司『パーソナリティ障害―いかに接し、どう克服するか』


パーソナリティ障害―いかに接し、どう克服するか (PHP新書)パーソナリティ障害―いかに接し、どう克服するか (PHP新書)
岡田 尊司

PHP研究所 2004-06-01

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 パーソナリティ障害とは、認知(ものの捉え方や考え方)や感情、衝動コントロール、対人関係といった広い範囲のパーソナリティ(性格)機能の偏りから生じる障害を指す。大多数の人とは違う反応や行動をすることで本人が苦しんでいたり、周りが困ったりするケースで診断される精神疾患である。パーソナリティ障害には下記の10のタイプがあり、本書はそれぞれの障害の概要と治療方法、さらにその障害を持つ人に対する周囲の接し方について解説したものである。

 境界性パーソナリティ障害
 自己愛性パーソナリティ障害
 演技性パーソナリティ障害
 反社会性パーソナリティ障害
 妄想性パーソナリティ障害
 失調型パーソナリティ障害
 シゾイドパーソナリティ障害
 回避性パーソナリティ障害
 依存性パーソナリティ障害
 強迫性パーソナリティ障害

 非常に安直な発想だが、パーソナリティ障害は性格の特定部分が極端に発露したものであるから、性格のタイプとパーソナリティ障害の種類を紐づけて考えられるような気がした。性格を分類する考え方の1つに、「エニアグラム」というものがある。エニアグラムでは、人間の性格を9つのタイプに分ける。

 (1)改革する人
 【特徴】職人。完全主義者。鑑識力が高い。神経質。融通が利かない。欲求不満。正義感が強い。生真面目な努力家。節度がある。文句が多い。
 ⇒【行きすぎると・・・】理想を絶対視し、それを他人にも押しつける。ルールが全てであり、それ以外の考えを認めない。他者のミスを執拗に責める。
 ⇒強迫性パーソナリティ障害

 (2)人を助ける人
 【特徴】人助け。細かい気遣い。八方美人。押しつけがましい。世話好き。同情心がある。自己犠牲。人を操作したがる。
 ⇒【行きすぎると・・・】相手がそれほど困っていなくても介入したがる。支援に対する過度な見返りを要求する。介入を拒否されると強い嫌悪感を示す。
 ⇒(該当するパーソナリティ障害が思いつかなかった)

 (3)達成する人
 【特徴】成功。計画実行。行動的。計算高い。リーダー。仕事に熱心。マネジメントを重視。競争心が強い。能率重視。人を駒のように扱う。
 ⇒【行きすぎると・・・】目標を達成するためには手段を選ばなくなる。規範を無視する。他人は自分にとって単なる道具であると考え、人を使い捨てにする。
 ⇒反社会性パーソナリティ障害

 (4)個性的な人
 【特徴】天才。孤高の志士。一番病。感受性が鋭い。ナルシスト。豊かな創造力。浪漫主義者。
 ⇒【行きすぎると・・・】演劇的、性的誘惑による行動によって、常に周りの注目を浴びたがる。周囲から評価されるためであれば、嘘をついたり、虚像を作り上げたりすることもいとわない。大げさな言動が多くなる。
 ⇒演技性パーソナリティ障害

 (5)調べる人
 【特徴】博士。学究肌。分析屋。内向的。皮肉屋。思慮深い。冷静沈着。探究心旺盛。有益性を重んじる。
 ⇒【行きすぎると・・・】人と深く関わることによって自分と相手が変化することを怖れる。相手に飲みこまれ、自分の独立性を失ってしまう恐怖におびえる。自分の世界を重視するあまり、人との交流が少なくなる。
 ⇒シゾイドパーソナリティ障害

 (6)忠実な人
 【特徴】安全第一。石橋を叩いて壊す。新しい物事への拒絶。規則を厳守。責任感が強い。権威に弱い。疑い深い。
 ⇒【行きすぎると・・・】組織のルール・前例に固執する。少しでも今までと違うことを命じられると、強い不安を感じ、拒絶を示す。最初は組織に順応していたのに、やがて組織内で疎んじられるようになり、孤立する。
 ⇒回避性パーソナリティ障害

 (7)熱中する人
 【特徴】楽天家。好奇心旺盛。自由人。飽きっぽい。情熱家。快楽主義。柔軟性がある。気分転換が上手。
 ⇒【行きすぎると・・・】自分は優れていて素晴らしく特別で偉大な存在でなければならないと思い込む。ありのままの自分を受け入れられず、イメージで作り上げた独創的な理想像にしがみつく。その自己像に酔いしれる。
 ⇒自己愛性パーソナリティ障害

 (8)挑戦する人
 【特徴】唯我独尊。理想主義者。自信家。他人に操られるのを嫌う。挑戦者。決断力がある。逆境に強い。統率力がある。
 ⇒【行きすぎると・・・】周囲の人は自分を陥れようとしているのではないかと疑い深くなる。周りからちょっと意見されただけで、自分をひどく傷つけられたかのように感じ、過度な仕返しを行う。自分が攻撃されているような妄想を抱く。
 ⇒妄想性パーソナリティ障害

 (9)平和をもたらす人
 【特徴】平和主義者。マイペース。器用な経営者。葛藤を嫌う。逃避。怠慢。友好的。無欲。器が大きい。
 ⇒【行きすぎると・・・】相手の顔色を常にうかがうようになる。相手に依存しなければ自分を保てない。ささいなことであっても自分では意思決定を下すことができず、周囲の意見に盲目的に追従する。
 ⇒依存性パーソナリティ障害

 「(2)人を助ける人」については、関連するパーソナリティ障害が解らなかった。もしかすると、何か新しいパーソナリティ障害がありうるのかもしれない(一方で、以前の記事「クリストファー・レーン『乱造される心の病』」でも書いたように、こうやって言葉をこねくり回すことで新しい精神疾患が生まれるのだろうとも感じた)。

クリストファー・レーン『乱造される心の病』


乱造される心の病乱造される心の病
クリストファー・レーン 寺西 のぶ子

河出書房新社 2009-08-22

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 現在の精神疾患治療には、大きく2つの問題がある。1つ目は、DSM(精神障害の診断と統計マニュアル)についてである。DSMは不定期に改定され、現在はDSM-5(2014年発行)となっている。しかし、改定を重ねるごとに精神疾患が増え、我々の何でもない日常的な反応までもが病気と定義されている。

 本書では「社会不安障害」が取り上げられているが、批判されるのが怖い、パーティーへの参加は避ける、知らない人と話をするのが怖い、権力を持っている人と話すのは避ける、他人の前で身震いしたり手足が震えたりするのが自分にとって苦痛だ、などといった症状にいくつかあてはまれば、立派な「社会不安障害」と診断され、精神病薬のお世話にならなければならない。

 本当に治療が必要な社会不安障害とは、その人が日常生活で何をするにも強い不安を感じる場合である。特定の2、3の状況で限定的に不安を感じる程度であれば、どんな人にもありうることであって、何の病気でもない。そんなケースまでも病気の定義に放り込んでいるのは、精神病薬の市場拡大を狙う製薬会社の影響が大きい。しかも、不思議なことに、病気の数は増えても、結局はパキシル(SSRIと呼ばれる抗うつ病薬)など、特定の精神病薬を飲むように勧められる。パキシルをたくさん売りたい製薬会社の意向以外の何物でもないだろう。

 ブログ本館の記事「戦略を立案する7つの視点(アンゾフの成長ベクトルを拡張して)(1)(2)」で、以下のような図を用いた。製薬会社の戦略は、⑤新市場開拓戦略に該当するのかもしれない。つまり、パキシルという既存の薬を、うつ病患者という既存のマーケットに販売するのではなく、別の精神疾患というセグメントを創造することで、売上拡大を狙う戦略である。表面的に見れば見事な成功例なのだが、顧客にとって本当に価値があるかどうかという点から考えると、手放しで成功例と認めるわけにはいかない。

戦略を立案する7つの視点

 もう1つの問題は、精神疾患の原因を単純に捉えすぎているという点である。因果関係をできるだけ単純化しようとするアメリカ的思考の弊害である。うつ病をはじめとする多くの精神疾患の原因は、脳内伝達物質であるセロトニンの不調であるとされる。ところが、以前の記事「功刀浩『研修医・コメディカルのための精神疾患の薬物療法講義』」でも述べたように、この仮説は臨床的に証明されていない。それどころか、本書によれば、精神疾患の原因を、何でもかんでも生物学的要因に帰着させるのは無理があるという。

 本書では、DSMが精神疾患の原因を多面的に把握するフロイト的な発想を排除し、原因を生物学的に特定するクレペリンの研究を下敷きにしていることが紹介されている。その証拠に、フロイトが発見した「神経症」はDSMで採用されていない。それどころか、DSMの編集メンバーは、神経症に関するフロイトの研究を侮蔑していたらしい。著者は、精神疾患を生物学的な要因だけでなく、心理的、社会的、環境的要因など、様々な角度から分析するべきだと警鐘を鳴らす。
 議論は、辞書や類義語辞典のなかから必死に言葉を探す場となってしまい、臨床試験や科学的調査で明らかになった明確な分析結果を採用する場とはなっていなかった。
 DSMには何百もの精神疾患が掲載されているが、あの手この手で日常生活の不調を病気と定義する言葉遊びになっている節がある。臨床的なデータに基づいて議論するのではなく、理論的に考えうるケースを想定し、適当な言葉を辞書の中から探り当てて、精神疾患を創造しているのである。

 話は変わるが、現実のことをあまり見ずに、机上の推論だけでマニュアルや社内文書を作る困った人に、私は今までに1人だけ出くわしたことがある。こういう人と一緒に仕事をすると非常に大変だ。その人は無尽蔵にルールを作り出しては、マニュアルをどんどん分厚くしていく。そのルールが適用される例が現実にどの程度存在するのかは、その人にとって関係ない。あくまでも、全体を網羅していることが重要なのである。DSMの編集メンバーも似たところがあるのかもしれない。

功刀浩『研修医・コメディカルのための精神疾患の薬物療法講義』


研修医・コメディカルのための精神疾患の薬物療法講義研修医・コメディカルのための精神疾患の薬物療法講義
功刀 浩

金剛出版 2013-06-03

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 (1)本書で解説されていたほとんどの抗うつ薬を飲んだことがあった(苦笑)。パキシル、ジェイゾロフト、デプロメール、レクサプロ、サインバルタ、リフレックス、トリプタノール、アナフラニール、ノリトレン、アモキサンは飲んだ記憶がある。私は医師ではないし、個人的見解の域を出ないのだが、抗うつ剤は結局のところどれを飲んでも大して変わらないと思う。

 患者は、抗うつ薬が果たして自分に効いているのかどうか不安になる。その不安をかかりつけ医に正直に伝えたとする。医師は「よく解りません」とは言えず、何らかの対処を施して医師のメンツを保とうとするので、すぐに別の抗うつ薬を追加してくる。一方、うつ病の患者は判断能力が低下しているから、医師に上手く意見することができない。こうして、服用すべき薬ばかりがどんどん増えていく。

 抗うつ剤は少ない種類を辛抱強く飲み続けることが重要だと思う。しかも、「その薬を飲んでいれば、多少なりとも症状が安定する」と信じて飲み続けることが肝要である。本書を読んで初めて知ったことだが、日本ではプラセボ対照試験が長らく行われていなかった。プラセボ対象試験とは、新薬の承認にあたって、被験者を2グループに分け、一方には新薬を、もう一方にはプラセボ(偽薬)を投与して、効果の差異を測定する手法である。

 日本でプラセボ対照試験が行われるようになってから解ったのは、プラセボを投与された群でもうつ症状がかなり改善する、ということだ。海外で既に承認されている有名な抗うつ薬であっても、プラセボと比較して有意差がつかないケースが多く見られたという。要するに、薬は何であってもよいのである。

 (2)抗うつ薬には副作用を伴うものが少なくない。中には、うつ病と全く同じ症状が出るケースもあるため、自分の状態が病気によるものなのか、薬の副作用によるものなのか判断できないことがある(私も困ったことがある)。

 SSRIなどの新しい抗うつ薬の副作用として注意しなければならないのは、「賦活症候群」である。賦活症候群では、イライラ、不安、焦燥、パニック発作、攻撃性、衝動性、不眠、アカンジア(静座不能)、躁ないし軽躁といった症状が見られ、最悪の場合は自殺念慮を引き起こす。これらの症状はうつ病の症状と共通する。うつ病の症状と副作用とを判別する方法が確立されることを願っている。

 (3)うつ病は、脳内の神経伝達物質であるセロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンといったモノアミンの分泌が十分でないと発症すると言われる。これを「モノアミン仮説」と呼ぶ。私もてっきりそういうものだと思い込んでいた。ところが、本書によればモノアミン仮説には2つの矛盾があるという。

 1つ目の矛盾は、うつ病患者の死後脳研究において、モノアミンやその代謝産物が減少しているという結果が得られていない、ということである。そしてもう1つは、抗うつ薬によるモノアミン増加と、うつ病の症状改善との間に時間差があることだ。ラットの実験では、SSRIの投与後、30分程度でセロトニン濃度が高まることが確認されている。しかし、一般的にSSRIの効果が表れ始める、つまり気分障害が改善に向かうのは投与から1~2週間後である。仮にセロトニン不足がうつ病の原因であるならば、SSRI服用後30分で効果が出なければおかしい。

 近年は、モノアミン仮説に代わって、「神経栄養因子仮説」が主流となりつつあるらしい。神経栄養因子(BDNF:Brain-Derived Neurotrophic Factor)とは、神経細胞同士のつながりを増やしたり、新しい神経細胞ができるのを促したりする物質である。うつ病患者の死後脳研究ではBDNF濃度が低下していること、また抗うつ薬服用者ではBDNFが増加していることが確認されている。

 (4)ここ10年ぐらいでうつ病患者は急増しているが、最近は「双極性障害(躁うつ病)」というものが注目されている。うつ病だと思って抗うつ薬を服用しているのになかなか症状が改善しない人の中には、実は双極性障害であるという人が結構いるらしい。双極性障害とは、躁状態(気分が高揚している状態)とうつ状態を交互に繰り返す病気である。別名が躁うつ病なので、うつ病の仲間のように思えるものの、実際には全くの別物である点に注意が必要である。

 本書によると、うつ病と異なり、双極性障害に対しては抗うつ薬の有効性は証明されていないそうだ。古いタイプの抗うつ薬である三環系抗うつ薬は、むしろ双極性障害を不安定化させることが明らかになっている。また、新しいタイプのSSRIも、双極性障害に有効という証拠がない。

 (5)私は、医師に勧められるがままにリーマス(リチウム)を服用していたが、リチウムは危険度が高い薬のようだ。リチウムの服用中は、甲状腺機能低下症が出現することがある。また、長期に服用していると、のどが渇く、水をよく飲む、尿の回数が多い、といった副作用も出てくる。これは、リチウムが腎臓の尿細管を障害し、水分の再吸収を阻害するためである。

 リチウムは治療量と中毒量が近い。リチウム中毒になると、激しい下痢、嘔吐などが出現し、ふらふらして真っ直ぐ歩けないといった小脳失調症状が見られたり、意識障害が出たりする。このような副作用があることから、我が国では血中濃度測定による治療管理を行いながら投与することを条件に認可されている。リーマスを服用している時だけ血液検査をしなければならないのはなぜだろうとかねてから不思議だったのだけれども、ようやく合点がいった。
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プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、1,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
所属組織など
◆個人事務所
 「シャイン経営研究所」◆ シャイン経営研究所ロゴ

(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長、および国際部員を務めています)

NPOビジネスサポート特定非営利活動法人NPOビジネスサポート
(監事を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)

Experian海外企業信用調査 海外企業信用調査(Experian)
(一緒にお仕事をさせていただいている「コンサルビューション株式会社」は、世界最大の信用調査会社Experianの正規代理店です)

【中小企業診断士は独学で取れる】中小企業診断士に独学で合格するなら「資格スクエア」中小企業診断士の安い通信講座なら「資格スクエア」
(以下の資格の講師をしています。
 ―ITパスポート
 ―情報セキュリティマネジメント
 ―経営学検定(初級・中級)
 ―中小企業診断士(企業経営理論、経営情報システム、中小企業経営・中小企業政策)
 谷藤友彦と株式会社サイトビジット代表取締役・鬼頭政人氏の対談動画(1)(2)(3)
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