本気の「脱年功」人事賃金制度―職務給・役割給・職能給の再構築本気の「脱年功」人事賃金制度―職務給・役割給・職能給の再構築
経団連事業サービス人事賃金センター

経団連出版 2017-10-02

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 職務等級制度、役割等級制度、職能資格制度に関する1冊である。ただし、本書でも述べられている通り、職能資格制度は年功的に運用されることが多いというデメリットがあるため、本書の中心は職務等級制度と役割等級制度であり、とりわけ職務等級制度にウェイトが置かれている。

 職務等級制度を導入するには、大前提として事業戦略が明確であることが重要となる。その前提に立って、まずは職務分析を行う。事業戦略を遂行するために必要となる企業内の全ての業務を漏れなく洗い出し、求められる成果の大きさや質、遵守すべきプロセス、外的な制約条件、肉体的・心理的負荷の程度、必要な能力要件などを分析する。それを踏まえて、その業務の総合的な難易度をスコア化する。例えば、営業部門で既存の大企業顧客に製品の継続購入を促す営業担当者の業務は198点、人事部門で新しい人事制度の導入を行うプロジェクトリーダーの業務は243点といった具合だ(点数は私が適当に決めたもの)。

 全ての業務のスコアが判明したら、職務等級を決定する。本書では、等級の決定方法として、等差級数法、等比級数法、等級差等差級数法の3種類が紹介されている。本書の例を使うと、100~145点は1級、146~191点は2級、192~237点は3級、238点以上は4級などと決めることになる。そして、全ての業務がどの等級に該当するかを判定する。先ほどの営業担当者は職務等級3級、人事部門のプロジェクトリーダーは職務等級4級にあたる。

 職務等級が定まったら、今度は給与を決定する。職務等級制度においては、給与は職務給と貢献給(業績給)から構成される。職務給は等級ごとにその等級の難易度を考慮して決める。貢献給は、再び本書の例を使うと、5等級の場合、業績ランクがEならば1万円、Dならば2万円、Cならば3万円、Bならば4万円、Aならば5万円、それよりも難易度が高い6等級の場合、業績ランクがEならば1万円、Dならば3万円、Cならば5万円、Bならば7万円、Aならば9万円などと設定する。最後に、新しい事業戦略に従ってそれぞれの職務に人材を配置し、計画通りの売上高が上がった場合、必要な人件費を支払えるかどうかを検証する。

 職務等級制度は事業戦略に人事制度を従わせており、最も論理的に設計された人事制度と言える。ところが、こと人事制度に関しては、論理的に設計すればするほど、社員の納得感が下がるというパラドクスが生じるように思える。まず、職務の難易度を決める際に、本当に客観的な基準で難易度を決定できるのかという嫌疑が生じる。基準を明文化したとしても、ある特定の業務について、Aさんは○○と解釈して難易度が低いと判断する一方、Bさんは△△と解釈して難易度が高いと判断する可能性がある。それを防ぐために基準を厳密かつ丁寧に記述すると、それらの文言をめぐってさらに多様な見方を生んでしまう。

 等級を決める際に、等差級数法、等比級数法、等級差等差級数法のうち、どれを採用するかも大きな問題である。どの方法を採るかによって等級間のスコアの幅が異なり、それが職務給の違いとなって表れるからだ。3種類の方法のうち、自社ではどの方法を使うことにしたのか、社員に対して納得感のある説明ができる人事部門は果たしてどのくらい存在するだろうか?

 貢献給の決め方も前述のようなやり方でよいのかという疑問が生じる。前述の方法だと、職能資格制度において、特定の職能内で号俸が上がるのと大差ないのではないかと感じてしまう。貢献給は業績の配分であるから、一定のルールに従って企業の業績を社員に配分しなければならない。ただ、この配分ルールが曲者である。私は旧ブログやブログ本館で、納得感のある業績給の決定方法を色々と検討してみたが(例えば、イノベーションに失敗した人の業績給をどうするか、マネジャーの業績給をどうするか、など)、結局、成果には短期のものもあれば長期のものもあり、また失敗した(損失を出した)仕事であっても自社にとって価値があるものがあることなどを踏まえると、単年度の業績を合理的に配分するルールを設定するのは不可能だという結論に至った。

 実は本書では、職務等級制度の給与は原則として「職務給+貢献給」で決まるとしながら、職務のタイプによってさらに細かい給与設定の方法が提案されている。まず、定型的職務に関しては、「職務給+習熟給(もしくは習熟ランク給)」としている。習熟給とは、定型業務に慣れて業務スピードや業務品質が上がるにつれて追加される給与のことである。

 習熟給については、賃金テーブルを使うのが通常だが、習熟給の範囲だけを示した昇給表(本書の例を使うと、3級は職務給23万円、習熟給0~9万円とする、など)や、金額の代わりに指数による昇給表(本書の例を使うと、3級で人事考課がSの場合は200、Aの場合は150、Bの場合は130、Cの場合は50、Dの場合は0とし、今期は100=500円とすることで、人事考課がSの場合は1,000円、Aの場合は750円、Bの場合は650円、Cの場合は50円、Dの場合は0円とする、など)を用いることで、企業の業績に応じて習熟給を柔軟に調整できるとしている。

 一方、非定型的職務のうち、その職務に就いたばかりで、担当者の職能の伸長に応じて課業配分の一部分が変わる職務の場合は「職能給(範囲型)」、職能が一定レベルに達し自己裁量で職務を遂行できる職務の場合は「上限職能給+貢献給」、人事部長、製造課長などの管理職や営業職、研究開発職、ソフト開発技術者など、経営目標達成のため役割や職責があらかじめ設定されている職務の場合は「職務給(役割給)+貢献給」がよいとされている。

 論理的に考えるとそうなのかもしれないが、通常の社員は、まずは定型的職務から始まって徐々に非定型的職務へと移行し、さらにマネジャーに昇進するというキャリアパスを想定すると、最初は職務給で、途中から職能給に代わり、マネジャーになると再び職務給に戻るという複雑な経路をたどることになる。この給与体系に納得できる社員がどれほどいるか私には疑問である。また、キャリアパスの途中から貢献給が加わることになるが、なぜか貢献給に関しては、習熟給のように企業の業績に応じて柔軟に調整する方法が述べられていない点も不自然に感じた。貢献給こそ、業績に応じた調整が必要なのではないだろうか?(もっとも、私自身は前述のように業績配分ルールの設定を諦めているわけだが)。

 最大の矛盾は、本書の前半で、定型課業で構成される職位従事者は能力考課を行い業績考課は行わない反面、非定型課業で構成される職位従事者は能力考課を行わず業績考課を行うと書かれている点である。これは、定型的職務には「職務給」を、非定型的職務の大半には「職能給」を支払うとする先の記述と矛盾する。定型的職務には「職能給」を、非定型的職務には「職務給+貢献給」を支払うとしなければおかしい。このように、本書は人事制度をきめ細かく設計しようとしているが、細部を詰めすぎるあまり途中でボロが出てしまい、残念ながら社員にとって納得感のある制度にはなっていないように感じる。

 私は、人事制度で最も大切なのは「公正さ」よりも「解りやすさ」だと思う。公正さを追求して厳密な制度にしようとすると、本書のように途中で矛盾が生じ、かえって公正さが損なわれてしまう。多少不公平感が残ったとしても、簡便な制度にすることの方を優先した方がよい。その点、日本の年功制は最も優れた制度であると私は考えている。事実、本書にも次のように書かれた箇所がある。
 年齢や勤続年数という基準は、人事考課結果とは異なり、だれもが文句をつけようのない客観的な物差しであり、ある意味きわめてわかりやすい。
 この年功制をベースとしたシンプルな賃金制度について、近日ブログ本館で私案を提示する予定である。