こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント)のブログ別館。1,000字程度の読書記録などの集まり。

補助金

『人生の要訣(『致知』2016年10月号)』


致知2016年10月号人生の要訣 致知2016年10月号

致知出版社 2016-10


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 以前の記事「『メガバンク 地銀 証券 金融エリートの没落/全てはボールペン軸から始まった 「加工の匠」積水化学の開発力(『週刊ダイヤモンド』2016年9月3日号)』」でも書いたが、現在私はある中小企業向けの補助金事業の事務局員をしている。簡単に言うと、中小企業が事前に提出した事業計画に基づいて購入した機械装置などについて、伝票類をもれなく整理してもらい、加えて事業の結果を報告書にまとめてもらう。我々はそれらの書類をチェックし、問題がなければ中小企業に補助金をお支払いする、という仕事である。ただ、私のような30代の人間は皆無に等しく、大部分は50代、60代以上の中小企業診断士か、大手企業のOBである。事務局内での仕事を観察していると、興味深いことに気づく。

 まず、事務局員は私からすれば人生の大先輩であるにもかかわらず、中にはあまり仕事ができない人がいる(あまりこういうことを書くと怒られるかもしれないが・・・)。書類の処理が遅い人、メールへのレスポンスが遅い人、電話で敬語が正しく使えない人、中小企業の社長に対して高圧的な態度で接する人、中小企業は補助金を使って不正を働くに違いないと常に疑いの目で見ている人などである。事務局員によって能力・態度に大きな差があることは、だんだんと中小企業側も理解し始めたようで、「この事務局員が自社の担当になると当たり、あの事務局員が担当になると外れ」という情報が中小企業の間で出回っているらしい。

 一方の中小企業も、様々なタイプの企業や経営者がいる。書類の締め切りを守らない企業、補助金のルールを守らない企業、不正を試みる企業、グレーな部分をめぐって執拗に議論を吹っかけてくる企業、事務局判断で補助金の減額・査定を伝えると激怒する企業などがある。中には怪しいコンサルタントを仲介させて余計に話をややこしくしたり、中小企業庁にクレームを入れたり、政治家の元に陳情に行ったりする企業もあると聞く。

 私が興味深いことに気づいたというのは、あまり仕事ができない事務局員に限って、厄介な中小企業を担当することになるケースが多いということである。グレーな事業計画書をメールで提出した中小企業に対して、事務局員がそのメールを1週間ほど放置した挙句に、「こんな計画ではダメだ」などと高圧的に応対するものだから、そこから大きなトラブルに発展するケースなどを見てきた。私が思うに、心根が汚い事務局員は、同じように心根が汚い企業を引き寄せてしまう。幸いにも私は、そういうトラブルメーカーを担当したことはほとんどなく(全体の1%ぐらいだと思う)、日頃の心がけのおかげだと密かに胸を張っていた。

 ところが、『致知』2016年10月号の次の文章を読んで、私は自分の認識を反省した。私が比較的手のかからない中小企業ばかりを担当しているのは、私がこの仕事に対して本気ではないことを表しているかもしれないのだ。
 運よく、カルカッタの礼拝堂でマザーに面会することのできた私は、「どうしてあなた方は、あの汚い、怖い乞食を抱きかかえられるのですか?」と尋ねました。マザーは即座に、「あの人たちは乞食ではありません」とおっしゃるので、私は驚いて「えっ、あの人たちが乞食でなくていったい何ですか?」と聞くと、「イエス・キリストです」とお答えになったのです。私の人生を変えるひと言でした。

 マザーはさらにこうおっしゃいました。「イエス・キリストは、この仕事をしているあなたが本物かどうか、そしてこの仕事をしているあなたが本気かどうかを確かめるために、あなたの一番受け入れがたい姿であなたの前に現れるのです」
(上甲晃「松下幸之助に学んだ人生の要訣 自らを省みて自ら変わる」)
 もちろんこれは、私もクレーマーみたいな中小企業を担当しなければならない、ということを意味しているわけではないと解釈している。もっと対応が難しい中小企業、具体的に言えば、非常に優れた事業計画で社長や現場の担当者にもやる気があるのだが、購入物品が多岐に渡る上に事務処理能力に問題があって、なかなか補助金申請用の書類が整わない中小企業に対して、あの手この手のサポートを施し、無事に満額の補助金を受け取ってもらう、という厳しい仕事を通じて自分を鍛えよということなのだと思う。

浅川芳裕『TPPで日本は世界一の農業大国になる』


TPPで日本は世界一の農業大国になるTPPで日本は世界一の農業大国になる
浅川 芳裕

ベストセラーズ 2012-03-16

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 彼らが「農業壊滅論」を主張する”公式の”根拠となっているのが、農水省が2010年10月、当時の菅政権がTPP参加検討を表明した直後に発表した数値だ。「農産物生産額が4.1兆円減少、食料自給率が14%に低下する」という試算である。(中略)コメの生産減少額だけで、4.1兆円のうち約半分の1兆9700億円を占めるという。この金額は、最新のコメの生産額1兆5517億円(農水省「2010年農業総産出額」)より大きい。TPPに参加すると、日本のコメ農家は収穫したコメを全てタダで配ったうえに、マイナス分の4183億円を蓄えから差し出さないと合わない。
 2010年の農林水産省はなぜこんなガバガバな試算を公開したのだろうか?ひょっとすると、試算チームの中にTPP賛成派が隠れていて、農林水産省に恥をかかせて世論をTPP賛成に傾けようと仕向けたのではないか?と勘ぐってしまう。同じ試算では、TPPによって340万人の農業雇用が失われるとされている。ところが、2014年の農業就業人口は226.6万人であるから、やはり辻褄が合わない。

 農林水産省は何かにつけて食料自給率を持ち出すが、日本の食料自給率は虚構である。まず、カロリーベースで統計を取っているのは、先進国で日本だけだ。野菜と畜産物では畜産物の方がカロリーが高いから、いくら野菜の国内生産を増やしても、畜産物の輸入が多ければ、食料自給率は上がらない。しかも、畜産物の計算にはからくりがある。畜産物は大量の飼料を消費する。その飼料が輸入品の場合は、生産される畜産物も輸入品扱いになるのである。だから、日本の畜産農家がいくら頑張っても、食料自給率は上がらない。

 畜産物が飼料を必要とするように、農産物は肥料を必要とする。肥料の原料となるリン酸やカリは世界に遍在しており、日本では採取できない。よって、肥料を完全に国産で作ることは不可能である。ところが、肥料(および肥料の原料)が輸入品であっても、農産物は輸入扱いにならない。この点だけを取り上げても、食料自給率は恣意的な数字であることが解る(仮に輸入肥料で作った農産物を輸入品扱いにしたら、食料自給率は恐ろしく低くなるに違いない)。

 さらに、昨日の記事「廣宮孝信、青木文鷹『TPPが日本を壊す』」でも書いたように、農林水産省は国内産のコメを減反政策で減らす一方、輸入小麦の消費を増やそうとしている。自分で食料自給率を押し下げておきながら、食料自給率が低くて大変だと騒いでいるのが今の農林水産省である。

 上記の記事で、TPPはグローバル規模の水平分業体制を作るものだと書いた。ただ、もう少しつけ加えると、私は日本が少しでも比較劣位にあるものは全て海外からの輸入に頼り、日本は圧倒的な比較優位にあるものだけに集中すればよい、と単純に考えているわけではない。まずは、あらゆる製品・サービスを可能な限り日本国内で作ることを第一とする。その上で、どうしても国内で供給できないものは海外から輸入するのが望ましい、というスタンスである。

 そう書くと、食料自給率を上げるべきではないか?と言われそうだが、ちょっと違う。食料自給率の向上を絶対化してはならない。国内の需要は人口動態、嗜好の変化などを踏まえるとどのように推移するか?それに対して、国内の供給能力はどの程度か?需給ギャップが生じるものは何で、それはどのくらいの量なのか?不足分はどの国からどのくらい輸入すればよいのか?その国と良好な関係を構築するにはどのような政治的働きかけをするべきか?と戦略的に考え、国民が食に困らない体制を構築することが必要だと言いたいのである。
 TPPで関税撤廃+国家マージンがなくなると、海外小麦は国際価格のキロ20円前後で取引されるようになる。これに引きずられる形で、国産価格もキロ20円かそれ以下に落ちる。その結果、生産額はざっと200億円程度に減少するが、メイン収入源の補助金が残るとすれば(政府はTPP対策で増額の方向性)、農家の手取りで言えば1、2割減る程度だ。
 農家向け補助金の扱いが今回のTPP交渉でどのように決まったのかはよく解らない。だが、自由貿易を推進するというTPPの趣旨に照らし合わせれば、過度に安い価格設定が可能となる補助金は廃止になるはずだ。安倍総理は、平成27年度補正予算でTPP対策費として農家向け補助金を計上する考えである。これは、今回の交渉で例外的に認められたことなのだろうか?
 WTOの枠組みによる多国間交渉が進展しない一番の理由は、先進国の農業補助金の存在である。裕福な先進国は毎年3000億ドルを農業補助金に使っており、その分、途上国は主要産品である農産物の輸出市場を失っている。
 アメリカやフランスが食料自給率100%以上を達成し、余剰分を世界中に輸出しまくっているのは、政府が多額の補助金をつけているからだと言われる。だが、引用文の書きぶりを見ると、そういう補助金は今後通用しなくなる可能性が高い。

 我々国民は、「我々の税金で農家が補助金漬けになっている」としばしば批判する。しかし他方で、その補助金漬けになっている農水畜産物を日々口にし、恩恵を被っているという事実を忘れている。我々も、意図的ではないにせよ、市場競争を歪めることに加担しているのである。我々はTPPによって、そういう心根の悪い消費から脱却することが求められているかもしれない。

『小さくても強い国のイノベーション力(『一橋ビジネスレビュー』2014年WIN.62巻3号)』


一橋ビジネスレビュー 2014年WIN.62巻3号: 特集:小さくても強い国のイノベーション力一橋ビジネスレビュー 2014年WIN.62巻3号: 特集:小さくても強い国のイノベーション力
一橋大学イノベーション研究センター

東洋経済新報社 2014-12-12

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 スイス、シンガポール、デンマーク、オランダ、イスラエルの5か国についての論文が収録されている。その中で、スイスの論文(江藤学「人材能力マネジメントが生み出すスイスのイノベーション能力」)を読んで感じたことをまとめておく。

 (1)
 スイスでは連邦政府による法人税の構成のうち、国税の占める割合がきわめて低く、法人税の納税額のかなりの部分は州が設定する税率に委ねられているため、(中略)ツーク(Zug)州、ルツェルン(Luzern)州などが低税率州として国外企業本社の集積地となっている。(中略)ここで重要な点は、スイスの各州が国外からの誘致をねらっているのは、本社あるいは研究所など、各国外企業の中枢となる組織であるということだ。
 スイスと同じように、法人税率を下げることで世界中から本社機能を集めることに成功しているのがシンガポールである(渡辺千仭「シンガポールのイノベーション力」)。シンガポールは、世界銀行の調査で「世界で最もビジネスがしやすい国」に選ばれている。日本でも、安倍内閣が法人税の実効税率を引き下げて海外企業を誘致しようとしているが、税率を下げれば海外企業がすぐに来てくれるなどという甘い話ではない。

 スイスの場合は、スイスを中心としてEU各国の市場にアクセスすることができる。同様に、シンガポールの場合は、グローバル企業がアジア統括拠点をシンガポールに置いて、中国・インドという2大市場や、インドネシア、マレーシア、タイなど急速に成長するASEAN諸国でビジネスを展開している。

 日本の場合、縮小する日本市場を目当てに進出してくるグローバル企業はほとんどないだろう。では、日本に拠点を置いて、アジアのどの国に進出することができるというのだろうか?こういうメリットがはっきりしていないと、法人税の実効税率の引き下げは何の効果ももたらさないに違いない。最悪の場合、単に法人税収が減るだけで終わってしまう可能性もある。

 (2)
 スイスにおける中小企業政策の基本は、大企業と中小企業とを区別せず、中小企業が大企業と同じ活動ができる環境を実現することである。(中略)スイスにおける連邦政府の産業政策とは、スイス企業を保護したり、資金援助したりすることではなく、「スイス企業をグローバル環境での激しい競争環境下に置くこと」なのである。
 最近、色々な中小企業の経営者とお話をさせていただいているが、「税金をびた一文払いたくない」と公言する経営者は決して少なくない。税引き前当期純利益の額を少なくするために、顧問の税理士を使って、時には粉飾決算にまで手を染める(経営者が意図的にやっている場合と、無意識にやっている場合とがある)。だから、中小企業の決算書を見ると、経常利益率が1%を切っていて、雀の涙程度の利益しか出ていないことがよくある。

 私は、利益を出さない、税金を支払わないという姿勢には、疑問を感じる。まず、企業が社会の中で事業をすることができるのは、政府や自治体が物理的なインフラを整えたり、公正な競争環境を保つために様々な法律や規制を作ってくれたりしているからである。そのためには税金が必要である。その税金を払わないということは、社会的インフラにタダ乗りしているのと同じだ。

 (1)で法人税について触れたが、昨年、法人税率の引き下げに伴う税収減を、外形標準課税の適用拡大で補うという話があった。この時、中小企業からは強い反発の声が上がり、各種中小企業団体は自民党に要望書を提出した。しかし、本来であれば、赤字であろうと何であろうと、相応の社会的コストは負担するべきだと思う。それが嫌なら、社会の中で企業経営などしてはならない。

 利益を出さないというのは、将来に向けた投資を放棄しているのと同義である。例えば製造業の場合、機械装置は必ず古くなるから、定期的に入れ替える必要がある。そのための原資を、毎年の利益からプールしなければならない。売上高が3億円、機械設備が10台ある企業で、機械設備の更新サイクルが10年であれば、毎年1台はリプレースすることになる。

 機械装置が1台2,000万円、法人税率が35%だとすると、毎年3,000万円以上の利益を上げなければ、設備投資ができない計算になる。経常利益率にすると10%以上だ。ところが、中小製造業の平均経常利益率は1.7%しかない。

 利益を放棄して将来への投資を怠っているため、市場で競争する上で最低限揃えておくべき機械装置が入っていない中小企業は結構あると思う。そして、そういう企業に対して、設備投資のための公的な補助金が出ているという話も聞く。だが、そこまでして中小企業を救済する意味があるのか、首をかしげたくなる。スイスほどでなくても、もっと手厳しくしてもよいのではないだろうか?
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プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、1,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
所属組織など
◆個人事務所
 「シャイン経営研究所」◆ シャイン経営研究所ロゴ

(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長、および国際部員を務めています)

NPOビジネスサポート特定非営利活動法人NPOビジネスサポート
(監事を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)

Experian海外企業信用調査 海外企業信用調査(Experian)
(一緒にお仕事をさせていただいている「コンサルビューション株式会社」は、世界最大の信用調査会社Experianの正規代理店です)

中小企業診断士の安い通信講座なら「資格スクエア」資格スクエア
(以下の資格の講師をしています。
 ―ITパスポート
 ―情報セキュリティマネジメント
 ―経営学検定(初級・中級)
 ―中小企業診断士(企業経営理論、経営情報システム、中小企業経営・中小企業政策)
 谷藤友彦と株式会社サイトビジット代表取締役・鬼頭政人氏の対談動画(1)(2)(3)
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