こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント・トレーナー)のブログ別館。2,000字程度の読書記録の集まり。

補助金

東京都中小企業診断士協会商店街研究会『TOKYO+(プラス)ひときわ輝く商店街』―息をするように補助金を使う商店街を成功事例に使うのはいかがなものか?


TOKYO+(プラス)ひときわ輝く商店街―東京オリンピックに向けた、インバウンド対応からIT導入、空き店舗対策TOKYO+(プラス)ひときわ輝く商店街―東京オリンピックに向けた、インバウンド対応からIT導入、空き店舗対策
商店街研究会

同友館 2017-09-01

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 東京都中小企業診断士協会商店街研究会の『TOKYOキラリと光る商店街』の続編。「TOKYO+(プラス)」ということで、香川県の高松丸亀町商店街のような東京都外の事例も含まれている。本書は、
 商店街を取り巻く環境が厳しくなり、多くの商店街では「衰退」を感じ、組合員の賦課金・会費で何とか活動を行っている状況にある。その中で、自主事業・自主財源を柱に「繁栄している」と言い切る「モトスミ・ブレーメン通り商店街」の事例を取り上げる。
と威勢のよい文章でスタートする。ところが、そのモトスミ・ブレーメン通り商店街の会計の内訳を見てみると、
 平成27年度の総事業費は9,390万円、収入内訳は、事業収入4,500万円(48%)、賦課金収入2,300万円(24%)、補助金収入2,600万円(28%)となっている。
のである。例えて言うならば、ショッピングセンターの運営会社が、テナントからの賃料収入だけではやって行けず、売上高の約4分の1を補助金に頼っているようなものである。これで「自主事業・自主財源を柱に『繁栄している』」と言い切れることが私には理解できない。商店街は補助金がもらえることが当たり前になっていて、感覚が麻痺してしまっているのではないだろうか?

 本書には、補助金を利用している例が非常に多く登場する。
 (※「店主のこだわり講座」は、)2店舗合同で開催するため、開催場所は商店街の組合事務所を使用することになった。事務所は北区の補助金を活用し、前年度にトイレの改装や椅子・机の新調を済ませ、イベント会場にも使えるようにリニューアルしていた(※東十条銀座商店街)。
 世田谷区には、まちバル・まちゼミのイベント開催に対する補助金がある。各商店街は年間2回まで、まちバル・まちゼミのいずれかを行う際に対象経費の半分(上限額25万円)の補助を受けることができる。
 (※非接触型ICポイントの導入経費は、)ICカードが3万枚(@246円)492万円、本部設置分パソコン・ポイント管理ソフト・専用サーバー等の購入費用が500万円、その他経費が574万円で、国の補助金3分の2、市の補助金6分の1、借入6分の1で賄った(※モトスミ・ブレーメン通り商店街)。
 しもきた商店街の導入した(一般型)免税サービスでは、各店舗に免税専用端末を設置し、その場で免税での販売を行い、必要書類を作成することで免税手続きが完結できることから、外国人観光客と各店舗の双方にとって手続きが容易であり、各店舗ではランニングコストが抑えられるメリットもある。しかも今回の商店街での免税専用端末の導入費用は、商店街インバウンド促進支援事業(※補助金のことである)の対象にできたことから初期費用の負担も軽減された。
 東京都広域支援型商店街事業とは、東京都商店街振興組合連合会が、東京都の支援を受けて実施している商店街支援事業の1つで、東京都内の市区町村の枠を超えた広域的な商店街事業に対する助成制度である(※過去の採択事業には、谷根千商店街、文京区・台東区・墨田区・江東区の商店街連合会の連携、葛飾区・江戸川区の商店街連合会の連携などがある)。
 最後の「東京都広域支援型商店街事業」は、目的がいまいちよく解らない。商店街を連携させるということは、連携する商店街が共通の顧客をターゲットとし、共通の買い物体験を提供する必要がある。だが、複数の区をまたいで商店街が連携するとなると、ショッピングセンターよりもはるかに広域となる。ショッピングセンターでさえ、各テナントとの間でターゲット顧客に関する認識を合わせ、顧客に提供すべき買い物体験、経験価値とはどんなものかを共有するのは至難の業である。それを、複数の区の商店街の間でやることがどれだけ大変なことなのか、行政の人は解っていないのではないかと思う。そして、もっと根本的な問題として、商店街とは基本的に地元密着型であり、例えば文京区の商店街を利用する人で、文京区が台東区と連携しているからという理由で台東区の商店街を利用しようとする人はおそらく少数派であるということである。

 それにしても、これだけ補助金の事例が登場すると食傷気味になる。補助金の本来の役割とは、優れた組織能力や経営ノウハウがありながら、一時的な経営難に陥って金融機関からの借り入れが難しくなってしまい、再起を期して変革に挑む企業にリスクマネーを提供することである。このように書くと語弊があるかもしれないが、補助金とは生活保護の企業版である。生活保護については、受け取るのが恥ずかしいと感じる人が多く、捕捉率の低さが問題になっている。だが、こと補助金になると、「タダでもらえるものはもらっておこう」とばかりに、恥も外聞もなく補助金に飛びつくケースが少なくないように思える。その1つが商店街である。商店街の関係者と話をしていると、「補助金が出るならその取り組みをやってもいいのだが・・・」と簡単に口にする人が多いことに驚かされる。

 生活保護の場合、憲法の生存権(25条)が根拠になっており、国民に簡単に死なれては困るから、生活困窮者には何としてでも生活保護を届けなければならない。一方、企業は自由市場社会に生きており、経営が悪い企業は死んでも構わないことになっている。本来は死んでも構わない企業に補助金で生き延びるチャンスを与えようというのだから、その要件は生活保護に比べると自ずと厳しくなる。それなのに、補助金がもらえることが当然のように思われては困る。

 引用文の事例はいずれも、本来は個店や商店街振興組合の利益によって賄うべき性質のものである。個店や商店街振興組合は、将来的に必要となる設備更新、設備投資、マーケティングへの投資、製品・サービス開発のための投資をカバーできるだけの利益を上げなければならない。経営学者のピーター・ドラッカーは、利益は将来のコストであると言った。そして、コストをカバーできない経営は経営ではないとも言った。ということは、本書の個店や商店街振興組合は、残念ながら経営ができていないということになる。経営ができていない組織に補助金が流れ続ければ、国民からは延命だと見られても仕方がない。

 さらに悪いことに、こういう補助金申請の支援をすることが中小企業診断士の役割だと思っている人が結構いる。先日、ある診断士の人が、顧問先の中小企業を補助金漬けにしておいて、経営革新計画の承認を受けたことを自慢げに話していたのだが、何を勘違いしているのかと強い疑問を感じた。中小企業庁が公表している「がんばる商店街30選」の中にも、診断士の支援によって補助金を受けている商店街が含まれているに違いない(それに気づくと嫌気がするので、私は敢えてこの30選を読まない)。診断士の役割は、個店と商店街が文字通り自主事業・自主財源で繁栄するように手助けすることであるべきだ。

東京都中小企業診断士協会商店街研究会『TOKYOキラリと光る商店街』―びっくりするほど「商圏の顔」が見えない事例集


TOKYOキラリと光る商店街―専門家が診るまちづくり成功のポイントTOKYOキラリと光る商店街―専門家が診るまちづくり成功のポイント
東京都中小企業診断士協会商店街研究会

同友館 2013-03-01

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 私は常々、中小企業診断士による商店街支援に不満を抱いている。診断士による商店街支援と言えば、通行量調査(これを1日1,000~2,000円という薄謝で仲間の診断士にやってもらっている)、イベントの原資となる補助金の申請支援がメインであり、最近では「商店街支援の三種の神器」と言われる「街コン、街バル、街ゼミ」の実施をサポートすることが多くなっている。

 だが、コンサルティングの王道を行くならば、まずは商店街の業績を食品、日用品、被服、その他物販、理容・美容、医療、その他サービスなどの部門ごとに集計するところからスタートしなければならない。そして、商圏の部門別市場規模を推定し、商店街がどの程度のシェアを獲得できているのかを計算する。その上で、市場シェアが低い部門について、その原因を分析する。現在、商店街を利用している顧客の不満や要望は何なのか?競合他社はどこなのか?競合他社は商店街に比べてどのような点で優れているのか?競合他社を選択する(商店街にとっての)非顧客はなぜその店舗を選択するのか?非顧客が商店街に足を運ばないのはなぜなのか?といったことを徹底的に調査する。

 本書には25の事例が掲載されているが、顧客ニーズを調査したと書かれていたのは、下高井戸商店街と東深沢商店街の2つだけだった。市場調査をやっていないものだから、どの商店街も独善的に自分が売りたいものを売ろうとする。そのためにイベントや街ゼミなどを開催する。そして、そのような取り組みに、我々の貴重な税金が補助金として流れていく。こうした動きがいかに危険であるかは、ブログ本館の記事「中小企業診断士が「臨在感的把握」で商店街支援をするとこうなる、という体験記」、「『致知』2018年1月号『仕事と人生』―「『固定型』の欧米、『成長型』の日本」が最近は逆になっている気がする」で書いた。

 もちろん、売りたいものから出発するアプローチが100%間違っているとまでは言わない。戦略立案の方法には大きく分けて外部環境アプローチと内部環境アプローチの2つがあり、売りたいもの(≒強み)から出発するのは後者に該当する。ただし、後者のアプローチで使われる代表的な手法である「VRIO」フレームワークを見れば明らかなように、強みは「市場・顧客にとって価値がある(Valuable)」ものでなければならない。すなわち、内部環境アプローチと言いながら、結局は外部の視点を入れる必要があるのである。

 本書に登場する事例は市場分析が不完全であるから、自ずと競合分析も甘くなる。例えば、商店街で使えるポイントカードの事例が紹介されているが、烏山駅前通り商店街は35,000円の買い物で500円分(ポイント還元率約1.43%)、下高井戸商店街は36,000円の買い物で500円分(同約1.39%)、池袋本町の4商店会は40,000円の買い物で500円分(同1.25%)のポイントが付与されると言う。確かに、TポイントカードやPontaカードは100円の買い物で1円(同1%)であるから、それに比べれば還元率は高い。だが、TポイントカードやPontaカードは加盟店の数が商店街の比ではないため、簡単にポイントがたまる。それよりも致命的なのは、大手スーパーのクレジットカードは200円の買い物で3円(同1.5%)を付与するものも多く、それに比べると商店街は見劣りするという点である。

 私は、どうにかして商店街をショッピングセンターのように経営支援できないものかと考えている。ショッピングセンターは商店街を模して造られたものであるが、今やその経営手法は商店街を大きく凌駕している。ショッピングセンターでは、各テナントは業績データを毎月本部に送り、本部はテナントに対して経営支援を行っている(ショッピングセンターの賃料収入は、テナントの売上高と連動している部分が大きいため、本部としてはテナントの業績を改善しようとするインセンティブが働く)。これに対して、商店街では、「加盟店は組合に対して業績データを送るように」と言った段階で猛烈な反対に遭うだろう。

 組合の介入を嫌がるのならば、せめてそれぞれの個店が顧客とじっくり向き合って顧客のニーズや自店の強みを把握し、近隣の競合他社に積極的に足を運んで自店との違いや(自店にとっての)非顧客の言動を観察してほしいものである。診断士もそのような個店の自立的な活動を支援するべきだと考える。

辻井啓作『なぜ繁栄している商店街は1%しかないのか』―商店街の組合は商店街全体のマーケティング部門になれないか?


なぜ繁栄している商店街は1%しかないのかなぜ繁栄している商店街は1%しかないのか
辻井 啓作

CCCメディアハウス 2013-11-27

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 腐っても中小企業診断士である私は、同業の診断士が書いた本に対してはどうしても厳しい目を向けてしまうという悪癖がある。本書でも、内容が矛盾している箇所を3か所見つけてしまった。

 1つ目は、著者が個別商店や企業の経営を手伝う場合には、「いかに差別化して、心理的な独占状態を作り出し、高い値段で売るか」を重視していると言うのに対し、別の箇所では商店街が物価の安定に貢献していると述べていることである。一般に、スーパーマーケットは商店街よりも安い価格で商品を販売しているというイメージが定着している。だが、スーパーマーケットにも得手不得手があって、必ずしも低価格ではない商品もある。商店街の個店はそこに目をつけて、その商品を低価格で販売する。すると、別の個店もその価格につられて値下げをする。この繰り返しによって適正な価格競争が生まれるというのである。これは、著者が言っている経営支援の方向性とは正反対である。

 2つ目は、既存の商店と新規の商店の関係である。著者は、既存の商店にはあまり期待していないようである。これまで成長できなかった商店が簡単に成長してよい店になることはまずないとはっきり断言している。著者は商店街の意義を、若者が起業しやすい場を提供できることに認めている。意欲のある若者が空き店舗などを利用して創業し、その地域でよい店になれば、その店に惹きつけられるようにして新たな創業が誘発されるというわけである。ところが、本書の最後は、新規の店舗が繁盛店になることができるのならば、既存の店舗にもできないはずがないといった言葉で締めくくられている。これは明らかに変な話である。

 以上の2つはまだ”軽微な”矛盾である。私が最大の矛盾と感じたのは、商店街振興組合とは別に、商店街活性化組織(本書では「商店街エリア活性化機構(仮称)」とされている)を立ち上げ、様々なイベントを実施して商店街への注目を高め、新たな出店を促すと述べている箇所である。私はそれほど商店街支援の経験があるわけではないのだが、商店街のイベントには相当否定的である。

 たいていの商店街では、組合の役員が、単に昔からやっているからという理由で、あるいはもっとひどいケースになると行政が補助金を出してくれるからという理由で、イベントを手弁当で実施している。こんなイベントが成功するはずがない。それでも善意ある商店はイベントに協力して、イベントの日には特別に商品を仕入れたりする。だが、このことは逆に言えば、その商店には商店街に来る人がほしいと思う商品が普段置かれていないことを暴露しているのに等しい。

 こんなイベントを専門とする部隊を立ち上げたところで、一体何になると言うのか?組合の役員がやりたがらないイベントを単にアウトソーシングしているだけではないのか?もちろん、周到に企画されたイベントであれば、商店街内の回遊性を高め、顧客に商店街の価値を認識してもらい、商店街のファンを増やすことも可能かもしれない。しかし、そういうイベントをどのように企画すればよいかについては一切論じられていない。組合との利害を断ち切るために、組合とは別組織にして、外部から専門家を引っ張ってくるべきだとしか書かれていない。

 私は常々、商店街の経営はショッピングセンターの経営を参考にできないものかと考えている。ショッピングセンターの場合、運営会社がテナントに対して経営支援を行うのが普通である。商店街の組合も、役員がイベントや会報の発行を手弁当で行うボランティアみたいな組織から、個店の経営支援を行うマーケティング部門へと脱皮できないだろうか?言うまでもないことだが、企業経営には市場調査と競合他社分析が不可欠である。しかし、商店街の個々の店舗は、日々の業務に忙しく、これらの調査を行うことが難しい。仮にできたとしても、各店舗がバラバラに調査をしていては非効率である。そこで、組合がこれらの調査を一手に引き受け、そこから得られた知見を活かして個店の経営をサポートする。

 そのためには、人員と費用が必要である。中小企業庁「平成27年度商店街実態調査報告書」によると、1商店街の平均店舗数は54.3である。また、J-Net21「商店街振興組合の会費額の相場と事業資金の調達方法を教えてください」によると、月額会費の平均は4,854円(事業協同組合・任意団体を加えた平均)である。商店街は規模も会費もバラバラなので、あまり平均値に頼るのはよくないのだが、これ以外に使える数値がないので、ひとまずこの数字を使うことにする。商店街の店舗数が約50、月額会費が約5,000円だとすると、組合の予算は月約25万円である。これではとても人を採用することができない。

 そこで、月額会費を2.5万円に引き上げる。すると、組合の予算は約125万円となり、100万円増加する。この増加分で人を2人雇用する。1人あたりの人件費は50万円となり、悪くない条件である。雇用された2人は、商店街の外部環境調査を行うと同時に、25店舗ずつを担当して個店の経営支援に回る。これでショッピングセンターに近い運営をすることができるようになる。

 無論、いきなり会費を5倍に引き上げるのが無謀なのは百も承知である。そこで、最初の数年間は値上げの代わりに補助金を使う。商店街のイベントには数百万円の、街路灯などのインフラ整備には数億円の補助金がつぎ込まれている。それらを一旦全て止めて、組合の人件費へ回す。個店には、将来的に月額会費を上げることを前提として、経営支援を受けてもらう。経営支援の効果を認めてくれる店舗が多い商店街では、補助金終了後に月額会費の値上げに成功して、ショッピングセンターのような運営が実現する。他方、経営支援の効果を認めず、月額会費の値上げにも反対する店舗が多い商店街では、継続的な人員雇用が困難となるから、その時点で元の組合体制に戻せばよい。

 組合に雇用される人材にこそ、中小企業診断士が相応しい。全国には約1.2万の商店街(中小企業庁「FAQ「小売商業対策について」」より。商業統計では、小売店、飲食店、サービス業を営む事業所が近接して30店舗以上あるものを1つの商店街と定義される)があるそうだから、かなりの雇用効果が見込める。診断士の商店街支援活動というと、イベント運営側の人手が足りないから手伝ってくれというケースが多いと聞くが、そんなアルバイトでもできそうな仕事をやるために我々は国家資格を取得しているわけではない。

『人生の要訣(『致知』2016年10月号)』


致知2016年10月号人生の要訣 致知2016年10月号

致知出版社 2016-10


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 以前の記事「『メガバンク 地銀 証券 金融エリートの没落/全てはボールペン軸から始まった 「加工の匠」積水化学の開発力(『週刊ダイヤモンド』2016年9月3日号)』」でも書いたが、現在私はある中小企業向けの補助金事業の事務局員をしている。簡単に言うと、中小企業が事前に提出した事業計画に基づいて購入した機械装置などについて、伝票類をもれなく整理してもらい、加えて事業の結果を報告書にまとめてもらう。我々はそれらの書類をチェックし、問題がなければ中小企業に補助金をお支払いする、という仕事である。ただ、私のような30代の人間は皆無に等しく、大部分は50代、60代以上の中小企業診断士か、大手企業のOBである。事務局内での仕事を観察していると、興味深いことに気づく。

 まず、事務局員は私からすれば人生の大先輩であるにもかかわらず、中にはあまり仕事ができない人がいる(あまりこういうことを書くと怒られるかもしれないが・・・)。書類の処理が遅い人、メールへのレスポンスが遅い人、電話で敬語が正しく使えない人、中小企業の社長に対して高圧的な態度で接する人、中小企業は補助金を使って不正を働くに違いないと常に疑いの目で見ている人などである。事務局員によって能力・態度に大きな差があることは、だんだんと中小企業側も理解し始めたようで、「この事務局員が自社の担当になると当たり、あの事務局員が担当になると外れ」という情報が中小企業の間で出回っているらしい。

 一方の中小企業も、様々なタイプの企業や経営者がいる。書類の締め切りを守らない企業、補助金のルールを守らない企業、不正を試みる企業、グレーな部分をめぐって執拗に議論を吹っかけてくる企業、事務局判断で補助金の減額・査定を伝えると激怒する企業などがある。中には怪しいコンサルタントを仲介させて余計に話をややこしくしたり、中小企業庁にクレームを入れたり、政治家の元に陳情に行ったりする企業もあると聞く。

 私が興味深いことに気づいたというのは、あまり仕事ができない事務局員に限って、厄介な中小企業を担当することになるケースが多いということである。グレーな事業計画書をメールで提出した中小企業に対して、事務局員がそのメールを1週間ほど放置した挙句に、「こんな計画ではダメだ」などと高圧的に応対するものだから、そこから大きなトラブルに発展するケースなどを見てきた。私が思うに、心根が汚い事務局員は、同じように心根が汚い企業を引き寄せてしまう。幸いにも私は、そういうトラブルメーカーを担当したことはほとんどなく(全体の1%ぐらいだと思う)、日頃の心がけのおかげだと密かに胸を張っていた。

 ところが、『致知』2016年10月号の次の文章を読んで、私は自分の認識を反省した。私が比較的手のかからない中小企業ばかりを担当しているのは、私がこの仕事に対して本気ではないことを表しているかもしれないのだ。
 運よく、カルカッタの礼拝堂でマザーに面会することのできた私は、「どうしてあなた方は、あの汚い、怖い乞食を抱きかかえられるのですか?」と尋ねました。マザーは即座に、「あの人たちは乞食ではありません」とおっしゃるので、私は驚いて「えっ、あの人たちが乞食でなくていったい何ですか?」と聞くと、「イエス・キリストです」とお答えになったのです。私の人生を変えるひと言でした。

 マザーはさらにこうおっしゃいました。「イエス・キリストは、この仕事をしているあなたが本物かどうか、そしてこの仕事をしているあなたが本気かどうかを確かめるために、あなたの一番受け入れがたい姿であなたの前に現れるのです」
(上甲晃「松下幸之助に学んだ人生の要訣 自らを省みて自ら変わる」)
 もちろんこれは、私もクレーマーみたいな中小企業を担当しなければならない、ということを意味しているわけではないと解釈している。もっと対応が難しい中小企業、具体的に言えば、非常に優れた事業計画で社長や現場の担当者にもやる気があるのだが、購入物品が多岐に渡る上に事務処理能力に問題があって、なかなか補助金申請用の書類が整わない中小企業に対して、あの手この手のサポートを施し、無事に満額の補助金を受け取ってもらう、という厳しい仕事を通じて自分を鍛えよということなのだと思う。

浅川芳裕『TPPで日本は世界一の農業大国になる』


TPPで日本は世界一の農業大国になるTPPで日本は世界一の農業大国になる
浅川 芳裕

ベストセラーズ 2012-03-16

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 彼らが「農業壊滅論」を主張する”公式の”根拠となっているのが、農水省が2010年10月、当時の菅政権がTPP参加検討を表明した直後に発表した数値だ。「農産物生産額が4.1兆円減少、食料自給率が14%に低下する」という試算である。(中略)コメの生産減少額だけで、4.1兆円のうち約半分の1兆9700億円を占めるという。この金額は、最新のコメの生産額1兆5517億円(農水省「2010年農業総産出額」)より大きい。TPPに参加すると、日本のコメ農家は収穫したコメを全てタダで配ったうえに、マイナス分の4183億円を蓄えから差し出さないと合わない。
 2010年の農林水産省はなぜこんなガバガバな試算を公開したのだろうか?ひょっとすると、試算チームの中にTPP賛成派が隠れていて、農林水産省に恥をかかせて世論をTPP賛成に傾けようと仕向けたのではないか?と勘ぐってしまう。同じ試算では、TPPによって340万人の農業雇用が失われるとされている。ところが、2014年の農業就業人口は226.6万人であるから、やはり辻褄が合わない。

 農林水産省は何かにつけて食料自給率を持ち出すが、日本の食料自給率は虚構である。まず、カロリーベースで統計を取っているのは、先進国で日本だけだ。野菜と畜産物では畜産物の方がカロリーが高いから、いくら野菜の国内生産を増やしても、畜産物の輸入が多ければ、食料自給率は上がらない。しかも、畜産物の計算にはからくりがある。畜産物は大量の飼料を消費する。その飼料が輸入品の場合は、生産される畜産物も輸入品扱いになるのである。だから、日本の畜産農家がいくら頑張っても、食料自給率は上がらない。

 畜産物が飼料を必要とするように、農産物は肥料を必要とする。肥料の原料となるリン酸やカリは世界に遍在しており、日本では採取できない。よって、肥料を完全に国産で作ることは不可能である。ところが、肥料(および肥料の原料)が輸入品であっても、農産物は輸入扱いにならない。この点だけを取り上げても、食料自給率は恣意的な数字であることが解る(仮に輸入肥料で作った農産物を輸入品扱いにしたら、食料自給率は恐ろしく低くなるに違いない)。

 さらに、昨日の記事「廣宮孝信、青木文鷹『TPPが日本を壊す』」でも書いたように、農林水産省は国内産のコメを減反政策で減らす一方、輸入小麦の消費を増やそうとしている。自分で食料自給率を押し下げておきながら、食料自給率が低くて大変だと騒いでいるのが今の農林水産省である。

 上記の記事で、TPPはグローバル規模の水平分業体制を作るものだと書いた。ただ、もう少しつけ加えると、私は日本が少しでも比較劣位にあるものは全て海外からの輸入に頼り、日本は圧倒的な比較優位にあるものだけに集中すればよい、と単純に考えているわけではない。まずは、あらゆる製品・サービスを可能な限り日本国内で作ることを第一とする。その上で、どうしても国内で供給できないものは海外から輸入するのが望ましい、というスタンスである。

 そう書くと、食料自給率を上げるべきではないか?と言われそうだが、ちょっと違う。食料自給率の向上を絶対化してはならない。国内の需要は人口動態、嗜好の変化などを踏まえるとどのように推移するか?それに対して、国内の供給能力はどの程度か?需給ギャップが生じるものは何で、それはどのくらいの量なのか?不足分はどの国からどのくらい輸入すればよいのか?その国と良好な関係を構築するにはどのような政治的働きかけをするべきか?と戦略的に考え、国民が食に困らない体制を構築することが必要だと言いたいのである。
 TPPで関税撤廃+国家マージンがなくなると、海外小麦は国際価格のキロ20円前後で取引されるようになる。これに引きずられる形で、国産価格もキロ20円かそれ以下に落ちる。その結果、生産額はざっと200億円程度に減少するが、メイン収入源の補助金が残るとすれば(政府はTPP対策で増額の方向性)、農家の手取りで言えば1、2割減る程度だ。
 農家向け補助金の扱いが今回のTPP交渉でどのように決まったのかはよく解らない。だが、自由貿易を推進するというTPPの趣旨に照らし合わせれば、過度に安い価格設定が可能となる補助金は廃止になるはずだ。安倍総理は、平成27年度補正予算でTPP対策費として農家向け補助金を計上する考えである。これは、今回の交渉で例外的に認められたことなのだろうか?
 WTOの枠組みによる多国間交渉が進展しない一番の理由は、先進国の農業補助金の存在である。裕福な先進国は毎年3000億ドルを農業補助金に使っており、その分、途上国は主要産品である農産物の輸出市場を失っている。
 アメリカやフランスが食料自給率100%以上を達成し、余剰分を世界中に輸出しまくっているのは、政府が多額の補助金をつけているからだと言われる。だが、引用文の書きぶりを見ると、そういう補助金は今後通用しなくなる可能性が高い。

 我々国民は、「我々の税金で農家が補助金漬けになっている」としばしば批判する。しかし他方で、その補助金漬けになっている農水畜産物を日々口にし、恩恵を被っているという事実を忘れている。我々も、意図的ではないにせよ、市場競争を歪めることに加担しているのである。我々はTPPによって、そういう心根の悪い消費から脱却することが求められているかもしれない。
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プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京から実家のある岐阜市にUターンした中小企業診断士(コンサルタント・トレーナー)。双極性障害Ⅱ型を公表しながら仕事をしているのは、「双極性障害(精神障害)の人=仕事ができない、そのくせ扱いが難しい」という世間の印象を覆したいため。

 中長期的な研究分野は、
 ①日本の精神、歴史、伝統、文化に根差した戦略論を構築すること。
 ②高齢社会における新しいマネジメント(特に人材マネジメント)のあり方を確立すること。
 ③20世紀の日本企業の経営に大きな影響を与えたピーター・ドラッカーの著書を、21世紀という新しい時代の文脈の中で再解釈すること。
 ④日本人の精神の養分となっている中国古典を読み解き、21世紀の日本人が生きるための指針を導くこと。
 ⑤激動の多元的な国際社会の中で、日本のあるべき政治的ポジショニングを模索すること。

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、2,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

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