無理なく円滑な医療機器産業への参入のかたち 製販ドリブンモデル無理なく円滑な医療機器産業への参入のかたち 製販ドリブンモデル
柏野 聡彦 永井 良三

じほう 2014-12-22

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 ブログ本館の記事「『一流に学ぶハードワーク(DHBR2014年9月号)』―「失敗すると命にかかわる製品・サービス」とそうでない製品・サービスの戦略的違いについて」で書いたように、医療機器の国内市場は約2.8兆円だが、約1.1兆円は輸入に依存している。つまり、それだけ国内の供給が足りないことを意味するから、ビジネスチャンスが大きい。また、医療機器は品目数が30万以上と非常に多く、単純に計算すると1品目あたりの市場規模は約930万円しかない。そのため、大手企業はほとんど参入せず、中小企業向きの業界だと言える。

 『日本でいちばん大切にしたい会社』シリーズの著者である坂本光司氏は、「我が社は儲からない」と文句を言う暇があったら、成長が確実に見込める医療機器業界に参入せよと手厳しい言葉を浴びせている(以前の記事「溝上幸伸『ゼロからわかる医療機器・介護機器ビジネスのしくみ』」を参照)。

 とはいえ、医療機器業界もなかなか閉鎖的な業界のようで、それぞれの医療機関は特定の製販企業(医療機器製造販売業の許可を受けた企業)や医療機器卸売業と長く取引を続ける傾向があり、新規参入はハードルが高いという話も聞く。医療業界は自動車業界と同じく極めて高い安全性が求められる業界であり、新規企業の新しい製品を使うことにリスクを感じるためである。

 では、中小のものづくり企業が医療機器業界に参入するためにはどうすればよいか?本書では「製販ドリブンモデル」というものが提示されている。まず、製販企業が取引先である医療機関から臨床現場におけるニーズを調査する。そして、そのニーズを充足する製品を企画・デザイン・設計する。ところが、製販企業も大部分が中小企業であるため、自社で全ての技術的課題を解決することが難しいことも多い。そこで、全国のものづくり企業と連携して、製品を完成させる。

 製販企業とものづくり企業のマッチングについては、本書の著者である柏野聡彦氏が理事を務める「(一社)日本医工ものづくりコモンズ」のような団体が、コーディネート機能を果たす。従来、医工連携と言うと、医療機関とものづくり企業を直接結びつけるのが一般的であった。だが、前述のように、無名の中小企業がいきなり医療機器業界に参入することは難しいため、既存の製販企業を上手く絡めたモデルへとシフトしているそうだ。これにより、ものづくり企業は間接的ではあるが医療機器業界に参入することが可能となる。

 現在、政府が医工連携に力を入れていることもあり、国レベル、それから地方自治体レベルで様々な公的支援策(補助金・助成金)が展開されている。製販ドリブンモデルが面白いのは、補助金を受けるのは製販企業ではなく、製販企業に部品を供給するものづくり企業にせよと著者が主張している点である。

 これはおそらく、製販企業の約6割が東京に集中しており、さらにその大半が文京区に存在することから、製販企業に補助金を交付すると東京ばかりにお金が集まってしまうことを危惧してのことであろう。そうではなく、全国各地に点在するものづくり企業に広く補助金を回したいという著者の意図を感じた。

 このように書くと、製販企業は医工連携の要を握る非常に重要な存在で、ものづくり企業がアプローチするには、かえって敷居が高い印象を持たれるかもしれない。だが、著者は製販企業が抱える課題について次のように指摘する。
 じつは、現在は面談のアレンジにおいて、製販企業側の姿勢はやや受け身と感じられることも少なくありません。ものづくり企業からの提案の「価値」が認識されることでこの姿勢が遠からず逆になる、つまり製販企業からも積極的に求められて面談をアレンジすることになると期待しています。
 中小の製販企業は、どちらかといえば目の前の対応に終始してきた企業も少なくなく、各社ともロードマップはあまり整備されていません。(中略)臨床現場から頼まれた話を会社に持ち帰ってみると「先生のご要望にお応えしたいけれど、当社の余力では難しい」と臨床現場と会社との板ばさみにされ、もしかすると「どう断ろうか」という収束方向の思考になり、あまり前向きな思考がなされなかったかもしれません。
 製販企業もものづくり企業と同じ中小企業なのである。そういう意味では、製販企業とものづくり企業は確かに受発注関係(上下関係)にあるのだが、似たような経営課題を共有しながら共同開発を進めることが期待できるのかもしれない。