見える化-強い企業をつくる「見える」仕組み見える化-強い企業をつくる「見える」仕組み
遠藤 功

東洋経済新報社 2005-10-07

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 トヨタの見える化のまとめ。

 (1)稲妻チャート
 トヨタの各部署では、作業の進捗状況が逐一計画日程表上に掲示され、どの工程が予定通りに進み、どの工程が遅れているのかが一目瞭然に解るようなチャートにする工夫が行われている。どの工程も計画通りに進めば、チャートは凸凹のないものとなるが、実際には工程によって進捗に差が出る。進捗状況が凸凹になり、チャートの形状が稲妻のようになることから、「稲妻チャート」呼ばれる。

 トヨタの進捗管理の徹底度合いは、トヨタ本体にとどまらない。トヨタの販売店では、独自の工夫によって進捗状況の異常を目立たせる工夫が行われている。自動車の受注状況や商談のステータス、保険や自動車ローンなどの提案状況などを顧客別に表示した「進捗管理ボード」が作成され、壁に取りつけられている。

 (2)星取表
 星取表では、現場での自分の役割を果たすために必要なスキルや知識を分解した上で、現状のレベルがどの程度なのかはっきりと見える化される。例えば、能力段階として、「一人で作業ができる」、「予定通り作業ができる」、「異常時の対応ができる」、「指導ができる」という4つの段階がある。そして、今どのような状況かを見えるようにするために、「現状」、「挑戦中」、「目標達成」と色分けして示す。2か月に1回程度、状況を更新し、各人のレベルアップの進捗を確認する。

 (3)原価の見える化
 原価は社外に漏れてしまうリスクを恐れて、社内に対しても秘密扱いとなっているケースが多い。以前はトヨタも同様であった。しかし、さすがのトヨタでも、いつまでも「原価は秘密だけどとにかくコストを下げろ」では通用しなくなり、原価の見える化に踏み切った。原価という標準が設定されるとトヨタは強い。その標準のを、よりよい標準に改善するため、各部門が連携して原価低減を進めている。

 この点は意外であった。トヨタでは毎年60万件以上の改善提案が現場から上がってくる。そして、毎年のコスト削減効果は数千億円にも及ぶ。つい最近まで、トヨタの社員は、原価を知らないままコスト削減提案を必死に書いていたことになる。

 (4)標準作業の見える化
 標準作業など、どの企業にもマニュアルとして用意されていると思うかもしれないが、トヨタほど標準作業を厳格に規定し、運用を徹底させている企業はない。トヨタの標準作業には、次の3つの要素がある。

 ⅰ)タクトタイム・・・1台もしくは1個を何分何秒で作るという標準時間。
 ⅱ)作業順序・・・モノを加工する作業手順と、作業を行う上でのカンやコツ。
 ⅲ)標準手持ち・・・作業を行う上で必要かつ最小限の工程仕掛品。

 トヨタでは、「この作業は右手で行う」といった規定まで細かく明文化されており、左手での作業は行えないことになっている。作業者はその手順通りに作業を行わなければならない。もし、手順通りにいかない場合は、作業者の習熟度も含めて、「どこかに問題がある」と認識される。それでも、どうしても左手を使わなければならないような場合には、今度は「こういうケースでは左手を使用する」と、標準作業そのものを書き換えていく。

 (5)グローバル・ナレッジ・センター(GKC)
 トヨタには、モノづくりの「トヨタ生産方式」と両輪となる「販売のトヨタウェイ」が存在する。販売のトヨタウェイをグローバル規模で展開するために、「グローバル・ナレッジ・センター(GKC)」という組織を、アメリカの販売会社で教育を担当するUniversity of Toyota内に設置した。

 ここでは、販売やマーケティングの知恵を共有する仕組みである「ナレッジバンク」の構築・運用に加え、トヨタウェイの基本精神を理解する「ディスカバリー・プログラム」や、テーマごとに各地域の専門家を集めて議論・学習する「ワークショップ」などが体系的に実施されている。また、世界各国の好事例を紹介する「Best Practice Bulletin」の刊行や大学との共同研究なども進められている。