こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント・トレーナー)のブログ別館。2,000字程度の読書記録の集まり。

認定支援機関

久保田博三『経営改善・事業再生に導く中小企業支援の実践ポイント』―弁護士はすぐに再生と言い、公認会計士はすぐにM&Aと言う


経営改善・事業再生に導く中小企業支援の実践ポイント経営改善・事業再生に導く中小企業支援の実践ポイント
久保田 博三

経済法令研究会 2013-07

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 2008年秋以降の金融危機・景気低迷による中小企業の資金繰り悪化への対応策として、2009年12月に約2年間の時限立法として施行されたのが「中小企業金融円滑化法(中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律、以下「円滑化法」と呼ぶ)」である。円滑化法は、中小企業や住宅ローンの借り手が金融機関に返済負担の軽減を申し入れた際に、できる限り貸付条件の変更(リスケ)などを行うよう努めることなどを内容としている。2011年3月に期限を迎えたが、中小企業の業況・資金繰りは依然として厳しい状態にあったことから、二度にわたって延長され、2013年3月末をもって終了した。

 ただし、金融機関がリスケや円滑な資金供給に努めるべきだということは、円滑化法の期限到来後も何ら変わらないという方針が示されている。円滑化法最中にリスケを行っていた事業者は、ピーク時で約65万存在した。その後、リスケをしている事業者は徐々に減少し、2017年3月時点では約42万まで減少した。とはいえ、約7割の事業者は業績が回復できずリスケを繰り返し、未だにリスケの脱却に至っていない事業者も多いとされる。リスケを行うには、金融機関に対して、直近の試算表と資金繰り表に加え、「経営改善計画」を提出しなければならない。これに関しては、独力では経営改善計画の策定が困難な小さな中小企業・小規模事業者を想定して、2013年3月から「認定支援機関」制度がスタートした。

 本書はタイトルからしてこの経営改善計画の作成方法に関するものだと思ったのに、経営改善計画は最後の方にちょこっと登場するだけだった。本書は金融機関の関係者向けに書かれているが、半分ぐらいは融資先企業の格付や、金融機関による債権の自己査定についての内容となっている。それでも、決算書のチェックリストや定性評価のための採点シート、社長との短いヒアリングの中から営業利益、支払利息、経常利益、運転資本などの額を推測する方法は役立ちそうだったので、私のコンサルティング実務の中でも活用していきたいと思う。

 恥ずかしながら私は、金融機関に対してリスケを申し込むようなコンサルティングの経験をまだしたことがないのだが、こういう現場でよく言われると私が聞いているのが、タイトルにも書いた「弁護士はすぐに再生と言い、公認会計士はすぐにM&Aと言う」という言葉である。なぜなら、弁護士は顧客企業を再生させた方が儲かるし、公認会計士は顧客企業を売却した方が儲かるからである。だが、再生やM&Aはあくまでも手段にすぎず、いきなりそれに飛びつくのは早計である。同じことは、金融機関のDES、DDS、資本性ローンにもあてはまる。

 まずは、対象企業が自力で施策を講じた場合にどの程度業績が回復するのかを経営改善計画に落とし込み、債務超過を5年以内に解消し、借入金を10~15年以内に返済することを目標とする。それでもやはり、債務超過の解消に5年以上、借入金の返済に10~15年以上かかるという場合に至って初めて、DES、DDS、資本性ローンを活用したり、債権放棄を含む再生を選択したり、より優れた経営陣の下で再起を図るM&Aを実行したりするという流れが筋であろう。

 もちろん、本書でも書かれていたが、窮地に陥っている企業がいきなり来期から急に売上高が伸びることなどまずないのであり、経営改善計画を立てたところで再生・売却しなければならないものは急いでそうしなければならず、経営改善計画にはほとんど意味がないという意見もあるかもしれない。だが、そういう見方を認めてしまうと、結局は放漫経営をした者勝ちになってしまい、経営者のモラルハザードを生むことになりかねない。中小企業診断士という立場から言わせてもらえば、まずは経営者が血のにじむような努力をして経営改善計画を作り込むべきだと思うし、診断士はそれを側面支援したいものである。

 本書で紹介されていた2つの再生事例について、少しだけコメントしておく。1つ目の事例は温泉旅館A社で、売上高650百万円、経常利益、30百万円、実質債務超過580百万円、FCF(フリー・キャッシュ・フロー)55百万円であり、メイン銀行の甲銀行から1,000百万円、サブ銀行の乙銀行などから120百万円を借り入れていた。この場合、債務超過の解消に20年弱かかる計算になり(580百万円÷30百万円)、債務償還年数も20年強(1,120百万円÷55百万円)となる。

 ここでこの事例では、いきなり甲銀行が貸出金1,000百万円のうち500万円をDDSに切り替えている。その結果、実質債務超過は80百万円となり、経常利益から約3年で債務超過が解消できる。また、債務償還年数も620百万円÷55百万円=約11年となるというわけだ。だが、A社が何の経営改善努力もしないのに甲銀行がこんな不利な条件を呑むのか、はなはだ疑問である。

 2つ目の事例は印刷会社B社である。B社はバブル期にメイン丙銀行から9億円を借り入れて自社ビルを建てたが、バブル崩壊後に多額の含み損を抱えることになった。また、売上高の減少とともに、借入金の金利負担が重くのしかかり、窮地に陥った。丙銀行への約定通りの返済が難しくなり、返済のリスケを協議し、従来の毎月元金4百万円返済の軽減を行って、当面の弁済金を2百万円とすることで合意した。しかし、その後も業績不振が続き、EBITDAがさらに低下したことにより、丙銀行へ元金1百万円への返済額軽減を申し出た。丙銀行はB社の抜本的立て直し策を図るため、1名の行員を派遣した。

 それでも業績の回復が見込まれず、B銀行は担保物件である本社ビルの売却を模索した。大手不動産会社数社に価格入札を試みたところ、最高額は520百万円であった。この時点で丙銀行の貸出金残高は650百万円であったから、差し引き130百万円のロスが生じることになる。B社は社員数40名と、印刷会社としては比較的規模が大きいので、何とかB社を存続させるために、M&Aを検討することとした。すると、C社が買収価格500百万円を提示してきた。不動産売却価格と20百万円の差額が生じ、経済合理性を考えれば不動産売却と判断されるところである。だが、丙銀行はB社の存続を優先し、C社が購入資金のうち200百万円を丙銀行から借り入れることを条件に、C社とのM&Aに合意した。

 本書ではハッピーエンドのように描かれているが、買収金額である500百万円について、自社ビルの最高入札価格が520百万円であったことを踏まえると、買収金額の大半は自社ビルの取得価格であり、本業である印刷事業の価値はほぼゼロと見なされていたと言ってよい。この事例ではたまたま資産があったからそれなりの買収価格がついたものの、資産を持たない中小企業が窮地に陥った場合、M&Aは現実的にはかなり厳しいと言わざるを得ないだろう。

 それから、丙銀行には依然として650百万円-500百万円=150百万円(+C社が買収時に新たに借り入れた200百万円)の貸出金が残るわけだが、これをどうするのか(C社が返済するのか、もしくは150百万円のうち一部または全部を丙銀行が放棄するのか)についても触れられていない。さらに、細かい点であるが、不動産売却価格とC社の買収価格の差額20百万円について、C社が丙銀行から借り入れる200百万円の金利が2%だとすれば、年間4百万円となり、差額は5年程度で回収可能と書かれている。しかし、これは元本が5年間据え置きであることが条件である。本書にはそんなことは書かれていない。

『メガバンク 地銀 証券 金融エリートの没落/全てはボールペン軸から始まった 「加工の匠」積水化学の開発力(『週刊ダイヤモンド』2016年9月3日号)』


週刊ダイヤモンド 2016年 9/3 号 [雑誌] (金融エリートの没落)週刊ダイヤモンド 2016年 9/3 号 [雑誌] (金融エリートの没落)

ダイヤモンド社 2016-08-29

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 ブログ本館の記事「『地銀の瀬戸際 メガバンクの憂鬱(『週刊ダイヤモンド』2014年5月31日号)』―地銀再編で地方経済の衰退が加速する?」で、金融庁長官の森信親氏は、縦軸に各地方銀行が基盤を置く地域の将来の市場規模の縮小度合いを、横軸に現状の収益性を取ったグラフを作成し、全国の地銀105行をプロットした「森ペーパー」なるものを持ち歩いて、地銀再編の必要性を説いていることを紹介した。それに対して私は、地銀が合併して巨大化すれば、地方の中堅企業を支援する金融機関が少なくなるのではという懸念を示した。

貸出金別金融機関数および資本金別企業数

 ここで、上のようなグラフを作ってみた。棒グラフ(左軸)は、貸出金規模別に見た金融機関の数を表している(熊澤税理士/社会保険労務士/行政書士事務所「全国の全ての金融機関の貸出金ランキング」のデータを使用。データは2015年3月末時点のもの)。折れ線グラフ(右軸)は、資本金規模別に見た企業数を表している(総務省統計局「平成24年経済センサス」より)。ただし、資本金が小さい企業と大きい企業の数には大きな差があり、そのままグラフ化するとグラフがつぶれてしまうため、自然対数で表している。

 この図を作成してみて、私は以前の記事で書いた見解を少し改めることにした。上図から解るように、貸出金規模が1兆円以上5兆円未満のところに地銀が集中しており、貸出金規模が5兆円以上になると金融機関数がガクッと減る。つまり、大企業、その中でも超大企業を相手にできる金融機関が極端に少ない。かと言って、都銀はこれ以上数を増やすことはできない。そこで、地銀を再編することで規模を拡大させ、地銀が地方から超大企業を輩出するサポート役を担うようにするのが「森ペーパー」の狙いだったのではないかと考える。

 地銀が再編されると、今度は中堅企業を支援する金融機関が減少する。そこで、今度は信用金庫の経営力強化、再編が必要になるに違いない。ところで、中堅企業の明確な定義はないのだが、中小製造業の定義が「資本金3億円以下または従業員数300名以下」であるから、中堅企業は「資本金3億円超~10億円以下」程度とするのが妥当であろう。信用金庫の会員は「従業員が300名以下または資本金が9億円以下」と定められており、信用組合が中堅企業を顧客とすることは可能である(なお、信用組合は中小・零細企業がメインターゲットである)。ただ、個人的に信用金庫の目利き力には疑問を感じることがある。

 私は現在、ある中小企業向け補助金事業の事務局員を務めている。その補助金では、中小企業が作成する事業計画に、「認定支援機関確認書」を添付しなければならない。認定支援機関とは、経済産業省が認定した機関で、中小企業の経営サポートを行う人・組織である。その多くは税理士や金融機関が占めている。認定支援機関は、中小企業が作成した事業計画を確認し、実現可能性を高めるために必要な修正を施した上で、確認書を作成することとなっている。

 私は、信用金庫が認定支援機関となって確認書を添付している事業計画書を読むことがあるのだが、信用金庫は本当に事業計画の内容を精査したのかと疑問を差し挟みたくなることが多々ある。

 例えば、業歴が何十年もあるのに多額の累積損失を抱えており、それを役員からの長期借入金で賄っているような”ゾンビ企業”に確認書をつけている。これは明らかに補助金を使った延命行為である。また、毎年雀の涙ほどの当期純利益しか出しておらず、明らかに将来への投資をする意図がない企業が、競合他社にキャッチアップするために新しい機械装置を導入するというような事業計画にまで確認書をつけている。機械装置を常に最新に保って競争力を維持するのは企業として当然の義務であり、それを怠っている企業に補助金の資格はない。

 信用金庫が確認書を発行するのは、補助事業として採択されれば、中小企業に対してつなぎ融資を実行することができ、利息を稼ぐことができるためである。ただし、中小企業向けの補助金などというのは金額の高が知れており、しかもこの超低金利(マイナス金利)時代であるから、融資で稼げる利益は微々たるものである。それゆえに、事業計画の中身をいちいちチェックしていられないという事情はあるのかもしれない。しかし、私に言わせれば、そういう小さな仕事ですら確実に実行できないような人・組織に、もっと大きな仕事(つまり、ここでは中堅企業を成長させるための融資という仕事)を期待するのは難しい。
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プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都豊島区を拠点に、東京23区で活動する中小企業診断士(コンサルタント・トレーナー)。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、2,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
所属組織など
◆個人事務所
 「シャイン経営研究所」◆ シャイン経営研究所ロゴ

(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)
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