こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント・トレーナー)のブログ別館。2,000字程度の読書記録の集まり。

週刊ダイヤモンド


『JA解体でチャンス到来!儲かる農業2017/保育園に入りやすい街はどこだ?<緊急調査>保活戦線異状アリ(『週刊ダイヤモンド』2017年2月18日号)』―FTPL理論について


週刊ダイヤモンド 2017年 2/18 号 [雑誌] (儲かる農業2017)週刊ダイヤモンド 2017年 2/18 号 [雑誌] (儲かる農業2017)

ダイヤモンド社 2017-02-13

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 特集とは関係ないが、本号の中でFTPL理論(Fiscal Theory of Price Level:物価水準の財政理論)について触れられていた。FTPL理論は、2011年にノーベル経済学賞を受賞したクリストファー・シムズ教授が提唱した理論であり、物価動向を決める要因として財政政策を重視する考え方である。

 現在、政府は一生懸命異次元緩和を行って金融機関の国債を日本銀行に引き受けさせ、金利を引き下げているものの、金融機関の内部にお金がたまる一方で、融資先となる企業がない。今や金利はマイナスに突入しているが、こうなると物価押上げ効果は薄くなる。そこで、政府は将来増税しないと約束して財政支出を増やしていけば、人々は財政赤字拡大から将来インフレが起きると予測し、消費や投資が拡大する。それが物価上昇の圧力となり、インフレが発生して、デフレから脱却できる。さらには増税をせずに政府の債務を削減できると説く。

 だが、政府は2019年10月に消費税を10%に上げると宣言してしまった。FTPL理論が2019年10月以降に有効になるとしても、少子高齢化の進展で将来の社会保障に不安があれば、消費者の財布のひもはなかなか緩まず、家計の消費拡大にはつながらない可能性がある。それから、財政出動をするということは公共事業を増やすことを意味するが、もう十分にインフラが整備された日本で、今さら何の公共事業を行うのかという疑問も生じる。確かに、全国の道路や上下水道などが老朽化しているため、その保全工事を行うという手はあるのかもしれない。ところが、今度は建設業界の人手不足という問題に直面する。

 デフレとはモノ余り、カネ不足の状態であるから、デフレを解決するにはモノを減らすかカネを増やすかのどちらか(あるいは両方)をやればよいと言える。政府は様々な業界の供給状況を調査していて、生産設備が過剰になっている業界に対しては、業界再編を促すペーパーを送りつけている。ただ、これは企業活動の自由を侵害する恐れがあるから、個人的には止めた方がいいと思う。国内の供給が過剰であれば、海外の需要を獲得するという選択肢もあるわけであって、その選択肢を国家が封じてしまうのはやりすぎである。

 となると、残りはカネを増やすという選択肢しかないのだが、これに関しては経済音痴の私にはいいアイデアがない。明治維新の時のように政府紙幣を乱発すると、その時の政府が国民の人気取りのために政府紙幣を発行するようになり、政治家と国民のモラル低下につながる。政府の代わりに日本銀行が直接円を国民に配ることは法的に不可能であるし、仮に実行されたとしても政府紙幣と同じく国民のモラル低下を引き起こすリスクが高い。だから、現預金をため込んでいる大企業に政府が働きかけて、給与アップを通じて労働者の手取りを増やすという形で国民のカネを増やすのが関の山なのだろう。

『東芝瓦解 消えない破綻リスク/誰も触れなかった絶対格差 子会社「族」のリアル/日本を代表するグローバル企業?旭硝子の“内憂外患”(『週刊ダイヤモンド』2017年2月11日号)』


週刊ダイヤモンド 2017年 2/11 号 [雑誌] (子会社「族」のリアル)週刊ダイヤモンド 2017年 2/11 号 [雑誌] (子会社「族」のリアル)

ダイヤモンド社 2017-02-06

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 私も新卒で入社した企業が大手コンサルティングファームの子会社であったから(1年ちょっとしか在籍していなかったが)、本号に書かれている子会社”族”のぼやきは多少は理解できる。子会社族のぼやきは、①親会社からの出向社員と同じ業務をしているのに、あるいは親会社の社員と同じ業務をしているのに待遇が違うこと、②子会社の経営陣は親会社出身者で占められており、ガラスの天井が存在すること、の2点に集約されるように思える。

 私が新卒入社した子会社はシステム開発会社であり、親会社がコンサルティングで事業戦略や情報戦略を策定した後、子会社が戦略に従ってシステムを開発するというのが建前になっていた。しかし、私の業界研究が不十分だったのがいけないのだが、親会社は3,000人を超えるのに対し、子会社は300人足らずしかいない。コンサルタントが3,000人もいて、システム開発部隊が300人しかいないということはあり得ない。結局どういうことだったのかと言うと、親会社の社員の大半もプログラマやシステムエンジニアだったのである。子会社は、システム開発コストを削減するために設立されたようなものであった。

 子会社の新入社員も親会社の新入社員も、同じようにシステム開発プロジェクトにアサインされ、同じようにプログラムを書いていた。しかし、親会社は就業時間が決まっていて残業代が出るのに対し、子会社は基本給が低い上に裁量労働制が適用されていた。年間で計算すると100万円は給料に差がついたはずである。子会社とはこういう世界なのだということを、就職活動中の私は見抜けなかった(ただ、私が約1年で退職したのは、待遇に不満だったこと以上に、当時の経営陣があまりにノービジョン、ノープランだったことに憤りを覚えたからである)。

 ただし、今となっては、だからと言って親会社からの出向社員と同じ業務をしていても、あるいは親会社の社員と同じ業務をしていても、待遇を同じにせよとは思わない。親会社から子会社に出向しているのは、教育の一環であり、やがてその社員が親会社に戻った時に重責を担ってもらうためである。いわば先行投資だ。また、親会社がある事業や機能を切り出して子会社化したとしても、親会社は全社的な視点を身につけた社員を育てるために、分社化した事業や機能と同じ業務を親会社に残すことがある。この場合も、親会社は教育を目的として子会社の社員と同じ仕事をやらせているのであり、待遇の違いには意味がある。

 しかしながら、この話が成り立つには、親会社で使えなくなった社員の掃き溜めとして子会社が悪用されないことが前提である。親会社の戦略や業務にフィットしなくなった社員(特にミドルやシニア)は、その企業から退出していただくのが筋である。旧ブログの記事「高齢社会のビジネス生態系に関する一考(1)―『「競争力再生」アメリカ経済の正念場(DHBR2012年6月号)』(2)(3)」でも書いたが、今後の日本は人口ピラミッドの構造からすると、従来通り20代を底辺とし、60代を頂点とするピラミッドと、40代を底辺とし、70代~80代を頂点とする第2ピラミッドの2つから構成されることが予想される。親会社であふれた人材は、子会社になすりつけるのではなく、第2ピラミッドへと移行させることが重要であろう。

 子会社族のもう1つのぼやきである、「子会社の経営陣は親会社出身者で占められており、ガラスの天井が存在すること」については、このように答えておきたい。現在は7割が課長にすらなれないと言われている。親会社で経営陣になれる可能性も非常に低い。子会社で経営陣になれる可能性はほぼゼロだが、親会社で経営陣になれる可能性と比べても、ほとんど誤差の範囲であるに違いない。

 ブログ本館で、日本の巨大な重層型ピラミッド社会において、垂直方向の「下剋上」と「下問」を重視する私としては、親会社と子会社の望ましい関係を次のように考える。まず、子会社に出向した親会社の社員は、親会社の社員風を吹かせて偉そうに指揮命令するのではなく、「どうすれば子会社の社員が目標を達成できるようになるか?」と「下問」する。一方の子会社は、親会社の言うことを唯々諾々と聞くだけでなく、「我が社がこういうことをやれば、もっと親会社の業績向上に貢献できる」と親会社に「下剋上」する。単純な親会社>子会社という力関係だけではとらえられない両社の緊張関係が理想である。

『2017総予測/経済学者・経営学者・エコノミスト107人が選んだ 2016年『ベスト経済書』(『週刊ダイヤモンド』2016年12月31日・2017年1月7日合併号)』


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ダイヤモンド社 週刊ダイヤモンド編集部

ダイヤモンド社 2016-12-26

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 ○”2大ギャング”米中の間をしたたかに泳ぐフィリピン・ドゥテルテ大統領。米中の派遣が拮抗する現状が続く限り、フィリピンはキャスティングボートを握って自国の影響力を最大化できる(p61)。
 ⇒大国は二項対立的な発想をするのが宿命である。小国は二項対立の一方に過度に肩入れすると、自国が大国同士の代理戦争の場となり危険である。あまりいい表現ではないが、対立する双方の大国に美人顔をして、双方のいいところ取りをする”ちゃんぽん戦略”が有効である。日本もこれを見習うべきである。
(「大庭三枝編『東アジアのかたち―秩序形成と統合をめぐる日米中ASEANの交差』」、「千野境子『日本はASEANとどう付き合うか―米中攻防時代の新戦略』―日本はASEANの「ちゃんぽん戦略」に学ぶことができる」を参照)

 ○橋本龍太郎政権から森嘉朗政権までの日ロ関係が良好な時代には、中国や韓国は日本に対して大人しかった。中韓がかしかましくなったのは、小泉政権で米国一辺倒になってからである(p67)。
 ⇒前項とも関連。小国が対立する大国の一方のみにべったりくっつくのは危険である。現在の安部政権も日米同盟を重視しているものの、それがかえって中国との対立を深刻化する可能性がある。そして、被害に遭うのは日本である。
(「山本七平『存亡の条件』―日本に「対立概念」を持ち込むと日本が崩壊するかもしれない」を参照)

 ○アメリカは中国と対抗しているように見えて、他方で両国は各種シンクタンクなどを通じて、戦略対話を数多くやっている(p69)。
 ⇒大国の二項対立は、実は複雑である。米中の対立を例に取ると、表向きはアメリカVS中国であるが、アメリカの中には少数だが親中派が、中国の中には同じく少数だが親米派がいる。アメリカの親中派と中国の親米派は裏でこっそりつながっている。アメリカの反中派は親中派のことが、中国の反米派は親米派のことが気に食わない。すると、アメリカでは反中派と親中派が対立し、反中派が勢いづく。同様にして、中国では反米派が勢いづく。こうして二項対立はさらに加速する。ただし、大国同士が本気で衝突すれば壊滅的なダメージを受けることは目に見えているので、大国は対立をギリギリで回避する。
(「アメリカの「二項対立」的発想に関する整理(試論)」を参照)

 ○現在、日本の産業全体で起きていることは、業界や企業の枠を超えた提携である。金融業界では、フィンテックに代表されるように、金融業界とITベンチャー業界が連携して新しいサービスの開発を目指している(p82)。
 ⇒日本の巨大な重層的ピラミッド社会では、垂直方向に「下剋上」と「下問」が、水平方向に「コラボレーション」が行われるのが理想であると書いた。日本企業も一時期アメリカ企業のような自前主義に走ったことがあったが、再び水平方向のコラボレーションが活発化しているのはよい傾向だと思う。
(「日本企業が陥りやすい10の罠・弱点(1)(2)」を参照)

 ○マクドナルドは「ポートフォリオ経営をするつもりはない」と言う。しかし、業界関係者は「近年はマクドナルドやワタミの業績悪化で、単一チェーンの限界をリアルに感じる」と語る(p113)。

製品・サービスの4分類(修正)

製品・サービスの4分類(各象限の具体例)

 ⇒私がよく使う「必需品か非必需品か?」という軸と「製品・サービスの欠陥が顧客の生命や事業に与えるリスクが大きいか否か?」という軸で構成されるマトリクス図に従うと、マクドナルドはどの象限に該当するのか私も判断に迷う。熱狂的なマクドナルドフリークがいる一方で、マクドナルドのことを徹底的に嫌っている消費者も一定数いるという意味では、【象限③】に該当するかもしれない。この場合、イノベーションが全世界に普及した後は、自社株の購入や配当によって株主に報いながら静かに衰退していくのが運命である。

 一方、マクドナルドは消費者にとって欠かせない存在になったというのであれば、【象限①】に該当する。【象限①】のKSF(Key Success Factor:重要成功要因)は、消費者の消費プロセスを広くカバーするために、多角的に事業を行うか、水平連携を行うことである。多くの飲食店チェーンが異なる業態を抱えているのは、消費者の毎日の食事を取り込むためである。マクドナルドが【象限①】、【象限③】のどちらに該当するにせよ、現在の戦略のままではどうしても苦しい。
(「【シリーズ】現代アメリカ企業経営論」を参照)

 ○過労死の実態に対し社会的な関心を維持していくことも重要だが、消費者一人一人が、自らの消費行動が「労働者の過労死につながる長時間労働や深夜労働を強いていないか」と思いを致すことも重要である(p141)。
 ⇒企業が環境の破壊や人権の蹂躙などの社会的問題を引き起こすのは、顧客からの厳しすぎる要求も一因である。企業が環境や人権に配慮したビジネスモデルを構築することはもちろん重要であるが、最も重要なのは顧客の啓蒙ではないかと考える。我々は、企業に対して過剰な要求をせず、多少の不便や欠陥は許容するぐらいの寛容さを身につける必要があるだろう。
(「『持続可能性 新たな優位を求めて(DHBR2013年4月号)』―顧客を啓蒙するサステナビリティ指標の開発がカギ」を参照)

 ○人口減少社会に突入した現代の日本では、地域で何が課題になっているのか、自ら考えて行動することが強く求められているのに対して、地方の多くが中央集権型の行政運営に慣れてしまっているのが実情である(p150)。
 ⇒日本は最も成功した社会主義国家であると言われるように、国家・政府主導型で急激な経済成長をもたらしてきた。明治時代も戦後もそうである。しかし、日本の歴史全体を見渡してみると、中央集権型で国家が運営されてきた時代は例外なのではないかと考える。江戸時代などは、何百もの藩が並立する分権型社会であった。そして、この分権型社会こそ日本の強みであり、今はそれをもう一度取り戻す時期に来ているように思える。

 残念ながら、現在の地方は中央の言いなりであり、中央が描いた計画に裏書きをしているだけである。地方は、中央が示す大枠に対して、「我々はこうしたいのだ」と強く自己主張することが重要である。一方の中央も、地方に分権化するからと言って、地方に丸投げするようなことがあってはならない。中央は基本的な方針をはっきりと示し、地方に十分な権限を委譲することが肝要である。
(「『アベノミクス破綻(『世界』2016年4月号)』」を参照)
プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。これまでの主な実績はこちらを参照。

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、2,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
シャイン経営研究所HP
シャイン経営研究所
 (私の個人事務所)

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