成功するSCを考えるひとたち成功するSCを考えるひとたち
栗山 浩一

ダイヤモンド社 2012-11-02

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 東京ディズニーリゾートの年間入場者数2,600万人を大きく上回る年間入場者数5,000万人を達成したイオンレイクタウン(埼玉県越谷市)(先日の記事「大山顕、東浩紀『ショッピングモールから考える―ユートピア・バックヤード・未来都市』―消費を全体主義化するショッピングモールに怖さを感じる」で紹介したマトリクス図に従うと、東京ディズニーリゾートは<象限③>、イオンレイクタウンは<象限①>に該当するため、単純比較はできないと思うのだが)。そのイオンレイクタウンの市場調査、コンセプトの企画、テナントの誘致などを行った株式会社船場の代表取締役社長である栗山浩一氏の著書である。

 先日の記事でも書いたが、ショッピングセンターはそのコンセプトをテナントミックス、外観、内装、設備、動線などの細部に至るまで緻密に織り込んでいく。
 これまで見てきたように、マーケットリサーチ、マスタープラン、コンセプト企画、環境デザイン、テナントミックス、そしてテナント募集のためのプロモーション計画など、実に多様な専門能力が求められるそれぞれの業務を高いレベルでこなし、繋いでいくのです。

 そして実際に各テナントの出店が決まった後には、これでお客さまをお店に迎えることができるという状態にまで店舗の内外装・ディスプレーのすべてを、デザインから施工までトータルにサポートさせていただくという次のステージに入ります。
 コンセプトを確実に反映させるには、施工業者など様々な利害関係者との間で、決して妥協しないことが重要である。本書では、「阪急西宮ガーデンズ」のサーキットモールプラン(ショッピングモールの中央に立体駐車場を配置し、駐車場を囲む形で店舗を配置する)を実現するにあたって、サーキットモールの途中に張り出し型のバルコニーを設置したいという案が出て、コンセプトを貫き通すために、コスト面で難色を示した施工側を説得したという事例が紹介されている。また、サーキットモールでは立体駐車場に地下から入るのだが、地下の道路を浅く掘ろうとした施工側に対し、主要ターゲットである女性ドライバーが安全に運転できるよう、道路を深く掘ってカーブを緩やかにするよう要求したという。

 私はショッピングセンターのコンサルティングをしたいわけではなくて、中小企業診断士として商店街を支援する立場にあるため、このように緻密に計算されたショッピングセンターに対して、商店街はどのように対抗できるかという視点で本書を読んだ。明確なコンセプトの下にいわば演繹的に設計されるショッピングセンターとは違い、商店街は自然発生的、帰納的に形成されたものである。よって、商店街の組合が主導して商店街全体の共通ターゲット顧客層を設定し、マーケティングコンセプトを作成して、そのコンセプトに忠実に従った製品・サービスの提供、内外装の整備、プロモーションの実施などを各店舗に要求することは不可能である。まして、動線をきれいにするなどというのはもっての外である。

 ならば、いっそ逆張りの戦略で、個々の戦略がバラバラに強みを追求した方がよいのではないだろうか?それぞれの店舗が固有のターゲット顧客層を設定し、オリジナリティあふれる製品・サービスを取り揃える。そして、各店舗で工夫を凝らしたプロモーションを実施する。イメージとしては、少々灰汁の強い店舗が、複雑な動線に沿って密集している感じである。商店街全体を見ても、一体誰をターゲットとしているのかさっぱり解らない。顧客が一旦商店街に入り込むと、迷路に迷い込んだような錯覚に陥る。それでも、色んな店舗を見て回るうちに、その顧客にぴったりの店舗が見つかる。さらに店舗を回ると、「こんなお店があったのか?」という意外な発見がある。まるで宝探しをしているかのような感覚である。そして、こういう戦略を実現しているのが、ドン・キホーテである。

 ドン・キホーテは安さを売りにしており、価格に敏感な人たちをターゲットにしているようだが、実はそれほど安くない製品も多く、全体としては誰がターゲットなのかが解りにくい。それぞれの売り場には多種多様な製品が所狭しと積み上げられており、非常に自己主張が強い。店舗の動線も小売店の常識に反してぐちゃぐちゃで、顧客にとっては全く優しくない。それでも、ドン・キホーテに行けば何かあるだろうという期待感が顧客にはある。複雑な動線は、顧客が目的の買い物をすることに加えて、目的外の衝動買いをするための仕掛けである。商店街はドン・キホーテに学ぶところがあるのではないだろうか?

 以前の記事「辻井啓作『なぜ繁栄している商店街は1%しかないのか』―商店街の組合は商店街全体のマーケティング部門になれないか?」では、組合費を引き上げる代わりに組合を商店街のマーケティング部門とし、各店舗の経営支援に乗り出すべきだと書いた。そして、その経営支援に関して、我々診断士が活躍するフィールドがあるのではないかという提案をした。前述の記事では、経営指導を行う者1人あたり25店舗を担当する計算になっている。その25店舗は、ターゲット顧客も戦略もマーケティング・ミックスもバラバラである。組合側は商圏に関するデータを共通情報として持っているものの、それを各店舗に押しつけることはできない。データをカスタマイズし、その店舗にフィットした支援を行って、灰汁の強い店舗へと変化させる必要がある。これは非常にタフな仕事である。それでも診断士は、この仕事に挑戦する覚悟を持たなければならないと思う。