こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント・トレーナー)のブログ別館。2,000字程度の読書記録の集まり。

非営利組織


米倉誠一郎、竹井善昭『社会貢献でメシを食う』


社会貢献でメシを食う社会貢献でメシを食う
竹井 善昭 米倉 誠一郎

ダイヤモンド社 2010-09-10

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 私も最近まで正確に理解していなかったのだが(汗)、非営利組織は利益を上げてはいけないというわけではない。利益を配当という形で出資者に分配することが禁じられており、利益は全て将来の投資に回すことが要求される。その意味で「非営利」と呼ばれる。だから、非営利組織も利益を追求する必要がある。

 配当による還元がない分、利益のうち将来への投資に回せる金額の割合は営利組織よりも大きくなる。したがって、その投資によって、社会的課題を迅速に解決することを目指す。経済的なニーズとは異なり、社会的課題は完全になくなることがゴールである。よって、非営利組織はいたずらに規模を大きくするためではなく、課題を早く解消するために投資しなければならない。

 本書でも、社会貢献はスピード勝負だと書かれていた。途上国には教育を十分に受けられない子どもがたくさんいる。その子どもたちに対して、「将来ビジネスで成功したら、そのお金で学校を建てるね」などと約束することはできない。子どもたちは、今この時を逃したら、二度と教育機会を得ることはない。
 ファンドレイジング担当の日常業務は顧客管理だ。小口寄付者にお礼のハガキを出すようにボランティアのリーダーに指示を出したり、大口寄付者とはランチを一緒にとり、さらなる支援のお願いをしたり、支援企業の担当者とミーティングをして、大規模なコーズ・マーケティングをやりましょうとプレゼンしたりする。
 本書を読んで1か所引っかかったのがここである。ファンドレイジングとは、非営利組織の資金調達を行うことを指す。日本ではあまり一般的ではないが、非営利組織が発達しているアメリカでは、ファンドレイジング担当が数億円規模の資金を調達し、1,000万円単位の報酬を得ていることも珍しくないという。

 問題は、非営利組織に対する寄付者は顧客なのか?ということである。確かに、非営利組織に対する寄付金は収入として扱われ、損益計算書に計上される(企業の場合、株主の出資金は貸借対照表に表れる)。しかし、寄付者が非営利組織の顧客であるというのは、どうも違和感がある。

 私は中小企業診断士が会員となっている非営利組織にいくつか所属している。これらの組織は、中小企業、特に、経営コンサルティングに対して相応の報酬を支払うことが難しい小規模企業や商店街などに対して、経営支援を行うことを目的としている。活動費は、主に会員(診断士)からの会費によって賄われる。

 組織の会合に出席すると、理事クラスの人たちが、「会員満足度を向上させるために、勉強会の回数を増やす。会員同士の情報交換の場を充実させる」などと方針を発表する。そして、会員を増やして財源を厚くするために、知り合いの診断士を組織に引き込むようにとのお達しが出る。

 仮に、会員=顧客であれば、理事の説明は正当である。しかし、我々の組織にとっての真の顧客は、中小・小規模企業以外にあり得ない。診断士という経営コンサルティングの資格を持っている人であれば、なおさらその点に敏感でなければならないだろう。ところが、中小・小規模企業に対して、具体的にどのような支援メニューを用意するのか?支援メニューのプログラム化は誰がいつまでに行うのか?完成したプログラムをどのようにして中小・小規模企業に認知してもらうのか?といった議論は、ついぞ聞いたことがない。

 そういう話がないのだから、事業計画らしい事業計画など存在するはずがない。今年度は何社に経営支援を行い、いくらぐらいの事業収入を見込むのか?収入の補填として、行政からはどの程度の助成金が期待できそうか?収入から諸々の費用を差し引くと、どのくらいの利益が残りそうか?その利益は、次年度以降どんな分野に投資するのか?これらの問いに、我々の組織は全く答えられていない(そういう課題提起をしない私自身にも問題がある)。

ピーター・ドラッカー『非営利組織の「自己評価手法」―参加型マネジメントへのワークブック』


非営利組織の「自己評価手法」―参加型マネジメントへのワークブック非営利組織の「自己評価手法」―参加型マネジメントへのワークブック
P・F. ドラッカー Peter F Drucker 田中 弥生

ダイヤモンド社 1995-10

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 「われわれの使命(仕事)は何か?」、「われわれの顧客は誰か?」、「顧客にとっての価値は何か?」、「われわれにとっての成果は何か?」、「われわれの計画は何か?」という「ドラッカーの5つの質問」に答えながら、非営利組織のマネジメントを確立するためのハンドブックである。マネジャーだけでなく、スタッフも広く関与して、面談やグループ討議を行うことが推奨されている。

 本書を最初に手に取った時、このタイトルはドラッカーが本当に同意したのか、やや疑わしく思えた。なぜならば、ドラッカーは「参加」という言葉が大嫌いだからだ(ブログ本館の記事「ジャック・ビーティ『マネジメントを発明した男 ドラッカー』―右派とも左派ともとれるドラッカー思想の4ポイント」を参照)。参加という言葉には、「好きなように輪に加わって、好き勝手に言いたいことを言う」というニュアンスがある。ドラッカーは、あらゆる知識労働者を経営管理者と位置づけ、成果に責任を持つよう促した。それはすなわち、経営へのコミットメントは義務であり、口だけでなく行動が伴う必要があることを意味する。

 非営利組織の場合、「われわれの顧客は誰か?」という問いに答えるのが非常に難しいと思う。ドラッカーも認めているように、非営利組織には、サービスの受益者だけでなく、サービスに従事するスタッフ(彼らはたいてい、非営利組織に対して会費を支払っている)、寄付者、行政担当者、その他地域社会の関係者など、様々なステークホルダーが顧客となりうる。そして、顧客を誰にするかによって、他の質問の答えは大きく変わってくる。

 私の例で恐縮だが、私は(一社)東京都中小企業診断士協会(東京協会)城北支部に所属している。東京協会に所属する中小企業診断士は、毎年定められた会費を支払う。城北支部は、会員である診断士に対して知識・能力研鑽の場や、診断士同士あるいは他の士業との交流の機会を提供している。その一方で、地域内の中小企業支援を行う行政のサポートをしたり、もっとダイレクトに中小企業向けに経営コンサルティングサービスを提供したりしている。

 城北支部の顧客は一体誰なのか?という点は、私が診断士になった頃からずっと議論されている。これが企業であれば、経営コンサルティングの対象となる行政や中小企業が顧客であるとストレートに答えられる。ところが、城北支部は診断士から会費を徴収している(※)。だから、診断士も城北支部の顧客であると言えなくもない。事実、現在の城北支部はそのようにとらえている節があり、会員向けサービスの充実を目指している。これに対しては、当然のことながら、もっと外部に目を向けるべきだと主張する人もおり、難しい問題となっている。

 (※)正確に言えば、診断士が支払う会費は、まずは(一社)中小企業診断協会という全国組織に納められる。その一部が各都道府県に設置されている協会に流れ、東京の場合はその一部がさらに傘下の6つの支部(中央、城東、城西、城南、城北、三多摩)に流れる、という仕組みである。

 《余談》
 ワークショップの進め方を解説した箇所に、「図などの視覚的な資料は使わないこと」という記述があった。日頃、コンサルティング現場でパワーポイントの視覚的資料を使っている私などは冷や汗ものだった。ドラッカーはかつて、「図を作成してそれを文章で説明するのは時間の無駄だ」と言っていたことを思い出した。文章で説明できるのならば、最初から文章で書けばよいということなのだろう。
プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。これまでの主な実績はこちらを参照。

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、2,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
シャイン経営研究所HP
シャイン経営研究所
 (私の個人事務所)

人気ブログランキング
にほんブログ村 本ブログ
FC2ブログランキング
ブログ王ランキング
BlogPeople
ブログのまど
被リンク無料
  • ライブドアブログ