こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント・トレーナー)のブログ別館。2,000字程度の読書記録の集まり。

韓国

櫻井よしこ、呉善花『赤い韓国―危機を招く半島の真実』―全体主義的な韓国は「悪」を徹底的に叩くことでしか「善」を定義できない


赤い韓国 危機を招く半島の真実 (産経セレクト)赤い韓国 危機を招く半島の真実 (産経セレクト)
櫻井よしこ 呉善花

産経新聞出版 2017-05-02

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 韓国は儒教社会であるが、我々日本人が理解する儒教とは大分異なる。
 呉:儒教では、自然界を秩序づけている自然法則が、そのまま人間界をも貫いていると考えます。この普遍的な自然法則が朱子学でいう「理」です。それに対して物質的・現実的なものが「気」となります。そうした理解のうえで、「理=法」が「気=物」に秩序を与えるとされます。そのように、「理=法」を「気=物」に作用する超越的な実体とみなすところに、朱子学の最大の特徴があります。
 『論語』を読むと「天」という言葉が頻繁に出てくるが、これを普遍的な「理」としたのが朱子学である。こうした傾向は全体主義に陥る可能性があることを、私は以前ブログ本館の記事「安岡正篤『知命と立命―人間学講話』―中国の「天」と日本の「仏」の違い」で指摘したことがある。
 呉:唯一の観点の共有ということは、全体主義の価値観が根強く残っていることを意味します。反対意見を持つことは悪になります。このような考えが作られたのは、約500年にわたって続いた李氏朝鮮王朝時代で、それがいまだに残っているのです。
 全体主義的な儒教において唯一絶対的に正しいものとは「仁」である。ところが、この仁というものは、『論語』を何回繰り返し読んでも、何となく理解できるようでなかなか理解できない難物である。
 仲弓、仁を問う。子曰わく、門を出ては大賓を見るが如くし、民を使うには大祭に承(つか)えまつるが如くす。己の欲せざる所は、人に施すこと勿れ。邦に在りても怨み無く、家に在りても怨み無し。
 樊遅、仁を問う。子曰わく、居処は恭に、事を執りて敬に、人に交わりて忠なること、夷狄に之くと雖ども、棄つべからざるなり。
 顔淵、仁を問う。子曰わく、己を克(せ)めて礼に復(かえ)るを仁と為す。一日己を克めて礼に復れば、天下仁に帰す。仁を為すこと己に由る。而して人に由らんや。顔淵曰わく、請う、其の目を問わん。子曰わく、礼に非ざれば視ること勿かれ、礼に非ざれば聴くこと勿れ、礼に非ざれば言うこと勿れ、礼に非ざれば動くこと勿れ。(いずれも顔淵第十二)
論語 (岩波文庫 青202-1)論語 (岩波文庫 青202-1)
金谷 治訳注

岩波書店 1999-11-16

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 孔子は終始こんな具合である。仁とはつまり、自己を律し、他者に対して敬意を表し、自分より地位が低い者であっても大切に扱い、礼(規律)に基づいて物事を進めることだと言えそうである。だが、こんなに簡単に仁を要約してしまっては、2000年以上にわたり読み継がれてきた『論語』の深みが失われてしまうような気がしてならない。仁の意味するところを明らかにすることは非常に難しい。

 その難しさを韓国人も感じていることだろう。仁=唯一絶対的に正しいもの=善を定義できないならば、善でないもの=悪を明確にすればよい。そして、韓国にとっての悪とは、日本そのものである。東アジアを西洋の帝国主義から解放するどころか、朝鮮半島を併合して植民地にした日本、朝鮮半島の人々を軍艦島に強制連行して劣悪な条件の下で働かせた日本、太平洋戦争時には女性を慰安婦として働かせ、女性の尊厳を著しく傷つけた日本、韓国固有の領土である独島を竹島と呼んで日本の領土だと主張する日本、これらの全てが韓国人にとって悪である。だから、韓国人は徹底的に悪=日本を叩く。そうすることで、自らの全体主義を達成しようとしているのである。

 1981年生まれの私は、てっきり韓国が昔から民主主義国家だと思い込んでいたのだが、韓国は1948年の建国以来、軍事政権の歴史の方が長く、民主主義国家になったのは盧泰愚大統領が6・29民主化宣言を出した1987年以降のことにすぎない。軍事政権の下では、国民の感情は基本的に「反軍事」であった。「反軍事」は「反米」につながる。ところで、朝鮮半島の北側を見てみると、自分と同じ民族が反米を掲げて戦っている。ここで、「反米」から「民族主義」が生まれる。

 民族主義とは、自民族が他民族よりも優れているとする見方である。民族主義の攻撃対象は当初アメリカであったが、やがて攻撃対象が日本に移っていった。というのも、歴史を振り返れば、朝鮮半島は中国の中華思想にがっちりと組み込まれており、中国から離れれば離れるほど、民族のレベルが下がると考えているからだ。こうした歪んだ民族主義も、日本バッシングに輪をかけている。

宮崎正弘『金正恩の核ミサイル―暴発する北朝鮮に日本は必ず巻き込まれる』―北朝鮮がアメリカに届かない核兵器で妥協するとは思えない


金正恩の核ミサイル 暴発する北朝鮮に日本は必ず巻き込まれる金正恩の核ミサイル 暴発する北朝鮮に日本は必ず巻き込まれる
宮崎 正弘

扶桑社 2017-06-02

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 本書でも述べられており、アメリカの一部の政治家も主張し始めていることだが、北朝鮮がここまで核武装してしまった以上、北朝鮮を核保有国として認めざるを得ないという論調が最近は見られる。ただし、アメリカ本土には届かない核ミサイルに制限するという条件がついている。私はブログ本館の記事「『愚神礼讃ワイドショー/DEAD or ALIVE/中曽根康弘 憲法改正へ白寿の確信(『正論』2017年7月号)』―日本は冷戦の遺産と対峙できるか?」で北朝鮮のシナリオを示した時、敢えてこのパターンは入れなかった。

 というのも、北朝鮮にとって、アメリカ本土に届かない核ミサイルは意味がないからだ。北朝鮮が核武装をするのは、金政権の体制維持のためであるとよく言われる。しかし、体制を維持したいのであれば、核兵器などという危険なカードを使わずに、おとなしくしていればよい。敢えてその危険を冒すからには、体制維持以上の目的があると考えるのが自然である。そして、その目的とはつまり、北朝鮮主導による南北朝鮮の統一、統一社会主義国家の建設である。

 北朝鮮が韓国を併合しようとすれば、当然のことながらアメリカが出てくる。そのアメリカを核兵器で牽制し、相互確証破壊戦略によって身動きが取れないようにして、その間に韓国を併合してしまおうというのが北朝鮮の狙いである。だから、アメリカ本土に届かないミサイルは北朝鮮にとって価値がない。

 これは国際政治の舞台においては非常に歯がゆいことなのだが、アメリカにとっても、アメリカ本土に届く核ミサイルが完成しないと、交渉するにしても軍事行動に出るにしても、次のアクションが取れないのが実情である。アメリカ本土に届かない核ミサイルを取り除いてくれと北朝鮮に要求する交渉は、例えるならば、自宅の3軒先に停めてある自動車を邪魔だと思うから移動させてくれと注文するようなものである。言われた側からすれば、実害を与えていないのだから、注文に応じる必要はないと思うだろう。交渉が始まるのは、アメリカ本土に核ミサイルが届く時、自宅の目の前に自動車が停められて本当に邪魔な時である。

 軍事行動を取るにしても、アメリカ本土に核ミサイルが届かないのに北朝鮮を攻撃することはできない。自国に危害が及ぶ前に相手国を叩いておこうという攻撃は予防攻撃と呼ばれるが、国際法上は認められていない。アメリカが軍事行動を起こすのは、北朝鮮の核ミサイルがアメリカ本土に届くようになってからである。そうすれば、アメリカはイラク戦争などと同様に自衛戦争と称して軍事行動に着手するだろう。場合によっては先制攻撃も辞さない。

 本書によれば、北朝鮮はあと2~3年で20~100発のICBMを完成させると予想されている。北朝鮮には国連安保理の経済制裁が科されているが、中国とロシアが忠実に制裁を実行するか不透明である。それよりも大きな問題は、北朝鮮と経済的なつながりが強いアフリカの国々が、制裁を無視して北朝鮮と取引を続けることである。アフリカの国々にとっては、核ミサイルの脅威など無関係であるから、制裁よりも実利を取る可能性が高い。

 そして、北朝鮮とアフリカ諸国の取引の間を取り持っている企業がマレーシアやシンガポールに存在するという。私は以前、ブログ本館で「西濱徹『ASEANは日本経済をどう変えるのか』―ASEANで最も有望な進出国は実はマレーシアではないか?」という記事を書いたのだが、呑気な内容だったと反省している。マレーシアは経済発展の裏で闇社会が幅を利かせるリスキーな国である。

 北朝鮮問題に関しては、すぐに左派が「対話」を持ち出して、日本が米朝間の橋渡しをするべきだと言い出す。だが、彼らの言う対話は空虚であることは以前の記事「『世界』2017年11月号『北朝鮮危機/誰のための働き方改革?』―朝日新聞が「ファクトチェック」をしているという愚、他」でも指摘した。

 外交とは、お互いにカードを切り合うゲームである。「あらゆる選択肢がテーブルの上に載っている」というアメリカに対し、日本はいつでも「各国との連携を強めていく」としか言えない(ブログ本館の記事「『正論』2017年11月号『日米朝 開戦の時/政界・開戦の時』―ファイティングポーズは取ったが防衛の細部の詰めを怠っている日本」を参照)。世論が核武装を許さず、自衛隊の権限が大幅に制限されている日本は、手持ちのカードがないのである。だから、日本には米朝の外交の間に入ってできることなど、残念ながらない。

 そうであれば、万が一北朝鮮が日本に向けてミサイルを発射した場合に備えて、国民の生命を守ることに注力するべきであろう。上記の記事で書いたように、永世中立国スイスの取り組みは参考になる。北朝鮮があと2~3年で20~100発のICBMを完成させるということは、肯定的にとらえればあと2~3年は時間的猶予があるということである。日本は政治的決断を迫られている。

牧野愛博『金正恩の核が北朝鮮を滅ぼす日』―アメリカも北朝鮮も本気で戦争をする気はないと思う


金正恩の核が北朝鮮を滅ぼす日 (講談社+α新書)金正恩の核が北朝鮮を滅ぼす日 (講談社+α新書)
牧野 愛博

講談社 2017-02-21

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 「金正恩の核が北朝鮮を滅ぼす日」というタイトルから、北朝鮮を痛烈に批判しているのかと思いきや、本書の最後は次のような文章で締めくくられている。
 かつて、幼いころの正恩が訪れたこともある日本だが、北朝鮮に関する人的情報(ヒューマン・インテリジェンス)に限っては、米韓両国に追いつけるだけの実力はまだない。正恩が倒れる日までに、その差を埋めることはおそらくできないだろう。
 なぜか日本を非難する文章で終わっているのだ。著者の牧野愛博氏が朝日新聞ソウル支局長であるから、これだけ北朝鮮が暴走しても、どこか北朝鮮に遠慮しているのかもしれない。朝鮮や中国を真正面から批判できない左派のメンタリズムを垣間見た気がした(ブログ本館の記事「『小池劇場と不甲斐なき政治家たち/北朝鮮/憲法改正へ 苦渋の決断(『正論』2017年8月号)』―小池都知事は小泉純一郎と民進党の嫡子、他」を参照)。

 北朝鮮がミサイルを連射し、核実験にまで踏み切った。一般に、北朝鮮の意図は「体制の維持」にあると報じられるが、それならば核兵器の開発というハイリスクを冒さなくても、バックの中国やロシアを頼りにしていれば十分である。核兵器の開発に踏み込んだということは、体制の維持以上の目的があると考えるのが自然である。それはつまり、北朝鮮が韓国を併合して、悲願である共産主義革命を成就させることである。北朝鮮が韓国に進撃すれば、アメリカが黙っていない。そこで、北朝鮮はアメリカを牽制するために、アメリカ本土に届くICBMの開発を急いでいる。この点を日本のメディアが報じないのが私には不思議である。

 本書では、アメリカ軍関係者の興味深い話が紹介されていた。
 「現時点での朝鮮半島を巡る軍事バランスは米韓が圧倒的に有利だ。そんな状況で、無理をして危機を招く必要はないし、米国はそんな危険な行動をけっして取らないだろう」
 通常であれば、敵の脅威が小さいうちに叩いておこうと考えるものである。ところが、アメリカはそうは考えない。むしろ、北朝鮮の軍事力が上がるのを待っているかのようである。この点については、ブログ本館の記事「『天皇陛下「譲位の御意向」に思う/憲法改正の秋、他(『正論』2016年9月号)』―日本の安保法制は穴だらけ、他」、「『北朝鮮”炎上”/日本国憲法施行70年/憲法、このままなら、どうなる?(『正論』2017年6月号)』―日本はアメリカへの過度の依存を改める時期に来ている」で書いた。

 北朝鮮の軍事力が不透明で中途半端な段階で手を出してしまうと、アメリカは北朝鮮の軍事力の分析が不十分なままに戦争に突入することになる。北朝鮮は、(半ばやけっぱちで)アメリカの同盟国である日本や韓国を攻撃するかもしれない。それよりも、アメリカが一番恐れているのは、北朝鮮に100万人いると言われる陸上軍とのゲリラ戦にずるずると巻き込まれることである。インテリジェンスを駆使して敵の作戦を事前に見抜くことに長けているアメリカは、逆に言うとインテリジェンスが通用しないゲリラ戦を苦手としている。このことは、ベトナム戦争、アフガニスタン戦争、イラク戦争の事例がよく示している。

 では、北朝鮮の軍事力が高度化し、アメリカが衛星やサイバー攻撃を駆使して北朝鮮の軍事力を完全に解明すれば北朝鮮を攻撃できるかというと、実はこれも怪しい。本書によると、アメリカが北朝鮮を攻撃した場合、北朝鮮が報復攻撃に出ないように同時に制圧すべき拠点が2,000ほどあるという。また、核に関連する地下施設が少なくとも5,000以上あり、これらもカバーしなければならない。いくらアメリカ軍が圧倒的な力を持っているとはいえ、これだけの数の拠点や施設を制圧するには最低でも数日はかかる。その間に、北朝鮮は間違いなく韓国や日本を攻撃するだろう。アメリカとしては、とても容認できることではない。

 だから、アメリカは北朝鮮と本気で戦争をしようとは考えていない。そして同時に、北朝鮮も本気でアメリカと戦争をしようとは思っていない。ICBMを数発開発したところで、アメリカと戦争をすれば、たとえゲリラ戦に持ち込んだとしても容易には勝てず、甚大な被害が出ることは重々承知している。

 アメリカは、北朝鮮がICBMを完成させるのを待つしかない。このままいけば、来年初頭までには北朝鮮のICBMが完成すると言われる。この段階でアメリカは、北朝鮮に対話を持ちかける。アメリカは北朝鮮に対して、ICBMの放棄を迫る。当然のことながら、北朝鮮は反対要求として、アメリカの軍事力削減を求める。具体的には在韓米軍の撤退を迫るであろう。

 北朝鮮にとっては、韓国から米軍が立ち去れば、朝鮮統一のハードルがぐっと下がる。韓国はアメリカに見捨てられる。しかし、現在の韓国の文在寅大統領は大の親北派である。また、韓国国内には、386世代(1990年代に30代(3)で、1980年代(8)に大学生で1987年の民主化宣言まで民主化学生運動に参加していた者が多い1960年代(6)生まれの人々)をはじめ親北派が増えている。朴槿恵前大統領を辞職に追いやった「ロウソク運動」にも、親北左派が多く関わっていたと言われる。アメリカとの対話後、北朝鮮はより平和的な方法で、念願の南北統一へと前進する。そして、韓国の少なからぬ人々もそれを歓迎するに違いない。

小倉和夫『日本人の朝鮮観―なぜ近くて遠い隣人なのか』


日本人の朝鮮観 ―なぜ近くて遠い隣人なのか日本人の朝鮮観 ―なぜ近くて遠い隣人なのか
小倉 和夫

日本経済新聞出版社 2016-03-26

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 《参考記事(ブログ本館)》
 『「慰安婦」戦、いまだ止まず/台湾は独立へ向かうのか/家族の「逆襲」(『正論』2016年3月号)』―朝鮮半島の4つのシナリオ、他
 『非立憲政治を終わらせるために―2016選挙の争点(『世界』2016年7月号)』―日本がロシアと同盟を結ぶという可能性、他
 千野境子『日本はASEANとどう付き合うか―米中攻防時代の新戦略』―日本はASEANの「ちゃんぽん戦略」に学ぶことができる

 日本と朝鮮半島の関係を、歴史的観点に加えて文学の視点からも分析した1冊。(わざわざマトリクスにするまでもないのだが、)「相手を尊敬するか卑下するか?」、「相手に接近するか敬遠するか?」という2軸でマトリクスを作った場合、普通は尊敬する相手には接近し、卑下する相手は敬遠するものである。

 ただし、尊敬する相手を敬遠する場合もある。個人的な話で大変恐縮なのだけれども、私は長年のMr.Childrenファンである。にもかかわらず、一度もコンサートに行ったことがない。いつもCDとDVDだけで楽しんでいる。同じミスチルファンからは、「ミスチルもあと何年音楽活動を続けるか解らないから、今のうちに観に行った方がいいよ」などと言われる。確かにそうなのだが、私にとってミスチルはあまりに存在が大きすぎるので、生で観ることをためらってしまうのだ。

 尊敬する相手を敬遠する場合とは逆に、卑下する相手に敢えて接近するというパターンもある。アメリカはこういうことをしょっちゅうやっている。アメリカが信じる自由、平等、資本主義、民主主義、基本的人権を絶対視し、これらがないがしろにされている国を名指しで批判する。そして、その国の内政に入り込んで、政治・経済システムを(アメリカにとって都合のよいように)変えてしまう。

 日本と朝鮮半島の関係、とりわけ近代のそれは非常に複雑である。明治時代にいち早く近代化に成功した日本は、朝鮮半島を遅れた国と見下していた。本書では、高浜虚子などが遅れた人々を敬遠していた様子が紹介されている。ところが、日本は、西欧から押し寄せる帝国主義の波からアジアを守るという名目で、朝鮮半島に接近し、近代化を試みた。

 朝鮮半島の人々は遅れた、野蛮な、汚らしい存在であったものの、彼らの奥底には一種の精悍さ、たくましさがあった。日本人は、一周回って朝鮮半島の人々を憧れの目で見る時もあった。日本が性急な近代化によって失った伝統的な素朴さを、朝鮮半島の人々の中に見出していた。こうして、日本人は朝鮮半島の人々に近づくのだが、反面、ロマンはロマンとして遠ざけておきたいという心理も働いた。そのため、日本人は朝鮮半島の人々と距離をとることがあった。

 要するに、日本人と朝鮮半島の人々は、先ほど述べたマトリクスの全ての象限を経験しているのである。こんなにも複雑な関係になってしまったのは、本書の分析によれば、日本人と朝鮮半島の人々が本質的に似ているからということになる。似ているから近づきたくなるし、逆に「放っておいてもよいか」という気持ちにもなる。あまりに似すぎているがために、かえってお互いの些細な違いが目につき、近親増悪のような状態を生み出す。相手を矯正してやろうと思うこともあれば、矯正を諦めて離れていくこともある。

 混迷を極める朝鮮半島が、今後どのようになるかは予測がつかない。最も望ましいのは、北朝鮮と韓国が全く新しい国家として1つに統一され、右派と左派が混合された政治・経済体制が敷かれることである。つまり、日本のような国になることである。小国が生き残るには、対立する大国の一方に過度に肩入れするのではなく、大国のいいところ取りをして「ちゃんぽん状態」を生み出すことが最善であると考える。「ちゃんぽん国家」同士が相互に連携できればなお望ましい。

 だが、どうやらこのシナリオは実現可能性が低そうだ。最も可能性があると私が見ているのは、「中国が暴走する北朝鮮を見限って、親中派が増えた韓国を使って朝鮮半島を共産主義国として統一する」というシナリオである。こうなった場合、日本は朝鮮半島に対して下手に手を出すべきではない。朝鮮半島の新国家は、小国であるにもかかわらず、大国である中国にべったりとなる。そんな危険な国家に日本から近づくと、大国間の争いに巻き込まれるリスクが高まる。だから、この場合は、「朝鮮半島の新国家を放っておく」ことが日本の最善策となる。

 では、朝鮮半島の共産主義化を防ぐべく、朝鮮半島に「ちゃんぽん国家」が建設されるように、日本を手本として日本が積極的に支援するというのはどうだろうか?私は、これも止めておいた方がよいと考える。日本は、アメリカのように高らかな理想を掲げて朝鮮半島に介入し、2度失敗している(そもそも、その理想の中身は実は空っぽだったという疑惑があるが)。1度目は豊臣秀吉の朝鮮出兵であり、2度目は韓国併合である。日本はあくまでも小国にすぎないのであり、アメリカの真似はできない。身の丈に合わないことは控えるべきである。

金惠京『柔らかな海峡―日本・韓国 和解への道』


柔らかな海峡 日本・韓国 和解への道柔らかな海峡 日本・韓国 和解への道
金 惠京

集英社インターナショナル 2015-11-26

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 本書で言及されているが、昨年安倍総理が「安倍談話」を発表するにあたって下敷きとした「20世紀を振り返り21世紀の世界秩序と日本の役割を構想するための有識者懇談会報告書」には、次のような文章がある。
 韓国政府が歴史認識問題において「ゴールポスト」を動かしてきた経緯にかんがみれば、永続する和解を成し遂げるための手段について、韓国政府も一緒になって考えてもらう必要がある。
 本書の著者の金惠京氏は日本、韓国、アメリカでの生活経験があるため、日本人と韓国人双方のものの考え方、さらに、慰安婦問題に代表されるような日韓の対立がアメリカでどのように受け止められているのかについても理解がある。日本からすると、韓国がゴールポストを動かしている=交渉のゴールを流動させている=腹の底で何を考えているのか解らない、ということになるが、韓国サイドから見れば、日本もゴールポストを動かしていると映るようだ。

 例えば、安倍総理は2014年3月14日、河野談話の見直しは考えていないと発言した。ところが、同時に菅官房長官は、河野談話作成の過程を検証する必要があると指摘している。また、安倍総理は村山談話を継承するという立場を明らかにしておきながら、他方で「侵略の定義は学界的にも国際的にも定まっていない」と述べたり、靖国神社を参拝したりする。こうした行動が、著者ら韓国人にとっては一貫性がないと感じ取られる。

 2015年7月5日、ユネスコ世界遺産委員会において、「明治日本の産業革命遺産」として23の施設が世界遺産に登録された。これらの施設において戦時中に強制徴用が行われたとの指摘が韓国からなされ、「強制労働(forced labor)」という文言を使用するか否かで日韓が激しい応酬を行った。交渉の結果、佐藤地ユネスコ大使は「働かされた(forced to work)」という表現を用いることとした。だが、日本政府はこれについて、「強制労働ではない」と弁明した。

 著者は、forced to workという表現からして、これを「強制労働ではない」と解釈するには無理があると苦言を呈している。また、日本の歴史教科書の多くが、戦時中の日本が朝鮮半島から多くの人を連行して厳しい条件の下で労働させたと記述していることとの矛盾も指摘する。日本によるこうしたゴールポストの移動は、国際社会における日本の信用を貶める恐れがあると著者は心配している。

 昨年末、日韓は慰安婦問題について最終的かつ不可逆的に解決したということで合意した。これにより、両国の関係は未来志向の新時代に突入すると安倍総理は期待している。日本が韓国を必要とする理由は何だろうか?朝鮮半島には、大雑把に言って3つのシナリオがある。すなわち、共産主義国として統一する、資本主義国として統一する、現状維持の3つである。

 日本にとって最悪なのは、朝鮮半島が共産主義国として統一されることである。巨大国家・中国をバックに、共産主義の脅威が日本の目前まで迫ることを意味する。さらに、韓国の資本力が北朝鮮の核開発につぎ込まれるようなことがあれば、朝鮮半島に非常に危険な核保有国が誕生する。ただ、中国も朝鮮半島の共産主義化に本気かどうか不明である。北朝鮮の核が中国にとって脅威であるように、朝鮮半島の新国家が必ずしも中国に従順になるとは限らないからだ。ロシアと対立した過去がある中国なら、そのことはよく解っているはずである。

 朝鮮半島が資本主義国として統一された場合はどうか?日本から見れば、共産主義の脅威が中国側に後退することになるが、実はアメリカがそれを望んでいないように思える。朝鮮半島が資本主義国となれば、アメリカは朝鮮を通じて、巨大な共産主義国である中国と正面から対峙しなければならない(逆に言えば、中国も巨大なアメリカと対峙することになり、中国にとっても望ましくない)。

 朝鮮半島が南北に分裂しているうちは、アメリカと中国の対立を、韓国対北朝鮮という枠内に抑えることができる。だから、日本、アメリカ、中国にとって望ましいのは、現状維持である。したがって、韓国との外交は、将来もこの点を念頭に置いたものになるに違いない。

 では、韓国にとって日本は必要なのだろうか?かつて、日本は政治面でも経済面でも韓国のお手本であった。ところが、課題は残るもののある程度の民主化を達成し、経済的にも1人あたりGDPが日本を上回りそうなところまで成長した韓国にとって、教師としての日本の価値は薄れている。

 前述の通り、朝鮮半島は現状維持が最善であるとすれば、韓国はこの先も北朝鮮と対峙し続ける。もしかすると、韓国が北朝鮮に対抗するためには、韓米同盟があれば十分かもしれない。韓国の執拗な歴史問題攻撃にうんざりしている日本人は、ここに来て急に慰安婦問題の解決を提案してきた韓国を見て、「やっぱり韓国は日本がいなければダメな国なのだ」と、どこか上から目線で見ている節がある。だが、日本が勝手に優越感に浸っているだけであって、韓国が日本をあっさり捨てるというシナリオも想定しておかなければならないと感じる。
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プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 ※持病の悪化により、今年の3月に続いて再び入院することとなりました。皆様にはご心配をおかけして申し訳ございません。復帰は8月末~9月上旬の予定です。それまでは過去の記事をお楽しみいただければと思います。

 東京都豊島区を拠点に、東京23区で活動する中小企業診断士(コンサルタント・トレーナー)。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、1,500字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
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◆個人事務所
 「シャイン経営研究所」◆ シャイン経営研究所ロゴ

(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)
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