こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント・トレーナー)のブログ別館。2,000字程度の読書記録の集まり。

AIIB

福森哲也『ベトナムのことがマンガで3時間でわかる本―中国の隣にチャンスがある!』


ベトナムのことがマンガで3時間でわかる本 (アスカビジネス)ベトナムのことがマンガで3時間でわかる本 (アスカビジネス)
福森 哲也

明日香出版社 2010-11-19

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 ブログ本館の記事「千野境子『日本はASEANとどう付き合うか―米中攻防時代の新戦略』―日本はASEANの「ちゃんぽん戦略」に学ぶことができる」で、ASEANの中でもベトナムは「ちゃんぽん戦略」が上手い印象があると書いた。ベトナムの外交は「八方美人外交」と呼ばれる(揶揄される?)そうだ。本書ではベトナムの歴史を簡単に学んだだけだが、時と場合に応じて味方となる国をコロコロと変えるしたたかな外交をうかがい知ることができた。

 ベトナムは歴史的に見て長らく中国の支配下にあった。だから、中国に対しては複雑な感情を抱いている。ベトナム民主共和国(北ベトナム)が勝利したベトナム戦争(1960~1975年)の後も、後ろ盾となった中国とソ連のうち、ソ連との関係を重視した。当時の中国はカンボジアと深い関係にあった。一方、ソ連とつながるベトナムは、カンボジアのポル・ポト政権と対立し、1978年にはカンボジアとの国交を断絶、1979年にはカンボジアに侵攻し、中越戦争を引き起こした。

 1991年にソ連が崩壊すると、ベトナムは重要なサポーターを失った。そこで、かつて対立した中国やアメリカに接近するようになる。アメリカはベトナム戦争の敵国であり、300万人もの自国民を殺されたにもかかわらず、である。ベトナムは1995年、アメリカと和解して国交を回復した。

 中国とは1991年に国交を正常化した。その後、ベトナムはASEANへの加盟を狙ったが、カンボジア問題が解決していないとして、中国がこれに反対した。中国とベトナムの間を取り持ったのはインドネシアである。そのおかげで、ベトナムは1995年にASEANに加盟することができた。もともと、反共産主義のための地域連合として発足したASEANは、ベトナムという共産主義国を加えることによって、政治・経済面での包括的な連携を促す組織へと変貌する。

 ベトナムは中国と国交を正常化したとはいえ、現在は南沙諸島をめぐる領土問題で中国と対立している。ベトナムは安全保障の観点から、アメリカと軍事面で協力関係にあり、合同で軍事演習も実施している。社会主義国が資本主義国と手を組むという不思議な構図である。ソ連崩壊後、関係が希薄になっていたロシアとも、近年は関係を再び強化している。ロシアは潜水艦をベトナムに売却したり、ベトナムの原発・地下鉄工事などを受注したりしている。

 かといって、ベトナムは中国との関係を軽視しているわけではない。中国がAIIB(アジアインフラ投資銀行)の立ち上げを発表した時、ASEANは10か国とも加入を表明したが、とりわけ熱心だったのが「陸のASEAN」であった。陸のASEANとは、インドシナ半島に位置するベトナム、ラオス、カンボジア、タイ、ミャンマーの5か国である。陸のASEANは、どの国もインフラ整備が喫緊の課題であり、その解決をAIIBに期待した。ベトナムもしかりである。

 これに対し、ブルネイ、シンガポール、フィリピン、マレーシア、インドネシアの5か国は「海のASEAN」と呼ばれる。海のASEANの中には、中国と深刻な領土問題を抱える国が多い。AIIBへの参加は「渋々」だったと言われる。

 私の勝手な印象だが、中国やソ連を見ていると、社会主義国はどこか教条的なところがある。だが、社会主義であるベトナムが大国を相手にこれだけ柔軟に振る舞うことができるのは、「ホーチミン思想」にヒントがあるのかもしれない。
 ホーチミン思想の厳密な定義は、いろいろ解釈があって小難しいのですが、「ベトナム民族の自由と独立、尊厳と幸福が一番大事であり、そのためには社会主義も共産主義も柔軟に変えていく」思想なのだと思います。ベトナム民族が世界の中で確固たる地位を築いて幸せになるのであれば、資本主義的政策も推進するし、ロシアや中国よりも先に日本を訪問するし、仇敵米国にも接近するのです。

富坂聰『中国は腹の底で日本をどう思っているのか―メディアが語らない東アジア情勢の新潮流』


中国は腹の底で日本をどう思っているのか メディアが語らない東アジア情勢の新潮流 (PHP新書)中国は腹の底で日本をどう思っているのか メディアが語らない東アジア情勢の新潮流 (PHP新書)
富坂 聰

PHP研究所 2015-06-15

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 『中国は腹の底で日本をどう思っているのか』というタイトルがついているが、中国に限らず、韓国、北朝鮮、ロシア、ASEAN諸国などをめぐる国際情勢に関する1冊であった。ブログ本館の記事「齋藤純一『公共性』―二項「対立」のアメリカ、二項「混合」の日本」などで書いたが、アメリカは共和党対民主党という構図に代表されるように、物事を二項対立で把握する。これに対して日本は、かつての自民党が派閥によって右から左まで広く政治家を内包していたように、対立項を自分の中に取り込んで共存させる傾向がある。

 ところが、最近の日本はアメリカ的な発想に影響されているせいか、二項対立的な物の見方が増えてきた。マスメディアに見られる善悪二分論はその典型である。小泉純一郎元首相は、「民営化か否か」と迫って自民党を二分した。また、一時的ではあったが、自民党対民主党という2大政党制が成立した。国際情勢においては、日本の味方となる国と敵となる国を明確に峻別する傾向がある。関係国を敵―味方に分けるのは、同盟関係を軸とした考え方である。

 日本にとっては、アメリカが親友で、中国や北朝鮮は敵である。最近は韓国も敵扱いかもしれない。だが、当の中国や北朝鮮・韓国は、どうやら単純な敵―味方二分論には染まっていないようだ。例えば、中国はベトナムやフィリピンと南シナ海で領有権争いをしている。しかし、中国はその両国からAIIBへの賛同を引き出している。とりわけベトナムは、自国のインフラ整備に中国が貢献してくれることを期待しており、AIIBに好意的である。

 韓国と北朝鮮は、北緯38度線で軍事的緊張を高めているものの、様々な場面で関係深化を図っている。北朝鮮は韓国で開催された仁川アジア大会にNo2を送り込んだ。一方の韓国は、北朝鮮の共産主義をよく研究しており、国内には親北朝鮮派が増えているという。中国は北朝鮮・韓国とバランスよくつき合っている。中国がイデオロギー的に対立する韓国と国交を樹立したことは、北朝鮮にとって屈辱であったはずだ。しかし、中国は北朝鮮の核実験を非難することはあっても、北朝鮮と手を切ることは考えていない。

 (ちょっと余談。本書では、朝鮮半島が2国に分裂したままであることが中国の国益にかなうと書かれていた。ただ私は、中国が韓国を利用して朝鮮半島を統一するというシナリオがあるのではないかと考えている。

 北朝鮮には朝鮮半島を統一するだけの力がない。一方で、韓国は北朝鮮研究によって左傾化が進んでいる。そこで、中国が韓国を使って朝鮮半島を共産主義化するわけである。韓国の経済力をつぎ込んで北朝鮮の核を強化すれば、日本にとって大きな脅威となる。そんなことをすればアメリカが黙ってはいないはずなのだが、朝鮮半島に巨大な核が生まれ、さらにバックにも核を持つ中国がいては、アメリカもそう簡単に手出しができない)

 国際政治の舞台では、相手国を単純に敵―味方に分けるのではなく、敵の懐に上手く飛び込むことが重要である。言い換えれば、「右手のこぶしを振り上げながら、左手で握手をする」のが国際政治のルールなのである。ある人とは両手でがっちり握手をし、別の人に対しては両手を振り上げるような外交をしているのは、日本(とアメリカ)ぐらいかもしれない。

 最近、中国と北朝鮮が日本にすり寄ってきたと言われる。中国も北朝鮮も国内経済が失速しており、情勢打開のために日本に支援を求めてきたというわけだ。敵―味方二分論に染まっている日本は、「中国や北朝鮮は、やはり日本がいなければ立ち行かない」などと、どこかこの2か国を見下している。しかし、彼らが日本に接近しているのは、右手のこぶしを振り上げながら、左手で握手を求めているだけのことであって、決して日本に頭を下げようと考えているわけではない。
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プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都豊島区を拠点に、東京23区で活動する中小企業診断士(コンサルタント・トレーナー)。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、2,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
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◆個人事務所
 「シャイン経営研究所」◆ シャイン経営研究所ロゴ

(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)
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