こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント・トレーナー)のブログ別館。2,000字程度の読書記録の集まり。

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中田善啓『ビジネスモデルのイノベーション―プラットフォーム戦略の展開』―自動車・建設・医療業界でマルチサイド・プラットフォームが登場したら面白い


ビジネスモデルのイノベーション―プラットフォーム戦略の展開ビジネスモデルのイノベーション―プラットフォーム戦略の展開
中田 善啓

同文舘出版 2009-12

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 この本は私が今年今までに読んだ約70冊の中で一番ひどかった。
 デジタル・コンバージェンスは、プラットフォームがフィーチャをバンドル化することによって、境界が徐々に消滅していくことをいう。
 「まさのChoiceがGoodだから僕は毎回Here we goしている」(水曜どうでしょう藩士にしか伝わらない)並みの文章である。カタカナは外来語を日本語に吸収する際の緩衝材である。よって、カタカナを連発する人というのは、そのカタカナを日本語に昇華することができていない人のことである。

 カタカナだけがひどいのかと思ったら、
 取引費用の節約による費用削減、ないしは探索費用の増大による多様性やアメニティの提供を通じて、消費者、部品・製品供給業者、販売業者の効用ないしは価値が増大するのである。
 日本語も万事こんな具合であり、全くもって意味不明である。本来、この手の駄本は滅多斬りにしてやりたいところだが(滅多斬りにした例が、ブログ本館の記事「土屋勉男、金山権、原田節雄、高橋義郎『革新的中小企業のグローバル経営―「差別化」と「標準化」の成長戦略』―共著と中小企業研究の悪癖が両方とも出た1冊」)、内容が理解できず斬ることもできないので、今回の記事では私が好きなことを好きなように書くことにする。

 一応、本書の内容に少しだけ触れておくと、プラットフォーム企業には3つのタイプがある。1つ目が「インテグレーター・プラットフォーム」であり、自動車が該当する。自動車メーカーは、系列参加の部品メーカーから供給されるそれぞれの部品を組み立てて統合(インテグレーション)するためのプラットフォームを持っている。部品メーカーは、プラットフォームが要求する仕様に合わせて部品を製造する。2つ目が「製品プラットフォーム」であり、インテルのMPUがその例である。インテルはPCという製品のコアを担っており、インテルのMPUの仕様、性能、スペックが他の部品の仕様、性能、スペックを拘束する。

 これは見方を変えると、インテグレーター・プラットフォームとは、製造のバリューチェーンの下流に位置するプレイヤーがプラットフォームを有する場合であり、製品プラットフォームとは、製造のバリューチェーンの上流に位置するプレイヤーがプラットフォームを有する場合と言える。それぞれのビジネスモデルについては、随分昔に旧ブログの記事「【第13回】プロセスを分解して特定プロセスに特化する―ビジネスモデル変革のパターン」、「【第18回】プロセスを分解して特定プロセスを独占する―ビジネスモデル変革のパターン」で触れたことがある。

 インテグレーター・プラットフォームが存在する業界では、製造の川下のプレイヤーが少なく、川上に行くほどプレイヤー数が増えていく。これに対して、製品プラットフォームが存在する業界では、製造の川上のプレイヤーが少なく、川下に行くほどプレイヤー数が多くなる。どの業界でもそうだが、製造バリューチェーンの各プロセスを見ると、そのプロセスを担うプレイヤーの数が相対的に多いプロセスと少ないプロセスに分かれる。プレイヤーの数が少ないプロセスにおいては、合従連衡が進んでプラットフォームが出現する可能性がある。

 ここで、なぜプラットフォーム企業は製造バリューチェーンの川上と川下でしか現れず、川中からはなかなか出現しないのか?という素朴な疑問が生じる。この問題は引き続き検討していきたいと思う。

 プラットフォーム企業の3つ目が「マルチサイド・プラットフォーム(MSP)」である。これは、自社に対する供給業者を顧客化することで、プラットフォームを介して2種類の顧客を持つ形態である。MSPは、両者の取引を媒介し、両方の顧客から料金を取る(実際には、ユーザ(=本来の意味での顧客)からは料金をほとんど取らず、供給業者からの料金が収益の柱であるケースが散見される)。

製品・サービスの4分類(①大まかな分類)

【修正版】製品・サービスの4分類(各象限の具体例)

製品・サービスの4分類(③具体的な企業)

 上図については、ブログ本館の記事「「製品・サービスの4分類」に関するさらなる修正案(大分完成に近づいたと思う)」、「『一橋ビジネスレビュー』2018年SPR.65巻4号『次世代産業としての航空機産業』―「製品・サービスの4分類」修正版(ただし、まだ仮説に穴あり)」をご参照いただきたい。

 MSPと最も親和性が高いのは<象限③>である。この象限は必需品ではなく、需要を一から創造しなければならないイノベーションの領域である。この領域には、世界中から一攫千金を狙って数多くのイノベーターが参入してくる。イノベーターは自分のイノベーションこそ最高と信じており、「自分がこれだけ惚れ込んでいるのだから、世界中の人々もきっと同じようにほしがるはずだ」と考えている。そして、世界中にイノベーションを普及させるためならば、自ら多少のお金を払ってもよいと思うようになる。こうしたイノベーターを束ねるのがMSPである。

 世界で最も企業価値が高い10社のうち5社、すなわちApple、Alphabet(Google)、Amazon、Facebook、Microsoftは、いずれもMSPである。5社とも巨大な顧客(ユーザ)基盤を資産としており、Appleは音楽やスマホアプリ、Googleは広告、スマホアプリや音楽、Amazonは書籍、音楽や映像コンテンツ、Facebookは広告、MicrosoftはPC上のソフトウェアの供給業者(イノベーター)を引きつける。そして、供給業者はMSPの顧客基盤にアクセスするために料金を支払うのである。GoogleのAndroid向けアプリを例にとると、開発者はまず、Googleに対して、プラットフォーム(開発環境)を利用するための料金を支払う。そして、自分が開発したアプリがプラットフォームを介してユーザに売れた場合には、料金の一部を手数料としてGoogleに支払う。MSPの場合、このように固定料金+変動料金という2階建ての料金体系を持っているのが普通である。

 (※)上図ではMicrosoftを<象限①>としているが、これは必需品としてのWindows搭載PCが事業の主力となっているためである。Microsoftが提供する開発環境で開発されたPC向けソフトウェアは、他の4社に比べると事業規模が小さい。よって、同社は<象限③>寄りというよりも<象限①>寄りである。

 料金の一部を手数料として支払うだけであれば代理店のビジネスモデルと変わらないのだが、MSPの場合は、プラットフォームに参加する時点で料金を払わなければならない点が大きく異なる。さらに、代理店の場合は、顧客に売れそうな製品・サービスを代理店があらかじめ厳選するのに対し、MSPは倫理的な基準を満たす製品・サービスであれば何でも歓迎する。MSPが取り揃えている製品・サービスの多様性が、顧客にとって魅力となる。何が顧客に売れそうなイノベーションなのかは、実はMSPも解っていない。だから、MSPは常にランキングを作成し、今世界で売れているイノベーションが何なのかを顧客に提示している。

 ただ、MSPも、蓄積されたデータを活用すれば、何がヒットするイノベーションの要件なのか解析することが可能であるような気もする。ブログ本館の記事「『未来を予測する技術(DHBR2017年1月号)』―予測が困難なのにデータ重視のアメリカ、予測が容易なのにデータ軽視の日本、他」でも書いたが、アメリカ企業は少ないデータからでも成功のモデルを導き出そうとする。例えば、映画がヒットするかどうかは、台本の内容や配役によってではなく、単に映画のタイトルで決まるという結論を得たりする(イアン・エアーズ『その数学が戦略を決める』〔文藝春秋、2007年〕より)。あるいは、世界中の人がそのイノベーションを受け入れるように、キリスト教を全世界に布教した方法に倣って(半ば強引な)プロモーションを展開し、消費者の嗜好を変えてしまうこともある。

 MSPはイノベーターに対して、イノベーションの成功要件に従って製品・サービス開発のコンサルティングをしたり、特定のイノベーターを集中的にプロモーションしたりするサービスを提供してもよさそうである。だが、これを行うと、イノベーションがどれも似たり寄ったりになってしまうリスクがある。また、特定のイノベーションに肩入れすることは、多種多様な製品・サービスを揃えるというMSPの本来の姿勢に反する可能性がある。MSPはこの点を恐れているのかもしれない。

 MSPは近年、<象限①>にも現れている。その筆頭がAmazonである。書籍からスタートした同社は、今や日用品、ファッション、食品、ベビー用品など<象限①>の製品も取り扱うようになっている。<象限①>は参入障壁が低く、競争が激しい。別の言い方をすれば、供給過多になりやすい。すると、供給業者の中には、多少のお金を払ってでも、自社の製品を販売したいと考える企業が出てくる。ここから先の展開は<象限③>の場合と同じである。

 ここでもう1つ、<象限②>ではMSPは登場しないのか?という疑問が生じる。MSPが登場するための要件は、1つのカテゴリの中の製品・サービスラインナップが非常に多いこと(例:iTunes、Google Play)、もしくは多数の製品・サービスカテゴリを取り揃えることが可能であること(例:Amazon)であるように思える。だが、自動車や建設、医療業界などは、他の業界に比べるとラインナップが少ない。それに、プラットフォーム上で自動車も住宅も医療サービスも購入しようとする顧客はまずいないだろう。こう考えると、<象限②>ではMSPの成立は難しいのかもしれない。ただ、仮にMSPが成り立つビジネスモデルを考えついたら、非常に魅力的な事業になると思う(私は3時間考えたところで諦めてしまった(早い))。

DHBR2017年9月号『燃え尽きない働き方』―スノーピーク社の戦略について


ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 09 月号 [雑誌] (燃え尽きない働き方)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 09 月号 [雑誌] (燃え尽きない働き方)

ダイヤモンド社 2017-08-10

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製品・サービスの4分類(大まかな分類)

製品・サービスの4分類(各象限の具体例)

製品・サービスの4分類(具体的な企業)

 久しぶりにこの図の登場。詳しくはブログ本館の記事「【シリーズ】現代アメリカ企業戦略論」、「「製品・サービスの4分類」に関するさらなる修正案(大分完成に近づいたと思う)」をご参照いただきたい。

 【象限③】は「あってもなくてもよい製品・サービス」であり、常に需要を創造しなければならない。言い換えれば、リーダーがイノベーションを起こさなければならない。市場ニーズはまだ存在していないのだから、伝統的な市場調査は役に立たない。よって、(A)リーダーは「顧客が何をほしがっているか?」ではなく、「自分だったらどういう製品・サービスがほしいか?」と考える。Appleはスティーブ・ジョブズがほしいと思った製品を作り、全世界に普及させた典型例だと言える。そして、Appleがそうであったように、(B)リーダーは製品・サービスに込めた強い思いを顧客に正確に伝え、ブランドイメージを守るために、販売チャネルに対して強いパワーを発揮し、販売チャネルをコントロールしようとする。

 ただし、イノベーションは成功確率が非常に低い。イノベーター自身がその製品・サービスをほしいと思っても、世の中の大多数の人々が同じくそれをほしがるとは限らない。イノベーションは多産多死の世界である。よって、(C)イノベーターはリスクを最小化するため、一時的に優秀な人材を集めてプロジェクトを作り、製品・サービスが完成すればチームを解散するというプロジェクト型の経営をする。正社員は最小限にとどめ、外部のパートナーをフルに活用する。仮に正社員を多く抱える場合でも、固定的なキャリアパスはなく、そのプロジェクトが要求する最高の能力を持つ人材をその都度社内からかき集めるので、上を下への人事異動が頻発する。他方、日本企業が強い【象限②】では、長期雇用を前提として大半の社員を正社員とし、キャリアパスを明確にして社員の育成に投資する。

 本号には、アウトドア用品のスノーピーク社の代表取締役社長・山井太氏の論文が掲載されていた(「スノーピークが実践するユーザー主義の原点 すべては、社員の幸せから生まれる」)。アウトドア用品は、私の見解では【象限③】に該当する。論文を読むと、同社が前述の(A)~(C)を実践していると感じた。
 (A)1988年、筆者は「自分たちが本当にほしいものをつくる」と宣言し、キャンプ用品のハイエンド製品群をつくり始めた。それまでのように、ちょっと風が吹くと潰れてしまうテントではなく、嵐に遭遇しても持ち応えられる頑強なテントをつくろうと、素材と技術、デザインにこだわって製品化を果たしたのである。
 (B)小売店は回転率のよい売れ筋製品しか扱ってくれないため、店舗ごとの品揃えに大きなバラツキが生じてしまう。加えて、問屋経由では流通そのものもコントロールできておらず、当社が目指すハイエンドなイメージとはかけ離れた店舗で販売されるケースもあった。(中略)そこで筆者は、翌1999年から1年をかけて問屋や小売店との交渉を行い、2000年のシーズンからは販売体制を一変させた。まず、問屋を介さず小売店との直接取引に変え、流通をよりシンプルにした。さらに直接取引の特約店方式を採用して、当社製品の取扱店を4分の1に絞り込み、その代わりに全商品を展開してもらうという体制を構築した。
 (C)組織変更は年に1度、あるいいは半期ごとの会社も多いと思うが、筆者はその時点の体制が機能していないと感じたら、時期を問わず即座に変えることにしている。組織変更やポジション変更が年10回ということも珍しくない。(中略)当社では、タスクリーダー、マネジャー、シニアマネジャーというキャリアパスが基本だが、積極的な抜擢人事を行うことも多い。若手社員を一足飛びでマネジャーに引き上げることもある。同時に、降格も躊躇しない。執行役員から降格して部長職まで落ちることもある。(中略)ただし、敗者復活戦が用意されていることが特徴だ。
 ところで、事業戦略の立案から実行にかけてのプロセスは、大まかに言って、①事業機会の抽出⇒②ターゲット顧客・差別化要因の決定⇒③CSF(Critical Success Factor:重要成功要因)の明確化⇒④戦略目標(売上高・利益・市場シェア)の設定⇒⑤ビジネスモデルのデザイン⇒⑥ビジネスプロセスのデザイン⇒⑦施策の優先順位づけと実行計画の作成⇒⑧将来の損益計算書のシミュレーション、という8つのフェーズから成り立っていると考える。

 ブログ本館の記事「【戦略的思考】事業機会の抽出方法(「アンゾフの成長ベクトル」を拡張して)」は①のツールである。最近、旧ブログで書いた「【シリーズ】:ビジネスモデル変革のパターン」は②の差別化要因を考える際のヒントになるのではないかと思うようになった。また、上図のマトリクスに関しては、スノーピーク社の事例が示唆するように、象限ごとに適切なビジネスモデルというものが存在し、⑤のビジネスモデルのデザインに役立つのではと感じている。こうして、今まで何年もの間私がバラバラに考えていたことがようやく1つにまとまりつつある。ちなみに、このアイデアを思いついたのは、私が1人カラオケをしている時であった。しばしば、仕事から解放された時に革新的なアイデアがふと浮かぶものだと言われるが、私にとってはこれが初めての経験であった。
プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。これまでの主な実績はこちらを参照。

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、2,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
シャイン経営研究所HP
シャイン経営研究所
 (私の個人事務所)

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