こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント)のブログ別館。1,000字程度の読書記録などの集まり。

DHBR

『顧客は何にお金を払うのか(DHBR2017年3月号)』―職場の嫌なヤツを消すことはできない。嫌なヤツを受け流そう


ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 03 月号 [雑誌] (顧客は何にお金を払うのか)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 03 月号 [雑誌] (顧客は何にお金を払うのか)

ダイヤモンド社 2017-02-10

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 特集についてはブログ本館で取り上げるとして、ブログ別館では特集以外の論文を紹介したいと思う。
 無作法やいじめを繰り返す同僚について人事部に報告するな、正面から取り合うなというわけではない。それよりも持続的な効果が見込めるのは、無作法な扱いをされても動じないようになることや、少なくとも抵抗力を格段に高める対処法を身につけることである。
(クリスティーン・ポラス「認知面と情緒面の成功感覚を育む 職場のイヤな奴から身を守る法」)
 どんな職場にも無作法な奴、礼儀がなっていない奴、仕事ができない奴、人間として欠陥がある奴、言い換えれば「イヤな奴」というのはいるものである。そういう人にどう対処すればよいかというユニークな論文である。

 結論から言うと、イヤな奴を職場から排除するのではなく、イヤな奴に対する抵抗力、免疫を身につけようということである。悪いのはイヤな奴の方なのに、どうしてこちらが譲らなければならないのかと思う方もいらっしゃるかもしれない。こちら側からイヤな奴を積極的に消し去れば問題は解決するようにも思える。だが、残念なことに、組織では必ず2:6:2の法則が成立し、ダメな2割を取り除いても、残ったメンバーが再び2:6:2に分かれることが知られている。

 抵抗力を上げる手段の1つとして、本論文では「日記をつけること」が挙げられている。日記を書くと、自分の感情を客観的に整理し、適切な意味づけができるようになるという。私はそれ以上に、悪い感情を自分の内部に溜め込まず、心身を健康に保つことができるという作用の方が大きいと思う。

 私は2012年の夏に精神疾患で入院したが、退院してから日記をつけている。文章にすると、自分の記憶が外部化されるため、脳の負担が減少する。また、私が精神疾患にかかったのは前職のベンチャー企業での経験が関係しているのだが、2013年にはブログ本館で「【シリーズ】ベンチャー失敗の教訓」という記事を1年かけて書いた。「ここまで暴露して大丈夫なのか?」、「前の会社から訴えられないか?」など色々と心配の声もいただいた。もちろん、色んな人にあの記事を読んでもらえればと思っているが、私にとってあのシリーズの第一の目的は治療であり、自分を傷つけていた負の記憶を身体から切り離すことであった。

 私がつけている日記は「5年日記」というもので、1ページに5年分の日記が書けるようになっている。私が5年日記なるものの存在を知ったのは、退院後の中小企業診断士の大きなイベントで、たまたま知り合ったかなりご高齢の診断士の先生から教えてもらったのがきっかけである。その先生は、もう何十年も5年日記を続けており、過去の日記を色々と見せていただいた。5年日記のいいところは、過去の同じ日に自分が何を感じていたのかを振り返ることができる点であるという。昔の自分からたくさんのことを学ぶことができるそうだ。

 私もこの先生に倣って5年日記をつけ始めた。ただ、私の場合はイヤな奴に関する負の感情も包み隠さず書いているため、半ばデスノート化しており(苦笑)、この先生のようにとても他の先生に見せられる代物ではない。それに、過去の同じ日の日記を読み返すと、昔のイヤな記憶が蘇ることもある。ただ、不思議なことに、負の感情が再燃するどころか、「昔は何とちっぽけなことでイライラしていたのか」と昔の自分を突き放して見ることができるようになった。つまり、感情的に自分が成長していることを実感できるわけである。こういう成長実感も、イヤな奴に対する抵抗力を高める上で重要であると、論文の著者は指摘している。

『続ける力(DHBR2017年2月号)』―人脈の作り方について


ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 02 月号 [雑誌] (続ける力)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 02 月号 [雑誌] (続ける力)

ダイヤモンド社 2017-01-10

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 特集の「続ける力」についてはブログ本館で書くとして、ブログ別館では特集以外の論文から、人脈の作り方について書いてみたいと思う。ティツィアーナ・カッシアロ、フランチェスカ・ジーノ、マリアム・クーシャキの「考え方を変える4つの戦略 人脈づくりが好きになる方法」という論文では、①学習に焦点を絞る、②共通の関心を見つける、③自分が提供できるものを広い視野で考える(金銭、情報、コネ、技術的支援といった、有形物や職務に関連するものだけでなく、相手に対する感謝の気持ちや評価などのように、目に見えないリソースを提供する)、④より重要な目的を見出す(個人的利益のためではなく、自分が帰属する集団の利益を重視する)という4つのポイントが紹介されている。

 実を言うと私は極度の人見知りで、知らない人が大勢集まるような会合が非常に苦手である。中小企業診断士の資格を取得すると、支部や研究会の関係で、飲み会に参加する機会が格段に増える(診断士というのは、飲み会が異常に好きという特殊な人種なのかもしれない)。最近でこそ、私と同年代の30代の診断士が増えてきたものの、私が診断士の資格を取得した10年前は私も20代半ばであり、飲み会に参加すると周りは50代、60代の先生ばかりであった。そうすると、一体何を話していいのか解らずに困ったものである。

 そういうこともあって、しばらくは診断士の飲み会から遠ざかっていた。ところが、2012年に1か月半ほど入院して全ての仕事を失ってしまったので(経緯などについてはブログ本館の記事「【シリーズ】中小企業診断士を取った理由、診断士として独立した理由」を参照)、診断士の人脈作りをして、何とか仕事を紹介してもらえないかと画策した。だが、私は相変わらず人見知りのままである。そこで私が取った作戦は、懇親会に参加するたびに、懇親会の参加メンバーを見て(診断士はちょー助などを使って出欠管理をすることが多いため、事前に参加者が解る)、支部や研究会などで要職を務めている先生にあたりをつけ、その先生に質問すること、依頼することを1つだけ決める、というものであった。

 例えばある時は、「独立診断士として食べていくためにはどうすればいいですか?」とストレートに聞いてみたり(今振り返ると、結構失礼な質問をしたものだ)、ある時は「○○部(支部の中の組織)の活動に興味があるので入部させていただけませんか?」とお願いしてみたりした。ありがたいことに、年配の診断士の先生には面倒見のいい方が多かったため、私がそのようなことを尋ねると、「そういうことに興味があるなら、○○先生を紹介してあげるよ」と言ってくれた。こうして、飲み会に参加するたびに、1人、また1人と、重要な先生との人脈がつながっていった。その時の人脈が現在の仕事の重要な基盤となっている。

 最近では私の人見知りも多少は改善されてきたから、診断士の飲み会で初対面の人と名刺交換しても、「お仕事は何をされているのですか?」、「診断士を取ろうと思ったのはなぜですか?」という質問から入って話を広げていき、人脈を作る術が身についたと思う(それでもまだ初歩レベルだと思うが)。

 問題なのは、診断士以外の飲み会、懇親会に参加した場合である。診断士の飲み会の場合は、「診断士」という共通項があるから、会話の突破口も開きやすい。ところが、例えば外部のセミナーに参加した後の参加者同士の懇親会のように、事前に参加者の属性が解らず、単に「同じセミナーに参加した」ということ以外に共通項がないケースでは、未だにどうやって人脈を広げていけばいいのか解らない。いい加減、私も大人にならなければ。

『チームの力(DHBR2016年12月号)』


ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2016年 12 月号 [雑誌] (チームの力 多様なメンバーの強さを引き出す)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2016年 12 月号 [雑誌] (チームの力 多様なメンバーの強さを引き出す)

ダイヤモンド社 2016-11-10

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 ザッポスは「ホラクラシー」という新しい自律型組織を導入している。ホラクラシーにおいては、意思決定の権限を個人ではなく”サークル”と呼ばれる流動的なチームと役割に持たせる。チームが自らを設計・統治し、チームメンバーは伝統的な階層型組織に比べてはるかに多くの役割を担うようになる。
 ホラクラシー型組織では、サークルの結成・変更・解散のルールを大まかに定めた随時更新文書が組織の”憲法”として承認される。このためサークルは単にみずからを管理するだけでなく、憲法が定めるガイドラインの枠内でみずからを設計・統治もする。憲法では、どのようにタスクを遂行すべきかは言及されない。サークルの結成と運営の方法、サークルの役割の見つけ方と割り当て方、別の役割との境界線の引き方、サークル間の相互干渉のやり方を大まかに示すだけだ。
(イーサン・バーンスタイン他「”自主管理”の正しい導入法 ホラクラシーの光と影」)
 伝統的な組織だと、それぞれの社員は守備範囲の広い役割を1つだけ担って働く。多くの場合、社員が個人で業務を交換したり役割の内容を変えていくのは簡単ではない。自主管理型組織の社員は、非常に具体的な複数の役割をポートフォリオとして担い(ザッポスの社員はいまや1人平均7.4の役割を担う)、組織と個人のニーズの移り変わりに合わせてポートフォリオを作成、修正していく(同上)。
 簡単に言ってしまえば、いずれのチームも各メンバーが様々な役割を果たし、経営をせよ、ということだろう。アメリカというのはどうも極端な国で、今年に入ってからDHBRのいくつかの論文で、「取締役のスペシャリスト化」を主張したものがあった。かと思うと、一方ではホラクラシーのようにメンバーに万能さを求める論文がある。この揺れ動きを、宗教的に説明すると次のようになるのではないか?

神・人間の完全性・不完全性

 ブログ本館の記事「飯田隆『クリプキ―ことばは意味をもてるか』―「まずは神と人間の完全性を想定し、そこから徐々に離れる」という思考法(1)(2)」などで上図を用いてきた。キリスト教など一神教文化圏においては、「唯一絶対の神が自分に似せて人間を創造した」と言われる。単純に考えれば神=人間となるから、右上の象限に該当するはずである。

 しかし、キリスト教の教えを見ていると、人間は元来、不完全な存在として創造されたようである。キリスト教では、一人一人は不完全で差異があるのだが、どの人間も神との直接的な関係において愛を享受することができる。個人は集合体を必要とするものの、決して集合体のために生きるのではない。やがて訪れる神の国の祝福には、万人が一様に参与することができるという平等性がある。

 こうした伝統的なキリスト教の教えは、アメリカの場合やや変形されているように思える。アメリカの場合、自分が生涯のうちにアメリカ社会、いや世界に対してどのような影響力を及ぼしたいのかという使命や自己実現に関する契約を神と締結する。アメリカは表向きは自由で平等な社会であるものの、実はそのような契約を神に対して提示できるのは限られた人にすぎない。また、その契約が本当に正しいかどうかを知っているのは神のみである。だから、アメリカではごく一部の人だけが成功して大きな富や名声を獲得する。こうした考え方には、建国当初の「マニフェスト・デスティニー」の精神が影響していることは想像に難くない。

 アメリカでは、神と正しい契約を結んだ者のみが神の前で平等である。それ以外の人間は、神と正しい契約を結んでいないため、正しい契約を結んだ者によって、その契約のために道具のように扱われることが正当化される。したがって、アメリカでは平等主義と差別が併存する。

 従来、神と正しい契約を結んでいたのは企業のトップのみであった。トップは神と通じているわけだから万能である。それに対して、トップに仕えるその他の取締役や社員は、神と正しい契約を結んでいない。だから、トップに道具のように使われても文句は言えない。彼らは自ら目標を設定することもできない。道具としての機能に徹するのみである。はさみは紙を切ることができれば十分であって、はさみが紙を何枚切るべきかははさみのあずかり知らぬところである(だから、ドラッカーがMBO(目標管理制度)によって、知識労働者が自ら目標を設定しPDCAサイクルを回すべきだと主張した時、アメリカでは驚きをもって迎え入れられた)。

 しかし、アメリカ社会が平等主義を掲げている以上、平等な人々がもっとたくさんいてしかるべきである。一般社員も従来の企業トップと同様に、神の下で平等になるためにはどうすればよいか?アメリカの答えは、一般社員も神と正しい契約を結び、企業トップと同じくあらゆる職務をこなし、その結果に責任を持つということであった。アメリカの場合はこれしか考えつかないのである。

日本社会の構造

 日本の場合、このような問題は生じない。上図については、ブログ本館の記事「山本七平『日本はなぜ敗れるのか―敗因21ヵ条』―日本組織の強みが弱みに転ずる時(1)(2)」をご参照いただきたい。日本人は、垂直・水平方向に細かく区切られた巨大なピラミッド構造の一部を占め、上下左右に移動しながら他者に貢献する。ピラミッドの頂上に立つ天皇(厳密に言えば、天皇の上には様々な神々の階層がある)によって日本社会の全体像は示されるものの、その全体像はおぼろげである(天皇自身も全体像を完璧に把握しているわけではない)。

 その全体像の中で自分がどんな位置を占めているのかを何となく理解しながら、今目の前にいる他者のために価値を提供する。これは、ピラミッド構造のどの位置にいても同じである。言い換えれば、「分際」を守ることが日本人の徳である。だから、アメリカとは異なり、日本人に万能さを要求することがない。

『プラットフォームの覇者は誰か(DHBR2016年10月号)』


ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2016年 10 月号 [雑誌] (プラットフォームの覇者は誰か)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2016年 10 月号 [雑誌] (プラットフォームの覇者は誰か)

ダイヤモンド社 2016-09-10

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製品・サービスの4分類(修正)

製品・サービスの4分類(修正)

 ブログ本館の記事「森本あんり『反知性主義―アメリカが生んだ「熱病」の正体』―私のアメリカ企業戦略論は反知性主義で大体説明がついた、他」などで散々用いた未完成の図に、ようやく少しだけ手を加えた(これでもまだ改善の余地は大いにあると考えている)。

 <象限①>は「品質要求が厳しくない必需品」であり、消費者や企業が日常的に頻繁に利用する製品・サービスが該当する。象限①の製品・サービスは、それぞれの国の文化的嗜好や価値観を反映するため、規模の経済を目指すグローバル企業は育ちにくく、中堅~小規模のローカル企業が乱立する。これらの企業は、その国における雇用の受け皿ともなる。ただし、新興国の中には、低コストを武器にして象限①の製品・サービスを世界市場に展開しようとする野心的な企業もある。先進国の被雇用者は、こうした新興国企業の脅威にさらされる。

 <象限②>は「品質要求が厳しい必需品」であり、日本企業が最も得意とする分野である。象限②に該当する製品・サービスは、消費者の安全や顧客企業の事業を守るために、様々な規制がかけられている。ということは、その規制によって、ある程度製品・サービスの規格が標準化されることを意味する。そのため、グローバル規模の事業展開が可能となる。ただし、規制や規格が非常に厳しいことから、後発組の新規参入は容易ではなく、大手企業の寡占が多く見られる。

 <象限③>は「品質要求が厳しくない非必需品」であり、アメリカが得意とする象限である。非必需品ということは、その製品・サービスによって新たに市場を創造するわけだから、イノベーションに該当する。アメリカのリーダーがどのようにイノベーションを行っているかについては、冒頭の記事に譲る。一言だけつけ加えておくと、この象限では、ほぼ必ず勝者総取りという結果に終わる。

 <象限④>は、今までずっと「?」にしていたのだが、該当する産業が2つあると考える。1つは航空産業である。飛行機は自動車や鉄道に比べると、消費者の利用頻度が低い。象限④は、非必需品である上に品質要求が厳しいため、経営の難易度が非常に高い。航空会社は世界一経営が難しいと言われるのは、この辺りの事情とは無縁ではない。もう1つの業界は軍需産業である。戦争は必要不可欠ではない。しかし、軍隊が使用する武器には最高クラスの品質が必要とされる。軍需産業もまた、経営の舵取りが難しいに違いない。

 ここからが本題。本号を読んで、プラットフォームにはいくつかの種類があり、各々がそれぞれの象限に対応しているように思えた。元々、プラットフォーム企業は、象限③で生まれたものである。象限③においては、何がヒットするか事前に予測することが難しい。成功の確率を上げるためには、次々と新しい製品・サービスを投入するしかない。さらには、自分がお金を払ってでもいいから、自分の製品・サービスを世の中に広めたいと考える人も出てくる。プラットフォーム企業は、そういう売り手をかき集めることで成立する。

 出版社のビジネスモデルはまさにこれである。出版社は著者からお金をもらって書籍を出版する。出版社もどんな書籍がヒットするか解らないので、とにかくたくさんの著者を集めて、たくさん書籍を書かせる。何がヒットするか解らないため、書籍をたくさん市場に投入する数多くの出版社をさらに束ねているのがAmazonである。Amazonの強みは何と言ってもその品揃えである。そして、アルゴリズムを駆使してランキングを即座に作成し、売れ筋書籍を大量に売りさばく。

 象限③のプラットフォーム企業は、人気投票形式を採用している。Googleの検索エンジンによるWebページの順位づけも、被リンクの数を基にした人気投票と言える。Google PlayストアやApp Storeで提供されているスマホアプリも、人気投票である。Amazon、Google、Appleにとっては、どんな書籍やアプリが売れようと関係ない。彼らとしては、プラットフォームを利用する数多くの売り手がプラットフォーム使用料を支払ってくれ、さらに、ランキングによって火がついたヒット商品を世界中の人々が購入することで買い手からも収入が得られればそれでよい。

 象限②におけるプラットフォームは、IoTが中心となる。よく使われる例だが、GEは航空機のエンジンにセンサを組み込んでおり、エンジンの稼働状況を一元管理している。そして、保守点検のタイミングを最適化したり、適切なタイミングでメンテナンスパーツを供給したりする。象限③のプラットフォームの目的は、人気投票によって勝者と敗者を明確に分けることであったのに対し、象限②のIoTの目的は、モノの需要を先読みし、サプライチェーンを最適化することにある。

 IoTを構築する企業には、大きく分けると2種類ある。1つは、GEのように最終顧客と直接の接点を有する企業である。GEと取引のある部品メーカーは、GEのIoTプラットフォームに組み込まれていく。日本で言う系列のような関係が強化される。もう1つは、最終製品を持たないが、最終顧客を大量に掌握しているIT企業である。例えば、Googleが自動運転を事業化すれば、運転中に不具合が生じた場合に、すぐに最寄りの修理工場へと向かわせ、同時に別の自動運転車が交換パーツを修理工場に届けるといったことが可能になるだろう。

 部品メーカーとしては、どちらのプラットフォームに参加するかを決定する必要がある。いずれのプラットフォームにも一長一短がある。まず、最終メーカーが主導するIoTプラットフォームに参画する場合、最終メーカーからの安定的な受注は見込めるが、それ以上の発展はない。仮に、複数の最終メーカーに部品を納めている部品メーカーがあったとすると、それぞれの最終メーカーが独自にIoTプラットフォームを構築しているから、自社製品をどちらのプラットフォームにも対応できるようにしておかなければならない。

 GoogleのようなIT企業が主導するIoTプラットフォームに参画する場合、Googleは世界中の自動車をカバーするであろうから、受注の可能性が一気に広がる。ただし、そのプラットフォームには他の部品メーカーも数多く参加しており、必ずしも自社が選ばれるとは限らない。つまり、競争が非常に激しくなる。自社が選ばれる可能性を高めるには、どんな自動車でも自社の部品が使えるように部品を標準化・汎用化する必要がある。ところが、標準化した部品に万が一不具合が生じた場合、その損害は計り知れないほど大きくなる。

 象限①におけるプラットフォームは、P2P(ピアツーピア)の形式をとる。代表例は、UberやAirbnbである。本来、タクシー業界やホテル業界は、そのサービスに欠陥があると顧客の生命に与えるリスクが高い業界である。ところが、UberやAirbnbを利用する顧客は、多少荒っぽい運転をする見ず知らずの人でも、安全性に問題がありそうな建物に住んでいる人でも、一時的につき合うだけならリスクを低減できると考えているのだろう。つまり、象限②から象限①に顧客を移行させて、P2P型のプラットフォームを導入したと解釈できる。

 象限①は日常的に使用する頻度が高い製品であるが、ついつい買いすぎてしまうことがある。また、何らかの事情で不要になることがある。一方で、象限①の製品は少しでも安く入手したいという”主婦的な”感覚の人たちがいる。象限①の製品は、多少欠陥があっても自分に危害が及ぶ可能性が低いから、他人の”お下がり”でも構わない。ここに、余りを処分したい人と、その余りをほしがる人とを直接結びつける可能性が生まれる。少子化が進む日本ではあまり需要はないかもしれないが、子どもの洋服を処分したい人と、お下がりをほしがっている人とをつなぐP2Pのプラットフォーム事業などが考えられる。

『デザイン思考の進化(DHBR2016年4月号)』


ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2016年 04 月号 [雑誌] (デザイン思考の進化)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2016年 04 月号 [雑誌] (デザイン思考の進化)

ダイヤモンド社 2016-03-10

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 《参考記事(ブログ本館)》
 日本とアメリカの戦略比較試論(前半)(後半)
 『目標達成(DHBR2015年2月号)』―「条件をつけた計画」で計画の実行率を上げる、他
 『稲盛和夫の経営論(DHBR2015年9月号)』―「人間として何が正しいのか?」という判断軸
 森本あんり『反知性主義―アメリカが生んだ「熱病」の正体』―私のアメリカ企業戦略論は反知性主義で大体説明がついた、他

製品・サービスの4分類(修正)

 上記の参考記事で上図(※まだ改良の余地あり)を用い、アメリカ企業は左上の象限におけるイノベーションが、日本企業は右下の象限におけるマーケティングが得意であると書いてきた。イノベーションは世界中の市場を相手にするため需要予測が難しく、また異業種格闘技となり様々な競合他社が入り乱れる。その上、何がヒットするかは予想困難であるから、失敗と解ったら素早くその製品・サービスを市場から引き上げ、新たな製品・サービスを次々と投入しなければならない。DHBR2016年4月号には、次のような記述があった。
 しかしデザインというのは、なかなか予想通りにはいかない。ユーザー体験の向上がどれほど価値を生むのか、あるいは創造性への投資がどれほどリターンを生むのかを、計算によって知ることは不可能とは言わないまでも困難である。
(ジョン・コルコ「シンプルさと人間らしさをもたらすツール デザインの原理を組織に応用する」)
 どんなイノベーションでもそうだが、最初は非必需品としてスタートする。非必需品を顧客が受け入れる基準は、その製品・サービスが「好きか嫌いか」の1点である。すなわち、顧客は極めて感情的に振る舞う。したがって、イノベーターは顧客の”快”に訴えるプロモーションを展開する。ジョン・コルコの論文では、従来のバリュープロポジション(提供価値)は実用性を約束するのに対し、デザインを通じたバリュープロポジションは次のようなものになると述べている。
 デザインを理解している組織は、むしろ感情的な言語(願望、野心、愛着、経験などに関わる言葉)を使って製品やユーザーを説明する。チームメンバーは製品の要件や実用性と同じくらい、バリュープロポジションがユーザーの感情に共鳴するかについても検討する。(同上)
 イノベーターは、他の無数のイノベーションを押しのけて自社のイノベーションを顧客に受け入れてもらおうとする。よって、しばしばそのプロモーションは強引なものとなる(最近は、あるタレントのテレビへの露出が急激に増えると、視聴者は”ごり押し”だと反応する)。他者から”快”を押しつけられて”快”になびく人がいる一方で、強烈な”不快”反応を示す人もいる(だから、タレントのブログが”炎上”する)。逆説的だが、イノベーションは全世界への普及を狙っているにもかかわらず、プロモーションを進めるほどにファンとアンチが真っ二つに分かれる。

 本号において、ビジネスデザイナーの濱口秀司氏は、イノベーションの特徴の1つとして「議論を生む(賛成/反対)」を挙げている。
 全員が賛成あるいは反対するものはイノベーションではない。そのアイデアが大好きな人と大嫌いな人が戦う中から絞り込まれるのが、イノベーティブなアイデアの特徴である。
(濱口秀司「真のイノベーションを起こすために 「デザイン思考」を超えるデザイン思考」)
 ペプシコのインドラ・ヌーイCEOは本号のインタビューで、「優れたデザインの定義とは何か?」と尋ねられて、次のように回答している(なお、本インタビューの言葉を借りれば、ペプシコには「健康によい製品」もあるが、主力はコーラに代表されるような「食の喜びを与えてくれる製品」である。そして、「食の喜びを与えてくれる製品」は必ずしも必需品ではなく、上図の左上の象限に位置すると考える)。
 私にとってうまくデザインされた製品とは、消費者が惚れ込む製品、もしくは嫌悪感を抱く製品です。両極端かもしれませんが、何らかの生の反応を引き出すものでなければならないのです。
(インドラ・ヌーイ「【インタビュー】CEOが語るデザイン思考をもとにした企業変革 ペプシコ:戦略にユーザー体験を」)
 左上の象限には、一攫千金を狙って様々な売り手が参入してくる。しかし、どんなイノベーションがヒットするか解らない。売り手は、自分が売り手であるにもかかわらず、こちらがお金を払ってでも自分のイノベーションを買ってほしいと考えるようになる。そういう売り手と世界中の買い手を結びつけるのがプラットフォーム企業である。AppleやGoogleのスマートフォンアプリのプラットフォームや、Amazonの電子書籍のプラットフォームなどはまさにこれである。

 従来の小売業でも、売り手(メーカー)が買い手(小売店)に対してお金を支払うことはある。ただし、いわゆるリベートは法的に規制されていることが多い。一方、プラットフォーム企業は、公然と売り手からお金を徴収する。この点で、古典的なリベートとは全く性質が異なる。3Dプリンタに詳しいリチャード・ダベニーは、21世紀はこうしたプラットフォーム企業の時代になると予測する。
 高度にデジタル化された21世紀型の市場では、プラットフォームこそが最大の特徴である。(中略)1つのプラットフォーム上で、たえず変化する生産量は活発に調整され、設計図は保存されたうえに常時更新され、原材料の供給管理と購入が行われ、顧客からの注文を受け付けるようになる。そうなれば、システムの利用者全員がそのプラットフォームの存続に利害関係を持つようになる。
(リチャード・ダベニー「製造業を根本から変える 3Dプリンティング革命の衝撃」)
 私は、プラットフォーム企業は左上の象限に固有のものだと思っていた。だが、野心的な企業は、左下や右下の象限への進出も狙っているようである。

 最近の流行語(バズワード?)をつなぐと、こんな近未来が出現する。つまり、数年後にはGoogleなどがIoTで世界中のモノからデータを集め、ビッグデータ解析をして顧客のニーズを先読みし、世界中でネットワーク化された3Dプリンタ企業に対して、AIを通じて顧客が求める製品の製造命令を出し、物流は提携する世界中の物流業者の自動運転車とドローンにやらせ、提携先企業の中で資金需要が出てきたらFinTechで自動的に融資する、という未来である。
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プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、1,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
所属組織など
◆個人事務所
 「シャイン経営研究所」◆ シャイン経営研究所ロゴ

(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長、および国際部員を務めています)

NPOビジネスサポート特定非営利活動法人NPOビジネスサポート
(監事を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)

Experian海外企業信用調査 海外企業信用調査(Experian)
(一緒にお仕事をさせていただいている「コンサルビューション株式会社」は、世界最大の信用調査会社Experianの正規代理店です)

中小企業診断士の安い通信講座なら「資格スクエア」資格スクエア
(以下の資格の講師をしています。
 ―ITパスポート
 ―情報セキュリティマネジメント
 ―経営学検定(初級・中級)
 ―中小企業診断士(企業経営理論、経営情報システム、中小企業経営・中小企業政策)
 谷藤友彦と株式会社サイトビジット代表取締役・鬼頭政人氏の対談動画(1)(2)(3)
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